第77話 双子姉弟の父と魔法の神
寝ることで精神的な疲れがそれなりに癒えた俺は、ウィステリアやディジェム達友人を萌黄にお願いして、王城の南館の俺の私室に連れて来てもらうことになった。
王城には俺が張った結界があり、また元女神やあの母親が来た時に、ウィステリア達が巻き込まれたら嫌なので、萌黄の風で連れて来てもらうことにした。
ウィステリア達には来た時に、詳しく話そうと思う。
来るまでの間、またやって来たハーヴェストがミモザに加護のことを話したら、ミモザは目を潤ませて、お辞儀した。
ミモザには守りと癒しの加護をハーヴェストが与えた。
守りはハイドレンジアと同じで、物理系、魔法系、精神系構わず攻撃をある程度防ぐ。守りの加護が与えられたことで、更に魅了魔法の耐性が上がった。
癒しは十回まで、傷や状態異常を回復するものだった。
ちなみに、状態異常には、もちろんだが死は入らない。何とか息があれば、ある程度は回復出来るらしい。癒しなので。
ミモザがもらった加護は、どちらも俺の権能の守護と再生の劣化版の加護だ。
俺の守護は全てのあらゆる攻撃を防ぎ、再生も死は蘇生出来ないが、息があれば完全に、再生する。俺の任意で制限なく。
魂だけだと、守護も再生も、俺の魂を所持している者のみ守り、完全に再生する。
本当に、厄介この上ない権能だ。
神の俺と一つになったことで知ったことだが、俺の厄介な権能を破るには、俺の双子の姉になるはずだったハーヴェストと、俺以上の数の権能を持つ上位の神でないと破れないらしい。
俺は三つ権能を持っているので、四つ以上持つ神となる。
そんなに神がいるのだろうかと、神の俺の知識を探ると、一応、数名は確実にいるらしい。が、残念ながら、閉ざされた世界に閉じ込められていたせいで、神の俺の知識は偏っている。なので、神の序列とかなんてさっぱりだ。
ハーヴェストに時間があれば、色々と神について聞いておきたい。
「そういえば、ヴァル様は女神様のように加護を誰かにお与えすることは出来るのですか?」
萌黄達を待ちながら、ミモザがふとした疑問を俺に聞いてきた。
「神じゃないから、流石に加護は与えられないよ。出来るのは、権能を使って、守ったり、癒やしたりすることくらいだよ」
その権能を使うと、とても疲れる。魂は神でも、身体は人間なので、使うと疲労はもちろん、眠気が酷くなる。
眠っている間に、厄介なことが起きるのは困るので、頻繁に使うことがないようにしている。
『ヴァーミリオンは魂が神でも、身体が人間だから、権能を使い過ぎると命を落とすからやめた方がいいわ』
ハーヴェストがそう伝えると、ハイドレンジアとミモザ、グレイ、シスル、レイヴン、サイプレスの顔が真っ青になった。
「ヴァ、ヴァル様。ご家族やウィステリア様、ご友人達が大切なのは分かりますが、たくさん使わないで下さいね……!」
「そうですよ、我が君! 命を大切になさって下さいね……!」
縋るように、ミモザとハイドレンジアが俺に言うと、グレイとシスル、レイヴン、サイプレスも大きく頷いた。
「流石に、命を投げ出すようなことはもうしないよ」
苦笑しながら答えると、前科があるので、五百年前の両親になるはずだった月白と花葉、兄弟になるはずだった東雲、紫紺、竜胆がじっと本当か? と言いたげに無言で見てくる。五人共、俺とハーヴェスト、紅、グレイにしか見えないようにしているため、こちらは目を逸らすことしか出来ない。
それを見て、ハーヴェストが苦笑した。
『マスター、皆様をお連れしました』
ふわりと風が室内を舞い、いつもの小さな姿ではなく、大人の風の精霊王の姿の萌黄が微笑むと、ウィステリア達が現れた。
ウィステリア達はきょろきょろと周りを見渡した。何度か転移しているのに、風での転移がなかなか慣れないようだ。
「いらっしゃい、皆」
にこやかに声を掛けると、ディジェムが机の椅子に座る俺と、ソファに座るハーヴェストを見るなり、大きな息を吐いた。
「お邪魔するよ、ヴァル。で、今日は何があった? わざわざ女神様もいらっしゃるようだけどさ」
ディジェムの言葉に、アルパイン、ヴォルテール、イェーナ、ピオニー、リリー、アッシュがぎょっとした顔で、俺とハーヴェストを見た。ロータスは少し離れて、にこにこと微笑んでいる。
