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転生王子は婚約者の悪役令嬢と幸せになりたい  作者: 羽山由季夜


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第80話 公式戦 準備

 ヴァイナスの婚約が決まって、その婚約者のメイフェイアと顔合わせが終わった次の日。

 俺は非常に困っていた。


「何故、ヴァーミリオン王子が公式戦に出られないのですか?」


「わたくしも個人的にはヴァル君を出したいところですが、強さが明らかに群を抜いていて、他の学年の生徒のやる気が落ちます。ディジェム君は出られるように譲歩したのですから、それで手を打って頂きたいところですわね」


 本音と建前の建前を告げ、俺の目の前で、親友のディジェムと伯母になるはずだったタンジェリン学園長が睨み合っている。

 俺のことで。

 場所はタンジェリン学園長の学園長室。

 授業が終わり、担任のクレーブス先生から俺達が入学して初めての公式戦があることが告げられた。

 公式戦は今までの模擬戦と同じくブレスレットをそれぞれ着けて戦い、一定のダメージを負わせてチームが全滅するか、制限時間を超えた時点で残った人数が多い方が勝ち。

 トーナメント方式で勝ち負けを決めていく。

 ブレスレットにはダメージ蓄積を確認する魔法、一定のダメージ蓄積で指定場所――クレーブス先生達、各クラスの担任の隣の脱落者席と呼ばれるところに強制送還される魔法が付与されている。

 この公式戦は全学年の各クラスの一チームのみが代表として、トーナメントで戦う。

 一つのチームの人数は今回は五人。

 その公式戦では、スピネルクラスでは俺以外の生徒が代表チーム五人を決めるため、公式戦の準備期間の一日目に戦うことになった。

 それがディジェムとしては納得出来ないようだ。

 嬉しいことに、彼は俺と一緒に戦いたかったようだ。

 公式戦は模擬戦とほとんど同じで、違うところは生徒や先生、騎士団や宮廷魔術師団、高位の貴族が模擬戦では観覧出来るが、公式戦では更に生徒の家族と王国の住人達も観覧可能になっているところだ。

 カーディナル王国挙げての一大イベントの一つだ。俺は女顔や伝説の召喚獣等の影響やらで、今まで観覧したことがないが。

 ちなみに、カーディナル王国の王族はもちろん、他国の王族も申請すれば、観覧出来る。

 他国の王族が来るとなると、カーディナル王国はどのくらいの力量なのかが、公式戦で簡単に窺える。

 魔法学園卒業後は大体、貴族の当主でも、騎士団や宮廷魔術師、文官等に就職出来る。

 公式戦での戦い方や戦闘力等で、この国の地力が分かってしまうので、他国は公式戦を見に来る。

 侵略出来るのか、友好を結んだ方がいいのか。

 今までは侵略しない方が良いと判断させるような強さを持つ生徒もいたし、公式戦後のエキシビションゲームでシュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵が優勝チームの生徒達と戦ったおかげで、友好的な国が多い。

 だが、安易に“とっておき”は出さずに、隠しておきたい。その“とっておき”はもちろん、伝説の召喚獣と言われるフェニックスこと紅と、光の剣クラウ・ソラスこと蘇芳だ。更には俺の他の召喚獣達やフラガラッハこと鴇も。

 ディジェムの祖国のエルフェンバイン公国は、公国が建国した当初からカーディナル王国とは友好国だ。

 理由はカーディナル王国の初代国王を支えた宰相の子供が興した国だからだ。

 宰相の子供が離反したとかではなく、グラファイト帝国を牽制出来る国をもう一つ興し、共に対抗するための策だったらしい。

 当時のカーディナル王国の二代目国王だった、火の精霊王で俺の兄になるはずだった東雲が前に教えてくれた。

 そのエルフェンバイン公国の第三公子のディジェムは、タンジェリン学園長の許可があり、公式戦に出られることになった。ただし、こちらもエルフェンバイン公国の“とっておき”でもある、彼の召喚獣のドラゴンこと黒曜は召喚しないこと、カラドボルグを鋼の剣に擬態することが条件で。

