第78話 黒女神と第二王子と黄昏
「ヴァル。もう一度、聞きたいんだけど、何でアルパイン達は下位の神から人間に生まれ変わることになったんだ?」
「過去視で視た限りだと、あの母親は自分の都合の良い権能を手に入れようとしてたみたいなんだよね。それを探してて、下位の、権能を一つしか持たない、あの母親と同位の神を捕らえて、確認してたみたいなんだ」
『盗みの権能は盗んでからじゃないと、どんな権能なのか分からない。その権能が気に入らなかったら、すぐ戻せばまた盗める。それを繰り返してたんだけど、被害者が増えれば警戒されるでしょう? だから、殺して口封じして、上から九番目の自分の父親に揉み消してもらっていたようなのよね』
俺とハーヴェストが同時に溜め息を吐く。
あの母親を見ていると、人間と変わらないというか、それ以上に躊躇いもなく、血も涙もないことを平気で出来るのが、正直、恐怖でしかない。
そこは神と人間の感覚の違いなのだろうか。
『その上から九番目の神は、別のことで最高位の神に処断されたからもういないけど、あの母親の所業は気付かれなかった。ただ、わたしとヴァーミリオンの父親の神は気付いた。あの母親に殺されて、魂が消えかけてた下位の神を人間に転換して、助けたの。それがアルパイン達よ』
紅茶を一口飲み、ハーヴェストは更に続ける。
『貴方達の魂は、あの母親のせいで、かなり傷付いていたから、父親はヴァーミリオンが生まれる時代に併せて生まれるようにしたみたい』
「どういうことですの?」
『ヴァーミリオンの権能は守護と再生、過去視よ。ヴァーミリオンの側にいることで、貴方達は権能をもう使えないけど、魂は癒やされる。ヴァーミリオンの側にいると不思議と安心感や癒やされるような感覚になったことはない? あれは再生の権能の機能の一つよ。ヴァーミリオンが心を許した人達を自然と癒やすのよ』
「あります。初めてお会いした四歳の頃から、守られているような、荒んだ心が落ち着くような感覚はよくありました。ヴァル様、その歳から神としての力を使っていらっしゃったのですか?」
アルパインが目を輝かせながら、俺を見る。隣でヴォルテール、イェーナ、ピオニー、リリー、アッシュもこちらを見ている。
「いや、使ったことはないんだけど……。俺が神として生まれるはずだったというのは去年知ったことだし。そもそも、俺の権能にそんな機能があるなんて知らなかったよ。自分のことなのにね」
そういえば、青藍が前に言ってた気がする。俺の召喚獣になってから、とても心が満たされて、ずっと穏やかな気持ちになるって。
『権能は使えなくても、魂から自然と漏れる魔力でヴァーミリオンは周囲を癒やしてたのよ。プラスに働くとね』
「マイナスは?」
『負の感情を持つ連中に狙われる。守護と再生の権能の影響か、魂が綺麗な色をしているから、負の感情や悪意を持つ連中の目がヴァーミリオンに行くのよね。魂の色が見えなくても』
待て待て。俺の巻き込まれ体質は、あの母親のやらかしたしっぺ返しが俺に回っているって、神の俺と話さなかったか、ハーヴェスト。
そんな目を向けている俺に気付いたハーヴェストが、苦笑した。
多分、神の俺が知らないところで、ハーヴェストが知ったのだろう。せめて、先に共有して欲しかった。
「……俺は歩く食虫植物ってとこか。大きい虫だけでいうと、セラドン侯爵にホルテンシア伯爵、フォッグ元伯爵夫人、フォギー侯爵、その他の貴族、チェルシー・ダフニー、元女神、その母親のマルーン……。我ながら、悪意に狙われまくってるねー」
思わず、遠い目で天井を見上げる。あ、シャンデリアに小さな埃が。後で、風魔法で埃を飛ばしておこう。
『だから、最愛の婚約者に、強い召喚獣、眷属神、事情を知っても離れない友人達と側近が必要なのよ。ヴァーミリオンの心が囚われないように。囚われたら最悪よ』