「ま、待って下さい……。ソ、ソファに座っていらっしゃるヴァル様そっくりな方は、め、女神様、ですか……?」
ヴォルテールがぷるぷる震えながら、俺に聞いてきた。
「そうだよ。俺の双子の姉になるはずだった女神のハーヴェストだよ」
『宜しくね。いつもヴァーミリオンがお世話になってます』
紹介すると、ハーヴェストが小さく微笑んだ。
「め、女神様……! ヴァル様と本当にそっくりですわ……!」
イェーナが悲鳴に近い声を上げて、感動で震えている。
「……ヴァル殿下に色々とそっくりそう」
リリーがぼそりと呟くと、ピオニーが顔を青くした。
「ちょ、リリー! 不敬になる……!」
『不敬にならないから、気にしないで。そっくりなところが、わたしとヴァーミリオンの唯一の繋がりだから。むしろ、どんどんそう感じて欲しいわ。特にピオニーとリリーはわたし達と同じ双子だから』
にっこりと嬉しそうにハーヴェストは、ピオニーとリリーの双子の姉妹に微笑む。
「私達の名前……!」
『同じ双子だから、貴女達にはとても親近感を感じてるの。だから、今度、双子で感じることとか話をしましょうね?』
「……気さくなところは、本当にヴァル殿下にそっくりだね、ピオニー」
「そ、そうね、リリー……。ヴァル殿下と笑顔もそっくりだから、髪の色が似ていたら、混乱するところね……」
『だそうだけど、髪の色、変えてみる? ヴァーミリオン』
いたずらっぽく笑って、ハーヴェストは腰まである濡羽色の髪を一房取って、俺に言う。
「……今日はそういうことで、呼んだ訳じゃないから、次の機会にしてくれるかな? ハーヴェスト。それと、皆が混乱してるところで遊ばない」
「それで、ヴァル。何があった?」
ディジェムが話が終わったところを見計らって、俺を見る。
皆にソファに掛けてもらうと、ハーヴェストがにこにこと俺の左側にやって来た。ハイドレンジアが慌てて、椅子をハーヴェストの元に持って来る。
「昨日、チェルシー・ダフニーの身体を一時的に乗っ取った元女神が俺に接触してきた。それで、王城全体に結界を張った。門のところでウィスティ達が襲撃されても困るから、萌黄に迎えに行ってもらったんだ」
俺が簡単に告げると、ウィステリアが心配な表情で近付き、俺の右手に触れる。ミモザもウィステリアの元に椅子を持って来る。
「風での転移はそういうことだったのか。ヴァルは大丈夫なのか?」
「まぁ、二回来たけど、二回ともハーヴェストが追い払ってくれたしね。ついでに、二回目は元女神の母親の女神も来たから、ハーヴェストがいて助かったよ」
「待って、ヴァル君。元女神の母親の女神ということは、女神様と神のヴァル君の母親でもあるんじゃないの?」
オフェリアが言うと、ウィステリアとディジェムが頷く。
「まぁ、そうだね。神の俺とハーヴェストの一応、母親ではあるね。神の俺もハーヴェストも母親と思ったことはないけど」
「双子として生まれるところを引き離されて、片方を閉じられた世界のような、あんなところに五百年も閉じ込めていたんだから、母親とも思いたくはないよな」
「ウィスティとディル、オフィ嬢を完全に巻き込んだから余計にね」
言葉にはしないが、俺もハーヴェストもあの母親も許す気はないし、報復はするつもりでいる。
『引き離されなくても、あれをわたしもヴァーミリオンも母親とは思わないわよ、ディジェム』
俺と同じことを思っているのか、ハーヴェストもにっこりと告げる。
「どういうことですか?」
『あの母親は、わたしと神のヴァーミリオンの父親を殺したの』
「……あの、そのお話と、今日僕達を呼んだことは何か関係があるのでしょうか……?」
ヴォルテールが恐る恐るハーヴェストに声を掛ける。
『あるわ。特にヴァーミリオンとディジェムはね』
「え、俺? ヴァルは分かるとして、俺もですか?」
『そうよ。あの母親はね、元々は未来が視える権能を持っていなかったのよ。元の持ち主はわたしとヴァーミリオンの父親の神が持っていた権能の一つよ。あの母親の元の権能は盗みよ』
「ぬす……み?」
眉を寄せて、ディジェムが呟く。
「他の神の権能を盗むんだよ、ディル」
