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転生王子は婚約者の悪役令嬢と幸せになりたい  作者: 羽山由季夜


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第101話 第二王子の誕生日④

 それから、授業は何も起こらず終わり、放課後。

 王族専用の個室で、ワイバーン討伐もとい、事件から今までのことを伝えると、ディジェム達が疲れた表情を浮かべた。


「何というか、大変だったな、ヴァル……」


「本当にね。まさか困った集団と思ってたパーシモン教団の大神官はまともで、神官長とかが残念、というのは知ってたんだけど、個人的にその大神官と協力関係になるとは思わなかったよ」


「しかも、チェルシー・ダフニーに魅了魔法を掛けられた神官が、元女神の前世の父親というのも驚いた。世間は狭いな」


 ディジェムが同情の目を俺に向けると、オフェリアが口を開いた。


「ねぇ、ヴァル君。ウィスティちゃんが言ってた、乙女ゲームの第二王子のエンディングのルートって、今日が分岐点よね?」


「そうだね。ウィスティとチェルシー・ダフニーにとっては」


「気になったのだけど、ウィスティちゃんと彼女の立場って、ある意味、ゲームと逆転しているわよね? それなら、ウィスティちゃんが聖女や王妃にならないの? 特別な愛称をお互いに呼び合っていた場合は聖女と王妃ルートなのよね?」


「確かに、特別な愛称をお互いに呼び合っているけど、ウィスティが望んでるならともかく、俺はどちらもウィスティに望んでないよ。それに、ウィスティは聖属性を持ってないから、聖女になろうと思ってもなれないよ」


 そう答えると、アッシュが不思議そうな顔をした。俺の隣ではウィステリアも苦笑して頷いている。


「ヴァル様もウィステリア様も国王と王妃が似合いそうなのに……」


「あのね、アッシュ。流石に立太子した王太子がいらっしゃるのに、国王を狙う第二王子ってどうなの? それに第二王子でも面倒なのに、国王になったらもっと面倒だよ。容姿のせいで、国内の貴族連中をあしらうだけでも手一杯なのに、国王になったら、国外からも面倒なのがやって来るよ。だから、各国の交流会には出ずに引き籠もってるのに」


「は? そんな理由で各国の交流会に出ていなかったのか、ヴァル。俺でも一、二回は出たぞ」


「前例があるからね。初代国王が各国の交流会に出た時に、異母兄のグラファイト帝国の皇帝に言い寄られたり、今から数代前の国王の時はエィンシャン神聖国の聖王の王妃が、聖王の前で堂々と色仕掛けしたとか色々あるよ……。お陰で、現国王陛下は王妃陛下と俺を各国の交流会には出さないって決めてるみたいだよ」


 そう俺が説明すると、アルパインとヴォルテールが何度も頷いた。

 彼等は俺の護衛だから、こういう話は教えられている。容姿の面で第二王子は狙われやすいので、護衛として気を付けるように、と。


「カーディナル王家って、美人が多いんだな……」


「まぁ、初代国王が美人だしね。初代国王から連綿と続いてるし、珍しく直系が国王を受け継いでいるから血が濃いのかな」


「初代国王を肖像画だけしか見てなかったら、肖像画が美化されてるんだとか言えるけど、本物を見てるから否定出来ないな。その初代国王とそっくりな第二王子が目の前にいるし」


「私も何度か各国の交流会に出たことがあるから分かるけど、ヴァル君を出さないと決めた現国王陛下の判断は英断だと思うわ。今後も出ない方がいいと思う」


 ディジェムとオフェリアがうんうんと頷きながら、俺を見る。


「そ、そのようなことが起きる場所なんですの? 各国の交流会は……」


 イェーナが何とも言えないような、同情するような目で俺を見ながら、ディジェムとオフェリアに問う。


「まぁ、交流会の良いところは情報交換しつつ、交易の話し合い、同盟や友好国との交流だな。嫌なところは国同士の腹の探り合いに、自分の問題のある子供の婚約者探し、強国が気に入らないことがあったら、じゃあ、戦争する? とか言って、弱国を脅してくるところか。戦争は流石に脅された国以外が反対するから起きないけど、何考えてるんだって思うわ」


 ディジェムが各国の交流会というところを簡単に教えてくれた。所謂、前世のテレビで観た国際会議のようなところなんだろうな。各国の交流会に行ったことがない俺はそんなことをのんびりと考える。


