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転生王子は婚約者の悪役令嬢と幸せになりたい  作者: 羽山由季夜


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【Side 9】わたしの大切な半身(ハーヴェスト視点)

 あの時、わたしが拒絶していたら、わたしもリオンも離れ離れにならずに、双子神として神界で暮らせていたのだろうか。






 生まれる前、母と呼びたくない女神の胎内で、わたしはもう一人のわたしがいることに気付いた。

 目は見えないけど、もう一人のわたしが、わたしに寄り添うように側にいた。感覚が曖昧だけど、ずっと手を繋いでくれていた。

 もう一人のわたしと一緒に、近々、世に生まれるという感覚があった。

 それに安心していたら、母と呼びたくない女神の館で生まれた後、いつの間にか、もう一人のわたしと離れ離れにされていた。

 もう一人のわたしがいないことで、戸惑っている間に、肉体上は母親である女神マルーンが、わたしの持つ創造と豊穣の権能を奪おうとして弾かれた。

 マルーンは権能を二つ持っていた。

 盗みと未来が視える権能。

 そのうちの一つの盗みで、わたしの創造と豊穣のどちらかの権能を奪おうとした結果、弾かれた。

 弾かれたことで、盗みの権能は消滅した。

 マルーンは取り乱した。

 後で知ったことだけど、わたしとリオンが生まれる前にマルーンは夫である、わたしとリオンの父親の未来視の権能を盗み、劣化版しか手に入れられず、更に盗みの権能は消えてしまったはずが、胎内に守護と再生の権能を持つリオンがいたことで盗みの権能が再生してしまったそうだ。

 それも、わたしの権能を奪おうとして、消滅してしまったようだけど。

 そんなこととは生まれたばかりのわたしは知らず、もう一人のわたしがいないことに動揺している間に、落ち着きを先に取り戻したマルーンが更にわたしに閉ざされた世界を創るように言ってきた。

 生まれたばかりで何が何だか分からないが、女神としての意識や知識、権能の使い方は分かるわたしは、母親であるマルーンに言われるまま、閉ざされた世界を創ってしまった。

 その世界に四人の魂の欠片と、マルーンに似た気配の誰かの肉片から出来た人形を彼女は入れた。

 その閉ざされた世界にマルーンが魂の欠片を入れる時、もう一人のわたしの気配をかすかに感じた。

 わたしが止める間もなく、もう一人のわたしと、三人の魂の欠片は、マルーンによって閉ざされた世界に閉じ込められた。

 もう一人のわたしの魂の欠片を閉ざされた世界に閉じ込められ、わたしの心に喪失感が広がった。

 せめて、残りの魂の居場所を確認しようと、マルーンに気付かれないように、気配を辿る。

 マルーンが居るこの部屋から離れた場所、ここではない別の場所に感じた。

 生まれたばかりではあるが、もう一人のわたしの魂を更に失う訳にはいかないので、何も知らない振りをして、四人の残りの魂をどうするのかとマルーンに聞く。

 まぁ、実際、あの時は何も知らなかったのだけど。

 わたしに聞かれたマルーンは、


「四人の残りの魂は、洗脳等して、後々、妾の役に立てるつもりよ。人間の魂だから、妾のような女神を崇めるのは当然だからな」


 と、鼻で笑いながら、人間の魂を下に見るように言い放った。

 内心、怒りを感じながらも、何も分からない振りをして、曖昧に頷いた。

 大切な、もう一人のわたしを、こんな母親に洗脳される訳にはいかない。他の三人の魂もだ。



 生まれてしばらくして、わたしの姿は十五歳くらいになった。

 人間と違い、神の成長は早い。

 女神としての意識や知識、権能の使い方等をマルーンではなく、他の神や女神から改めて学び、神や女神の事情等も勉強し、わたしはもう一つ世界を創ることになった。人間のリオン達がいる世界。

