八.2061年 現代
「以上がユージの報告だ。何か質問はある者はいるかね。なお内容の正確性は保証する。なにせ取り調べに実際に参加した、わし自身の記憶をもとにしとるからな」
梶原プレジデント。老いてなお、その鋭い目つきで語る彼に皆息をのんだ。西暦2061年。IT Translator国家育成プロジェクト本部の会議室。立体映像で投影されたストーリーに、紀香を含め呼び出された全員が唖然とした。
(ここまで詳細に再現できるなんて。あいかわらずユージの具現化能力には舌を巻くわ)
梶原すら忘れていたであろう、記憶の断片からの完全な歴史の再現。紀香はその能力に改めて脱帽した。だが、これが魂の証明とどういう関係が?
突然、招集された本部の職員たちは、戸惑い互いに顔を見合わせ話し合っている。少しずつ、熱を帯び始めた会議室で紀香の額にわずかに汗が流れた。
「特に質問はないようだな。では、改めて今回、皆にあつまってもらった趣旨を説明したい。達也、ユージを呼んでくれ」
全員を見渡した梶原は、軽くうなずき、席に座る達也に首を向けた。
「わ……わかりました」
緊張気味の達也が、慌ててうなずいて、目を閉じてうつむいた。
〝ゆらり〟
達也の周辺の空気が熱気を含んだように僅かに揺れ、達也はすっと立ち上がった。ゆっくりと瞼が上がり、吸い込まれるような深い緑色が滲み出すように輝き始めた。
「皆さん。ユージです。本日はお忙しい所、お集まりいただきありがとうございます。今回のストーリーを考察する前に、アイコスの歴史について一度、振り返りたいと思います」
突然の変貌。賢者の緑瞳。どこにでもいる素朴な少年が、一瞬にして鋭い緑瞳を持つ明瞭な賢者に変貌した。
(ユージ……)
紀香は息を呑んだ。達也が共有する唯一無二の類まれな才を持つAI×OS。今から一体何が語られるのか。その場の全員が息をひそめてその話を待った。
「今から五十九年前、明応義塾大学教授 武井純により、IT Translator理論が提唱されました。脳の未知の領域を解放して、ITの産業発展に寄与する人材の育成」
紀香は、目の前の立体映像の映像に映し出された武井純の姿を食い入るように見つめた。ボサボサの髪、分厚いレンズの奥でギラギラと光る目。研究室にこもり、狂ったように数式を書き連ねる姿が目に浮かんだ。狂科学者、その表現がぴったり当てはまる男。
(何を考えているか分からない、気味の悪い男。でも、彼によってあの偉大な研究は成功をおさめられた……)
脳裏に、武井が過去に発表した論文の一節が蘇った。
未だ解明されていない脳の全容。未知の領域を活性化させ、情報処理能力を飛躍的に向上させることができれば、人類は新たな進化の段階へと進むことができるだろう……
紀香は唾を飲み込んで立体映像に映る武井を見つめた。
『わしはついに成功した……人工的に作成された脳容量を脳に注入する。あの気の遠くなるような実験の末、ついに、眠れる力を解放する実験に成功したんじゃ!!』
(脳容量……それにより、脳内の電気信号は高速に伝達され、複雑な思考回路が形成される……)
耳をつんざくような、高らかに叫ぶ武井の声が立体映像に響き渡った。武井と正寿郎による教団の信者を巻き込んだ非情な実験。紀香は悲痛な面持ちで当時の悲劇を思い描いた。実験室の消毒液の匂い。実験台に縛り付けられた信者たち。頭部に無数の電極が取り付けられ、苦悶の表情を浮かべている。繰り返される電気刺激、意識の混濁、そして、静かに息を引き取るものたち。
人間として決して超えてはいけない一線をこの男は超えてしまった。紀香は怒りで拳を振り絞った。
「その後、共信党の若き党首 加地則貴により、IT Translator国会育成プロジェクトが正式に発足。若く、優秀な人材が全国から集められ、人工脳容量による能力の開放と、運び屋としての訓練が始まりました」
(加地則貴……)
紀香は涼しげな表情で立体映像に映る男を、息を飲んで眺めた。大勢の聴衆を前に、自信気に演説を繰り広げている。
『私が立ち上げたこのプロジェクトは人類の夢と希望です。未来を築く若者たちと共に、私は全力を賭して彼らを、人類を幸せに導きます!』
(よくも、そんな嘘を……! あなたのような人間が、人類の未来を語る資格なんてない……!)
