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第2話 家族が個性的

「思い出して、良かったといえば良かったか……」


 うっかりだった。うっかり階段から滑り落ち、頭を打った。そのおかげで、俺は前世を思い出した。

 そして、今の状況を確認する。

 今の俺の名前はヴァーミリオン・エクリュ・カーディナル。年齢は三歳。カーディナル王国の第二王子。

 前世で姉と妹がプレイしていた乙女ゲームの、俺達姉弟が嫌っていた王子だ。ゲームではワガママ俺様系王子だと姉達が言っていた。記憶を思い返す、と言っても物心付いた時から僅かだが、幼少期はまだワガママは年齢相応で俺様ではなかった。良かった。今からワガママとか俺様とか、俺には演じられません。

 そして、うっかり滑り落ちた状況も思い出す。王城の一階にいる両親である国王と王妃に声を掛けようとして、階段の下から五段目くらいのところで足を滑らせて頭を打ち、気を失ったようだった。

 どのくらい寝ていたかは部屋に誰もいないから聞けないが、結構長い時間のようだ。

 とりあえず、身体に痛みがないか、ふらつきがないか確認するため、ベッドから下りた。

 その時だった。


「ヴァル、目が覚めたんだね。良かった! 父上! 母上! ヴァルが目を覚ましました!」


 紅緋色の髪、銀色の目の男の子が俺を見て、目を輝かせて扉の外へ向かって叫んだ。

 それからこちらへ駆け寄って来て、ぎゅっと抱き締めてきた。


「無事で良かった! 僕の天使……!」


 僕の天使って何だよ! 俺じゃなく好きな女の子に言え!

 天使とか言われて、ぎゃあ! と声を上げそうになるのを俺は必死で抑えた。


「く、苦しいです。セヴィ兄上……!」


 きつく抱き締められ、兄の背中を三歳の力でバンバン叩く。

 この兄の名前はセヴィリアン・フェズ・カーディナル。カーディナル王国の第一王子で、俺の兄。俺と八歳違いで十一歳で顔がとってもイケメンだ。


「ああ、ごめんね。つい、天使のようなヴァルを見てたらついうっかり……」


 ついうっかりで兄に締められたが、必死で訴えたおかげで本日二度目の気絶は免れた。良かった、マジで。

 落ち着きを取り戻した兄はイケメンな笑顔で俺をまじまじと見てきた。な、何か変なものが付いているのだろうか……。


「あ、あの兄上……?」


 恐る恐る兄に声を掛けてみる。すると、「はうぁ!」と変な声が兄から聞こえた。

 おかしい。前世を思い出す前の兄はかっこいい、頼れる兄だったはず。変な声も今までなかったはず。


「ご、ごめんね、ヴァル。君の可愛い顔に見惚……ごほんげふん」


 更に挙動不審な兄を訝しげに見つめていると、扉を力任せに開ける音が響いた。


「ヴァル! 目が覚めたのか!」


「ヴァル!」


 扉の方を見ると、兄と同じ紅緋色の髪、銀色の目の筋肉質なイケメン男性と金赤色の髪、金色の目の超美人の女性がいた。今世の両親だ。

 兄と同じように俺のところまで駆け寄り、ぎゅっと両親が抱きしめてくる。


「良かった、目を覚ましてくれて……シエナが危うく暴れるところだった……」


 ……ん?

 最後が小声で聞こえなかったが、父で国王のグラナート・トリアドール・カーディナルが不穏なことを言った気がした。


「ヴァル、貴方が目覚めなかったら、城の階段という階段を全てなくして滑り台にするところでしたわ」


 すんとした表情で、持っていた扇を口に当て、母で王妃のシエナ・ソレイユ・カーディナルが呟いた。

 いや、それ下りる時は楽だけど、上がる時は大変だから、城の人達が泣くからやめてあげて!

 ツッコミはぐっと堪えて、俺は母に素直な思いを述べてみた。


「母上、心配をお掛けしてごめんなさい」


 ぺこりと俺が頭を下げると母は、


「べ、別に、貴方が元気な子なのは知ってるし、し、心配するのは親として当たり前ですのよ!」


 ちょっとツンとデレの配分がおかしい気がするが、母は真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。

 母はツンデレのようだ。


「なぁ、ヴァル。うちの奥さん、可愛いだろ」


 ボソッと俺の耳に父が呟いてきた。

 中身は十九歳プラス三歳だが、外見は三歳の息子にそんなこと聞いてくるなよ。どう答えていいか分からないだろう!

 とは言えず、分からないといった顔を俺はして、とりあえず難を逃れた。



 とっても個性的な家族によくゲームのヴァーミリオンがグレずにワガママ俺様系王子で済んだな、と少しゲームのヴァーミリオンに同情し、ほんの少し好感度を上げた。といっても、スタートが地の底なのだが。

 そして、俺は個性的な家族を見ながら、あることを決意した。

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