 閉ざされた世界と違って、初めてちゃんと創った世界だったので、そこにもう一人のわたしや三人の残りの魂を隠せないかと考える。

 考えている間、マルーンは異父姉のミストを溺愛し、対するわたしを愛情の欠片もない目で言葉で虐げたり、自分達より下位の神のような扱いをし始めた。

 ――実際、わたしの方が権能を二つ持つので、マルーンやミストよりも上位なんだけど。

 本来なら、権能二つでも神の序列は上の下くらいの位置だ。

 わたしやリオンの序列が上の下ではなく、上位なのは、マルーンに殺された父親のおかげでもある。

 父親は上位も上位で、上から二番目の神だった。

 だからなのか、わたしもリオンも、権能も力というか魔力も同じ序列の神や女神よりも上だった。

 それが気に食わないのか、マルーンはわたしを下に見ようとしていた。

 その娘のミストも母親と共に、わたしに暴言を吐いたり、否定するようなことを言うようになった。

 そして、何処かに行ったらしいマルーンや他にいるはずの神や女神の気配がなく、マルーンが住む館に、わたし以外誰も居ないことに気付いた。

 誰も居ない間に物置部屋のような所に行く。

 四人の魂は宝箱のような頑丈な箱に、鍵を掛けて入れられていた。

 わたしの創造の権能で鍵を創り、錠を外す。

 四人の魂を取り出し、そっと横に置く。

 創造の権能で、四人の魂に似たモノを創り、本物の魂が入れてあった宝箱のような頑丈な箱に入れ直し、元の位置に戻す。

 そして、母に気付かれないように、四人の残りの魂を創った世界に送り、わたしも様子を確認するため、一緒に創った世界へ向かった。




 わたしが創った世界は順調に成長し、人間や動物、精霊、召喚獣等が生きられる世界になっていった。

 これなら、もう一人のわたしや他の三人の残りの魂は無事に人間として生まれ、生きられる。

 安心したわたしは世界に流れを任せ、良いタイミングを確認しながら、いつ、彼等に生まれてもらおうかと考えていた時、言い知れぬ、絶望がどんどん溢れてきた。

 自然と震えるわたしは、何処からこの絶望が溢れてくるのか不思議に思い、戸惑う。

 胸を押さえ、溢れる絶望が何処から来るのか、意識を集中させる。

 絶望は、わたしの中からではなかった。

 もう一人のわたしからだった。

 わたしは慌てて、閉ざされた世界へ向かうことにした。

 行くことが出来るのか不安だったが、閉ざされた世界へ繋がる扉を創造の権能で創る。

 創った扉を潜ると、閉ざされた世界に着いた、と思う。





 閉ざされた世界に着くと、小さな家が目に入った。

 その小さな家に導かれるように中へと入る。

 中で、わたしと瓜二つの少年がソファで俯いていた。

 もう一人のわたしだ。

 会いたくて仕方なかった、わたしの半身だ。

 わたしに気付き、少年がこちらを見る。

 こちらを見た途端、わたしと同じ金色と銀色の目が揺れた。

 目の色は右目が金色で、左目が銀色で、わたしの目と逆だった。


「……今度は、この世界は、俺の半身まで奪うのか……」


 悲壮感溢れる震える声で、もう一人のわたしが呟く。絶望に満ちた声で、今にも泣きそうな顔だった。


「違う。この世界はわたしが創ったから、わたしを奪うことは出来ないよ。ずっと会いたかったよ、わたしの半身。ヴァーミリオン……リオン」


 生まれてすぐ引き離されたのに、もう一人のわたしの名前が――ヴァーミリオンだとわたしの脳裏に浮かぶ。

 ソファに座ったまま動かない、ヴァーミリオンを抱き締める。

 リオンを抱き締めた時、この世界で起きている彼の記憶が、絶望が流れる。

 マルーンに言われるまま、分からないままこの世界を創ってしまったことに罪悪感が募る。

 わたしが母親の言葉を拒絶していたら、状況は変わっただろうか。


「ごめんね、わたしがこの世界を創ってしまったから、リオンや他の三人の魂の欠片まで辛い思いをさせてしまった」


「……君の、ハーヴェストのせいじゃないよ。一度しか見たことがないけど、母親のせいだから。生まれたばかりの、何が何だか分からないヴェルを唆した母親が悪い。だから、もし、この閉ざされた世界から出ることが出来たら、あの母親を俺は許さない。俺達やヴェルを苦しませるあいつを許すつもりはない」


