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転生王子は婚約者の悪役令嬢と幸せになりたい  作者: 羽山由季夜


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第95話 さくっと殲滅したかった

 ウィステリア達に、ワイバーンがたくさん来たから討伐に行ってくるね、と話して、王都を出て、数時間後。

 のんびり行程で行く気は全くなく、一緒に着いてきた騎士団と宮廷魔術師団――しかも前回のオーク討伐の時に着いてきてくれた人達――とシュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵で、転移魔法でカーマイン砦に移動した。

 ちなみに、転移魔法は俺が使うことになった。

 魔法の師匠のセレスティアル伯爵が、


「私の魔力でも余裕ですが、私以上の魔力をお持ちの殿下なら、この人数はもっと余裕でしょう。今までお教えしたことの実践ということで、私にお見せ下さい」


 と他の人にはあまり笑顔を見せないらしい満面の笑みで、俺に言ってきた。

 実践も何も、いつもそう言って、崖上から落とす獅子の親のようなことをしてくるじゃないか、セレスティアル伯爵。

 そう思っても言わずに、笑顔で俺も魔法の師匠に頷く。

 まぁ、このくらいなら余裕なのでいい。

 ちなみに、前回の討伐戦の時は、俺が初陣だったこともあり、実践はなかった。

 ただ、今回の()()()()()()()()は、転移魔法を展開するまでの時間や魔法陣、使う魔力量が最適かどうかを見たいということなので、正直、顔を顰めたい。


「……分かりました。では、行きますよ」


 頷いて、普段使う省エネな転移魔法の大人数版を展開する。

 セレスティアル伯爵から教わった転移魔法を、更に省エネな展開方法を紅から助言され、そこから俺が改良したものだ。

 自分の中ではかなり魔法陣を省略したし、魔力量は省エネになったから、無詠唱で描く魔法陣の展開は早く出来ていると思っている。

 魔法の師匠から及第点をもらえるかは知らないけど……。










 転移魔法で俺やハイドレンジア、レイヴン、剣と魔法の師匠、騎士団と宮廷魔術師達をカーマイン砦に転移した。

 転移した場所は去年、オーク討伐の時に俺が挨拶したカーマイン砦の広間だ。ここなら、大所帯でもすぐに転移出来ると思って、転移先として選んだ。

 上手く出来たと思うのだが、魔法の師匠はどう思っただろうかと、ちらりと横目で見る。

 表情は普段と変わらないが、息子のヴォルテールに似た緑色の目が、輝いていた。

 これは及第点をもらえるのでは? と俺の中で期待値が上がる。


「……殿下」


「はい、セレスティアル伯爵」


 努めて冷静に、表情は変えないようにセレスティアル伯爵に返事をする。


「この転移魔法はどなたから教わりました?」


「子供の頃、セレスティアル伯爵から教わった転移魔法をフェニックスに助言してもらいながら、私が改良しましたが……?」


 首を傾げながら、右隣に立つ長身のセレスティアル伯爵を見上げる。反対側の、左隣に立つ更に長身のシュヴァインフルト伯爵もセレスティアル伯爵を見る。


「……後で、ワイバーン討伐が終わった後で構いません。詳しくお伺いしても宜しいですか?」


「あ、はい。分かりました。私はいつでも構いませんよ」


 笑みに苦笑を滲ませつつ、俺は頷いた。

 よし、及第点!

 内心、ガッツポーズをしながら、小さくホッと息を吐く。

 紅から色々と教えてもらっていて良かった。

 俺の友人で相棒の世界最強の召喚獣様々だ。

 紅に足を向けて眠れない。

 そもそも足を向けて寝たことはないのだが。


『リオン。どれだけ、魔法の師匠に怯えているのだ』


 俺の右肩に乗った紅が、呆れた声音の念話で呟いた。


『怯えてはいないよ。どちらかというと、課題が増えるのは嫌だなって』


 念話でそう返すと、紅が溜め息を吐いた。


『……まぁ、あの課題の量はえげつないから気持ちは分かるが……』


 同情するように、紅が頷いた。

 去年の社交界デビューパーティーでうっかり怒りで魔力を漏らしてしまったことで、しばらくの間、セレスティアル伯爵からのえげつない量の課題が週に一回届いたのは記憶に新しい。