「いや、それは分かるが……ああ、成程。俺やヴァルの権能を盗るってことか。それで俺とヴァルに特に関係するってことなのか」
『盗みの権能は一度限り、他の神の権能を盗めるのだけど、再生の権能を持つヴァーミリオンを使えば、その権能も元に戻るのよ。それで権能を増やせば、上位の神になれるとあの母親は思ってるのよ』
「それで、昨日、元女神がその母親の女神のことを“偉大な女神”と言ったのですね」
ハイドレンジアが溜め息混じりに納得の声を出す。
『権能だけ増えたくらいで、上位の神になんてなれないのにね。権能を使いこなす力や神の資質とか色々あるのだけどね……』
「あの、女神様とヴァル様のお父様の神様は何故、殺されたのですか?」
シスルがおずおずと躊躇いがちな表情で、ハーヴェストに聞く。自分の両親を伯母に殺されたからなのか、俺とハーヴェストを同情するように見る。
『……身内とは思っていないけど、身内の恥を晒す形になるから、ひどく恥ずかしいのだけど、始めから説明すると、まず、わたしとヴァーミリオンの双子の姉弟と元女神ミストは異父姉弟よ。人間達と同じで、政略結婚のようなものが神でもあって、わたしとヴァーミリオンの父親と母親は政略結婚のようなものなの。あの母親の父親が上から九番目くらいの神で、わたしとヴァーミリオンの父親の神は上から二番目の神で、権能もたくさん持ってたの。母親は一つしか権能がないから下位よ。だけど、自分の娘と上から二番目の神が結ばれれば、発言権が強くなる。それを九番目の神は狙ってたし、わたしとヴァーミリオンの父親が持つ権能を母親は盗むつもりだったみたいでね……』
そこで止めて、ハーヴェストは溜め息を吐いた。
『わたしとヴァーミリオンの父親の権能は全部で八つ。わたしが持つ創造と豊穣、未来視、ヴァーミリオンが持つ守護と再生、過去視とあと二つ。あの母親はわたしとヴァーミリオンをお腹に宿したのを確認した後、父親を殺して、未来視の権能を盗んだ。けれど、残念なことにたった一つの未来しか視ることが出来ない、未来視の劣化版の権能しか盗めなかったの』
「あの、ヴァル様の権能と同じ守護と再生、未来視があるなら、攻撃を防げたのではないですか?」
俺の右手を握ったまま、ウィステリアがハーヴェストに尋ねる。
『本当ならね。その時に、ちょっと邪魔が入ってね。その邪魔がミストの父親の神なの。下位の神なんだけど、あの母親と恋仲で政略結婚しなくてはいけないせいで、ミストが生まれた後に別れないといけなかったそうよ。その父親も変わった権能を持ってて、それで邪魔されて、母親に殺されたのよ。その権能の名前は相打ち。一度だけ、自分より上位の神を討つことが出来るのよ』
「え、エグい……というか、ドロドロの愛憎劇を聞かされてる気分……」
ディジェムがぼそりと呟くと、他の友人達も頷いている。
神の俺もハーヴェストも知った時は、皆と同じ感想だったから苦笑いしか出ない。
『わたしもヴァーミリオンも過去視で視るまでは知らなかったことよ。他の神達も、わたし達の父親が殺されたことに気付かなかった』
「何故ですか? 上から二番目の神なんですよね?」
オフェリアが首を傾げて、問う。
『……他の神から聞いたのだけど、わたし達の父親は元々、引き籠もりだったのよ。だから、気付くのが遅れてね。いつ、誰に殺されたのか分からないままだった』
ハーヴェストが言うと、何故か皆の視線が俺に向いている。
「何で、俺を見るのかな」
「いや、引き籠もりといえば、ヴァルというか……。似てるよな」
「引き籠もるのは確かに好きだけど、半分は不可抗力だからね。書類仕事が次から次へと来るから」
心外だといった顔で、ディジェムを見ると、ニヤリと彼は笑い返してきた。
『そういうことで、ミストとその母親にヴァーミリオンは狙われてるの。母親は自分の愛した神との子であるミストのことを溺愛してるから、余計にヴァーミリオンを狙ってる。本当にあの親子のせいで、貴方達の事情が拗れ過ぎて、他の神達とどうにかしたいのだけど、上手くいかないのよ』
「事情が拗れているのは主にヴァル様のことだと思うのですが、僕達も入ってるのですか?」
ヴォルテールがふと疑問に思ったことを呟くと、ハーヴェストは苦笑した。