 カーディナル王国のことも、エルフェンバイン公国のことも建国当初から知っているタンジェリン学園長からすると、他国に少しでもどちらの国の情報を渡したくないのだろう。


「それに、グラファイト帝国の皇族も今回の公式戦を観覧したいと申請があったのです。そこで、ヴァル君のことが知られると、正直なところ狙われる可能性があり厄介なのですよ。更には過保護な聖の精霊王が暴走しそうですし」


 溜め息混じりに、タンジェリン学園長がもう一つの理由を告げる。本音の方だ。


「ヴァーミリオン王子が狙われるとは、どういうことですか?」


 ずっと、静かに様子を窺っていたオフェリアがタンジェリン学園長に声を掛ける。隣では同じくウィステリアも真意を探るように見ている。


「ヴァル君はカーディナル王国の初代国王に似ています。そして、初代国王の肖像はグラファイト帝国の皇族にも知られています。そこでヴァル君の顔を見た皇族は面倒臭いことを言うかもしれませんわ」


「……どんなことを、でしょうか?」


 ウィステリアが緊張した面持ちで、両手を組んでタンジェリン学園長を見る。


「――やはりカーディナル王国の王族は、グラファイト帝国の皇族の一員で、カーディナル王国はグラファイト帝国のものだ、と言う可能性がありますわ。あの帝国なら言い兼ねませんわ。昔から全く変わってませんもの、あの国」


 盛大に溜め息を吐いて、タンジェリン学園長は答えた。


「カーディナル王国の初代国王の出自は最近は歴史の授業でも省略してしまって教えておりませんけれど、元々、当時のグラファイト帝国の皇帝の庶子として生まれました。グラファイト帝国の皇族の中でも、地位は一番下の扱いでしたけれど、彼の母に似て、魔力が高く、顔が良くて女性に見える。相手から見下され、貞操の危機等もあり、常に危険な状況だったそうですよ」


 姿を消して、俺とタンジェリン学園長にしか見えないようにしている月白が両腕を組んで、俺の隣で大きく頷いている。


『口にするのも憚れるくらいに、グラファイト帝国に対する俺の恨みは深いぞ、ヴァーミリオン』


 月白が念話で俺に呟く。恨みが深いと自分で言ったぞ、この人。

 聞いてみたいけど、口にするのも憚れるのなら、思い出したくもないだろうし、聞きにくい。

 前に、いつか話してやるとは言われたけど。


「……それは、確かに他国の王族が来るのなら、ヴァーミリオン王子を公に出すのは悩みますね……」


 オフェリアが同情の目で俺を見る。目にはしっかり「顔が良いのも考えものね」と言っている。

 俺からしたら、不可抗力だ。


「オフェリアちゃんもよ?」


 にっこりと甥っ子を絶賛溺愛中のタンジェリン学園長がオフェリアに告げる。


「私も、ですか?」


「ええ。いくら、髪の色と目の色を変えていても、長く共に居た者にはオフェリアちゃんがアクア王国のオフェリア王女と分かってしまいますわ。今回の公式戦をアクア王国の王族も観覧の申請をして来ましたわ。それも、貴女の元婚約者とその相手が」


 それを聞いた瞬間、ディジェムから殺気が溢れた。


「ディル、落ち着いて。タンジェリン学園長に殺気を出しても意味がない」


「う……そうだった。タンジェリン学園長、すみません」


「気にしていませんわ。ディジェム君の気持ちも分かりますから」


「私が失踪したことで、正式に婚約がなくなったとはいえ、私が公式戦に出ると元婚約者に見つかるかもしれないということですね」


「そうですわね。それも、第一王女で王位継承権が第一王子に次ぐ第二位のオフェリアちゃんを元婚約者は狙っていたようですし」


「あの、オフェリア様をどうして元婚約者の方は狙っているのでしょうか?」


 ウィステリアが困惑の表情を浮かべている。

 俺はこの世界のアクア王国の実情しか知らないので、ウィステリアが困惑しているのが不思議だった。

 乙女ゲームの二作目と、今の実情は違うのだろうか。

 ウィステリアの困惑に気付き、オフェリアが口を開く。


「元婚約者は王族になりたいのよ。私と結婚したら王族になれる。王族になった後に私を殺せば、自分も王族のまま、愛している女性も王族になれると思っているの。そんな訳がないのだけど」


