決戦編:春玉の父親
長黎の言葉を聞いた瞬間に、景容は視界に映る全てのものが崩れ去っていくような心地がした。
「破壊? 楼主自らが破壊したのですか?」
と、沸騰する感情を無理に抑え込みながら景容は言った。
あまりに無理していたせいで、危うく春桜を落としそうになってしまったが。
けれども感情の抑圧も長くは続かなかった。
「それ以外に何があるというんだ? まさか、ここにいる寒桜地の主が蓮霞泉を破壊したとでも? ははっ。そもそも奴は蓮霞泉を見つけることさえできていなかったというのに?」
と、長黎が締まりのない顔で言ったおかげで、景容にもいよいよ頭に血が上ってしまったのだった。
「蓮霞泉は父が心血を注いで作ったものです! それを楼主が破壊……? その結果がどうなるかを楼主はご存じなのですか!」
「景容。あまり声を荒げるな。でないと、お前の桃妙楼に対する忠誠心を疑ってしまう」
「楼主。お言葉ですが、我が蓮鏡宮はこれまで一度も桃妙楼に対する忠誠心を誓ったことはありません。蓮鏡宮が忠誠を誓うのは、心にやましい感情のない人間だけです」
と、景容が言った瞬間、長黎の顔にはゆがんだ笑みが浮かび、白扇はこらえられないといった様子で笑い始めた。
「はははっ。使える手段をすべて使って居座った地位に就いても、結局のところ本物の忠誠はいまだに得られていないのか。面白い」
と、笑う口を隠すことなく白扇は嘲った。
「黙れ! お前のような馬鹿者に私を罵る資格などない! お前の娘がどうやって来たか忘れたのか?」
「もちろん覚えているとも! あの時の屈辱は忘れられるはずがないでしょう? お前なんかと夜を共にしたことなど、今思い出しても吐き気がするわ」
白扇が憤慨しながら言うと、なぜか長黎はふっと鼻で笑った。それから、彼は無言で立っているだけの春玉を指さしながら言った。
「この子が私の子だと? 笑わせるな。私はお前なんかと夜を共にしたことなどない。あの時、お前と寝たのは私の使用人だった人間だ。つまり、春玉の父親もその使用人と言うわけだ!」