「強国……って、やっぱり、グラファイト帝国ですよね? ディジェム様……」


 ヴォルテールが少し青い顔でディジェムに聞く。


「あとはエィンシャン神聖国だな。あの二国間のどっちかがよく弱国に戦争する? って脅してくる。ちなみに、弱国って前まで言われてたのはエルフェンバイン公国だな。まぁ、そこは何とか俺を魔王と呼ばせて国境間で盗賊狩りして、武力あるぞって見せたり、公王や第一公子とどうにか国の資源や資金を増やして、黙らせるようにしたら脅して来なくなったけどさ。カーディナル王国も助けてくれたしな」


「同盟国だし、元々、初代国王時代の宰相の息子がエルフェンバイン公国を興したから、他の国よりは関係は深いし、特にうちの宰相閣下はグラファイト帝国とエィンシャン神聖国には個人的な恨みがあるしね……」


「え、ヴァル様、初耳なのですが。お父様は何の恨みが……?」


 ウィステリアが目を大きく見開いて、俺を見上げる。


「ヘリオトロープ公爵が教えてくれる教養の中にはもちろん各国の歴史とかもあって、裏事情を教えてくれるんだけど、その中に、グラファイト帝国もエィンシャン神聖国も結婚前のヘリオトロープ公爵夫人を狙ってた上に、結婚後しばらくはヴァイナスが生まれるまで狙ってたみたいで、積もり積もった恨み節を教えてくれたけど……ウィスティは知らなかった?」


「初耳で驚きました。王妃陛下やヴァル様は国内の貴族の一部が狙っていることはお父様から聞きましたが、お母様のことは全く……」


「まぁ、王妃陛下とヘリオトロープ公爵夫人はカーディナル王国の三大美人の二人だからね……」


「ヴァル君。ちなみに、もう一人は?」


 オフェリアが首を傾げて、俺に問い掛ける。


「タンジェリン学園長だね」


「え、ヴァル君じゃないの……?」


「むしろ、タンジェリン学園長を差し置いて、何で俺?」


「だってヴァル君、美人でしょ?」


「オフィ様。わたくしの父から聞いたことですが、ヴァル様は国内はともかく、国外では国王陛下と王妃陛下、王太子殿下、王太子妃殿下、ヘリオトロープ公爵様方が秘匿なさってますので、三大美人には入れないかと思いますわ」


 イェーナがきょとんとした顔のオフェリアに説明する。


「確かに、アクア王国にいた時はヴァル君の噂を全く聞かなかったわね……。前世の記憶があるから私は知っていたけど、ヴァル君のことは第二王子という情報以外はなかったわ。成程、秘匿されてたのね」


「俺も第二王子って情報以外は知らなかったな。エルフェンバインは同盟国なのに、ウチにも流さないのかって思ったけど、今にして思えば、秘匿するよな……。カーディナルの切り札だよな。グラファイト帝国やエィンシャン神聖国が戦争を吹っ掛けてきても勝てると思う」


「全属性の精霊王に、世界最強の伝説の召喚獣のフェニックス、有名な意思を持つ光の剣クラウ・ソラス、フラガラッハ、しまいには神様だものね」


「しかも、守り特化の神様。長期戦に持ち込んでも余裕な気がする」


 ディジェムとオフェリアが勝手に納得し始める。

 更にアルパイン達が同意して頷き始める。


「……いや、まぁ、俺がカーディナル王家の切り札なのは認めるけど、大国に勝てるかな……」


「俺は去年の第二公子特化の攻略本と前世のレイドを忘れない」


 ディジェムが至極真面目に言い放った。

 去年のエルフェンバインの内乱未遂はともかく、前世のゲームまで引き合いに出すとは思わなかった俺は固まった。

 それより、どんどん話が逸れている。

 話を逸らすためと、話を戻すべく、俺は口を開く。


「話が逸れたから、戻すけど。とにかく、ウィスティは聖女にも王妃にもならないよ。ついでに、俺はトゥルーエンドの、断罪前にチェルシー・ダフニーを説得する気はないし、ウィスティの侍女として生かす気もない。これだけは確実だよ」


「……説得も、ウィステリア様の侍女として生かす気もないというのは、ヴァル殿下、彼女は何かの罪が確定なのですか?」


 リリーが俺をじっと見上げる。この前もウィステリアに助け舟を渡してくれたリリーは、チェルシー・ダフニーが気になるのか問い掛ける。


「色々と確定だね。前に話した通り、ダブ村の住民達のこともだし、グレイに長年掛け続けた魅了魔法とグレイのお母さんの拉致、監禁のこと、非合法の媚薬が数種類混入してるお菓子を俺に食べさせようとしたこと、ウィスティを何度も侮辱したこと等、諸々ね。ついでに現在進行形で王都でやらかしてる」