武井と共に無垢な若者を実験に利用した。吐き気がこみ上げてくるのを紀香は必死に抑えて、ユージの言葉に耳を澄ませた。
「そして、プロジェクト本部 第一期生 首席 天才 岡本紬博士が人間と同じ思考を持つAIの生成に成功。完全に自立制御して動く事を願いAI×OSと名付けた。これがすべての始まりでした」
(岡本紬……か……)
紀香は、立体映像に映るあどけない少年に目を向けた。屈託のない笑顔、聡明な瞳。未来への希望に満ち溢れていた少年。
〝天才〟
それ以外に表現がしようがない、唯一無二の存在。あの秋山でさえ、彼の知性には到底及ばないと言っていた。そして、父、岡本巧の大切な弟。彼の存在により、武井の実験は成功し、加地が国家プロジェクトを立ち上げる礎になった……
「加地の勧めに従い、岡本紬は人工脳容量を満たした脳にAI×OSを取り込む実験を行った。だが、実験は失敗し、わずか三か月後に彼は命を落とした」
『なぜた、紬……どうして、お前が……』
腐った皮膚、抜け落ちた歯、あざ黒く染まった瞼で眠る弟を前に、嗚咽を上げてベッドに伏せる父を思い浮かべて、悲痛な思いが胸に刺さった。武井の無謀な実験のために、彼は若くして命を落とした。自己の利益のことしか考えない、非情な大人たちに紀香は怒りの炎が渦巻いた。
(でも、彼の実験がなければ、秋山の成功は無かった。やり方はともかく、加地に先見の明があったことは認めざるを得ない……)
怒りとあきらめ、紀香は複雑な思いで胸を締め付けられた。
「その後、岡本紬の兄、岡本巧により、人工脳容量を使わず、従来から脳に存在する脳容量の濃度を高めることで、AI×OSを安全に取り込めることが発見された。今、達也が私を共有しているように」
その場全員が息を飲みこんだ。脳容量。 新人類と呼ばれる少年・少女が持つ、大人達にはない未知の力……かれらは生まれつき、脳に存在する脳容量が旧人類を遥かに凌駕する。
(岡本巧による発見……それは……違うわ……)
周りを見回した紀香は切ない気持ちで心が揺れた。
〝作られた偽歴史〟
AIの父、誰からも尊敬のまなざしを浴びた大好きな、そして今は亡きパパ。あの偉大な父の姿は、実はまやかしだった……
『紀香、お前はきっと立派な研究者になれるよ』
暖かく大きな父の手の感触が蘇った。優しい眼差しでいつも励ましてくれたパパ。でも本当に偉大だったのは……紀香は前方にひっそりと座るグレイヘアーの男に目を向けた。
秋山結弦
父親の栄光は全て彼の助言の元によるものだった。だが、彼はあの悲惨な事故により歴史からその存在が抹消されている。父と秋山は親友だった。世間の目から彼を守るために、父と梶原が考え出した苦渋の選択。今、この場でこのことを知っているのは、ごく限られた人間のみ……紀香は悔しそうに拳を握り締めた。
(大人の都合に振り回された無垢な若者たち。私は、決して今の若者たちをそんな運命にはさせないわ)
紀香は教壇に立つ達也に目を向け固く心に誓った。
「脳内に限って言えば、今や、AI×OSと人間は違いはありません。そして、AI×OSは人間の脳間を行き来できる。これが意味することは何か? 人間もそれが可能だという事です。
〝魂の証明〟
紀香は息をのんだ。瞳を薄緑色に変化させて高橋を睨む加地。秋山が起こしたあの大量殺人未遂事件が脳裏をかすめた。賢者の緑瞳。人知を超えた、神をも凌駕する力。脳容量で発生した強力な電脳波によって、高橋は耐えきれず、這いつくばる以外なかった。
(ということは、加地は新人類だった可能性がある)
紀香は顎に手をかけて考え込んだ。武井は、加地のことを、まるで山下正寿郎が生き返った、と表現していた。ユージが秋山のクローンであるように、加地は、正寿郎のクローンをAI×OSとして脳に共有していたのではないだろうか?
