第100話 第二王子の誕生日③
本編がついに100話目です!
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「――お父さん。マウスが人間の神官スチールに生まれ変わっていたということなら、マルーンの父親も可能性はありますか?」
一日早い祝いの言葉と共に抱き締められた俺は、トワイライトから離れて、気になったことを尋ねる。同じく抱き締められていたハーヴェストもトワイライトから離れた。
『可能性はあるね。最高神に問い質してみないと分からないけど、最高神の性格は面白いモノ好きの暇神だから、処断した神を人間に生まれ変わらせたり、それ以外の生き物に生まれ変わらせたりして、その後の一生を視ているんだよね。どのような生き方をするのかって。だから、渦中に放り込んだりもするんだ。あのイカれた最高神の口癖が“だって、罪を犯した神なんだから、何してもいいよね?”だから。その尻拭いをする僕や三番目の運命を司る女神、四番目、五番目の神達が何度、殺意を抱いたか……』
トワイライトが大きな溜め息を吐きながらぼやいた。
何故だろう……ブラック企業のワンマン社長の暴挙に巻き込まれた中間管理職……という図が、何故か脳裏に浮かんだ。俺は前世で働いたことがないのに。そういう話を前世の姉から聞いたりしていたからだろうか。
『ヴァーミリオンが今回視た過去視は、その神官だけ? 神官長は視てない?』
「視ましたが、彼は神ではありませんでした。やっぱり俺の動向を神界で見てたのですか?」
半眼でトワイライトを見ると、彼は俺から目を逸らした。
『う……そりゃあ、ハーヴェストもヴァーミリオンも大事な僕の可愛い子供達で、今僕はハーヴェストと一緒にいるけど、やっぱり離れてるヴァーミリオンのことも気になるし……。僕としては、アレやその娘が僕の可愛い子供達に何かして来たら、権能の裁きを速攻使うよ?』
「……それなら、アレのその娘が入っている自称聖女が俺にちょっかい掛けてくるのを裁いてもらえませんかね……」
『うーん……そこはごめんね? 中身に腐った女神が入っているけど、一応、外側が人間だから、無闇矢鱈に裁きの権能が使えないんだよね。神にならそれなりの条件で使えるんだけどね。一応、人間は条件が決められていてね。それが断罪の時だね、彼女の場合。彼女、色々な方面で神達の逆鱗に触れてるから、色々な断罪が今後、起きると思うよ』
トワイライトがあっけらかんとした声音で、衝撃な言葉を言った。
え、色々な方面で神達の逆鱗って、何したんだ、チェルシー・ダフニー……。
俺が知っているのはあくまで王国内――ダブ村や王都でのことで、神界のことまでは知らない。
神は人間の前に滅多に現れないから、恐らくダブ村や王都でやらかした何かが、神界の神達の仕事とかに影響したんだろうけど……。
『……まぁ、自称聖女に対する神達の断罪については僕に任せて。僕が裁きの権能でやっちゃって良いよと見せるまでは、他の神達は手出し出来ないからね』
「あの、その前に、お父さんが生きていると他の神達は知っているのですか?」
『まだ知らないよ。ヴァーミリオンが魔法学園の三年生になったら、最高神のところに行くつもり。その時に、マルーンとミストには知られないように、それ以外の神達には生きていることを伝えるけど』
「何故、来年なんです?」
俺の問いに、トワイライトは眉を寄せ、眉間に皺を作る。
『……僕が視た未来視では、僕が今行くと、ハーヴェストとヴァーミリオンの命が危うくなるルートがあるんだよ』
トワイライトが告げると、俺とハーヴェストはお互いを見て、紅が俺の右肩に乗る。
『……権能を二つ持つ神に近付こうとしていたマルーンに、最高神に会いに来た僕が見つかって、ハーヴェストの所在が分かってしまう上に、閉ざされた世界がなくなったことも気付かれて、神のヴァーミリオンの魂と一つになった人間のヴァーミリオンを捕らえようとしてくる。だから、来年なんだよ』
「え、まだ気付いていないんです? 閉ざされた世界がなくなったのを」