 お陰で、怒っても微量しか漏らさなくなったし、属性も神のみが持つ滅の属性は漏らさなくなった。

 代わりに漏れるのは無属性だけど。


「あの、シュヴァインフルト伯爵、セレスティアル伯爵。状況を確認したいので、すぐ守備隊長に会いたいのですが、可能ですか?」


 俺としては早く帰りたい。

 何せ、俺の最愛の婚約者が、どうでもいいヒロインに先程、絡まれていたのだから、側で守りたい。

 本当なら、すぐに助けに行きたかった。

 ウィステリア達がチェルシー・ダフニーに絡まれていた時、既にあの場にヴォルテールとレイヴンと共にいた。

 ちょうど、チェルシー・ダフニーがウィステリアに「悪役令嬢(ウィステリア)が悪いことをしている」と叫んだ時には既にあの場にいた。

 怒りで飛び出そうとしたが、紅とヴォルテール、レイヴンに止められた。

 ウィステリアがちゃんと反論するから、信じてもう少し待て、と三人に諭されて。

 ちゃんと反論して、イェーナやリリーにも助けてもらいながらも反撃したウィステリアは、チェルシー・ダフニーから言質を取っていた。

 もちろん、その言質は魔導具で録音済みで、ヘリオトロープ公爵にも提出済みだ。ちなみに、卒業パーティーで使えるかもということで、録音は二つの魔導具にしている。一つは俺、もう一つはヘリオトロープ公爵に。

 娘溺愛のヘリオトロープ公爵なら、確実にこちらが有利になるように使ってくれると思う。

 卒業パーティーで、チェルシー・ダフニーに今までの被害をまとめて、こてんぱんに返してやろうと思い、実行するための準備をしているあたり、バレたらディジェムに呆れられるんだろうな。

 バレるとは思うけど。


「可能だと思いますよ。殿下、今回はやけにやる気ですね」


 シュヴァインフルト伯爵がニヤリと誂うように笑う。


「やる気ではないんです。早く解決して、帰りたいんです。色々と調べておきたいことがあるので」


「……もしや、例のことですか?」


 声を潜めて、シュヴァインフルト伯爵が耳打ちする。

 例のこと、ダブ村のことだ。


「ええ。それもありますが、その関連で少し、気になることがあるんです」


「――成程。確かに、調べておきたいことではありますな」


 シュヴァインフルト伯爵は小さく頷いた。

 長年の師弟としての付き合いもあって、シュヴァインフルト伯爵は“その関連”という言葉で、パーシモン教団のことだとすぐ理解したようだ。騎士団総長イコール脳筋ではない、と体現しているシュヴァインフルト伯爵に内心、尊敬の目を向ける。

 頭の切れる騎士団総長、格好良い……!


「では、すぐに守備隊長に状況が聞けるか確認しましょう」


 シュヴァインフルト伯爵が頷き、彼の部下にすぐ確認に行かせた。 








「ヴァーミリオン殿下、お久し振りでございます。また殿下の勇姿が拝見出来ることが、本当に光栄でございます!」


 守備隊長が目を輝かせて、俺に挨拶した。

 去年と同じ、カーマイン砦の守備隊長は会議室で、カーマイン砦付近の地図を広げて、待っていてくれた。

 シュヴァインフルト伯爵の部下がすぐに確認したいと言ってくれたからだろう、守備隊長は報告出来るように準備してくれていた。

 ……これが、伯爵以上の貴族のコネで入って来た王城の文官なら、ここまで出来ない。出来る文官はちゃんと段取りをしていてくれるが、コネで入って来た文官は全く用意していない。

 現場で、状況が逐一変わる砦の守備隊長だから、そのあたりの準備は流石だなと感じる。

 本当に日和見な、仕事をしない文官、王城にいらないよね。

 将来、下賜される予定の田舎の領地でもいらないけど。


「お久し振りですね、守備隊長。今回も宜しくお願いします。早速、状況を確認させて下さい」


 そう告げると、守備隊長はにこやかに頷き、状況を地図を用いながら教えてくれた。

 状況はこうだ。

 カーマイン砦の北――グラファイト帝国方面ではなく、東南側からワイバーンの群れが現れた。

 現れたのは二日前。

 何の前触れもなく、東南にはワイバーンが住処として好む山脈もないのに、ワイバーンの群れが発生したそうだ。数は百体。

 百体のワイバーンは国境を越えることも、こちらを攻撃することもなく、何故か、カーマイン砦付近を飛び回っているそうだ。

 まるで、誰かを待っているようだと守備隊長は感じたそうだ。

 今までにない数でもある百体のワイバーンは流石にカーマイン砦内の弩弓――バリスタの数では対応が出来ないし、前触れのない異常発生のため、原因の精査も含めて、王城に救援を要請することにした、とのことだった。