 わたしと同じように、わたしの記憶が流れたのか、リオンはそう言い放った。

 リオンも名乗っていないのに、わたしの名前が分かったのか、わたしの名を呼ぶ。


「リオン。これからここに時々、来てもいい?」


「……来ることが出来るのか?」


「時々だけど、母親の目を盗んで来ることは出来ると思う」


「ヴェルの負担にならなければ構わない。世界が崩壊しない限り、俺はここから出られないから」


 小さく笑い、リオンは頷いた。その笑みは諦めが滲んでいて、胸が苦しくなる。


「じゃあ、時々行くよ。リオンとたくさん話したい」


「俺もヴェルと話したい。待ってる」


 笑って、リオンはわたしを抱き締めた。









 それから、わたしは何度も何度も閉ざされた世界に行っては、リオンと話をするようになった。

 会う度に、ループしているせいで、大切な人達の死を見せられるリオンの精神的な疲労が酷くなっていくのが見えた。

 リオンの再生の権能で、魔に堕ちることはないけれど、精神的な疲労は知らない内に蓄積されていく。

 見ていて辛くなる。

 わたしもマルーンにリオンの魂を逃したことに気付かれることがないように、近くで見張っていた。

 散々、罵られたけど。

 全てが解決する時には、あの母親は生まれてきたことを後悔させてやるつもりだ。

 更に、母親のせいで、二つにされてしまったリオンの、人間の方の魂は無事に人間として生まれるはずだったのに、リオンの母親となる女性を妬み、父親となる男性を奪おうとした貴族の女の毒と呪いのせいで、リオンは生まれる前に命を落としてしまった。

 人間のリオンの魂を見つけたようで、ずっと見ていたらしいミストの方が魔に堕ちた。

 リオンが異父弟と気付いていないミストは、リオンを手に入れようと思っているらしく、マルーンに魔に堕ちた状態で神界にやって来て、欲しいと訴えていた。

 訴えた後、ミストは神としての全てを失い、マルーンによって、わたしが創った世界で力を蓄えることになった。

 その時に、マルーンとミストを潰せば良かったが、人間のリオンの魂が生まれなかった影響なのか、閉ざされた世界の神のリオンも少し弱っていた。

 マルーンに人間のリオンの魂を奪われる訳にはいかないので、すぐリオンの魂と、他の三人の魂を地球へ連れて行き、知り合いの神と女神に事情を説明した。

 その地球の日本でリオン達は無事に生まれることが出来て、そのおかげで、閉ざされた世界にいる神のリオンは回復した。

 そこで、こちらの、多分これから起きるかもしれないことを地球の神と女神にお願いして、乙女ゲームとして作ってもらい、リオンや他の三人の魂達の手に渡るようにしてもらった。

