第98話 第二王子の誕生日①
ちょっと長くなってしまったので、①と②で二つに分けてます。
ご了承下さい。
「……もう、やだ。本当に王位継承権を放棄したい。今からしたい」
『落ち着け、リオン。早くてあと一年、卒業パーティーまでだ。それまでの辛抱だ』
やさぐれそうな俺を宥めるように、紅が右肩に乗って、頭を撫でる。
「そうなんだけど、もしかしたら、卒業パーティー後も王位継承権の放棄を認めないと父が言いそうな嫌な予感もするんだよ。王族で、家族ではあるけど、王位継承権を放棄したら、今まで以上に俺から父や兄に接触しなくなると思ってそうで」
『……それは、まぁ、田舎の領地を下賜するように願ってもいる訳だから、余計に国王も王太子もそう思うだろうな』
紅が溜め息混じりに頷いた。
「……逆、なんだけどなぁ……。王位継承権がある状態で、父や兄と接触すると周りの貴族が王位を俺が狙ってるって思われるから離れてただけで、王位継承権を放棄したら、ただの王族だから接触しても問題ないのに。そう思わないのかな」
『……ある意味、今より自由になるから、王城を離れると思っているのではないのか?』
「実際、離れるけどね。田舎の領地を下賜されたら。田舎の領地と王城を移動出来る魔法陣を何処かの部屋に刻んだ方が良いのかな」
『そうすると、国王達が毎日こちらに来るぞ』
「……嫌だな。仕事して欲しいな。知らせるとしたら兄夫婦とヘリオトロープ公爵、シュヴァインフルト伯爵、セレスティアル伯爵、レイヴンのお父さんのデリュージュ侯爵かな」
溜め息混じりに呟くと、王城の南館の隠し部屋に転移する。
今は父の執務室からの帰りだ。
グローカス神官長が魔に堕ちたことをディーマン大神官から報告があったことを父と兄、ヘリオトロープ公爵、シュヴァインフルト伯爵、セレスティアル伯爵に伝えた。
すると、全員、酷く驚いていたが、第二王子の過保護勢でもある五人は即、聖属性の魔力を持つ俺に、「大神官が無理だと言うまで、聖属性の魔力を使いに王都のパーシモン教団の教会にまだ行かないように」と言ってきた。
要は、自分のところの尻拭いは自分でしろと、ディーマン大神官に任せるつもりらしい。
高い魔力と全属性持ち、紅や全属性の精霊王を召喚獣にしている俺は王家にとって、ある意味、切り札だ。
国内の貴族は俺が全属性持ち、全属性の精霊王を召喚獣にしていることを知らない訳なので。
知っているのは俺の周囲の人間だけだ。
王位継承権がまだ俺にあることで、容易に動けない。
動くと、野心のある貴族達から王位を狙っていると思われる、または、第二王子に好意的な貴族達は王位継承権を持つ重要な身体だから無闇矢鱈に首を突っ込むなと制限を掛けられる。それが、父達の狙いのように感じる。俺を守るための。
それが枷になって、俺としては自由に動けない。
「……正直なところ、グローカス神官長が魔に堕ちるとは思わなかった。何かがあったとしか思えないけど、紅はどう思う?」
『我もリオンと同じ意見だ。欲深い人間が簡単に魔に堕ちるのはおかしい。何か介入があったとしか思えぬ』
「そうだよねー……。面倒なことになったなぁ。しかも、まだ行かないようにと陛下は言ってるだけで、行くなとは言ってない。しかも、今回のことで感じたけど、裏にいるよね、アレの関係者」
『ついに、元女神をアレ扱いか。気持ちは分かるがな。関係者……神官か』
「……スチール神官だろうね。グローカス神官長を魔に堕としたのは。チェルシー・ダフニーの魅了魔法に掛かりながらも、禁呪の合成魔法を使ってくるのだから、自分の意識があるのかな。過去視で視た方がいいかもしれない。あちらで厄介なのはアレやその母親、チェルシー・ダフニーだけど、スチール神官も厄介な気がする。会ったことないけど」
『確かにそうだな。残りの者は魅了魔法に掛かった烏合の衆だからな。過去視を視るために、リオンはこの部屋に来たのか?』
隠し部屋を見渡しながら、紅が言う。
この隠し部屋は、ありとあらゆる、俺が知っている結界という結界をこれでもかと重ね掛けをした部屋で、ちょっとやそっとでは気付かれない。
何かあった時は、ここにウィステリア達を連れて来ればいいかなと思っているくらいだ。
「そうだね。私室も自分の部屋だから落ち着くけど、誰かしら来るからね。集中して過去視を見るなら、この部屋だろうね」
一人分しか置いていない椅子に座ると、紅が俺の右肩から小さなテーブルに移動する。