紀香は冷静に語る加地を思い出した。子供の頃から気の弱かった彼は、正寿郎から作られたAI×OSを脳に取り込むことにより、冷静で、残酷な、悪魔のような人物に成り代わってしまった……?
(でも、それだと、矛盾が生じるわ……)
紀香は眉をひそめて首を傾げた。
その時点でまだアイコスは発見されていない
AI×OSは天才 岡本紬により本部にて開発された。しかし、加地が急変した時期はまだ本部は発足すらしていない
(それが意味することはなにか……)
紀香の脳裏に、大勢の信者の前で、雄弁に語る正寿郎が思い浮かんだ。ハーバード大学卒。彼は、人の心を操る術だけでなく、高度な知性も備えていた。
もしかして、岡本紬より先に、彼がAI×OSを開発して、脳への共有に成功した……?
(いいえ、違うわ。あの岡本紬でさえ、命を落とした危険な実験。いくら優秀だとしても、決して成し遂げられることじゃない。可能性があるとすれば……いや、でも、そんなことって……)
紀香はぶるりと武者震いして、落ち着かせるように腕をぎゅっと握りしめた。加地が共信党の党首になる一年前に、正寿郎は死亡した。そして、その後に加地は人格が急変した。
正寿郎の魂がまるでアイコスのように加地に憑依した?
紀香はあまりにも突飛な自分の想像に、震える足を押さえきれなかった。しんと静まり返る会議室。皆顔を青ざめ、ユージを一心に見つめている。この場、全員が自らが考え出した答えに困惑し、混乱していた。
「皆さん、すでにお気づきだと思いますが、加地が取り込んだ正寿郎はAI×OSではありません。正寿郎が開発した可能性もゼロではありませんが、私は別の可能性を考えた」
ユージの前に、立体映像がぼわりと浮かびあがった。ベッドにだらしなく寝そべる、ひどく痩せた中年の男。ごまひげに覆われた顔。斜めに掛かった四角いメガネの奥の細い目が薄っすらと開いた。人を見下すような無感情な眼差し。
段々と状況を飲み込めた様子の男は慌てて立ち上がった。コホンと咳をした後、だらんと伸びた長髪をかきあげて眼鏡をくいっと上にあげた。
「やあ、本部の諸君。はじめてお目にかかる。私は杉本一、四十五歳。ITベンチャーのMegaSourceの元社員。社内の誰もが認めた中心的、唯一無二の頼れる一流システムエンジニアだ!」
※
突然に現れた見知らぬ男の横柄な態度に会議室にいる全員が目を丸くした。ため息をついたユージは、気を取り直して皆に向き直った。
「皆さんは日本橋料亭の事はしっていますね。岡本巧教授により開発された人類で初のAI×OSによる全自動制御システムです」
『すげー料亭ができたらしいぜ!』
『ほんと、まるで人間だよな。でもあれ、AIなんだぜ!』
『客が本当に求めている食材を使った完璧なもてなし。信じられるか?』
日本橋料亭……紀香はその懐かしい響きに、学生時代に見た歴史映像が頭に浮かんだ。
~
2013年、下町情緒あふれる住宅街にひっそりとに突如現れた古風な居酒屋。まさか、ここが、AI×OSによって全て制御されているなんて、誰が信じられただろうか……
顧客がカウンターに座ると、前の小窓が静かに開き、お通しが目前にすっと自動で運び出される。
「こちら初めてでしょうか?」
突然の声に慌てて目をやると、タブレットには微笑む調理人風の男。腕のいい職人は眺望で料理に集中し、接客、事務、その他一切の運用はAIが行う。
岡本巧教授がAI×OSを脳に共有し、その力を大いに活用して構築した伝説のシステム。わずか三か月、しかもたった一人で開発を終えた。さすが、AIの父。彼が残した偉大なシステムは、永遠にその輝きを失わないだろう。
