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第7話 攻略対象キャラの出会いより隠しキャラ

 伝説の召喚獣フェニックスこと紅が、俺の友人で召喚獣になってから一週間。

 王国のトップスリーによる俺の教育が始まって、一ヶ月経った頃。

 ついに、俺に俺専用の側仕えが決まり、今日から就くことが決まった。

 ……その側仕えに対する俺の対応次第で、今後の分岐点が変わる。ゲームだったら。

 紅からの話で、この世界はゲームの世界ではなく、ゲームと同じ内容が起きている世界と知った。

 詳しく聞くと、ゲームと同じキャラもいるが知らないキャラももちろん出て来るし、大きな出来事がゲーム通り起きるが、知らないイベント――出来事も起きるのだそうだ。

 それで、今回の側仕えが来る出来事はゲームでもあったが、小さな、テキストのみの出来事なのに、実は今後に大きく影響される出来事なのだ。

 この側仕え、ゲームでは国を牛耳ろうと考えているとある貴族のスパイだったりする。

 そのとある貴族の命令で、ヴァーミリオンの動きを逐一報告し、更に第一王子である兄のセヴィリアンに代わって、第二王子のヴァーミリオンを王にして、裏でそのとある貴族の傀儡に徐々にしようと幼少期の頃から仕込む人物である。

 国王である両親、兄、城の者達がヴァーミリオンに対して人格否定や否定的な言葉を発していると伝え、自分ととある貴族は味方だと伝え続けたりとか、勉強しなくても貴方は天才だとか色々仕掛けてくる。結果、ヴァーミリオンはワガママ俺様系王子で城では孤立するそうで。

 それを魔法学園でゲームのヒロインに出会い、言葉を交わして行くうちにヴァーミリオンは丸くなり、他の攻略対象キャラの協力で、ある出来事の黒幕がそのとある貴族だと分かり、捕らえる。

 その時に側仕えの悲劇が判明し、ヒロインが側仕えの心を癒やす……という、実は隠し攻略対象キャラだったりする。

 その側仕えの悲劇が、前世で姉達から話を聞いてしばらくは辛くて、眠れない夜を過ごしていた俺は正直、悲劇になる前に助けたいと思っている。 

 なので、少し保険を掛けたいと考え、紅に声を掛けてみる。


「紅、お願いがあるのだけど、今日から俺に就く側仕えのことなんだけど、もし、ゲーム通りだったら、君の力を貸してもらえないかな?」


『……あの側仕えか。我も後味が悪いと思っていた内容だ。問題ない。リオンが必要な時に我も力を貸そう』


 少し思い出していたのか、空を見つめながら、紅は俺に頷いてくれた。

 やっぱり内容知ってたかぁ……。何だかつうかあな状態だから、説明しなくて楽だけど、今後、俺に就く側仕えや護衛とかに同じことしそう……。

 考えを汲み取るって大変だから、紅限定にしないとなぁ。気を付けないと。


「ありがとう。剣も魔法もまだまだだから、紅の協力があると本当に助かるよ。その時は宜しくね」


 と、話していると扉を叩く音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 返事をすると、控えめに「失礼します」と声が聞こえ、扉が開いた。

 そして、少し前髪長めの漆黒の髪の色、空色の目をした青年が入ってくる。よく見ると、服装がしっかり整えられているのだが、目の下に隈があり、目も青年らしい輝きがなく、どんより暗い。隠し攻略対象キャラというのもあって、美形なのに影を落としている。

 前世の妹が影があって良いと言っていたが、精神的もだが、物理的もだと俺は心配になる。その原因が何かを知っている分、早く彼を助けて、明るい顔が見たい。

 それが側仕えの彼を見た、俺の最初の印象だった。


「……ヴァーミリオン殿下、初めまして。本日より、殿下に側仕えとして就かせて頂きます、ハイドレンジア・デルフト・ホルテンシアと申します。宜しくお願い申し上げます」


 すっと片膝を折り、胸に左手を当て、臣下としての礼をハイドレンジアはした。


「こちらこそ、これから宜しく」


 にっこり笑って、三歳ではあるが王子として言葉を交わす。俺のうっかりで、とある貴族に渡る情報にならないように慎重に告げる。俺の右肩には鳥より少し大きい赤い鳥に扮している紅が、静かにハイドレンジアの様子を窺っている。


『……ふむ。やはり、リオンの予想通りのようだぞ。ああ、これはリオンの頭に直接話し掛けているから他の者には聞こえぬ。所謂、念話だ』


 紅が俺に話し掛けてきたので、内心、慌てたがすぐ念話だと教えてくれた。ホント、紅さん、俺のことよく分かっていらっしゃる。イケメン!