 けれど、マルーンとミストに地球へ逃したことが見つかり、人間のリオンは呪いを掛けられた。

 世界の理の中に、違う世界から呪いを掛けられると、今居る世界は異物として、それを排除し、呪いを掛けた世界へ吐き出す、というのがある。

 それをマルーンとミストは狙った。

 マルーンとミストの問題を解決してから、人間のリオン達をわたしが創った世界に戻す予定が全て狂ってしまった。

 わたしが創った世界に戻ることになったリオン達をマルーンとミストから守るため、準備をすることになった。

 準備をどのくらいすればいいのか考えていると、人間のリオンの両親になるはずだった、既に死んだはずのカーディナル王国の初代国王と王妃の魂が、わたしを喚び出した。

 まさか女神のわたしを喚び出すとは思わなくて、とても驚いた。流石、人間のリオンの父親になるはずだった人間で、わたしの分身体の子孫で、先祖返りだ。

 顔も性格も、わたしとリオンに何処となく似ているように思う。

 喚ばれたわたしは、カーディナル王国の初代国王のアルジェリアン、王妃のカスティールを見る。


「女神様、単刀直入に聞きたい」


「何かしら?」


「俺達の、生まれる前に死んでしまった子供は、無事に他の場所で生まれて、幸せに暮らしているか?」


 本当に単刀直入だ。

 他の場所に確かに無事に生まれた。その後、幼少期に呪いを掛けられ、今も苦しんでいるけれど、姉弟仲が良いおかげか、呪いによる体調不良は別として、幸せそうには見える。

 わたしの主観で答えていいのか、それとも人間のリオンの気持ちを代弁してもいいのか、悩む。

 言葉に窮してしまったわたしを見て、それがわたしの答えと、判断したらしいアルジェリアンは柳眉を逆立てた。


「……何故、女神様はあの子ばかりを不幸にする?」


 アルジェリアンが獣のように唸る声で、わたしを鋭く見る。


「不幸? わたしが、わたしの大切な半身を不幸にする訳がないわ。勝手に決めないで」


 アルジェリアンの言葉に、わたしは思わずそう返していた。冷静ではない、完全に沸騰したような状態で、わたしが返したことで、アルジェリアンは目を見開いた。

 自分でも分かる。わたしは大切な半身のリオンに弱い。リオンのことになるとすぐ怒りが沸く。


「女神様の半身? どういうことだ?」


 わたしはアルジェリアンとカスティールに、わたしとリオンのことを、今までの全てを説明をした。

 説明していく度に、アルジェリアンとカスティールの顔が苦痛に満ちた、辛そうな顔をした。


「……すまない。知らなかったとはいえ、女神様に酷いことを言った」


 アルジェリアンは頭を下げると、カスティールも隣で頭を下げた。


「気にしないで。わたしも、ヴァーミリオンを貴方達の子供として生まれて欲しかったけど、出来なかった。守れなかった。本当にごめんなさい」


 わたしも頭を下げると、アルジェリアンとカスティールが戸惑った。女神が頭を下げるとは思わなかったみたい。


「……だから、これからのことで、貴方達にお願いしたいことがあるの」


「お願い、とは何でしょうか?」


 カスティールが首を傾げて、わたしを見る。


「これから、カーディナルの第二王子として生まれる予定の、ヴァーミリオンを守る召喚獣として、聖と光の精霊王になってもらえない? マルーンとミストから守るために」


 わたしの提案を聞いた二人は目を大きく見開いた。


「わたし……というより、ヴァーミリオンは魔に堕ちた元女神と、その母親の女神に狙われてる。折角、ここではない、別の世界に逃がして、幸せに生を全うして欲しかったのに、それも出来なかった。またこの世界に生まれるけど、ヴァーミリオンが十八歳になるまでに拗れてしまったことを全て解決して、今度こそ幸せになってもらいたい。その協力をお願い出来ない?」


 少し、上目遣いになってしまったが、アルジェリアンとカスティールを見る。


「……あの子を、幸せに……。分かった。協力する。何をどうしたらいい? 協力するんだ。女神様が知る全てを俺とティアに話して欲しい。一部しか知らないのと、全てを知っているのとでは反応が変わってくる。もちろんだが、これから知ることも今後も全て教えて欲しい」


 真っ直ぐ言い放つアルジェリアンを見て、流石、初代国王だと感じた。ただ、言葉は全て、今から生まれて来る人間のヴァーミリオンを想う、父親のそれだった。

 わたしにも、神のリオンにも、父親が生まれた時からいない。

 母親は最悪だったが、父親はどんな神なのか分からない。

 母親が最悪だったために、わたしも神のリオンも親の愛を知らない。分かるのは、双子としてのお互いへの姉弟愛と、リオンの最愛や親友達への友愛くらいだ。

 時々、見ていたけど、人間のリオンの地球での家族への愛も何となく分かる。

 でも、親の愛は分からない。今更、欲しくはないけど。

 それでも、アルジェリアンの、人間のリオンを想う、父親の愛は羨ましく思う。

 わたしと神のリオンの父親も、アルジェリアンのような、自分の子供に愛情を注げる神なら良いなと思っていたことがある。会ったことはない。子供想いなら、生まれてすぐに来ると思うが、来ないということはそういう親なのだろう。