ハーヴェストが腕を組んで、溜め息を吐いた。
まぁ、最悪だよね。俺の権能、厄介だから。
「あの、女神様、ヴァル様。お聞きしたいのですが、お二人のお父様の神様は何というお名前なんですか?」
アッシュが気になっていたのか、恐る恐る手を挙げて声を掛ける。
『殺されてしまったから、知っても意味はないのかもしれないけど、名前はトワイライトよ』
ハーヴェストが父親の神の名を口にした途端、周囲の時が止まった。
動けるのは俺とハーヴェストだけで、ウィステリア達は動きが止まっている。紅を含む俺の召喚獣達も、神でもあるロータス、サイプレスも止まっている。
時が止まっているウィステリア達には、影響はないと判断して、椅子から立ち上がり、周囲を警戒するように見ながらハーヴェストを背後に守る。
『リオン。何が起きてるの?』
「分からない。けど、多分、俺とヴェルだけに関係することだと思う。ヴェルが父親の名前を口にした途端に時が止まったから、多分、父親に関係することだと思う……。今のところ、それしか思い付かない」
俺の言葉に、ハーヴェストが眉を寄せる。俺より、ハーヴェストの方が父親の神に対する拒否反応が強いように思えた。
『――正解だよ。僕の子供達』
俺の言葉に対して、優しい、穏やかな男性の声が響いた。
ふわりと目の前で風が流れ、神の俺とハーヴェストと同じ濡羽色の髪、右目が金色、左目が銀色。俺とハーヴェストと同じ顔。女顔なのに、少し切れ長の目のおかげで男性とすぐ分かる容貌の男性が優しい笑みを浮かべた。
『会いたかったよ。ハーヴェスト、ヴァーミリオン』
男性が穏やかに目を細め、慈愛を込めた声音で俺達の名前を呼ぶ。
『もしかしなくても、わたしとヴァーミリオンの父親と言いたいの?』
ぎゅっと俺の背中の服を掴み、警戒するようにハーヴェストが男性を強い視線で見る。
『そうだよ、ハーヴェスト。僕の名前はトワイライト。君達の権能の創造と豊穣、守護と再生、過去視と未来視、そして、裁きと希望の権能を持つ、黄昏を司る神だよ』
ハーヴェストの強い視線を真っ直ぐに受け止め、男性――トワイライトは苦笑する。
『僕の大切な子供達なのに、害でしかないマルーンから守ることが出来なくてごめんね。今更、守れなかった事情を説明しようにも遅いのは分かっているし、不甲斐ない父親なのは重々承知しているよ。それでも、今からでも、父親として君達を守らせてくれないだろうか』
トワイライトが俺達に、特にハーヴェストを見つめて問い掛ける。
口調は少し、俺に似ている。
俺の背中の服を掴むハーヴェストの手が、トワイライトに見つめられて、ビクリと震える。小さな子供のように、俺の背中から離れようとしない。
ずっと、ハーヴェストは生まれた時から俺と切り離され、守ってくれる父親の手もなく、最悪な母親と異父姉に虐げられ、一人で耐えていた。時々、閉ざされた世界に閉じ込められていた神の俺に会いに来て、寂しさを埋めていた。彼女が、本当は双子神として俺と一緒に神界にいたかったのを神の俺は知っている。閉ざされた世界にいた神の俺も同じ気持ちだったから。
人間の俺に会えるようになってからも、女神としての役目を果たしつつ、拗れ過ぎた事情を修正しようと、人間の俺を守ろうと動いてくれた。
だから、今更、本当に今更、守って欲しい時にいなかった父親が来ても、というハーヴェストの気持ちが手に取るように分かる。
対する、父親の方の気持ちも何となくだが理解出来る。
五百年前に自分の命を犠牲にして、母である花葉を守ろうとした俺は、生まれて、生きて欲しいという家族の想いを蔑ろにしてしまった。
目の前の父親も、未来視で視たのだと思われる俺やハーヴェストを守ろうとした結果、あの母親に殺されることを選んだのだと思う。