「フェリアと結婚したことで王族になれるのに、死んだら王族のままと思っている神経が分からんし、フェリアが死んで、自分が生きている時点で、一番の容疑者になるかもしれないって考えないところも不思議で仕方がない。遠目でしか見たことないが、あいつ、そんなに馬鹿なのか?」


 眉間に皺を作って、ディジェムが首を捻る。


「典型的な高位貴族の甘やかされ子息ではあるわね。あとは女性に目がないし、婚約者だった私以外に既に愛人が二、三人いたと思うわ」


「……正確には五人だね」


 聞いていて、つい、訂正をしてしまった。


「……ないわ。愛人が五人? しかも、フェリアを蔑ろにした上で、その人数?」


 軽蔑するような目で、ディジェムが口にする。


「で、何でそれをヴァルが知っているんだ?」


「ヘリオトロープ公爵までとはいかないけど、各国の情報はそれなりに持ってるよ。将来は兄を支えるために外交とかするかもしれないし。あちらが圧力を掛けた時に、こちらもそれなりのカードを持っておかないと、足元を見られるからね」


 特にこちらは萌黄や紫紺がいるので、子供の時と比べて、倍以上の情報を手に入れることが出来た。

 そのおかげで、アクア王国の弱味になりそうなことは把握している。オフェリアに許可を貰えれば、アクア王家を震撼させるくらいの情報はある。そうすると、オフェリアがアクア王国に帰らないといけない可能性があるので、しないけど。


「……やっぱり、ヴァルと敵対はしたくないな。後が怖い。うちの公国の内情、本当は知ってるんじゃないよな?」


「友人にそんなことをする気はないよ。ディルは俺を騙したり、裏切るようなことはしないのは知ってるしね。あと、エルフェンバイン公国に関しては、去年の第二公子のアレ以外は知らないよ。アクア王国のは調べたら、まさかの内容だっただけだよ。本当に偶然」


 閉ざされた世界でも最後まで、俺のことを信じてくれて、敵を取ろうとしてくれた。

 そんな彼が、俺を騙したり、裏切るようなことはしないのは知っているし、俺もしたくない。

 アクア王国のは、本当に偶然だ。なので、初めて聞いた時は頭を抱えた。これ、どうしよう、と。


「え、ヴァル君。どのくらいの情報を知っているの?」


 オフェリアが恐る恐る、俺に聞く。


「オフィ嬢が困る上に、見つかったら国に強制的に戻されるような、アクア王家を震撼させるくらいの情報、かな……?」


「教えてくれない? 答え合わせがしたいわ」


「あまりにマズイ情報だから、小声でいいかな? ちょっと、耳を貸して」


 オフェリアに近付き、耳元で小さく話すと、段々と彼女の表情が青くなった。


「……それ、知ってるのね。うん、震撼させるわね。確かにこれが流れたら、私は確実に探されて、アクア王国に強制的に戻されるわ」


「だから、最終手段だと思ってるよ。その時はオフィ嬢を強制的に戻されるようなことにはさせないけど。ちなみに、この情報はヘリオトロープ公爵は知らないから、安心して。知ってるのは俺と俺の召喚獣だけだから」


「そんなにマズイのか? ヴァル、フェリア。良ければ教えてもらえないか? フェリアを守るためにも知っておきたい」


「私も、オフィ様を守りたいので、教えて欲しいです」


「わたくしにも教えておいてもらえると、更に守りを固められるけど、オフェリアちゃん、わたくしにも教えてもらえないかしら?」


 タンジェリン学園長がにっこりとオフェリアに微笑む。

 長く生きている分、場数をかなり踏んでいるので確かにオフェリアを守る知恵は貸してもらえると思う。そして、顔がかなり広い。

 ちらりと、オフェリアはディジェムとウィステリア、タンジェリン学園長を見てから、俺に頷いた。


「……ここだけの話にしてもらえるなら、構わないわ」


 そう言って、オフェリアは小さく息を吐き、吸った。


「アクア王国の、正確には王家を震撼させるくらいの話は、王位継承権一位でもある、私の異母兄に当たる第一王子のことよ。異母兄は実は側妃の浮気相手の子供よ。だから、本当は正妃の子供の私が王位継承権一位なの。今まで分からなかったのは異母兄の顔が側妃似だったのと、髪と目の色がたまたま国王と浮気相手が同じだったから。これを知っているのは国王と正妃、側妃、浮気相手、宰相。それと私だけよ。今、ヴァル君が増えたけど」