「……ヴァル様、ちなみにお聞きしたいのですが、彼女、王都で何をやらかしましたの?」


 イェーナがこめかみに手を当てながら、俺を見る。


「皆以外には他言無用でお願いしたいのだけど、ダブ村の再現って言ったら分かるかな」


 俺の言葉を聞いたウィステリア達が絶句して、個室が静まり返る。

 まだあるって言ったら、駄目だよなぁ……。


「いやいや、待て待て。はぁ? あいつ、ダブ村のことを王都でやらかしてるのか? 国王陛下のお膝下で?」


「そうだね」


「しかも、うっかり流しそうになったけどさ、非合法の媚薬が数種類混入してる菓子をヴァルに食べさせようとした? 何考えてるんだ、あいつ。というか、非合法?!」


「うん。まぁ、国王陛下と宰相閣下が仕掛けた罠だけど」


「罠? チェルシー・ダフニーに仕掛けたのか?」


「いやいや。あまりにも子供の頃から俺の食べ物に媚薬が混入してるから、怒ったヘリオトロープ公爵が陛下に案を出して承認されたんだよね。ちなみに内容は、非合法の媚薬を王家に忠誠心の高い、腕利きの宮廷薬師に、混ぜるとそれぞれの媚薬の効果が相殺されるように数種類作ってもらい、それを王家の影の一人が売り、購入した者を国王に報告され、購入や使用した者は投獄されるという流れだね。今のところ、チェルシー・ダフニー以外で購入した者、媚薬を作った者は捕まってるよ。チェルシー・ダフニーは仕掛けてもない罠に自分から嵌まりに来たから、何というか……」


 説明すると、全員が俺に同情する目で見つめてきた。


「……それより、媚薬盛られ過ぎだろ、ヴァル。しかも、子供の頃からって……」


「主に、俺の専属を狙ったメイドや侍女、侍従だね。ヘリオトロープ公爵の案のおかげで、媚薬が混入しているか分かるようになったし、ハイドレンジアとミモザが確認してくれるから助かってるけど」


「分かるように? どうやって?」


「非合法で売られてる媚薬、数種類を混ぜるとピンクになるんだよ。ついでに、それぞれの媚薬の効果を相殺させるために、混ぜると効果が上がるよって、売っている王家の影に言ってもらってる」


「……子供の頃から盛られてるヴァルが凄いのか、周りの過保護が凄いのか……」


「混入する方が悪いです!」


 今まで話を聞いていたウィステリアが憤慨する。

 俺が子供の頃に媚薬の事情を知り、怒っていたヘリオトロープ公爵と同じ言葉を彼女が言う。

 流石、親子。


「ありがとう、ウィスティ。まぁ、そんな訳で、チェルシー・ダフニーは卒業パーティーの時に断罪確定だし、王家の影が四六時中見張ってるから、近付かないようにね」


 そう言うと、ウィステリア達は神妙な面持ちで頷いた。









 それから、ウィステリアと一緒にフィエスタ魔法学園から帰るため、馬車の方へ向かっていると魔力感知が嫌な魔力に反応した。

 まだ少し離れているが、思わず、溜め息を吐く。


「……リオン様?」


 小声でウィステリアが俺の愛称を呼ぶ。


「――リア。今から面倒なのが来るから、俺から離れないで。俺が対応するから、何も言わなくていいから。それと俺の身体に触れてたら、俺が張ってる結界にリアも含まれるから」


「えっ。えっ……と、手を握っていてもいいですか?」


 少し赤くしながら言うウィステリアに頷くと、俺の左手をぎゅっと握る。

 それを俺が指を絡ませるように握り直すと、ウィステリアの顔が真っ赤になる。


「……可愛い」


 思わず、ぽろりと本音を漏らすと、ウィステリアが勢い良く俺を見た。


「リ、リオン様?! 私の緊張感が何処かへ旅に出たのですが!?」


「ちょうどいいんじゃないかな。今から来る相手も面倒なだけで、緊張するような相手でもないし。隣にリアがいれば、俺もそこまで怒らないと思うし」


「それでいいのでしょうか……」


 納得いかないような顔をしつつ、ウィステリアが俺を見上げると、面倒な相手が背後からやって来た。


「ヴァーミリオン王子ぃ!」


 甘えるような声で、チェルシー・ダフニーが俺を呼ぶ。

 気持ち悪くて、俺の右腕に鳥肌が立つ。

 びくりと強張らせるウィステリアの右手を安心させようと少し強く握り、一緒に振り返る。


「何の用だ」


 自分でも冷めた声で、チェルシー・ダフニーを見る。


「あのっ、お誕生日、おめでとうございますぅ! プレゼントを用意しているので、あたしと一緒に来てくれませんかっ?!」


 親しくもないのに、プレゼントを用意されるのは非常に困る。

 しかも、用意しているのなら、今、渡すのが早くないだろうか。大きいものなのか?