「ワイバーンはカーマイン砦の周囲を飛ぶだけなのですね?」


 地図を見つめながら、俺は眉を寄せる。


「はい。人を見掛けても、攻撃も威嚇もしないので不思議なのです。今までは山脈がある北側から数体のワイバーンがやって来ることはありましたが、その時はすぐに襲ってきました。ですが、今回のワイバーンの群れは襲ってきません。まるで、統率の取れた軍隊のようで、恐ろしく感じるのです」


 守備隊長が頷き、見て、感じたままの状況を説明してくれた。

 地図を見つめながら、俺は嫌な予感を感じる。

 というか、嫌な予感しかない。


「殿下、如何されましたか?」


 セレスティアル伯爵が地図を見つめる俺を訝しげに声を掛ける。


「……カーマイン砦の東南側は、ダブ村があるビートル子爵領がありますよね」


「ええ。そうですね……まさか、殿下」


 俺と同じ考えに至ったのか、セレスティアル伯爵は呆然とこちらを見つめる。シュヴァインフルト伯爵も同じくで、俺の斜め後ろで付き従うハイドレンジアもだ。

 守備隊長は知らないので、彼だけはおろおろと俺とシュヴァインフルト伯爵、セレスティアル伯爵を順に見ている。


「……まだ、分かりませんが、関連するかもしれません」


「守備隊長。このまま少し、会議室を借りてもいいか?」


 シュヴァインフルト伯爵が俺の代わりに、守備隊長に会議室の使用を確認する。


「はい。もちろん構いません」


「では、このまま借りよう。内密の話をするから、それまで出撃出来るように守備隊長には準備をしていてもらいたい」


 セレスティアル伯爵が守備隊長に伝えると、守備隊長は頷いて、会議室を出た。

 会議室から守備隊長が離れたのを確認してから、セレスティアル伯爵が防音の結界を張った。


「……殿下。話して構いません。殿下はどうお考えですか?」


 セレスティアル伯爵が尚も地図を見たままの俺に声を掛ける。


「……件のワイバーンの群れを見てみないと分かりませんが、嫌な予感しかしません」


「殿下が感じる、その嫌な予感をお聞きしてもいいですかな、殿下」


 シュヴァインフルト伯爵が俺の不安を払拭させようと白い歯を見せて笑う。


「……ダブ村とは違う被害が起きているように感じます。あとはワイバーンの群れを見てみないと何とも……」


 言いながらもまだ、俺は地図を見つめる。


「……それと、東南のビートル子爵領の更にその先は、王都がありますよね……?」


 地図のカーマイン砦からビートル子爵領をなぞり、更にその先の王都をなぞる。

 地図をなぞる俺の指を見つめ、シュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵、ハイドレンジアが目を見開く。


「我が君。まさか、知らない間に王都でも何か関連する被害が……?」


 ハイドレンジアが呟くと、剣と魔法の師匠が問い掛けるように俺を見つめる。


「分からない。ワイバーンの群れを見ないことには」


 首を緩く左右に振り、息を吐く。

 こういう時、未来視があると先のことが分かって動けるのに、と思ってしまう。

 今はハーヴェストが持っているから交換は出来ない。

 俺が持つ過去視は、不意打ちに来るから上手く扱えていない。

 神と人間の違いだよなぁ……と思うけど、使いこなせていない自分に、自己嫌悪を抱く。


「殿下、ワイバーンの群れが現れるまで、私達は動くことも出来ません。今は、ゆっくりお身体を休めて下さい。魔力量が多いとはいえ、大人数を転移させた後です。ワイバーンの群れが現れたら、すぐにお伝え致します」