 わたしと神のリオンの父親も母親も、わたし達にとっては毒でしかないのだろうな。

 それなら、いらない。


「……分かったわ。わたしが分かることは全て話すし、これから分かったことも必ず共有する。だから、わたしの半身を、どうか守って欲しい」


「当たり前だ。俺とティアの大切な子供だ。召喚獣として、あの子を守ろう」


 二人が頷くと、わたしは微笑んだ。







 それから、わたしが知る全てを話すと、何故か途中でアルジェリアンとカスティールに説教されることになった。

 何故? 腑に落ちない。

 二人曰く、他の神や女神に助けを求めなかったのがいけなかったらしい。

 申し訳ないけど、人間と違って、神や女神はそこまで優しくない。特に上位。

 下位は助けてくれることもあるが、所詮、下位。

 下位の神や女神がかなり束にもならないと、上位の神を出し抜いたり、戦って勝つことも出来ない。

 上位の神や女神の派閥に入っていない神や女神なんて、上位の神や女神は助けもしない。

 知り合いの神と女神から聞いたけど、わたしと神のリオンの父親は上位も上位。上から二番目の神だった。それは流石に、わたしも父親に助けを求められない。

 会えるのか自信がない。

 つまり、助けを求められない。

 他の神や女神にも。

 だから、アルジェリアンとカスティールの説教を甘んじて受けることにした。







 それから人間のリオンは無事にカーディナル王国の第二王子として生まれ、時間がある時は人間のリオンの様子を神界のわたしの家から覗いてみたり、神のリオンの様子を見に行ったり、マルーンの様子を確認したりしている。

 人間のリオンが十五歳になった。

 わたしは漸く人間のリオンに会えることになった。

 会いたくて仕方なかった、わたしの半身だ。

 神のリオンにも会っているけれど、人間のリオンにずっと会いたかった。

 初めて会う、人間のリオンは、神のリオンとやっぱり同じだった。

 初めて間近で見る、人間のリオンは髪の色はカーディナルの赤の紅色だけど、顔も目の色もわたしと同じだった。

 けれど、見たことがない一面もあった。

 わたしを見て戸惑う様子は、年相応に可愛かった。

 あれは、老若男女問わず、やられる。

 でも話すと神のリオンと同じで、大人びていた。

 そのギャップは、多分、リオンの懐に入った人達にしか見せないのだろうけど、入った人達でもうっかり見たら、マズイんじゃないかなと思う。

 まぁ、双子のわたしは問題ないけど。

 そんな、人間のリオンにやっと会えて、神のリオンに話すと、その時の感情を少し教えてくれた。

 人間のリオンの記憶や感情、考えは神のリオンに伝わる。その逆の神のリオンの記憶や感情、考えは人間のリオンには伝わらない。

 どういう方法なのか分からないが、マルーンによって邪魔をされているから。


「……ヴェルに初めて会った、人間の俺は戸惑いもあったが、懐かしいのと、ずっと無性に感じていた寂しさが何だったのか、漸く足りなかったピースが見つかって嵌まったような、そんな感覚だったみたいだ。初めてヴェルに会った時、俺もそうだった」