『閉ざされた世界を創ったのはハーヴェストだからね。創った本人は気付くけど、気配に気付くことも、注視も出来ない神や女神はいるよ。僕が神界にいる、イコール閉ざされた世界がなくなったと、マルーンはやっと気付いて、慌てて人間のヴァーミリオンを見て、二つに分けた魂が綺麗に一つになったことに気付いて、形振り構わずヴァーミリオンを捕らえようとする。ハーヴェストの所在は、権能の創造で巧妙にマルーンやミストに気付かれないように隠れて住んでた場所を最高神に会いに行った僕の跡をつけて見つかって、ハーヴェストを捕らえようとする、という未来視があるんだよ』
両腕を胸の前で組んで、こめかみに指を当てながらトワイライトは告げる。
『来年ならマルーンに気付かれない。理由はマルーンの自分が可愛がっている娘のミストと、その器になったチェルシー・ダフニーが不安定になるから』
「不安定とはどういうことです?」
首を傾げると、何故かハーヴェストと紅が俺の頭を撫でてきた。
『ぅぐっ……首を傾げるヴァーミリオン可愛い……ごほん。えっと、ヴァーミリオンの最愛の婚約者のウィステリアちゃんから聞いたよね? 乙女ゲームの第二王子のエンディングのルート。原因はそれだよ』
「エンディングって、第二王子の十七歳の誕生日までに、ヒロインと恋仲になっていた場合は聖女ルート。お互いに愛称を呼び合っていた場合は王妃ルート。特別な愛称をお互いに呼び合っていた場合は聖女と王妃ルート。友達関係の場合は宮廷魔術師ルート。友達にも恋仲にもなっていない、好感度がゼロの場合はヒロイン達に断罪されたショックで悪役令嬢の魔力が暴走して、第二王子や攻略対象キャラ、ヒロインは悪役令嬢に殺される、というバッドエンドのことですか?」
『そう。トゥルーエンドはミストの器になってしまったチェルシー・ダフニーには当て嵌まらないけど、他はこの世界でも当て嵌まるんだよ。でも、僕の可愛い息子のヴァーミリオンはウィステリアちゃんしか見ていないから、友達にも恋仲にもなっていない好感度がゼロだから、彼女はそのことに怯え始めて、それが中にいるミストにも影響してしまうんだよ』
「……それは、ウィステリアがチェルシー・ダフニーを殺す、とチェルシー・ダフニーが思っているということですか?」
思わず、声が普段より低くなった。
ウィステリアは例えチェルシー・ダフニーが何かして来たとしても、苦言を呈すが仕返しをしようとしない。
俺や友人達に何かあったら怒るが、殺すようなことはしない。
ウィステリアのことをよく知らないチェルシー・ダフニーだから、未だにゲームの世界と思っているチェルシー・ダフニーだからというのは分かっているが、そんなふうに思われているのが腹が立つ。
アレに知られたとしても今更だし、断罪は確定なんだけど、ウィステリアはそんなことはしないと言いたくなってしまう。
『ウィステリアちゃんをよく知らないチェルシー・ダフニーはそう思ってるってことだよ。ヴァーミリオンも分かっているだろうけど、大事な婚約者のことだから腹が立つし、訂正したいと思うのは分かるよ。まぁ、今更、ヴァーミリオンとウィステリアちゃん達とチェルシー・ダフニーが友達として交わることはないのだけどね』
ここにはいないチェルシー・ダフニーを憐れむようにトワイライトは苦笑した。
『そんな訳で、怯え始めた影響で、ミストが表に出られる程の魔力も蓄えられなくなることで、マルーンはチェルシー・ダフニーに掛りきりになるから、来年なら最高神に会いに行けるんだよ』
「そうですか……。その間、スチール神官が動くということですね」
俺の呟きにトワイライトは目を丸くした。
『おや。よく分かったね。何で分かったの?』
「分かるも何も、スチール神官はチェルシー・ダフニーの魅了魔法を重ね掛けをダブ村の住民達以上にされていて、自分の意識も少しあり、前世は神であるマウスだった訳です。前世の自分の娘が表に出られないことに無意識で気付いたら、代わりに動きますよね? 動いていない間に、チェルシー・ダフニーとミストを不利にさせたくはないでしょうから。それに、マウスは今までマルーンと接触しなかったようですけど、これからはチェルシー・ダフニーとミストが不安定になるということは、マルーンと接触する可能性はありますよね?」
