重生編:取り戻した名前
「それで、今度はどうして錦城宮に戻ってきたの。前に寒桜地で育ったなら、生まれ変わった後も寒桜地に行けばいいのに」
春桜の話を聞き終わった後、「春桜」は涙声で言った。
「きっと本来受けるべき修行を全て受け終えたのかもしれない。生まれ変わる時、前世では認識していなかった意識が私に植え付けられたような気がしたの」
「でも、それは正しい記憶かも事実かどうかもわからない」
「ええ。でもね、私の仙気はその意識が正しかったことを物語っている」
春桜は、「春桜」の右手が拳を作り上げていくのを見ながら言った。
少しして、「春桜」は春桜を見つめ、微笑を浮かべながら聞いた。
「確かに。それなら、あなたは確かに春桜と名乗るべき人よね。じゃあ、私は? 私も生まれてからずっと春桜と名乗ってきた。でも、今日正式にその名前を奪われたら、私の名前は何になるの?」
「白扇の娘の名は春玉と決まっている」
すると、「春桜」は嘲笑を浮かべながら部屋中を軽く見渡した。規則正しく整理整頓された部屋には、彼女の興味を引くようなものは何もなかったようだが。
「もし私が春玉と名乗ったら、私の命はどうなるの? 寒桜地以外の人間はみな寒桜地の人間を許すことはしない。それも、桃妙楼を敵に回したことのある人間ならなおさら。でも、『春玉』はかつて桃妙楼の人間に目をつけられていた。その人になって、私はまだこの牡丹郷で無事でいられると思う?」
「でも、名前よりもその人が何をしたか、の方が重要だと私は思う」
「だけど、牡丹郷の人間すべてが、悪人を人格で判断しているとは限らないと思う。『春玉』がその典型だと思わない? 桃妙楼にとって不都合な人間が悪人とされ、それを全ての人間が信じる。結局のところ、皆が悪人かどうかを判断する基準というのは、桃妙楼の人間が敵視した人間が誰か、という点だけじゃない?」
春桜は静かに頷いた。
確かに、「春桜」の言う通りだ。前世で春桜が春玉と名乗って言った頃、彼女はいわゆる悪事というものをしたことがまるでない。ただ白扇の娘、というだけで世間から非難されたのだ。
「確かに。その言葉は間違っていない。でも、それをこの世間がずっと許し続けるとは思わない。少なくとも私はその考え方を批判する。そして、誰か一人でもそれを批判すれば、今後はもっと多くの人が私と同じ考えを持つようになると思う。だから、いつの日か世間もきっと私と同じ考えを持つはず」
と、瞳に弱さを宿らせている「春桜」の肩に手を置きながら春桜は言った。
「じゃあ、私はあなたの言葉を信じたほうがいいの?」
「当たり前でしょ」
「それなら、私はあなたを信じて今日この瞬間から春玉と名乗ることにする。でも、白扇を助けるようなことはしない」
春桜は満足げにうなずいてから、春玉へ手を差し出した。
「それでいいの。ねえ、私の部屋へ来ない? 一緒に絵でも描かない?」