「……どの国も似たりよったりだな。確かに、これ、王家を震撼させるし、フェリアを強制的に戻されるな。させないけどさ。でも、兄とはいえ、王位継承権の順位は変えなかったのか?」


「それが、こう言うのもおかしいのだけど、両親に似ず、異母兄、凄く優秀な上に真面目なのよ。側妃も浮気相手も一応、アクア王家の血が流れる血筋だから、王家の者と言えば、王家の者なのよ。これが全く血が流れてなければ、即、王位継承権剥奪なのだけど。濃さは違うけど、まぁ、王家でいいんじゃない? というのが国王の意見ね。優秀なのは確かだから。ちなみに、浮気相手は国王の従兄弟で、近衛騎士団長」


「……国王の妻と浮気するようなヤツが、王家を守る近衛のトップで良いのか、アクア王国……」


 オフェリアの話を聞いたディジェムが思わず、ツッコミを入れた。本当にそれ。


「まぁ、聖女に守られてる国って意識が強いから、仕方がないですわね……。オフェリアちゃんのお母様で正妃も聖女ですものね」


「そうなのですね! オフィ様のお母様も聖女様なんですね! 凄いです!」


 目をキラキラさせて、ウィステリアがオフェリアを見つめた。


「ありがとう、ウィスティちゃん。ついでに言うと、私の元婚約者はアクア王国の公爵家の甘やかされ次男。一応、六代前に降嫁した王女がいるから、少しだけアクア王家の血が流れてる。その元婚約者の今の相手が自称、緑の聖女」


「緑? 青の聖女のフェリアと何が違うんだ?」


「アクア王国の聖女は色で強さが違うのよ。上から青、水色、緑、黄緑、黄の順ね。カーディナル王国は赤が王家の色、エルフェンバイン公国は黒が公家の色。アクア王国は青が王家の色だから青が一番上よ。私の母も青よ」


「ふーん。自称、緑の聖女は上から三番目の強さがあるって言いたいのか。自称ということは王家から認められていないとか?」


「そうよ。今は知らないけど、私が居た時は認められていなかったわ。聖属性でもないし。ついでに言うと、自称、緑の聖女はチェルシー・ダフニーに似た性格で、高位の爵位が大好きよ」


 オフェリアの言葉を聞いて、俺は顔を顰めた。


「え、嫌だな。ディル、気を付けてね」


「そこはヴァルだろ。俺じゃなく」


「いや、俺は公式戦に出ないし」


 出ないといけない時は髪の色と目の色も変えて、仮面も付けて出ようと思うけど。今のところはその予定はない。


「うわぁ〜、公式戦、やる気がなくなった……」


 盛大に溜め息を吐き、ディジェムが呟く。


「頑張ってね」










「えっ、ヴァルお義兄様、公式戦には出ないのですか?!」


 ヴァイナスの正式に婚約者になったメイフェイアが叫んだ。

 王族専用の個室にウィステリアと共に寛いでいると、フィエスタ魔法学園の一年生で、ガーネットクラスに所属するメイフェイアがやって来た。

 魔法学園でも改めて、挨拶がしたかったらしい。


「そうだね。タンジェリン学園長曰く、圧倒してしまうみたいだからね。圧倒し過ぎるのもあまり良くないし、観客の人達も冷めるからね」


 嘘を言っても仕方がないので、そのままのことをメイフェイアに伝える。


「……残念です。噂では、去年、模擬戦を圧倒したとか、試験で伝説の召喚獣のフェニックスと共に最高成績を叩き出したとお聞きしたので、この目で見たかったのに、とても残念です……」