大切な子供達を守ろうと、考えた末に。
だから、ハーヴェストが父親に対して、意固地になるのはどちらにも悪手というのが分かる。
ここは、どちらの気持ちも何となく理解出来る俺が間に入った方がいいのだろうなと感じる。
「――ヴェル」
『……分かってる。頭ではわたしだって分かってるのよ、リオン。だけど、心では分かりたくないの。殺される前に、あの母親を止めてくれていたら、わたしもリオンも絶望するような辛い目には遭わずに、双子神として過ごしていたかもしれない。過ぎ去ったことで、無いものねだりなのは分かってる。あの母親があれでも、父親がいてくれたら、親の愛を感じられたかもしれないって、思ってしまうの』
「そうだね。だから、ヴェルは日本でも、カーディナルでも俺を子供想いな家族のところに生まれるようにしてくれたんだね。ありがとう」
くるりと反転して、ハーヴェストに微笑んで、抱き締める。俺と同じ強がりな双子の姉はビクリと身体を震わせる。
「ヴェルは俺に甘いし、双子の姉だから弟の俺を守ろうとしてくれるのは知ってるけど、俺もヴェルには甘いんだよ。双子の姉を弟の俺も守りたいんだよ。だから、そろそろ、俺以外の誰かにヴェル自身が甘えてもいいんじゃない? 折角、父親が今からでも守らせてもらえないかって、言ってるんだし」
『そう簡単に甘えられる歳でもないわ』
「そうかな? 俺は人間の年齢の十五歳で、両親と兄、義姉が既にいるのに、父親と母親、兄、弟、妹、更には双子の姉がいきなり増えたよ? 更に父親が増えそうだし、最愛と結婚すれば更に義理の父親と母親、兄が増えるけど。そうなると、年齢なんて関係ないと思うよ。甘えるのはすぐには難しいと思うけど、認めるのは出来るんじゃないかな? 徐々に甘えたらいいと思うよ」
上目遣いで戸惑うハーヴェストに、俺は微笑みかけると彼女は小さく頷いた。
そして、ハーヴェストは俺から離れ、意を決して、ゆっくり、トワイライトに目線を合わせる。
トワイライトは嬉しそうに微笑んで、俺とハーヴェストに近付く。
『二人を、抱き締めてもいいかな?』
両手を広げ、穏やかに、愛おしい目で微笑み、トワイライトは俺とハーヴェストを見る。
俺は先に、ハーヴェストを優しく押して、トワイライトに近付けさせる。
トワイライトはハーヴェストを優しく抱き締めた。
ハーヴェストはおずおずとトワイライトの背中に手を回した。恥ずかしさとか照れ臭さとか色々と混ざった顔で、真っ赤だ。
対するトワイライトは嬉しそうに微笑み、俺を見た。こちらに来ないのか? と言いたげだ。
『……リオン』
近付かない俺をハーヴェストが少し不満気な目で、訴えるように見る。
俺も、というより、神の俺もハーヴェストと同じ気持ちらしく、近付くのを躊躇っているようだ。
観念するように苦笑して、トワイライトとハーヴェストに近付く。
トワイライトが破顔して、俺をハーヴェストごと抱き締める。
ふわりと澄んだ夜の空気のような香りが漂う。
『……僕の子供達をやっと抱き締めることが出来た。遅くなって、ごめんね』
「あの、マルーンの恋人に殺されたはずなのに、どうして、生きていらっしゃるんですか?」
一応、神の俺の父親だが、上から二番目の神なので、尊敬語で聞く。すると、トワイライトは間近で凄く悲しげな顔をした。
『いらっしゃる、だなんて……。ヴァーミリオンが遠く感じるから、今の両親達に話している風に話して欲しいな。それか、ハーヴェストと話している時の砕けた感じでもいいのだけど』
泣きそうな、潤んだ目でトワイライトは俺に訴える。
ハーヴェストが無言で、眉を寄せる。
……何だろう。雰囲気はもちろん、言葉の表現が、今の父親の、仕事をしない国王の姿が頭に過る。
何か関係があるのだろうか。
拗れるから、関係ないといいんですが!