「それでは、早速、本日の殿下のご予定ですが、本日はお休みでございます」


 うわっ、早速、この人仕掛けて来た!

 そんなことはおくびにも出さず、俺は三歳だけど、王子だよ演技をすることにした。


「えっ、今日はヘリオトロープ公爵とのお勉強じゃあ……」


「いえ、殿下。殿下は既に三歳で優秀……いえ、神童であらせられます。お勉強は最低限で問題ございません」


 いやいやいや、十歳で神童、二十歳で才子、二十歳以上はタダの人って言うじゃん! このまま放置されたら、完全にゲームのヴァーミリオンのようにワガママ俺様系お馬鹿な王子になるじゃん! それは嫌だ。断固拒否。

 困った顔をしつつ、俺は内心ツッコミを入れる。

 ただ、ここまでは俺の予想通りだったので、既にヘリオトロープ公爵達には剣と魔法と教養の教育の日にちを五日後にずらしてもらっている。公爵達もちょうど大事な会議が続いているようで、五日後にずらしてもらうのは助かると言っていた。

 これを知っているのは、俺と紅、ヘリオトロープ公爵達トップスリーのみだ。両親にも敢えて黙ってもらっている。

 なので、タイムリミットは五日後。次の教育の日までにハイドレンジアの問題を解決する必要がある。

 俺の目標に対して、この妨害行為と俺の動きの情報提供はとっても邪魔で迷惑なので困る。

 そこで、ちょっとこちらも仕掛けてみることにした。


「……そっかぁ。もっと色々知りたかったんだけどなぁ。今日はお休みなんだね。じゃあ、代わりにハイドレンジアのことを色々聞いてもいい?」


 無邪気な三歳を演じ、有無を言わせない圧を気付かせない程度のにっこり笑顔でハイドレンジアに聞く。もちろん、上目遣いも忘れない。


「ぐふっ……殿下。誠に無礼を承知で申し上げさせて頂きます。殿下は絶対にご自身のご尊顔が周りにどのような影響が起きるのかを自覚なさった方が良いかと思います。そして、殿下の質問、答えられるものはしっかり答えさせて頂きます」


 顔を赤くしながら、ハイドレンジアが返した。

 効果はてきめんだ。




 ということで、ハイドレンジアへの質問タイムが始まった。

 要約すると、年齢は十五歳。兄弟は四人で、ハイドレンジアは妾の子で伯爵家の三男。下に彼と同じ母から生まれた四歳下の妹がいる。成人の年齢である十五歳になったら、家を出るように父であるホルテンシア伯爵から言われ、職を探していたところをパーティや夜会で知り合った高位の貴族に俺の側仕えはどうかと紹介があったそうな。

 裏を知ってる俺としては紹介ではなく、父である国王にそのとある貴族がハイドレンジアのことをゴリ押しで毎日押してきて、父が断る理由もなかったため折れただけだったりする。

 数日前に父がわざわざ部屋まで来て、ソファに座って本を読んでた俺を膝の上に乗せて、「ヴァルは癒やしだ〜」と間の抜けた声で教えてくれたのだった。

 そのおかげで、ハイドレンジアがいつやって来るかが分かり、ヘリオトロープ公爵達に教育の日について相談が出来たので、父に感謝だ。


「ハイドレンジアの妹は、ホルテンシア伯爵の邸宅に?」


「え……ええ、そう、ですね。妹はまだ成人、していませんし、母は側室、なので共に、いると思います……」


 ところどころ途切れて、何かを隠そうとしながら話すハイドレンジアに、紅が『リオンの予想通りだな』と呟いた。

 俺は前世の姉達からゲームの内容として教えてもらったこととはいえ、彼の身に起きていることを知っている。それを彼にも、彼を裏で動かしているとある貴族にも知られてはいけない。

 それに今日から主従関係になったばかりで、まだ彼とは信頼関係が出来上がっていない。

 それでもどうしても言いたい言葉があった。


「……ハイドレンジア。もし、もし、助けが必要なことがあったら、迷わず今日から君の主人になる僕に言って。僕の出来る最大限で君を助けるから」


 彼の何かを抑えるように震えている冷たい左手に触れて、俺は真剣な眼差しで告げた。

 彼の本当は綺麗な空色の目が、俺の言葉を聞いて揺れた。だが、静かにハイドレンジアは押し黙った。

 もどかしい。

 彼からのきっかけがない分、どのタイミングで助けるのが妥当かしっかり考えないといけない。そのための主従関係も信頼関係もない今、タイミングが読み辛い。

 なので、共に様子を見てくれている紅と作戦を立てるため、一旦、ハイドレンジアには部屋から控えてもらうように伝えた。



 そして、動きはその日の夜にあった。

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