~
歴史映像はそう締めくくられていた。学生時代、その美談に関心していた自分を思い出して無性に腹が立った。紀香は怒りの感情を抑えきれず、拳を震わせた。
(何が、輝きを失わないだ。これも、加地の策略。実際に開発をした、岡本紬は、こんな無茶な開発のせいで、彼は若くして命を落とした。あの男は自らの欲望のために、純粋な少年の命を奪った……)
秋山の存在を聞かされた時、同時に知った隠された真実。ユージの再現した、若き日の父と秋山の歴史映像で、闇に葬られた過去の歴史の全貌を知った。第一期生 岡本紬の死の真相。彼だけじゃない、きっと、もっと多くの若者が加地の毒牙にかかったのだろう……夢の実現のためには手段を択ばない加地。いや、加地の裏でほくそ笑む正寿郎……?
(でも、それと、この怪しい男といったい何の関係があるのかしら?)
紀香を含めたその場全員が、立体映像でまごつく、男を不思議そうに見つめた。
「今、目の前にいるのは杉本さん。彼は、かつて、日本橋料亭の高度なシステムに目がくらみ、侵入を試みた犯罪者です」
(杉本……? あ、思い出した!!)
紀香は、ユージの歴史映像で、いやらしい笑みを浮かべる男を思いだして身震いした。
杉本一 四十五歳
父と秋山が本部に所属する前の社会人だったころ、同じシステム会社で働いていた同僚。高度な日本橋料亭に目がくらみ、ハッキングを試みたが、秋山によって、その暴挙は阻止された。あれから、五十年程。確か、終身刑で刑務所で服役していたはず……紀香はまじまじと男を見た。まだ四十代。どうみても若い……一体?
杉本と呼ばれた男は頭を掻いて欠伸をした。ごほんと発したユージの空咳に、あわてて杉本は口をつぐんで背筋を伸ばした。気を取り直したようにユージが続けた。
「彼は日本橋料亭に脳容量を使って侵入した新人類です。しかし、当時同僚だった、岡本巧教授によりそのたくらみは阻止され、システムはロックされました」
紀香は感心した。真実を元に重要な部分は巧みに隠蔽している。実際には〝秋山〟によって阻止されたのだが。秋山の罪を隠すためにも、彼の存在は隠し通さないといけない。複雑な状況に紀香はため息をついた。
(でも、脳容量……電脳波を使ってシステムにハッキングするなんて、今更ながら信じられないわ)
その能力に紀香は改めて感服した。脳容量は脳にあるシナプスを振動させて発生する電波を使い、様々な物体に影響を与えることができる。機械を遠隔操作したり、侵入したり。そして、脳容量を持つもの同士であれば、意志の疎通も可能だ。でも、自分のようなわずかしか、脳容量を持たない旧人類は、その力にたえきれず、意識を失う。ユージが皆の様子を確認するように見渡したあと、続けた。
「杉本さんはたくらみに失敗して逮捕されました。しかし、システムがロックされた影響により本体の意識がはっきりせず、心神喪失による不起訴となり病院に収容。しかし、一年前、突然、意識を取り戻し、現在、警察による事情徴収中です」
『彼は少しやりすぎた。残念だけど反省してもらわないと』
歴史映像終盤で鋭い瞳で語る、若き秋山を紀香は思い出した。見るもの全てが吸い寄せられるような神々しい、美しいその眼差し。杉本が制圧したシステムをあっさりと取り戻した秋山。新人類同士の戦い。圧倒的な力の差に杉本は啞然としていた。ユージは冷静な眼差しで杉本を見つめた。杉本はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
(どういう事?)