拗れ過ぎたせいで、小さなことでも勘繰ってしまう。
「……そ、そうですか……。では、両親と話している時のように話します」
トワイライトにそう告げると、彼はとても安堵した表情をした。
「話を戻しますが、あの母親の恋人に殺されたはずなのに、どうして、生きているんですか?」
『確かに、僕はマルーンの恋人のマウスっていうんだけど、彼に殺された。殺されたことで、僕の六つの権能はハーヴェストとヴァーミリオンに受け継がれた。未来視の残りカスみたいなのはマルーンに盗られたけどね』
残りカス……。
この父親、残りカスって言ったぞ。
俺とハーヴェストを抱き締めたまま話すトワイライトから、引いてしまった姉弟揃って思わず離れようとしたら、凄い力で抑えられた。
神って、腕力も強いのか。
しかも、しれっとした顔で、トワイライトは話を続ける。
『以前、ハーヴェストとヴァーミリオンが話していた通り、僕が殺されたことによるしっぺ返しは、マルーンには行かずにハーヴェストが創った世界のループをする力に使われた。どうやったのかは、マルーンの父親の権能で、転換っていうんだけど、それでしっぺ返しはマルーンに行かずに、あの閉ざされた世界のループに使われたんだよね。下位の他の神を殺したしっぺ返しは、マルーンによるハーヴェストの虐げと、人間のヴァーミリオンの呪いと巻き込まれ体質として転換された。僕としては大事な子供達にしっぺ返しされて、それに気付かない最高神、仕事しろよって思ってるんだけどね』
溜め息と共に、トワイライトは一旦言葉を止めて、話を聞く俺達を優しく目を細めて微笑む。
『それで、殺された僕が生きているのは、ヴァーミリオンの再生の権能のおかげなんだよ。閉ざされた世界が消滅した時にループに使われた力がまだ残ってて、それがヴァーミリオンの再生の権能で僕の魂に戻って来たんだよ。そのおかげで、僕の再生の権能で身体も復活したんだ』
「え、あの、再生の権能って、俺が持ってるのに、貴方も使えるんですか……?」
『あ、貴方……!? ヴァ、ヴァーミリオン……お父様とか、親父でも構わないから、父と付く言葉で呼んでもらえないかな……。ハーヴェストも……』
衝撃を受けた表情を浮かべ、トワイライトはぷるぷると震える手で、俺とハーヴェストの頭を撫でる。
「えっ、あ、えっと、お、お父さん?」
首を傾げながら、俺はトワイライトを敬称で呼ぶ。トワイライトは一つ頷いて、ハーヴェストに催促するように見る。
『お、お父さん……?』
流石、双子。敬称が同じだ。
何となく、俺もハーヴェストも父親に様を付けたくなかった。
様を付けたら、何か負けた気がするからだ。
それでも満足したらしいトワイライトは、笑顔になった。
『僕はもう再生の権能は使えないよ。ヴァーミリオンに受け継がれたからね。未来視で僕はどの選択をしても死ぬことは変わらなかった。でも、一つだけ僕が後に復活するルートがあった。それに賭けることにした。だから、殺される前に、二人には受け継がれていない希望の権能で再生の権能を一回だけ、僕の魂にストックしておいたんだ。それで復活したんだよ。本当なら、すぐに復活したいところだったんだけど、その時はマウスも、マルーンの父親も最高神に処断されてなかったから、復活する訳にはいかなくてね。また殺そうとするだろうしね。復活したら、僕は再生の権能が使えないから、使いどころの見極めが難しかったんだ』
眉を下げて、ハの字にして、トワイライトは俺達を抱き締める手に力を込めた。
『その見極めで、ハーヴェストもヴァーミリオンも苦しませることになったのは変わらない。本当にごめんね。二人をずっと見ていた。何度も、何度も二人の側に居てあげたいと思ったし、マルーンやその娘を消滅させようかと思ったことか』
「して欲しかったですね。俺とヴェルからしたら」
心の底からの本音を、思わず漏らす。
それをしてくれてたら、多分、ここまで拗れずに済んだんじゃないかなと思う。本当に。