 しょんぼりと項垂れ、メイフェイアは悲しげに呟いた。


「ごめんね。模擬戦の時に、見においで。メイなら俺もウィスティも歓迎するよ」


「私もメイちゃんなら歓迎しますし、模擬戦、頑張りますよ!」


「ヴァルお義兄様、ウィスティお義姉様……! ありがとうございます。模擬戦の時は私もお邪魔しますし、応援しますね!」


「ありがとう。あ、そうそう。メイにもこれを渡しておくね」


 そう言って、空間収納魔法で物理と魔法結界、状態異常無効のネックレスを出す。

 最近は何故か、友人や召喚獣、家族が増えていくので、すぐ渡せるように作り置きしている。

 いつものアレなネックレスをメイフェイアに渡すと、彼女は何故かキラキラと輝かせ、大きく目を見開いている。


「ヴァルお義兄様、これは……?」


「物理と魔法結界、状態異常無効を付与したネックレスだよ。俺の手作りで申し訳ないけど、良かったら身に着けておいて欲しい。俺の近くにいると何かと面倒なことが起きるからね」


 特に、チェルシー・ダフニーだとか、元女神が近付く可能性があるので。

 何せ、メイフェイアはウィステリアの兄の婚約者だ。元女神はウィステリアの身体を乗っ取るために狙っている。ウィステリアの家族になるメイフェイアは格好の的の一人に成り得る。


「それは、平民の生徒さんのことですか?」


「メイは何か知ってる?」


「詳しくは知りませんが、ウィスティお義姉様を蹴落として、ヴァルお義兄様を奪おうとしてると噂が一年生の間に流れてます。こんなにもお似合いなお義兄様とお義姉様の仲を引き裂こうと考える、その生徒の気が知れないです。しかも、お義兄様が靡くと思ってるお花畑な頭が理解出来ません。お義兄様にはお義姉様しかいません! ウィスティお義姉様、私はお義姉様のことを応援してます!」


「メイちゃん……ありがとうございます」


 力説する将来の義妹(本当は義姉)にウィステリアは感動したようで、目を潤ませる。


「メイはウィスティに本当に懐いてるね」


「はい! 先日お会いした時より前から、ずっと憧れてましたし、時折、パーティーでお義兄様とお義姉様の仲睦まじい姿が私の理想でしたから!」


「ありがとう。それなら、余計にこのネックレスを身に着けておいてね。他言無用だけど、チェルシー・ダフニーは魅了魔法を使うから」


「……え?」


 俺の言葉に、メイフェイアは目を見開いた。

 理解出来ない、そんな表情だ。

 それが普通の反応だと思う。


「魅了魔法は世界共通の常識で、禁じられているはずではないですか?」


「そうなんだけど、チェルシー・ダフニーはその常識がないみたいで、平気で使うんだよ。メイに教えたのはヴァイナスの婚約者になったことで、これから俺やウィスティに会う回数も増えるだろうし、ヘリオトロープ公爵家に嫁ぐことになるから、知っておいて欲しい。俺もヘリオトロープ公爵も、今後、チェルシー・ダフニーを捕らえる予定だから、安易に近付かないようにね」


「もちろんです。あの生徒には元々近付く気はありません。あの生徒、私とは合いません。一度、近くで会話を聞いたことがありましたけど、その、言葉の誤用が多くて、私と話してもきっと会話が成り立たないと思います。同じ言語なのに、言葉が通じてないように感じます。アフロダイティ侯爵領で、あの生徒と同じ平民の人と会話をしたことがたくさんありますけど、彼等の方がちゃんとしてました」


 メイフェイアが遠回しに、チェルシー・ダフニーは残念だと言っている。その通りに俺も思っているので、窘めないけど。


「メイが分かっているならいいよ。でも、今後は気を付けてね」


「はい、気を付けます、ヴァルお義兄様。あ、ところで、公式戦はヴァルお義兄様が出られないことは分かりましたが、ウィスティお義姉様は出られるのですか?」


「はい、私はスピネルクラスの代表として、クラスの皆さんに選ばれてしまったので」


 苦笑して、ウィステリアは頷いた。

 スピネルクラスの代表として選ばれたのは、ウィステリア、ディジェム、アルパイン、ヴォルテール、イェーナの五人だ。俺の護衛が二人選ばれたので、当日の俺の護衛に付くのはグレイ、レイブン、サイプレスが付く。