『うん、あるね』
「スチール神官が前世の恋人だと、マルーンが気付く可能性もあります」
『……うーん。どうだろう。アレが気付くかなぁ……』
眉を寄せて、トワイライトが嫌そうに呟く。
政略のようなものとはいえ、理由を先程聞いたとはいえ、本当に何で結婚したんだと思う。
『一応、気付くのかな。でも、多分、前世程の愛情はお互いないと思うね。あったら、未来視の残りカスで、マウスが生まれ変わったかどうか何度も視えるまで探すだろうし、マウスだった神官も魅了魔法に簡単に掛からずに、無意識に何かを必死に探すだろうし』
「ああ……まぁ、そうですね。俺なら探しますが……」
俺なら、ウィステリアがどうなったかとか色々、未来視や過去視で探す気がする。
病んでるヤツ……もしくは、ストーカーじゃん。
そこまでしないように理性で抑えるが。
『そういうことだから、もう半年はハーヴェストのところで隠れておくよ。ヴァーミリオンのことも心配だから、時々行くつもりだけど』
「……次は来年で良いですよ」
『それは酷くないかな?! 僕だってハーヴェストとヴァーミリオンを自分の領域に連れて帰りたいと思ってるし、毎日会いに行きたいのを我慢してるんだよ?! もう少し、親子の距離を縮めさせてもらえないかな!?』
「あ、いえ、お腹いっぱいなので……」
『お腹いっぱい?! 聖の精霊王と光の精霊王の愛情は受け入れてるのに、僕のはお腹いっぱいなの?!』
トワイライトが目をクワッと見開いて、俺に抱き着く。右肩にいた紅は慌てて離れた。巻き込まれたくなかったようだ。
「あのお二人は、ちゃん距離を見て、適切に接して下さるので……」
今、トワイライトにされてるようなことを聖の精霊王の月白も、光の精霊王の花葉もいきなり俺にはしない。
頭を撫でることはあるが、それも俺が少しでも嫌がるような表情になるとやめる。
ちゃんと俺の状態とか心境を慮って接してくれる。だから、俺も受け入れられる。
目の前の父親の神は、現在の俺の父親の国王に似てるのか、俺の状態をあまり気にしない。
最初から欲するものを手に入れられる者と、必死に考えて手に入れる者の違いのように感じた。
だから、少し父親の国王も、父親の神も苦手なのかもしれない。
苦手なだけで、嫌いではないが。
『うぅ……。僕の可愛い息子も反抗期のお年頃だよね……。会話出来るだけ、良しとするべきなのかなぁ……』
言いながら、まだ抱き着いたままのトワイライトをぐいぐい離れようと押すが、相手の力が強く逃げられない。
……こういうところが、父親の国王に似ている。
『お父さん、そろそろリオンから離れて、神界に戻りましょう。リオンから離れないと、そろそろ本当に絶縁されるわよ。ちなみに、リオンが絶縁したら、わたしもお父さんと絶縁するからね』
困っている俺を見兼ねたハーヴェストがにっこりとトワイライトに笑みを浮かべ、脅し文句のような言葉を言う。
『ええっ?! それは僕の余生がつまらなくなるじゃないか!』
ぎょっとした顔でトワイライトは慌てて俺から離れた。
離れたことで一息ついて、俺はハーヴェストに感謝の視線を送ると、彼女も微笑んだ。
『そういう訳で、リオン。そろそろ帰るね。あ、わたしの未来視と交換しなくても大丈夫?』
「いや、未来視はちょっと……。過去視は誰かの過去とかだから不意打ちを食らっても、歴史の復習みたいな気持ちになれば、まだ耐えられるけど、未来視は今から起きることのどれかを不意打ちで視ることになるから、キツイ。制御が出来ないから、過去視の方がいいかな」
『そこが人間のリオンと神のリオンの違いよね。もう少ししたら、制御出来るようになるよ。そうなったら、聖の精霊王と光の精霊王から預けた魔力を受け取ってね』
「分かったよ、ヴェル。あ、それと、これを渡しておくよ」
空間収納魔法からネックレスを取り出す。
ネックレスの宝石の部分は、ハーヴェストの髪の色の濡羽色――青みを帯びた黒の魔石を嵌めている。
『ネックレス?』
「うん。一日早いけど、俺からの誕生日プレゼント。俺の権能の守護と再生が込められているから、もし、万が一マルーンやミストとか誰かに傷つけられそうになっても、ヴェルを守ってくれるよ。お誕生日おめでとう」