 大きい物を親しくもないのに渡すのは、相手に迷惑と考えないのか。

 まぁ、十中八九、プレゼントは自分だとか変なことを言って、渡すために近付いて魅了魔法を掛けるつもりなんだろうが。

 そんなプレゼント、チェルシー・ダフニーより、ウィステリアがいいです。


「親しくない者から直接受け取らないようにしている。渡すのなら、王城を通してくれ。話はそれだけか? こちらも用事があるのだが」


 そう返すと、チェルシー・ダフニーの顔が歪む。


「話がそれだけじゃないのは決まってるじゃないっ! どうして、どうして、あたしじゃなくて、あたしのヴァーミリオン王子がそこの悪役令嬢と一緒にいるのよ!? おかしいじゃない! あたしがヒロインなのにっ!!」


 チェルシー・ダフニーが嫉妬深く顔を歪ませ、ウィステリアを睨みながら、俺に向かって叫ぶ。

 少し、返しが前と違うのは、今日が分岐点の俺の十七歳の誕生日で、俺から選ばれてないことへの焦りだろうか。

 それと、ヒロインと叫ぶのは、同じ転生者である俺とウィステリアだから普通の反応になるが、転生者ではなかったら、チェルシー・ダフニーは頭がおかしい人に映るんだけど、俺達が転生者って気付いて……なさそうだな。

 じゃあ、こちらもゲームのキャラクターとして断罪まで振る舞うのがいいかな。

 よし、すっとぼけよう。


「私の婚約者だからに決まっている。それと、そのヒロインとはどういう意味だ」


 ゲームの第二王子の好感度が上がってない時によくする仕草の、眉を寄せて、不機嫌を示す動きをわざとして、返す。

 ウィステリアが少し目を見開いた顔で一瞬、こちらを見るが、すぐにチェルシー・ダフニーの方を見る。


「あたしがこの世界のヒロインだからよっ! この世界はあたしが愛されるための世界だもの! 皆はあたしを愛すのが当然で、あたしの側にいるのが当たり前なのに、どうして、あたしの推しのヴァーミリオン王子が悪役令嬢なんかと一緒にいるのよ!」


 嫉妬に駆られたチェルシー・ダフニーの顔が更に歪む。

 乙女ゲームのヒロインとしての顔が何処にもない。

 俺の可愛い、綺麗の基準はウィステリアだが、目の前の少女は一般的に可愛いらしいと言われた乙女ゲームのヒロインの顔ではなく、嫉妬に歪んだ女の顔だった。

 閉ざされた世界で見た、元女神に似せたモノの顔がチェルシー・ダフニーの周囲にちらつく。

 目の前の少女も、元女神も、それに似せたモノも、何れも全てに愛されるのが当然といった顔と言動だった。

 それが、腹が立つ。

 推しなのは俺ではなく、ゲームの第二王子なのでどうでもいいが、勝手にこちらの意思を無視して決めつけて言い放つのはやめて欲しい。


「……愛される? お前は愛されるような行動をしたのか? 愛されるのが当然? 誰が決めた? 私が愛しているのはウィステリアだけだ。だから、婚約者にと望み、彼女も私を受け入れてくれた。そんな彼女と共にいるのは当然のことだ。他人に自分の意見を押し付けるな」


 俺の言葉を聞いて、チェルシー・ダフニーがその場に膝をつく。

 所謂、ウィステリアと恋人繋ぎの左手が、そっと握られる。俺の荒れそうになる心をウィステリアが落ち着かせてくれる。


「言いたいことはそれだけか? 今回はその不敬な態度は目を瞑るが、次、同じことをすれば捕らえられると思え」


 冷たく言い放つと、チェルシー・ダフニーがビクリと肩を震わせた。

 まぁ、捕らえると、卒業パーティーに出られなくなるから泳がせるのだが、それでも毎回こんなこと言われると、他の貴族達が同じような態度を取っても大丈夫なんだと思われそうだ。