 セレスティアル伯爵が俺を安心させるように小さく笑う。


「分かりました。ワイバーンの群れが現れたら、すぐに呼んで下さい」


 セレスティアル伯爵の笑みにつられて、俺も小さく笑うと、満足したように魔法の師匠は頷いた。

 その時、会議室の扉を慌てて叩く音が響いた。

 ハイドレンジアが開けると、レイヴンが現れた。


「ヴァル様! 総長! ワイバーンの群れが現れました!」


「分かった。すぐに準備するから、広間に騎士と魔術師を集めておけ」


 シュヴァインフルト伯爵が頷いて、レイヴンに指示すると、彼は一礼してすぐに準備に走った。


「殿下、行きましょう。これで、何か分かればいいのですが」


 セレスティアル伯爵が俺に声を掛け、机に広げた地図を畳んだ。







 すぐに動けるようにと、騎士の服を着ていて良かった。騎士といっても、前回の討伐の時と同じく式典で着るような騎士の服装で、マントを羽織っている。

 このマントと俺が着ている服は前回と同じく、軽量化、一定ダメージの防御、防汚、自己修復を俺がこっそり付与している。

 騎士服の色はカーディナル王家の色でもある赤の中でも深い赤系の色の濃紅色で、この色の騎士服は王家の者しか着ることは許されない。

 何故なら、この色の騎士服を初代国王が好んで着て、戦闘をしていたから。

 それが何代も王家に言い伝わって、あやかりたかった当時の王によって、王家の者しか着ることは許されないことになった。

 初代国王で、聖の精霊王の月白曰く、この色の服なら、「返り血が着いても分からないし、万が一、怪我をしてもすぐには気付かれないから、部下の士気は落ちないだろ?」とのことだったので、とりあえず納得することにした。

 髪も紅色で赤系で、全身血塗れだから何処から見ても遠くでも目立つ色なので、狙い放題では? と思うが、逆に潰しやすくていいかと思うことにした。

 ちなみに羽織っているマントの色は白だ。

 結局、目立つ。

 マントくらい、黒でいいんじゃないだろうか。

 戦場にファッションも何もないかと思っていると、シュヴァインフルト伯爵が苦笑した。


「殿下、指揮官の身嗜みは整えておいた方がいいのですよ。特に殿下のように麗しい方が指揮官だと、騎士達の士気が上がるんですよ。そういう意味でのその騎士服でもあるんですよ。マント含めて。もちろん、目立つので周囲の騎士や魔導師がお守り致しますし、ご自身を守れるように俺は貴方に色々とお教え致しました」


 シュヴァインフルト伯爵の言葉に頷きながら、内心、こう思った。

 色々って、本当に色々教え過ぎですよ、と。

 全容を伝えたら、息子のアルパインが青褪めるんじゃないかな。

 広間に集まり、挨拶もそこそこにすぐに砦の屋上へとハイドレンジアと師匠達、守備隊長、騎士、魔術師達と共に上がる。

 砦の屋上、城壁に応戦出来るように配置する。

 待機して、数分後、ワイバーンの群れが見えてきた。

 ワイバーンは東南の方向から突然現れ、カーマイン砦へゆっくりとやって来る。

 それを俺も見ていると、魔力感知が変な反応をする。

 眉を寄せながら、右隣に立つセレスティアル伯爵を見上げる。


「セレスティアル伯爵。ワイバーンの属性は元々何ですか?」


「風属性ですね。殿下、何か気になることでもありますか?」


「魔力感知で、風属性以外の水属性や光属性、聖属性を感知したので、それが気になりまして……」


「ワイバーンで水属性はともかく、光属性や聖属性を持つのは有り得ない。殿下、何かの間違いでは?」


 左隣に立つシュヴァインフルト伯爵が眉を寄せて、俺を見下ろす。


「……確かに、魔力感知で殿下が仰る属性を感知していますね。有り得ないことですね」


 顎に手を当て、セレスティアル伯爵がワイバーンの群れを見据える。


「……厄介なことが起きそうですな、殿下」


 シュヴァインフルト伯爵がぼそりと呟き、同情するように俺を見た。

 今から厄介なことが起きることしか思い浮かばない。

 多分、蓋を開けると、元女神やチェルシー・ダフニーに関係してたってなるんだろうな。

 小さく嘆息して、ワイバーンの群れに目を向ける。

 すると、ワイバーンの群れのリーダーらしきワイバーンと目が合う。

 目が合うと、そのワイバーンが群れを引き連れて、俺目掛けて近付いて来た。

 すぐさまシュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵、ハイドレンジア、レイヴンが反応して、俺の周囲を固める。