『ごめんね。僕もしたかったんだけど、流石に最高神に目を付けられる。あの最高神も面倒臭いからね。次席の神が下位の神を消滅するのは目立つ。マルーンが他の下位の神をちまちまやるのは気付かれにくいけど、次席の神がいきなり、下位の神をやるのは目立つんだよね。未来視で、それをするルートもあったけど、復活してもすぐに命を落とすから、悪手だったんだよ。今、辿ってる道が、今のところの正解なんだよ。僕も、ハーヴェストも、ヴァーミリオンも、他の皆にとっても』
ぎゅっと力を込めて、トワイライトは尚も俺とハーヴェストを抱き締める。
ずっと抱き締めたかったと行動で示すように。
『これからは、僕が二人を守るよ。流石にヴァーミリオンの召喚獣には慣れないけど、側にいるよ』
「あの、俺は大丈夫なので、ヴェルの側にいて下さい。俺は神界に行けないので」
『ちょっ、リオン?! わたしよりリオンの方が危ないのよ!? 何を言ってるの!』
「俺には周りに過保護な家族や召喚獣に友人がいるけど、ヴェルはいない。お父さんがヴェルの側にいれば、俺は安心して動けるから」
『動く? 動くって、何をする気よ!』
ぎょっとした顔で、ハーヴェストが俺を見る。
「今はしないよ。するとしたら、卒業パーティー後の元女神とあの母親の断罪の時?」
『……その時は、わたしもいるわよ。前から呼んでって言ってるでしょ』
『僕もいるよ。それまでは隠れておくけど、僕が姿を見せたら、面白いだろうね。マルーンの驚く顔を早く見たいね。マルーンの驚く様は面白いだろうね。ふふふ』
悪い笑顔でトワイライトが呟いた。
『ねぇ、リオン。やっぱりわたし達のお父さんだわ、この人』
「ヴェルもそう思う? 俺もそう思う」
溜め息を漏らす。
結局のところ、どの父親にも俺は似ている。
俺は仕事はサボらないけど。
今の父親のグラナートは最愛に対する溺愛。月白は顔と最愛に対する溺愛、性格。トワイライトは顔が少しと性格、口調。
どれも俺じゃん。
『二人共、嬉しいことを言うね。とても嬉しいよ。二人がマルーンに似なくて、僕に似てて本当に良かったよ』
「似せる方が難しくありませんか」
『似せるのは無理だわ。拒否反応が出る』
『……二人共、辛辣だね。分かるけど。それよりも、僕はハーヴェストのところにいたらいいのかな?』
「はい、お願いします。それで俺は安心です」
被せるようにそう答えると、トワイライトは苦笑した。
『分かったよ。ハーヴェストの側にいるね。さてと、そろそろ止めてた時間を動かそうか。僕だけ神界には帰るのはマズイし、それこそ、最高神にバレちゃうから、このまま姿を消して、ハーヴェストの隣にいるよ』
と言いながらも、トワイライトは俺とハーヴェストを抱き締める手を緩めない。
「……あの、そろそろ離れて下さい、お父さん」
『そ、そうよ、お、お父さん』
『え……二人が僕のことをお父さんと呼んでくれるのが嬉しくて、余韻に浸ってるのに、もう離さないとダメ? ずっと離れてたから、まだまだ抱き締めたいんだけど……。それこそ、お父さんは姿を消したまま、二人が話している間も抱き締めたいんだけど、二人はもう離れたいの……?』
潤んだ金色と銀色の目で、俺とハーヴェストをトワイライトは見つめる。
口調は俺に似ているが、その様は今の父親のグラナートだ。
何か、腹にパンチを食らわせたい気分になる。
「……友人達や召喚獣達が怪訝な目で、こちらを絶対に見るのでそれはやめて下さい」
絶対に紅と月白は、姿を消したトワイライトに気付く。
そして、過保護な二人は凄い圧を煽るトワイライトに向けてくると思う。その時、トワイライトの腕の中にいると思われる俺にもとばっちりが来るので、そういう意味でもやめて欲しい。
『そうか……。分かったよ。誰もいない時に、二人を抱き締めるよ。それならいいよね? その時はヴァーミリオンのところに、ハーヴェストを連れて行くよ』
にこにことトワイライトは微笑む。顔には良い案だと言いたげだ。
「毎回来るのは鬱陶しいのでやめて下さい」
今の父親のグラナートとまではいかないけど鬱陶しく感じた俺は、上から二番目の神でもある偉いはずのトワイライトを半眼で見る。
『ヴァーミリオンはつれないね。そこは誰に似たのかな……』
今の母親のシエナだと思いますが。ツンデレではないけど。