 だからの警告なんだが、分かってないんだろうな。

 今はショックで膝をついてるが、明日には忘れてそうな気がする。

 乙女ゲームの中と思ってるみたいだし。

 イベントの一つのように思われてる気がする。

 そう思えば、今までの行動が繋がるように思う。

 こちらの心情や周りの雰囲気を慮れない、前世で言うところの空気が読めない行動は、ゲームだから。

 リセットボタンが何処かにあり、いつでも押せると思っている。

 今でも結構辛辣な言葉を俺が言っても、リセットボタンと叫ばないのは、最後まで進めてどんなストーリーになるのかを把握するため。

 だから、第二王子のルートを気にして、乙女ゲームにない、今の“第二王子と悪役令嬢が仲の良い婚約者同士で、ヒロインとの好感度がゼロ”のルートを進めて、エンディングがどうなるのかをプレイしているつもりなのだと思う。

 そうでないとかなり辛辣に言われてるのに、平気な鋼鉄のメンタルなのが分からない。それとも、チェルシー・ダフニーはマゾヒストなのか?

 でも、悪役令嬢には殺されたくない、そう思っているように見える。

 そんなことを思いながら、チェルシー・ダフニーに冷たく一瞥した後、俺はウィステリアと共に馬車の方へ向かった。







 馬車に乗り、ヘリオトロープ公爵邸へ向かう。


「リオン様、大丈夫ですか?」


「全然問題ないよ。そう言うリアは大丈夫? あんなに言われて、嫌だったんじゃない?」


「いえ。その、リオン様が手をこ、恋人繋ぎにして下さいましたし、あの、私のことをあ、愛してると言って下さったので、へ、平気でした……」


 顔が真っ赤になりながら、ウィステリアは嬉しそうに小さく笑う。


「ああ、もう。そんな可愛い顔、俺以外には見せないでよ? それでもし、リアに何かあったら、俺が闇堕ち、監禁ルートに入っちゃうよ」


「そ、そんなルートはゲームにありませんよ?! それに、そんなことをリオン様はしないですし……闇堕ちするようなことは私がさせませんから」


「ありがとう。まぁ、闇堕ちは無理だろうね。俺の権能が勝手に働くし、過保護な召喚獣達が止めるだろうから」


「リオン様は召喚獣の皆様に愛されてますね。だからこそ、チェルシーさんの言葉が、辛いです……」


 俯いて、ウィステリアは先程のチェルシー・ダフニーの言葉を思い返しているように見える。


「……この世界に転生したことを思い出した時、私は怖かったです。転生したのが、好きなゲームの悪役令嬢でしたから。私は十八歳で死んでしまう、断罪される運命なんだ、と。大好きな家族のお父様は八歳で亡くなり、お母様はショックで塞ぎ込み、お兄様が優しくして下さっていたのに、噂を鵜呑みにされて、否定するのに聞き入れてもらえず、愛する第二王子からも断罪されて、失意の中で命を落とすのだと思うと、愛しているのに、愛する家族に見放されるのなら、部屋からも出たくないと思ってました」


 震える声で、ウィステリアは本音を零す。

 彼女の心境が痛くて、辛くて、そっと冷たくなっている手を握る。


「でも、どうしても推しの第二王子を一目見たくて、四歳の王妃様主催のお茶会に行きました。そこで見た、推しの第二王子は……リオン様は、ゲーム以上にとても輝いていて、助けて下さいました。八歳の、私の家族の運命の分かれ道のような建国記念式典の時にも、ゲームとは違う行動をして私をまた助けて下さいました。そこから、悪役令嬢ウィステリアウィステリア(わたし)になったのだと思います。先程仰った“愛されるような行動”はリオン様が率先して下さったことで、わたしも出来たのだと思います」


 そう言って、ウィステリアは握る俺の手を更に握り返し、優しく微笑む。


「だから、チェルシーさんは周囲にそういった方がいらっしゃらなかったのだと思うと、同情と言いますか、私が子供の時にチェルシーさんを探して、お友達になったりすれば、この先の結末が変わったのかなと思ってしまいました」


「……どうだろう。どうなっていたかは今にして考えても分からないけれど、今の彼女を見ると、子供の時にリアが友達になったとしても変わらなかったように思う。あまり、他人の過去を言うのもいけないけど、俺が視たチェルシー・ダフニーの過去視は五歳の時点で今の原形だったよ。ゲームになかった魅了魔法が使えると分かった途端、使ってはいけないと注意したスチール神官にすぐ魅了魔法を掛け、自分の両親にも掛け、村に掛けた。三つ子の魂百までと言うけれど、正にそれだった。今と変わらず一貫してるよ」