『……窓があるのに、外からこの中が分からないのが面白いな』
テーブルの横にある窓から外を覗きながら、紅が呟く。
「前世であった、マジックミラーというものに似せた窓だよ。暗い側から明るい側を見る時には透けて見えるけど、明るい側からは反射して見えないガラスだよ。前世では板ガラスに銀や錫をメッキして半透明にしたもの……なんだけど、流石にそういうのは俺でも作れないから、魔法で作ってみたんだ。今度、俺の師匠達に提案してみようかと思う。尋問する時とかに使えるでしょ?」
『良いかもしれないな。リオンのみが使える技術にすれば、儲かるのではないか?』
「うーん……そこまでは考えてなかったよ。元女神やチェルシー・ダフニー関連が終わったら考えてみるよ。それで、紅。過去視を俺が視てる間、守ってくれる? 一応、俺が使えるありとあらゆる結界を重ね掛けをしてるけど、何が起きるか分からないから」
『もちろん、リオンは我が守る。リオンが三歳の時からそのために側にいるだろう?』
テーブルの上で、紅が胸を張る。
「そうだね。紅がいるから、安心だよ」
俺が小さく笑うと、紅も笑って返す。
『そんなリオンも明日で十七歳か……早いな』
「あれ、明日だっけ。明日かぁ……。面倒なことが起き過ぎると、自分の誕生日なんてすっかり忘れるよね」
苦笑すると、紅が溜め息を吐いた。
『……本当にリオンは自分のことは無頓着だな。自分以外のことはいつも必死だが……。それで、リオンの誕生日がリアとあの娘の分岐点になるのか?』
「リアの話だとそうらしいよ。まぁ、乙女ゲームでの話だけど。ゲームのヴァーミリオン王子のルートのエンディングの種類が変わるらしいよ。ヴァーミリオン王子の十七歳の誕生日までに、ヒロインと恋仲になっていた場合は聖女ルート。お互いに愛称を呼び合っていた場合は王妃ルート。特別な愛称をお互いに呼び合っていた場合は聖女と王妃ルート。友達関係の場合は宮廷魔術師ルートになるんだって。逆にヴァーミリオン王子の十七歳の誕生日までに、友達にも恋仲にもなっていない、好感度がゼロの場合はヒロイン達に断罪されたショックで悪役令嬢の魔力が暴走して、ヴァーミリオン王子や攻略対象キャラ、ヒロインは悪役令嬢に殺される、というバッドエンドがあるらしいよ」
『バッドエンドというものもあるのか』
驚いたように紅が俺を見る。
「そうらしいよ。リアの話だと、更に、バッドエンドを出した人にしか見られないトゥルーエンドというのもあって、そのトゥルーエンドは悪役令嬢を断罪する前に、ヒロインとヴァーミリオン王子に説得されて、婚約は破棄されるけど、殺されず、ヴァーミリオン王子の妃になったヒロインの侍女として生きるという内容なんだって。それを聞いて思ったけど、今の状態でいうと、婚約してないけどチェルシー・ダフニーを俺とリアで説得する形になるよね。例え、チェルシー・ダフニーを説得したとして、リアの侍女として生かす気は俺はないけど」
息を吐いて、窓を見る。
ミモザがちょうど花壇に水遣りをしているところだった。
「――罪は償ってもらわないとね」
『……そうだな。あの娘は罪を犯し過ぎている。自覚もないのが余計に救いようがない』
紅も長く息を吐き、頷いた。
救いようがない。
その言葉に、俺も無言で頷く。
ここまで罪を犯しているなら、良心の呵責に苛まれないのだろうか。自覚がないから分からないのだろうか。
ゲームと思っているから? そうだとしても、俺ならここまでする前に、ゲームの世界ではないと気付くと思う。
それが、あのチェルシー・ダフニーにはないのが不気味に感じる。
前世を含めて、どういう生き方をしたら、ああなるんだ?
「……考えても仕方ないけど、とりあえず、断罪後に、チェルシー・ダフニーと話してみよう」
それで分かれば、チェルシー・ダフニーの罪の償い方が分かるかもしれない。
『……我が思うに、無理な気がするぞ。アレは反省がないように思うぞ』
「そうかもね。とりあえず、今からスチール神官とグローカス神官長の過去視を視てみるから、その間、宜しくね。紅」
『――任せろ。リオンは我が守る』
ふっと紅が笑うと、俺も穏やかに微笑んで頷いた。
その過去視を視て、頭痛の種が増えたのは言うまでもない。
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