それから、トワイライトは渋々俺達から離れ、姿を消してから止まっていた時間は動き出し、何事もなかったかのように俺とハーヴェストはウィステリア達と話を続けた。
姿を消して、ハーヴェストにくっつく笑顔のトワイライトに気付いた紅と、同じく姿を消している月白が正体に気付いているだろうに「何だ、コイツ」と言いたげな目でウィステリア達との話が終わるまで、見ていた。
「そういうことだから、何かあったら、報告、連絡、相談をしよう。特に俺が多いとは思うけど、皆も何かあったらすぐに言ってね」
「ヴァルもな。ヴァルは事後報告が多いからな」
「……すぐに言えないこともあるんだよ。もちろん、元女神やマルーン、チェルシー・ダフニーに関しては不正確なものはね。罠に掛けようと思って、言わないこともあるし……」
「あるのか。というか、罠って何」
「それを今、準備中。もう少し待って。準備出来たら言うから」
笑顔で言うと、ディジェムが苦い顔をした。
「……俺は絶対にヴァルと敵対しないぞ。模擬戦の時も思ったけど、敵対関係になるとマジで怖い。いつの間にか、囲まれて孤立してそう」
ディジェムが呟くと、模擬戦で戦ったウィステリア、アルパイン、ヴォルテール、イェーナ、グレイ、アッシュが大きく頷いた。
ピオニーとリリーは俺と同じチームだったから、首を傾げている。オフェリアは模擬戦を見ただけなので、笑顔のままだ。
「……ピオニー嬢とリリー嬢は同じチームだったから分かんないか……。ヴァルと同じチームしか知らないなんて羨ましい……」
ディジェムが本音をぼろぼろと呟く。
「二年生も模擬戦はあるんだし、皆の中の誰かと同じチームになれるといいよね」
「ヴァル様と一緒が良いのですけれど……無理ですよね」
小さく吐息を漏らし、ウィステリアは眉をハの字にする。これ以上、可愛い仕草はしないでねと念をつい、送る。
「俺とウィスティ嬢は同じチームになれないんだろうな……。クレーブス先生に目を付けられてるし」
溜め息を吐いてディジェムが呟くと、オフェリアが笑う。
「私はヴァル君と組んだことはないから、同じチームになれると楽しそうね」
「フェリア……楽しそうだな」
笑顔のオフェリアに少し呆れた顔をしつつ、ディジェムは彼女の肩を抱いた。
しばらく他愛のない話が続き、ハーヴェストと姿を消しているトワイライトは神界に戻り、ウィステリア達もそれぞれ帰っていった。
『……リオン。ハーヴェスト様の隣にいたのは、リオンとハーヴェスト様の父親の神か?』
「うん、そうだね……。ハーヴェストが名前を言った途端、突然やって来てね……」
溜め息を吐きながら、その時の出来事を話した。
『俺も父親としての気持ちは分かるが、あの煽りは何だ』
腕を組んで、月白の柳眉を逆立てる。
トワイライトは姿を消していることをいいことに、ハーヴェストの隣にいたり、俺の隣にいたりと頻繁に動いていた。
結果、良識を持って離れていた月白を、無意識とはいえトワイライトは煽ることとなった。
美人が怒ると怖いんだなぁ……。
『美人なのはリオンもだからな……』
紅が俺の考えていることを読み、ツッコミをする。
「……多分、無意識だと思いますが、父様、すみません」
『ヴァーミリオンが謝ることではない。気にするな。が、父親が多いと面倒だな』
月白がいつものように俺の頭を撫でる。先程までトワイライトに煽られていたせいか、月白もずっと撫でている。
「……多いのは、慣れたと言いますか、俺の蒔いた種もあるので面倒とは言わないですけど、流石に俺を四等分には出来ないので、そこは気を付けて、俺が動こうとは思います」
としか言えない。
今の父親のグラナートと義父になるヘリオトロープ公爵もお互い俺のことで煽っている。
まさか五百年前の父親になるはずだった月白と、神の俺の父親が煽るとは思わなかった。
本音は面倒だけど、煽り合いにならないように俺が動くのが一番、波風が立たない……はず。
『いや、父親の俺が気を付ければ問題ない。煽っていると思わなければ、大丈夫だ、多分』
『……一番、アルジェリアンがまともな父親だったか……』
紅が小さく呟いた。
父親にまともというのがあるのだろうか、と思ったが召喚獣に漏れないように心の内に留めた。