 ワイバーンは攻撃をすることはなく、ただ、じっと俺を見つめる。

 俺もワイバーンを見ると、そこで違和感に気付いた。


「……シュヴァインフルト伯爵、セレスティアル伯爵。私の目がおかしくないかの確認なのですが、ワイバーンの群れの、それぞれの背に、人が埋まっていませんか?」


「「え??」」


 シュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵が同時にワイバーンの背を見た。ハイドレンジアとレイヴンも遅れて見る。


「私の目がおかしい訳ではありませんよね?」


 初めて見る状況に混乱しつつ、剣と魔法の師匠に尋ねる。

 ワイバーンの群れのそれぞれの背をじっくり見ると、人が埋まっていた。それも俯せの形で。

 生きているのか、亡くなっているのか、今の状況では分からない。

 しかも、その埋まっている人の服装は神官の服装だ。つまり、パーシモン教団。


「……ええ、私の目にも見えますね。人が埋まっていますね」


「それも、神官の服装ですな……」


「魔力感知が光属性や聖属性なのは、当然だったという訳ですね」


「だが、何故、人が埋まっているんだ? そんな話を今まで聞いたことがないぞ」


 剣と魔法の師匠が眉を寄せながら、ワイバーンを見る。

 それは確かに俺も知らないし、そんな怖いことを聞いたことがない。


『……リオン。念の為、過去視の権能を使った方が良いかもしれぬ』


 右肩に乗っている紅が念話で告げる。静かな声音だったので、思わず紅を見る。


『紅、どういうこと?』


『それは我が元の大きさになってから、リオンの師匠達にも分かるように伝えよう。ただ、間に合わない可能性もある。その時は、前回のシメントの時と同じように我が過去が視えるということにして、リオンが師匠達に伝えて欲しい』


 “間に合わない”という紅の言葉に、ドキリとする。つまり、まだ、ワイバーンの群れの中に埋まっている神官達は生きていることになる。

 ああ、もう、本当に面倒なことをするな、パーシモン教団のカーディナル王国支部!


『――分かった』


 念話で小さく頷くと、紅が元のフェニックスの姿になり、俺の右隣に立つ。

 いきなり現れたので、シュヴァインフルト伯爵やセレスティアル伯爵、騎士達、魔術師達がギョッとした顔でこちらを見る。


「フェニックス殿、如何されましたか?」


『あのワイバーンの群れは禁呪が使われている』


 念話ではなく、俺以外にも聞こえるように、紅がワイバーンの群れを見ながら告げる。


「は……い?」


 セレスティアル伯爵が紅とワイバーンの群れを交互に何度も見る。

 動揺する魔法の師匠を初めて見たかもしれない。

 そんな、謎の感動を抱きつつ、俺は眉を寄せる。

 禁呪――魅了魔法と同類の魔法ということだ。

 俺も剣と魔法の師匠、ハイドレンジア、レイヴンや周囲の騎士と魔術師達と同じように、ワイバーンの群れを見る。

 世界最強の召喚獣のフェニックスが現れたことで、ワイバーンの群れに動揺が走っているように見えた。


「……もしかして、禁呪でワイバーンと神官が合わさっている……?」


 紅の言葉を反芻しながら小さく呟くと、剣と魔法の師匠、ハイドレンジア、レイヴン達が俺を見る。


『そうだ、ヴァーミリオン。魅了魔法に次ぐ禁呪――“合成魔法”を彼等は使われている。合成魔法は動物や魔物同士を合成するものだ。所謂、合成魔獣キマイラと呼ばれるものだ。目の前のワイバーンの群れは、神官の魔力量が一般人より多いことでまだ一つになれていないが、一つになれば人間としての生命は終わる』