『そうね。ウィステリア、ディジェム、オフェリア以外の皆は、あの母親に殺された下位の神の生まれ変わりよ。わたしとヴァーミリオンの父親が消滅寸前のところを人間の魂に転換して、助けたの。ヴァーミリオンやディジェムと違って、貴方達は権能は使えないけど、魔力や力、体力等が他の人より少し高いのはその名残りよ』
「え、あの、その皆というのは、わたくしも入ってますの?」
『ええ。アルパイン、ヴォルテール、イェーナ、ピオニー、リリー、アッシュがそうよ。ハイドレンジア、ミモザ、シスル、グレイ、レイヴンはヴァーミリオンを祀る神殿の神官や神殿騎士の予定だったのよね』
ハーヴェストの言葉に、また俺に視線が集中する。
「……ヴァル様は俺達のこと、ご存知だったのですか?」
アルパインがじっと俺を見て、問い掛ける。
「そのことを知ったのは、最近だよ。神の俺と一つになって、不意打ちで視せられる過去視でだよ。知っても知らなくても、友人達なのは変わらないし、皆を助けたりしたのは打算や下心込みで俺が助けたかっただけだよ。出来れば、知らずに過ごして欲しかったのが本音だけどね」
元女神やその母親による、面倒臭いいざこざに巻き込まれたとはいえ、今は人間で、母親に殺された記憶もないのだから、知らずに過ごして欲しかった。彼等も被害者になるから、伝えることになったけど。
「……本当にあの親子、面倒臭いな。色々な人を巻き込んで、迷惑掛けてるから、本当に生きてることを後悔させて潰したいな……」
ぼそりと呟くと、アッシュがひぇ……と小さく漏らした。
「ままま待って下さい、ヴァル様! 落ち着いて下さい。魔力! 魔力が漏れてますっ!」
ヴォルテールが慌てて、俺に声を掛ける。
「ああ、ごめん、ヴォルテール。つい、うっかり本音と一緒に魔力が漏れた」
「本音を仰るのは構いませんが、魔力を漏らすのはやめて下さい。最近、よく漏れてますよ」
「最近、我慢の限界を超えることが増えたからね……。俺、我慢強いはずなんだけどね……」
ヴォルテールの言葉に、遠い目をしながら呟くと、ディジェム達が同情の目を向けた。
「……あの、ロータスお兄様の名前が女神様からなかったのですが、ロータスお兄様は私達とは違うのですか?」
すっと手を挙げて、ぼそりとリリーが問い掛けた。
「え、あー、えっと……」
ロータスをちらりと横目で見ると、彼も突然の妹からの問い掛けに動揺した。
「ロータス、諦めて言った方がいいんじゃない?」
何と答えようかと、目を彷徨わせているロータスに言うと、観念するように息を吐いた。
「……私は人間ではありますけど、調和を司る神で、ヴァーミリオン様にお仕えする眷属神です。我が主であるヴァーミリオン様のご事情は全て知って、今まで動いてました。だから、皆さんとは少し違います」
「ロータス兄様、神なのですか?」
ピオニーが驚きの表情で、ロータスを見上げている。
「ヴァーミリオン様と同じで、魂は神で、身体は人間だよ、ピオニー。内緒にしていてごめん」
「……流石に、私達にも言えないことだから、仕方ない。女神様やヴァル殿下の話を聞く前だったら、信じなかったと思う」
「僕も気付かなかったよ。ロータス、神様なんだ。凄いね!」
「私も思い出したのは、四年前のシスルが領地を手放した後だからね」
苦笑してロータスはピオニー、リリー、シスルを見る。
「で、サイプレスの名前がなかったのは何でかな?」
机に頬杖を突いて、俺はにっこりと笑顔でサイプレスを見る。
サイプレスもロータスのように目を彷徨わせた。
「ヴァル様、もしかして私の正体、分かってて仰ってますか……?」
「何となくだよ。君は状況把握が早いし、俺に初めて近付いた時も少し、不自然だったし」
にっこりと微笑むと、サイプレスは更に目を彷徨わせた。
「俺の予測、言った方がいいかな?」
俺の言葉に、サイプレスはたらたらと汗を流す。
「ひゃあ~……ヴァル様のこの遣り取り、十三年前と変わらない圧力で懐かしい……。むしろ、圧力上がってるし、私じゃなくて良かったぁ……。頑張って、サイプレス様!」
俺の後ろで、ミモザがぼそりと呟き、ハイドレンジアが小さく咳き込んだ。ハーヴェストは肩を震わせて笑っている。
三歳の時の二重人格高圧王子は召喚してませんが。