「凄いです! 私、応援しますね! その時、お義兄様はどうされるのですか?」


「タンジェリン学園長に許可を貰ったから、タンジェリン学園長専用の応援席で応援する予定だよ」


 応援席と言っても、王族の観覧席のように、部屋のようになっているそうで、その席にはオフェリアも来る予定だ。うっかり色々と漏らしても、周りの人達には聞こえないし、闘技場の隅の客席ではなく、出場する生徒達の控室の近くにあるので王族の観覧席とは違い、俺の顔はバレない、はず。


「メイは公式戦に出る?」


「いえ! 私はお義兄様やお義姉様が一年生だった時と同じ、ガーネットクラスなのですが、代表として選ばれないようにしてたので。目立つのはあまり好きではなくて」


 メイフェイアが苦笑してそう言うと、何故かウィステリアが俺をほっこりとした顔で見る。似てると言いたいのか、ウィステリア。


「なので、ウィスティお義姉様の応援をヴァイナス様としますね!」


 メイフェイアは目を輝かせて、ウィステリアを見上げた。

 ウィステリアは少し顔を赤くして頷いた。

 照れているようで、可愛いなぁと一人で和んでいると、メイフェイアが俺を見て、ニヤリと笑った。


「ヴァルお義兄様って、ウィスティお義姉様のことになると表情が豊かになりますし、可愛いですね」


「それは仕方がないね。ウィスティに夢中だからね」


 開き直るように言うと、ウィステリアの顔が真っ赤になった。


「ヴァ、ヴァル様……!」


「さらりと仰るヴァルお義兄様は凄いですね。流石、お義兄様!」


 何が流石なのか分からないが、メイフェイアは目を輝かせる。


「メイちゃんもヴァル様を褒めないで下さい! ヴァル様が更に乗ってしまいます」


「乗るだなんて、酷いな……。俺はウィスティに夢中って言っただけなのに」


 憂い顔を敢えてして、ウィステリアに訴える。


「はわわ、噂のヴァルお義兄様の色香……! ヴァイナス様とセヴィリアン様、アテナ様のお話で聞いた通り……!」


 メイフェイアが顔を赤くして、興奮して呟く。

 いつの間にか、メイフェイアは俺の兄と義姉にも会ったようだ。ヴァイナスと兄が親友だから、紹介はするか。


「ヴァ、ヴァル様! メイちゃん、メイちゃんがいますから!」


「えっ、私が居なかったら、お義兄様はお義姉様に何をなさるんですか?」


 興味津々にメイフェイアが俺に聞く。


「ん? 不埒なことはしないよ。抱き締める、くらい?」


 首を傾げながら告げると、ウィステリアもメイフェイアも真っ赤になった。何でだ。


「お義兄様、紳士ですね……。でも、お義姉様はお義兄様の色香に当てられっ放しで大変ですね……。想像以上で、私は大変楽しいですが」


 良い笑顔でメイフェイアは楽しそうに言う。

 ちょっとウィステリアが可哀想になって来た。


「そろそろ、落ち着こうか。メイ、とりあえず、物理と魔法結界、状態異常無効を付与したネックレスはここを出たら、身に着けておいてね。身に着けているとはいえ、チェルシー・ダフニーには安易に近付かないように」


「面白かったのに、残念です……。分かりました。あの生徒には近付かないようにします。世界でも禁じられている魅了魔法を使う生徒に近付いても、得にもなりませんし、元々近付く気もありませんでしたから」


