表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/66

決戦編:白扇の過去

 私は十六歳のころ初めて寒桜地の外に出たの、修行のために。母は寒桜地の人間が修行に出るなら錦城宮か蓮鏡宮がいいって言っていたんだけど、私は聞かなかった。だって錦城宮は錦ばかりあるだけで何が面白いのかわからないし、蓮鏡宮は建立されたばかりで威勢というものがなかったから。だからどうせなら牡丹郷全土で大いに権勢をふるっている桃妙楼に行こうって決めたのよ。それが、大きな間違いになるとも知らずに。

 当時桃妙楼では先代の楼主だった春夢が楼主になったばかりで、その儀式のために春夢の子供たちや各宮主たちが大勢集まっていたの。私はその中に忍び込んで、ひそかに桃妙楼を探索してた。その時に偶然長黎に出会ってしまったの。

 しかもその時の私は今思うと何を血迷ったのかわからないのだけど、長黎に一目惚れしてしまった。

 それから私は彼の行く先々を追いかけた。それこそ彼が追い払おうとするくらいに。でも、私はそれでもしつこく付きまとっていた。そしたらある日、彼が私に尋ねてきたの。

「君は、私に狙いでもあるのか?」

 って。

 彼が私に話しかけてくれたことで私は舞い上がってしまったのね。つい話過ぎてしまった。ただ何の狙いもない、とだけ答えればよかったものを、私はこう答えてしまった。

「私は寒桜地から修行に出てきただけで、あなたに対して何か危険を与えようなんていう目的は全く持ってない」

 その日から、彼は妙に私に親切にしてくれるようになった。やけに私の機嫌を取ろうとしてくれたり、私のことに関心を持ったり。

 今思うと怪しくてたまらないのだけれど、当時の私は有頂天になってしまった。仕方がないでしょう? 寒桜地を出て初めて恋焦がれた人に自分のことをここまで気にしてもらえたら。

 だから私はどんどん間違った選択をしてしまった。

 二十歳の時、すでに譲位されて桃妙楼の楼主になっていた長黎の書斎に私はこっそり忍び込んだの。でも彼は怒らなかった。むしろ笑みまで湛えて私を迎えてくれた。

「少しだけ待って。どうしても今日終わらせないといけないことがあるから」

 と、彼は優しく言った。

 私は当然その言葉に従った。そしたら待っている私に彼は桃茶を与えてくれた。彼曰く、桃茶は桃妙楼にしかないから、と。私はそれを飲んだ。あたたかくて甘くて、おいしいお茶だった。

 そのお茶を飲んでから一刻も経たないくらいだったと思う。彼が用を終えたの。そしたら彼は私に近づいて、こう尋ねた。

「今夜、私は君を手に入れてもいいのかな?」

 と。

 その時血迷っていた私は事もあろうに頷いてしまった。その夜が激しくも甘い時間が流れていたことだけはまだ覚えてる。

 一年くらいそれが続いて、私は懐妊した。それを知ったときは本当に嬉しくて、すぐに長黎に伝えたの。でも彼は何の反応も示さなかった。

 当然よね。彼からすれば私のことを見初めて一夜を共にしたわけじゃない。私から寒桜地の情報を聞き出すために私の一切を手に入れるしかなかっただけだもの。

 今ならすぐにわかることも当時はわからなかった。結局、長黎の思惑を知ったのは私が懐妊してから半年がたったころよ。

 それからは長黎にも桃妙楼にも嫌気がさして、私は逃げるように寒桜地に戻った。

 それで私の修行は終わったの。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