 たくさんのループを繰り返して、疲れにも慣れてしまったような、神のリオンは老成したような表情で教えてくれた。


「そっか。わたしはどちらのリオンも、同じで、会いたくて仕方なかったわたしの半身だなって思ったよ」


 そう言って、笑ってリオンの手に触れると、同時にわたしもリオンもびくりと身体が震えた。

 その時、胸の奥から何か力を感じた。

 それが何なのか、集中すると、隣のリオンが小さく呟いた。


「……これは、過去視か?」


 呆然と自分の手を見つめて、リオンが戸惑いの声を漏らす。


「え、過去視? 何、で……」


 と言っている間に、わたしの方は次、リオンが言う言葉が幻聴のように頭に響く。


『ヴェルは、何か視える?』


「ヴェルは、何か視える?」


「――!?」


 一呼吸置いた後に聞こえたリオンの言葉に、これは幻聴ではないと分かった。


「……わたしの方は、多分、未来視、かな?」


 戸惑いながら呟くわたしを見て、リオンが勢い良くこちらを向く。


「未来視? あの母親の権能か? 何故、今になってヴェルに?」


 リオンの言葉に、わたしは更に戸惑う。頭に響く言葉は色々な種類があった。

 そこで、気付く。


「あの母親の権能じゃないわ、この未来視。あの母親はたった一つの未来しか視えなかった。でも、わたしが今、聞こえる声はたくさんの種類のリオンの言葉よ。わたしが言う言葉によって、リオンの言葉が変わってる。多分、あの母親の権能はこの未来視の劣化版よ」


「じゃあ、どうして、今になってこの権能がヴェルに? それに、俺のは何故、過去……過去視なんだ?」


「わたし達が双子だから? わたしとリオンは双子だけど、女性と男性。目の色は鏡合わせ。反対だから、わたしは未来視で、リオンは過去視なんじゃないのかな?」


「そう、なのかな。あのさ、その過去視で視えたんだけど、この過去視と未来視、交換出来るみたいなんだが……」


 戸惑った様子のリオンが、わたしを見る。

 未来視ではなく過去視で、何故、交換出来るのが分かったのかが分からないといった顔をしている。


「ええ? どうやって?」


「俺の方から、ヴェルの手に触れると交換出来るみたいだ。交換以外も誰かと視たりすることも出来るようだよ」


「そうなんだ……。交換する前に、先に過去視でわたし達のこと視たら、真実が分からないかな?」


「成程。今から、視る?」


 リオンがそう言って、わたしを見る。


「うん、視る」


 頷くと、リオンが右手をこちらに差し伸べてくる。わたしも差し伸べられた手を握ると、最初の、生まれる前が視えた。

 何故、父親がいないのか、どうしてこんなにも拗れてしまったのか、母親の狙い等が視えた。

 そして、同胞とも言える神や女神を母親は権能を奪うために、たくさん殺していたことを知った。


 しばらくして、全てを知ったわたしとリオンは同時に溜め息を吐いた。

 流石、双子。タイミングが同じだなと、知った真実を整理しながら、つい思う。


「……いっそのこと、マルーンとミスト、潰したら、人間のリオンも安心なんじゃないかな……」


「潰せたらね。俺も人間の俺も、ヴェルと同じようにそう思ったし、何度も考えたが、多分、今は時機じゃない。一柱は勝手に魔に堕ちたが、まだもう一柱は腐り掛けていても女神だ。正攻法じゃない方法で潰せば、こちらにしっぺ返しが来る。神殺しは面倒で厄介だ」


 何度も考えたんだ……。流石、わたしの半身。


「その面倒で厄介なこと(神殺し)をしているマルーンは何故、しっぺ返しがないの? 理解出来ない」


「それが多分、俺と人間の俺にループや巻き込まれとして回ってるのだと思う」


「えっ、どういうこと?」


 続きを促すように、わたしはリオンをじっと見つめる。


「ここに閉じ込められてから、ずっと考えていたことだけど、この閉ざされた世界はヴェルが創った。でも、創っただけで、ループするようにヴェルは組んでいない。そうだろう?」


 リオンの問いにわたしは頷く。

 わたしは、マルーンに言われるまま、閉ざされた世界を創ってしまったが、ループするように創っていない。

 ただ、外部からの介入がないように、内部から出られないように創っただけだ。

 ループするように創っていない。

 では、誰がループするように創ったというのか。


「あの母親は、世界をループさせる程の力はない。俺達よりも下位で、同位の神を権能を奪うためだけに、神殺しの剣(光の剣クラウ・ソラス)の劣悪な劣化版のナイフで物理攻撃しか出来てない。俺達の父親は、ミストの父親の権能の相打ちがあったから殺せた。そこでヴェルに質問。たくさん神を殺したマルーンにしっぺ返しがないのは何で?」


 何で? 何でだろう。

 普通ならしっぺ返しは、本人に行く。

 そう、他の神や女神にわたしは教わった。

 では、何故、たくさん神を殺したマルーンにしっぺ返しが行かない?