「俺の予測は、ロータスと同じで君も魂は神で、身体は人間。魔法を司る神、じゃないかな?」
笑顔で告げると、ウィステリア達が一斉にサイプレスに視線を向ける。
サイプレスは降参したように、息を吐いた。
「……正解です。更に言いますと、ロータス殿と同じく、ヴァル様の眷属神になる予定でした。黙っていて申し訳ございません」
ぺこりと頭を下げて、サイプレスは苦笑する。
その笑みはようやく言えたといった顔だ。
「魔法を司る神なのに、俺だけに仕えていいものなのか?」
「実は、先程から話題のハーヴェスト様とヴァル様のお父様は私の師匠で、彼から頼まれておりました。ミストの母親のマルーンがお二人の、特にヴァル様の命や権能を狙っているので、守り、助けるようにと。眷属神になっても、魔法を司る神の仕事は出来ますから、問題ありませんよ」
「……ハーヴェスト。神に師匠ってあるの?」
『わたしも初耳よ。わたし達の父親って、変わってるのね。しかも、未来視でわたし達のこと知ってて、他の神に託して、自分は殺されるのはどうかと思うわ』
「……そうだね」
ハーヴェストの憤りが伝わり、俺も頷いた。
子供の俺達からすると、どうせなら、父親が助けて守って欲しかった。
生まれてすぐに離れ離れにされ、片割れはそのまま父親を殺した母親の元で虐げられ、もう片割れは神と人間に分けられ、神の方は閉ざされた世界で殺され続け、人間の方は呪いを掛けられたり、何度も命を落とした。
お互い苦汁を飲まされた。
どの未来視でも自分が死ぬルートしかなかったのかもしれないが、それでも、子供としては生きて守って欲しかった。
同じことを月白達、五百年前の家族にしているから、父親の神のことを俺は言えないけど。
「そういう訳ですので、魔法を司る神でもあるせいか、つい、ヴァル様のオリジナルの魔法を見るとわくわくしてしまうので、これからも見せて頂けるととても嬉しいです。それと、チェルシー・ダフニーの魔力の覚醒をさせる気はありませんので、私の権能で封じましたから、ご安心下さい」
笑顔でさらっと怖いことをサイプレスが言うと、ディジェム達がぎょっとした顔をした。
「え、あの、サイプレス先輩が魔力の覚醒をする、しないを決められるのですか?」
魔法好きのヴォルテールが恐る恐るサイプレスに聞く。
「そうですね。ほとんどの権限は私にありますね。ですので、対象の人達の性格や境遇等を加味して、覚醒の魔力の強弱を決めてます。ちなみに、ヴァル様は強以上に。ヘリオトロープ公爵令嬢やディジェム公子、オフェリア王女は覚醒する魔力は強にしました。これから大変だと思いますので、他の皆さんは強に近い中ぐらいにしました」
サイプレスの言葉を聞いて、納得した。
俺の覚醒は強以上だろうね。暴走させないといけなかったのだから。あれでディジェム達と同じ強と言われたら、詐欺だと言っていたかもしれない。
「何だか、ヴァル様の周りの方達って、とんでもない方達ばかりですね」
ウィステリアが隣でぼそりと呟いた。
「ウィスティ。貴女も入ってるからね? 俺の婚約者なんだから、その時点で一番とんでもない人だからね?」
覗き込むようにウィステリアに微笑んで言うと、真っ赤になった。
「確かに。ウィスティ嬢に何かあったら、その時点でヴァルがキレる訳だしな。要だよな」
「しかも、ヴァル君を止められる三人のうちの一人だしね」
「え、もう二人は?」
「女神様と紅さん」
「あー、うん。そうだね」
まだいるけどね。五百年前の家族とか。意外と多いな。
他人事のように思いながら、まだ真っ赤なウィステリアを見る。
「そういう訳だから、ウィスティ。絶対に一人で行動しないでね」
俺が絶対に守るから。
断罪をさせないし、元女神に乗っ取らせたりはさせないから。
無事に卒業して、絶対に貴女を幸せにするから。
周りに皆がいるから、真っ赤になって焦らせてしまうから、言葉にはせずに、視線と、彼女の手に触れ、俺の重い想いを伝える。
伝わって欲しい。
伝わらなければ、二人きりの時に言葉にする。
俺の想いが少しでも伝わってくれたのか、真っ赤な顔のまま、ウィステリアは頷いた。
頷いたのを見て、俺が微笑むと、何故かディジェム達まで顔を真っ赤にしていた。
やっぱり、仮面を検討するべきだろうか。




