表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/66

修行編:蘭花皇女

 景容が声の方向へ目を向ける。すると、離宮の二階から、開かれた窓際で青白い顔をした女が一人、景容に目を向けていた。

「……私は景容と申します」

「……ああ、新しく離宮を管理することになった方ですね。足止めさせてしまって申し訳ありません。私は、蘭花(らんか)と申します。体調がすぐれないので、しばらくの間はここにいますが、私のことは気にかけなくて結構ですから」

「皇女殿下とは知らず、申し訳ありませんでした。では、私はこれで」

 蘭花はただ軽く頷いただけで、それ以上は特に何も言おうとはしなかった。景容はとりあえず、離宮内にある別院を探し始めた。皇帝曰く、そこがこれから景容の住居となるらしい。

 だが、離宮内をどれだけ歩いても、それらしい建物は一向に見つからない。東屋、桜に囲まれた池、厨房、庭園を抜けて、また離宮の母屋。

(?)

 景容はまったく訳が分からなくなりながら、ただひたすらに離宮を回っていた。ちょうど、何度目になるかわからない東屋にまでやってきたとき、今度は後方から声が聞こえてきた。

「おや。景容殿」

 その声に、景容は慌てて振り返る。

「皇女殿下。またお会いしましたね」

「そうですね。……ところで、何かお探しですか?」

「はい。実は、私が住むことになっているという別院を探しているのですが、それがなかなか見つからなくて」

 すると、蘭花は首をかしげながら、じいっと東屋を見る。それから、なんとそれを指さしながら言った。

「別院はもうすでにありませんよ。確か、以前火事か何かで別院が燃えてしまったんです。そこで、また同じところに別院を作るのは縁起が悪いから、ということで、もともと別院があった場所には、東屋が建てられたのです」

「……ということは、もともとここにあったのですか?」

「ええ。もしかすると、父上も絵を描いたりと忙しい身ですので、そのことを忘れてしまっていたのかもしれませんね。何よりも絵を描くのが好きな方ですから。ところで、景容殿はこれから寝泊まりするところは用意しているのですか?」

 景容はゆっくりと首を横に振った。

「それなら、客間にでも住みますか?」

「客間?」

「ええ。母屋には、皇族の者専用の滞在部屋のほかに、客間があるのです。万一、誰かが客として訪れたとき用のために。ですが、少なくとも私が滞在している間はそこを使う者はおりませんから、そこを景容殿の寝泊まり部屋にしてもよいかと思って」

「いいのですか?」

「もちろん。では、こちらについてきてください」

 景容は何度も歩いたばかりの道を、蘭花と肩を並べて歩き始める。その間、蘭花は言葉を話すことはなく、ただひたすらに母屋に向けて歩いている様子だった。だが景容はどうしても、彼女の体を纏っている仙気に気を取られてしまう。

(蘭花皇女は一体どこの宮から修行に来たのだろう。人間界の皇女になるくらいだから錦城宮(きんじょうきゅう)か? だが、あの宮の娘は確か修行に行けるくらいの実力がない、という噂だったが……。それとも桃妙楼(とうみょうろう)の娘? それとも……)

「着きましたよ」

 景容が考えに耽っている間に、母屋の玄関にまで到着していた。蘭花は客間まで案内すると、そそくさと母屋を離れて行った。

 そしてその後姿を、景容は食い入るように見つめていた。

(あの皇女は、間違いなく修行者なのに、どうして牡丹郷での記憶が一切ない様子なのだろう?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