紀香は戸惑った。今も杉本はシステムにアクセスしている。だが、本体は意識を取り戻して警察で事情徴収中? ユージが皆の困惑に理解するように頷いた。
「では、今、目の前にいる人物はいったい何者なのか? 杉本さんのクローン? おそらくその可能性が一番高い。しかし、クローンは通常、その記憶まではコピーされない。基本的な人間の性質の複製。親から子に遺伝する人間のように」
紀香は、クローンが生成される過程を思い描いた。脳容量から発せられる電脳波がAIの開発基盤にじんわりと焼き付けられる。段々と機械上に、意識が芽生え、真っ白な記憶をもった赤ん坊のようなAI×OS が誕生する……
(だが、杉本は完全に意識がコピーされている。一体どうやって作り出されたの?)
少しざわついた部屋で、ユージが落ち着かせるように手を広げた。
「皆さん、落ち着いて。ここにいる杉本さんは本体の記憶が完全にコピーされています。ただし、オリジナルとは独立した人格。これが意味する事はなにか? 人間の意思は別の媒体に移動ができる、という事です」
ユージの畳み掛けるようなロジックにその場全員が息をひそめて、ただ、聞き入る以外なかった。
(意志が移動できる……まさか、そんなこと)
「杉本さんと他のクローンとの違いはなにか? それは〝時間〟です。通常、クローンの生成にかける時間は三十分程。それ以上は、ハードウェアの性能が追い付かずに失敗する。だが、今回、杉本さんがアクセスした時間は四十年。そして、一年前、ようやくその長い時を経て、本体からの接続が遮断されました」
(四十年ですって?)
予想外の期間に紀香はうなった。常識では考えられない期間。業務用に特化した高性能なハードだからこそ耐えきれた年数なのか? そして、この杉本の存在。これはまさしく……」
「魂の……証明!? ついに人間の意思は、AI×OSと同じく、自由に行き来できることが証明された……死後の魂の行き先がついに判明するのね!!」
思わず上げた紀香の声に、その場全員が驚きで動きが止まった。紀香は高まる動悸を必死に押さえた。父、岡本巧が唱えた超人類進化理論。まさか、ここで、その発端を目のあたりにするときがくるとは……紀香は恐る恐る梶原に目を向けた。理解したように頷くその姿から、彼はすでに答えを知っていのか……
「ある意味正解です」
ユージの答えにガヤガヤとその場が騒がしくなった。紀香も困惑した。まだ、他に何かあるというの?
「杉本さんの存在により、人間の意思は移動可能であるという可能性は認められました。だが、一方でまだ、未解決な謎があります。正寿郎の魂。彼の死後、一年後に加地は政治家として表に現れた。おそらく、正寿郎の魂が中に取り込まれた状態で」
(そうだ、その謎があった……)
紀香は腕を組んで必死に思考を整理した。杉本は四十年かけて意識を移動した。だが、正寿郎は一年、いや、もしかしたら死亡した直後に、移動しているのかもしれない。何か別の方法がまだあるというのか? それこそが本当の魂?
「加地に、正寿郎の魂が移動した謎。そこについては彼に説明してもらいます」
微笑むユージの手が指す先で、整えられた背広に身を包んだ、やせこけた老人がゆっくりと立ち上がった。
「皆さん、初めまして。村上と申します。正寿郎の件をお話しする前に、まずは先ほどのストーリー。その内容に改めて感動しました。私の協力が多少なりともお役に立てて光栄です」
柔和な顔で頭を下げる村上に、全員の熱い視線が集まった。