笑みを浮かべて告げると、ハーヴェストは嬉しそうにネックレスを握る。
『リオン、ありがとう! わたしからもプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれる?』
ハーヴェストも空間収納魔法からブレスレットを取り出す。
『これ、わたしの創造の権能を込めてるの。様子を見ていたから知ってるけど、リオンの神の姿が見たいって、ミモザ達が言ってたでしょ? きっとディジェム達も言うと思うから、これを使って。これに少し魔力を込めたら、擬似的に神のリオンの姿になれるわ。擬似だから、魔力をごっそり使わないし、見た目が変わるだけで変身? みたいなものよ。もちろん、神の姿になりたい時はなれるけど、あまりならないでしょう? お誕生日おめでとう、リオン』
苦笑しながらそう言って、ハーヴェストは紅色の魔石が嵌められたブレスレットを俺に渡す。
「まぁ、日常生活でなることはないね。魔力もかなり減るし、何かあった時に対処出来ないから、ならないね。これがあるとしばらくは助かるよ。多分、明日以降、聞かれるだろうし。そうならなくても、俺が好きなデザインだからずっと着けるよ。ありがとう、ヴェル。大切にするね」
嬉しくて微笑むと、ハーヴェストも嬉しそうに微笑んだ。
それをトワイライトが優しい笑みを浮かべて見ているのに気付いて、俺とハーヴェストは父親の神を見た。
『僕の可愛い子供達が本当に可愛い……。生まれた時から見たかったなぁ……』
『……と、とりあえず、リオン。わたし達は帰るね。また呼んでね』
トワイライトの言葉に照れたハーヴェストが慌てた様子で、彼の手を取って、俺に小さく手を振って神界へと帰っていった。
「……照れてたね」
『そうだな。流石、双子。照れたリオンにそっくりだな』
定位置の俺の右肩に乗り、紅がぼそりと呟いた。
「……それは、まぁ、似てることが俺とハーヴェストの、双子としての唯一の繋がりのようなものだから、否定はしないよ」
苦笑しながら、ハーヴェストからもらったブレスレットを腕に嵌める。
ブレスレットからハーヴェストの魔力を感じ、つい穏やかな気持ちになり、笑みを口元に浮かべてしまう。
「それじゃあ、そろそろ俺達も隠し部屋から出ようか」
『そうだな。そろそろ、ミモザ達も心配する頃だろう』
紅と共に、転移魔法で隠し部屋を出た。
そして、次の日。
ヘリオトロープ公爵邸でヘリオトロープ公爵一家、使用人達から誕生日のお祝いの言葉を一斉に受け、ちょっと疲れた俺は馬車の中でウィステリアで癒やされた。
そんな状態で、フィエスタ魔法学園の門を過ぎ、ウィステリアと共に教室に着くと、ディジェム達がとってもいい笑顔を浮かべていた。
「……何かな、皆のその笑顔は」
「別に何もない……というか、誕生日おめでとう、ヴァル」
「ヴァル君、お誕生日おめでとう」
ディジェムとオフェリアが言うと友人達が次々に祝いの言葉を送ってくれた。
「ありがとう、皆」
「そういえば、来週だったよな。ヴァルの誕生日パーティー」
「そうだね。去年は色々とあったから、出来なかったけど、今年はするみたいだよ。王妃陛下が張り切ってて、ちょっと困ってる」
「ちなみに、参加者は誰なの?」
オフェリアが苦笑しながら、問い掛ける。
「ウィスティやディル、オフィ嬢、友人達とレイヴン、タンジェリン学園長、グレーブス先生とか俺と親交がある人達が主だね。それと、パーシモン教団の大神官も来るみたいだよ」
「え。何でだよ? パーシモン教団って、どちらかというと王家と敵対というか、仲があまり良くないんじゃなかったか?」
「数日前のカーマイン砦にワイバーン討伐に俺が行ったよね? その時に大神官とは個人的に協力関係になったんだよ。詳しくは後で話すよ」
教室だから、何処にどんな耳があるか分からないので、あまり詳しくは話せない。
それを察してくれた友人達は皆、頷いてくれた。
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