「フェニックス殿、何故、合成魔法が禁呪になるのでしょうか」


 シュヴァインフルト伯爵が首を傾げながら、紅に問う。


『カーディナル王国が出来るよりかなり前に――今より八百年くらい前だろうか。当時、名を広めていた魔術師がこの禁呪を魔法の失敗から作ってしまった。すぐにこの禁呪は封印したが、魔術師の死後、魔術師の弟子が封印を解き、実験と称し、使い始めた。最初は動物同士を。段々、エスカレートしていき、魔物同士を合成して、強力な魔物を作っていった。合成魔法で出来たモノは行使した術者の思う通りに動くという副産物もあった。行使していくことで、その弟子は人と動物や魔物を合成したいという欲に塗れた。人と動物や魔物を合成、となれば、どういうことか分かるな? シュヴァインフルト伯』


 耳に残る綺麗な低い声で、紅はシュヴァインフルト伯爵をちらりと目を細めて問い返す。

 その声と流し目がイケメン過ぎて、思わず、もう少し歳を重ねたらああなりたいとつい、思ってしまう。

 もちろん、ウィステリア限定ですが。

 つい、違う思考をしてしまいたいくらい、現実逃避したい問題が目の前に浮いていて、小さく息を吐く。

 誰だよ、本当に。

 魅了魔法でも手に余るのに、今度は合成魔法。

 禁呪に指定されてるものを使おうと考えないで欲しい。

 禁止されたら、やりたくなるのは人の心理……というのはやめて欲しい。


「……人非ざるモノになる、ということでしょうか、フェニックス殿」


『そうだ。合成魔法には厄介なことがあるが、セレスティアル伯は知っているか?』


 今度は紅がセレスティアル伯爵に問う。


「いいえ。申し訳ございませんが、合成魔法という禁呪があることは存じています。魅了魔法と違い、合成魔法は知ることで使用したくなる虞がある禁呪故に、詳しい内容は知ることが出来ません」


 セレスティアル伯爵が緩く首を振りながら、紅の問いに答えた。


『流石だな。魅了魔法は聖属性を持つ者の一部が使えるから禁呪として知られても問題ない。持つ者自体が少ない聖属性の、更に一部の者しか使えないからな。だが、合成魔法は原理が分かれば誰でも出来てしまう。故に、全容は知られていない。だが、この合成魔法の厄介なところは知っていた方がいい。今後の対策としてな』


「厄介なところって、どういうこと? フェニックス」


『合成魔法の厄介なところは、魔力量が少ない者が合わさり一つになると、すぐにそれぞれの生命は失われ、別のモノになる。それが人だと魔力量が少ない一般人なら、すぐに人間としての生命が終わる。逆に、魔力量が多い者が合成魔法で合わさると、その魔力量によって、合成を止めることが出来る。だが、一定の時間の猶予はあるが、徐々に人間としての意識は失われていく』


「つまり、今、目の前にいる百体くらいのワイバーンの群れはまだ一つになっていないから、人間としの意識がある。今なら合成を止めて、元の人間とワイバーンに分けて戻すことが出来るということ?」


『――今ならな。だが、時間は残り少ない』


 紅が俺の言葉に頷き、真っ直ぐワイバーンの群れを見据える。


「……戻す方法はある?」


『浄化魔法を使えばいいが……。聖属性だな』


 ちらりと紅が心配そうに俺を見る。

 まぁ、浄化魔法を俺が使えば、聖属性だとバレてしまう。

 知ってるのは剣と魔法の師匠、ハイドレンジア、レイヴンだ。他の守備隊長と騎士、魔術師達は知らない。

 カーマイン砦にいる者達は皆、聖属性を持っていない。持っているのは俺だけだ。


「……他言無用にしてもらえるなら、使えるね」


「殿下。今、カーマイン砦にいる者達に箝口令を敷きましょう。今回、殿下に着いてきた者達は、オーク討伐に参加した者達で、殿下に対して忠誠を誓っていますし、何より、殿下を慕っておりますから、漏れることはないでしょう」