 何が、違う?

 そこで、ふと気付く。


「……もしかして、そのしっぺ返しがさっき言った、この閉ざされた世界のループと、人間のリオンの巻き込まれになっているの?」


 わたしの言葉に、リオンは頷いた。


「ループしかない世界だから、考える時間はたくさんあったから、ずっと考えていた。閉ざされた世界はあの母親に言われるまま、ヴェルが創らされた。優しいヴェルが、こんな酷いループだけの世界を創る訳がない。ループをさせるだけの大きな力をあの母親は持っていない。どうすれば、この世界で五百年もループさせるだけの大きな力が続いたのか。答えは俺達の父親だよ、ヴェル」


 リオンの言葉に、わたしは目眩がした。

 あの母親は、何を考えているの?


「俺達の父親は上から二番目の神。最高位の神の次席。俺達はもちろん、あの母親以上の力がある。方法は分からないけど、何らかの方法でしっぺ返しを避け、この世界でループする力として使い、閉ざされた世界にいる俺と最愛や親友達……特に俺を五百年苦しめた。そして、あの母親と同位の神や女神を殺したしっぺ返しは、人間の俺に、呪いと巻き込まれという形で苦しめている。呪いはともかく、巻き込まれがそれなりに軽いのは、人間の俺は元々上位の神で、あの母親と同位の神より上だから、あの程度だったということだと思う」


「どちらもリオンを狙ってるのね……。腹が立つわ。リオンが何をしたというの?」


 本当にリオンが何をしたの?

 何もしていない。

 生まれてすぐに魂を二つに分けられ、一つは閉ざされた世界に閉じ込められた。もう一つは人間として生まれるのに呪いを掛けられ、異父姉に狙われて、母親からは権能を狙われている。

 何もなければ、わたしと双子神として過ごしていたはずだった。

 母親と異父姉が血迷ったことをしなければ。

 時機が来た時、生まれたことを後悔させてやりたい。


「理不尽は、道理を尽くさないから、理不尽って言うんだよ。許すつもりはないけど、過ぎたことは仕方がない。今更、地面に溢れた水を元に戻せと言っても戻らない。五百年も経てば、地面に溢れた水ももう乾いている。地下にはたくさん溜まってるから、時機が来たら一気に噴き上げるつもりだけど」


「……リオンが何だか、理性のあるまま、狂わずに虐殺しそうなんだけど……。気持ちは分かるけど」


 気持ちは凄く分かる。分かるから、怒らせたら怖い。特に目の前の神のリオンは五百年、我慢しているから。


「俺も、人間の俺もヴェルもずっと理不尽な目に遭っている。五百年、狂わずに済んでるのは、俺の権能もあるけど、ヴェルやリア達がいるからだ。いなかったら、とうに狂ってる。五百年は長過ぎた。それ程、俺達の父親の力は凄いってことだね」


 諦観や達観しているような、そんな顔のまま、リオンは笑う。

 それが余計に辛く、わたしは感じた。

 早く、リオンをこの閉ざされた世界から解放してあげたい。人間のリオンも、マルーンやミスト、チェルシー・ダフニーのことを解決して、ウィステリアと幸せになって欲しい。

 わたしも、そんなリオンの隣で、双子の姉として笑いたいし、幸せになりたい。

 半身が幸せなら、わたしも幸せだし、リオンも同じことを考えていると思う。




 わたしは全力でリオンを助け、守るし、諸悪の根源――特にマルーンとミストは絶対に許さない。


 敬称で一度も呼んだことはないけど、時機が来たら、覚悟してね。

 おかあさまに、おねえさま?

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