 大きく頷いて、メイフェイアは物理と魔法結界、状態異常無効を付与したネックレスを首に掛け、後ろを向いた。見ないけど、制服の中に入れたようだ。


「ウィスティお義姉様、公式戦はたくさん応援しますから、頑張って下さいね!」


 振り向いて、メイフェイアは笑顔でウィステリアに抱き着いた。











「……萌黄、どうしたの、突然やって来て」


 夜、寝室で寝ようとしていた俺の前に、慌てて萌黄がやって来た。


『マスター。公式戦の時、リアちゃんはもちろん、ディジェム公子達のチームの対戦相手には注意しておいて下さい』


 切羽詰まったような顔で、萌黄が告げる。

 俺の隣で紅が眉を寄せる。


「どういうことだ?」


『最初の対戦相手が一年生のオニキスクラスなのですが、彼等の中に元女神とグラファイト帝国の手の者がいて、捨て身でディジェム公子を襲おうと考えているようです』


「何だって?」


『次期風の精霊王、どういうことだ?』


 萌黄の話を聞いていたらしい月白と花葉、東雲、紫紺、竜胆が現れる。


『グラファイト帝国で、今はないのですが以前作られた薬があって、それを一部のグラファイト帝国の皇族が隠し持っていて、今回の公式戦で使うつもりのようです。その皇族の後ろに元女神がいます。ただ、その皇族は別件で皇族から除籍させられて、カーディナル王国に流れたみたいですけど』


「萌黄、その以前作られた薬って、どんな薬?」


『その薬を飲んだ者は、飲ませた者の言う通りになり、凶暴化する薬だそうです。ただ、薬には副作用が多いようで、最初は言う通りに動くそうですが、段々言う通りには動かなくなり、暴走する上に、凶暴化するので手を付けられなくなるそうです。副作用が多過ぎて、使い物にならないということでその薬は作られなくなったそうです』


『成程。それでエルフェンバインの第三公子を襲い、エルフェンバインとカーディナルを仲違いさせ、皇族として復籍するつもりだな。グラファイト帝国の皇族らしい考えだな』


 月白がとても嫌そうに呟く。


「その皇族の後ろに元女神がいるって言ったけど、元女神の目的は?」


『混乱に乗じて、マスターを捕らえるつもりのようです』


 ですよね……それしか、ないよね。あの元女神なら。


『ほぉ? 隙を見て、俺の息子を捕らえるつもりか。俺達がさせないが、面倒だな。ヴァーミリオン、念の為、闘技場にこの王城にも張っているものと同じ結界を張るように』


「分かりました」


『ヴァーミリオン、俺達も守るから安心して欲しい』


 東雲が俺の頭を撫でながら、安心させるように微笑む。


「ありがとうございます、東雲兄様。あ、でも、ディル達も守ってもらえると更に安心です」


『もちろん、わたくし達が守りますわ、ヴァーミリオンお兄様!』


 竜胆が微笑んで、東雲に撫でられている俺に抱き着いた。


『俺も、息子と一緒に守りますから、兄上』


 されるがままになっている俺に苦笑しながら、紫紺も頷いた。


『あらあら、ヴァーミリオンを困らせるお兄様と妹ね。ヴァーミリオン、念の為、第三公子はもちろん、国王達とローズお姉様にも伝えておきなさいね?』


「もちろんですよ、母様。凶暴化した場合、どのくらい強くなるのか分かりませんが、ディル達が動くより、俺が動いた方がいいでしょうしね」


『その時、出来れば、髪と目の色を変えておけ。仮面も着けて、誰か分からないようにしておくといい。ローズの応援席にいるのなら、カモフラージュでクラウ・ソラスにヴァーミリオンに似せた姿をさせておけ。本当にグラファイト帝国は馬鹿なことを考えるな……』


 月白が溜め息混じりに告げる。

 成程、俺が手を出したのではなく、謎の誰かが乱入して防いだという風にして、カーディナルとエルフェンバインを仲違いさせないようにするということだな。その時にフラガラッハを使えば、更に俺だとは観客達には分からない。

 その謎の誰かを王家の影、という噂を流せば、グラファイト帝国を牽制出来ないだろうか。

 そこは父達と相談するしかない。


「面倒なことばかりで、王族って本当に疲れますね……」


『そうだな。特に国家間の陰謀はな。看破した時はざまあみろと思うが』


 月白らしい言葉で、つい笑みを零す。





 そして、次の日、公式戦に出るウィステリア、ディジェム達はもちろん、オフェリア、タンジェリン学園長、国王である父達に話した。

 何故か俺の変装する時の髪と目の色で、父とヘリオトロープ公爵が揉めることになるのは別の話である。

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