 セレスティアル伯爵が目を細めて笑みを浮かべる。

 あのオーク討伐の何処で、俺を慕うようなことがあっただろうか。

 俺が眉を寄せると、剣と魔法の師匠が苦笑した。


「すぐに箝口令を敷くようにして参ります。少し、お待ち下さい」


 セレスティアル伯爵が言うと、シュヴァインフルト伯爵と一緒に騎士と魔術師達が待機しているところへ向かった。

 しばらくすると、剣と魔法の師匠が戻って来た。

 二人共、とても良い笑顔だ。


「殿下、ご安心下さい。騎士と魔術師達にはおど……ごほん。箝口令を敷いてきました」


 セレスティアル伯爵が笑顔で告げた。

 剣と魔法の師匠、脅したんだ……。

 騎士団総長と宮廷魔術師師団長から脅しという名の命令をされたら、従わないといけない部下である騎士と魔術師に同情してしまった。


「……分かりました。ありがとうございます。時間もないですし、箝口令を敷いて下さったのなら、すぐに浄化魔法を使いましょう」


 そう言って、俺は一歩前へ出た。

 そこで、ふと、浮いているワイバーンに浄化魔法を掛けて、ワイバーンと神官に分けることが出来るとして、そのまま地面に激突するのではないだろうか。そっちで命を落とすことにならないだろうか。

 それに気付き、俺の召喚獣を喚ぶことにした。


「――青薔薇の精霊」


『お喚びですか? ヴァーミリオン様』


 ふわりと薔薇の花弁が舞い、青薔薇の精霊――青藍が微笑みながら現れる。


「うん。今からワイバーンに浄化魔法を掛けるんだけど、人、百人が怪我しないように、蔓を敷いてもらえないかな?」


 深いところで繋がっているから、途中を省略して言ってしまったが、青藍は理解して頷いてくれた。


『かしこまりました。もちろん、棘はなしですよね?』


「……痛いし、傷付ける目的ではないから、もちろん、なしだよ」


 青藍の中で神官に良い印象がないらしく、棘の有無を聞いてきたので苦笑した。

 俺がチェルシー・ダフニーとパーシモン教団から被害を被っているから、良い印象がないのは分かるけど。


『そうですか。それは残念です。棘は次の機会ですね。それでは蔓の準備を致します』


 にこやかに青藍は言い、手から蔓を出し、網状にしていく。

 次の機会って……。

 青藍の背中を見つめながら、小さく溜め息を吐いた。

 蔓を網状に形成し、百人が乗っても大丈夫なくらいに大きく伸ばした青藍は準備完了といった微笑みで俺を見た。

 お礼を込めて青藍に小さく頷き、砦の屋上の縁に立つと、紅がフェニックスの姿のまま、俺の右隣に立つ。


『リオンに何かあっては困るからな。浄化魔法を掛けている間、我がリオンを守ろう』


 念話で紅がイケメンな発言を俺に言った。

 本当に、将来、紅みたいになりたい。もう、惚れる。


『ありがとう、紅』


 俺も念話で返し、真っ直ぐワイバーンの群れを見据える。


「浄化魔法を掛ける。大人しくしているように」


 ワイバーンの群れに告げると、彼等は俺の言葉を理解したのか、俺の周囲に浄化魔法を掛けやすいように集まる。

 両手を前に出して、聖属性を前面に出るように意識する。

 全属性を持っていると、よく使う順に属性を意識してしまう。結果、普段使わない聖属性は意識しないと出ない。特に、チェルシー・ダフニーやパーシモン教団に知られると厄介でしかないので、無意識に使わないように、聖属性の魔力が漏れないようにしているから、余計に意識しないと出ない。

 なので、聖属性の魔力を意識して、ワイバーンの群れに向かって、浄化魔法を放った。

 白い光が強く輝き、ワイバーンの群れを包む。

 しばらく白い光が包み、ワイバーンはそのまま浮いたまま、背中に埋もれていた神官達がどんどん落ちていく。

 ……青藍に蔓をお願いしていて良かった。

 ある意味、俺がトドメを刺した形になるから、本当にお願いしていて良かった。

 合成魔法で合成された神官達は蔓に落ち、ワイバーンの群れは俺の魔力と紅の魔力に当てられて、大人しく何もせずに逃げていった。

 まぁ、ワイバーンも命が惜しいよね。

 蔓に落ちた神官達は気絶しているようで、全員動いてはいないが、息はしていたので間に合ったようだ。

 シュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵の指示で、騎士と魔術師によって、神官達はカーマイン砦内の広間に運ばれ、身体の状態を診てもらった。

 特に身体面には問題なく、あとは目を覚ましてから精神面の確認をするということになった。



 目を覚ました神官達から事情を聞いた俺は、また頭を抱えることになる。

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