 ウィステリアの手をもう一度握り返し、彼女の綺麗な藍色の目を見る。


「リア。貴女はとても優しい。それはリアの良いところだよ。でも、その優しさを、チェルシー・ダフニーには使わないで。自分のことのように思わないで欲しい。チェルシー・ダフニーの魂は、もう穢れてるから、自分のことのように思って触れないで欲しい。触れたことで、リアの心が壊れて欲しくない。壊れたら、俺の権能でも完全には治せない……。それは嫌だ……」


 懇願するように言いながら、ウィステリアを抱き締める。

 俺自身がそうだったように、例え、再生の権能で心を治しても、完全には治せない。

 相手を想い、胸を痛めた記憶があるから、傷がまた広がる。治しても、治しても、なくなったと思った傷が現れ、広がる。

 閉ざされた世界でウィステリアやディジェム、オフェリアにループの記憶が残らなかったことで、俺の再生の権能で治せた。

 でも、記憶があれば、完全には治せない。

 閉ざされた世界の神の俺がそうだったように、心が疲弊していく。

 同じ目に最愛ウィステリアに遭って欲しくない。


「リオン様こそ、優しいですよ。分かりました。私はもう、チェルシーさんのことを我がことのように思わないようにします。それで、リオン様が心を痛めたら、本末転倒ですし、嫌ですから」


「是非ともそうして。本当に、これ以上はどうにもならない。過去視で視たけど、フィエスタ魔法学園に来る前から、どうにも出来なかった。それだけ、彼女は罪深い」


「チェルシーさんが何をされたのか、本当に気になりますけど、それはまだ言えないのですよね」


「リアは出来れば知らないで欲しいくらいに言いたくないよ」


 俺が苦笑すると、ウィステリアは口を膨らませた。

 何ですか、その可愛い仕草!


「リオン様。私はこの前言いましたよ。リオン様の四分の一、背負わせて下さい、と。でも、婚約者としては半分背負わせて欲しいです。もちろん、け、結婚後はつ、妻として。リオン様はたくさん背負い過ぎです。私のことは言えないですよ」


「……もう、本当に、リアが可愛い過ぎて、ヤバイ。ヤバイ扉を開きそう。監禁エンドは俺の望みじゃないよ……」


 身悶えしそうになりつつ、誤魔化すようにウィステリアを抱き締める。


「私も監禁は望んでませんよ?!」


 ウィステリアがぎょっとした驚いた声を上げ、一つ咳払いした。


「と、とりあえず、話を変えますが、リオン様。お誕生日のプレゼントをお渡ししてもいいですか?」


 抱き締める俺から少し離れ、ウィステリアが首を傾げる。


「俺、貰えるの? 朝から貰えなかったから、ないのかなと少し落ち込んでたんだ。良かった」


「私のリオン様に対する好感度が限界突破しているのに、渡さないという選択肢はないですし、前に何が欲しいか聞きましたよ?」


「そうだね。聞いてくれたね……。うっかり何が欲しいかと聞かれて、リアって神の姿の俺が恥ずかしげもなく言っちゃったけど」


「……神の姿のリオン様もですが、今の人間の姿のリオン様もあまり変わらないと思います。ストレートか、遠回しかの違いくらいです」


 顔を赤くしながら、ウィステリアがまた咳払いをして、空間収納魔法から綺麗な包装紙に包まれた小さな箱を取り出す。


「リオン様、プレゼント受け取って頂けますか?」


「拒否する理由がないよ。ありがとう、リア。開けてもいい?」


 小さな箱を受け取り、ウィステリアに微笑むと彼女が頷く。

 包装紙を丁寧に広げて、更に小さな箱を開ける。

 その小さな箱の中には、ウィステリアの目の色の藍色の宝石アウイナイトを嵌めた雫型のピアスが入っている。

 イヤリングではなく、ピアスで驚く。

 そういえば、前世も含めて、ピアスをしたことがない。

 ウィステリアから貰った物だから着けたいけど、ピアスは初めてだし、ちょっと、勇気がいる。ちゃんと着けるけどね。


「綺麗なピアスだね。ピアスの穴を空けてないから、南館に戻って、空けてから着けるね。ありがとう、リア。嬉しいよ」


 嬉しくて笑みを向けると、ウィステリアも嬉しそうに微笑んだ。


「お誕生日、おめでとうございます。リオン様」

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