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屍の星  作者: 中野南北
10/12

10.幸福論

 カン、カン、カン。

 梯子を登る頼りない音。

 牧師さんが登り切ると、銀は梯子を引き上げる。

 階段が崩れた三階建ての建物。私達の隠れ家の一つ。

 訪れるのは久しぶりで、部屋の中は埃まみれ。

 一階は使わない。二階は入り口に使うだけ。三階には部屋が四つ。


「ここで休むんですね」

「そうだ。寝込みを襲われる可能性が少ない」


 私は机の引き出しを探る。隠していた古い鍵の一つを、牧師さんへ渡した。


「右奥の部屋の鍵。今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んで」


 牧師さんは「ありがとう」と笑った。私も笑う。


「彼と私は隣の部屋にいるから。夜に、私の声が聞こえたらごめんなさい」


 私は、わざとらしく強調する。牧師さんは間を置いて、顔を赤くする。銀は顔を顰めて、舌打ち。


「俺はここで見張る。一人で、見張る。さっさと上がれ」


 つれない男。つまんない。


 三階に上がると、牧師さんは部屋へ入る前に、私を呼び止めた。


「君達は、どういう関係なんだい?」

「オトナの関係」


 牧師さんは冷や汗をかく。私は笑う。


「私も、彼も、似た者どうしなの」


 牧師さんは、困惑したまま、言葉を繋ぐ。


「銀さんのことは、聞いてる。優秀な運び屋だ。昼間は躊躇なく人を殺した。最初は驚いたけど、理解はできる。こんな世の中だ。生き残るには、必要なんだと、思う」


 私は黙る。続きを待つ。


「僕には、君が分からない。君は、なんで、危険な外へいる? 生きる方法なら、他にもあるだろう」


 意外とお喋り。私はクスクスと笑う。

 牧師さんは困惑する。真面目なのね。

 私は、自分の部屋の鍵を回す。


「私は、物語が好きなの」


 喜劇も、悲劇もね。


「外の方が面白い。それだけなの」


 おやすみ、と言って私は部屋へ入った。

 部屋の中は簡素。ベッドと、何も置かれていない机だけ。

 鞄を置いて、ベッドに座る。窓ガラスの外は夕暮れ。赤い日差しが、私を照らす。

 昼間の、赤い噴水を思い出す。頭の離れた、胴体を思い出す。彼等にも、それぞれの人生が、あった。

 彼等の荷物を探ると、指輪や、古い時代の資格証を見付けた。

 幸福の印と、悲劇的な死。


 それを思い出すと


 何故だかとても幸せな気持ちになるの


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