抜け道
下道の渋滞が嘘のように高速に入ってから他の車を見ていない。
ひょっとして、この先通行止めになってる?
そんな不安が脳裏に浮かぶ程に空いている。
夕方の帰省ラッシュの時間にここまで空いてるって私、狐につままれた?
何せ反対車線にもバックミラーにも、見える範囲に車が1台も無い。
高速道路の貸切状態なんて贅沢な話にも思えるけど、むしろ使う車が無いなら税金の無駄に思えて来る。
それにしても、誰も通ってないのに綺麗過ぎる道って気持ち悪い。
廃墟感も無くて、整然として走るのも馬鹿らしくなる。
誰も走ってないし速度超過も許される気がする。
試しに150Km/hで……
――GWOOOOOOOO――
この車のエンジン、この辺りから唸り出すのかぁ……
少し緩めて130Km/hで走ると、一度速めた速度感覚が遅いと感じさせる。
何となくまた速度を上げては戻すを繰り返してる。
不意にパトカーが現れそうな気がしてバックミラーを見るけど、何も無い。
もうかれこれ何キロ走っているのかなぁ、ここまで車を見ないのが異常に思えて来た。
そうだ!
高速ラジオ!
ツマミを合わせたけど何も聴こえない。
他のラジオに合わせても音楽が流れてるだけで、意味が無い。
だったら自分の好きな曲を聴くわ!
スマホで曲探し♪
あ、これこれ!
好きな曲で鼻歌まじりに前を後ろを見るけど何も無い。
そうだ、スマホで高速道路の状況確認すれば済む話だったわ。
ええと、コレじゃなくて……
蟹名の方には……
あった!
え、なにこれ?
緊急封鎖って、通行止めって事?
え、これ首都高まで行けないのかなぁ?
て、危なっ!!
やっば!
前見てなかったわ。
とりあえず、封鎖してるから車見なかったのかぁ……
て、何で?
何で封鎖してんのよ?
あ、ニュース見た方が早いか!
透明・封鎖・・・え、古いなこの記事。
なら、2023年・8月・・・っと!
・・・・・ん?
無いなぁ……
とりあえず、蟹名の手前で降りとこうかなぁ?
もお!
折角の旅行気分が台無しだわ!
早く空飛ぶ車出ないかなあ。
そしたらバンバンぶっ飛ばして海とか川とか家の上も学校だろうと警察署だろうと飛んでれば抜け道し放題なのに!
イカれた馬鹿がテロに警察署の上から落っこちて水素爆弾状態になるのが出るまでわ、かな?
どう対処するのかな?
ある意味この車も水素爆弾みたいな物か……
水素ステーションとか……
そりゃあ世界がやらない訳だわ!
平和ボケって言われるのも分かる気がして来たけど……
これも、平和ボケなのかなぁ?
未だに対向車も見ないって……
高速降りたら超渋滞とかだと、お土産の冷蔵品ヤバいかなぁ?
ドライアイス増やせば良かった。
あ、そろそろ金川に入ったかな?
スマホナビちゃん、今私は何処に居るのかなあ?
・・・え、圏外?
ん、前に見えるの、何アレ?
ちょちょちょちょちょ……
――MUGUUUUUUNN!――
危なっ!!
ブレーキ間に合って良かったぁ……
て、え、何?
・・・何も無いんだけど。
何の音もしない。
向こう一面真っ黒な平野になってるんだけど……
――DDOOOOON!!――
「物凄い衝撃に思わず目を閉じてしまって、開けた時にはもう……」
「なるほど、居眠り運転ですね」
気付くと私は、何故か警察署に居た。
「違う! 違わないけど、凄い現実っぽかったんです!」
「いや、現実っぽいって、夢見て人を踏み殺しといて何言ってんのアンタ!」
「違う! 私は殺してない! だって、金川は水爆で吹っ飛んで失くなってるんだから!」
「あのねえ、失くなったのは縦浜から古宿まで、あなたが赤葉で踏み潰した人はその縦浜の生き残りだったんですよ!」
「そんな……」
「金川県の借金税にいい加減ウンザリした県民が、借金作った張本人の元知事を訴えようとしたら、借金チャラにする為に水素ステーションを爆破したらしいけど、何とか逃げた被害者県民を、あなたが……」
「私だって、我慢したのよ! 縦浜博なんて下らないイベントで博○堂とかTB豚とかHISANN自動車とかに金バラまいて借金作って参議院に逃げたクズ知事に煮え湯を飲まされて……」
「それで大蛸に逃げたの?」
「そうよ! そしたらあの元知事が大蛸の政党に入ってまた……」
「それで、何でまた金川に?」
「爆破してやろうと思って……」
「は?」
「HISANNの車工場を持って来たのを自慢していたからTOMITAのプリブス爆弾で吹っ飛ばしてやろうと……」
「遅きに失しましたな!」
「くっそぉぉお、空飛ぶ車が出来たら今度こそ!」
「その時には、なるべくピンポイントでお願いしますね」
「わかってるわよ!」
「あ、その前に一応逮捕という事になりますけど、ウチとしては事故件数減らしたいんで、これ位払って貰えればチャラにしますけど?」
「20万円? 高っ!」
「安いもんでしょ! ウチは天下の金川県警ですよ? まあ、本店も吹っ飛んだから今はただの赤葉署ですけど……」
「分かったわよ、それで手を打つわ!」
「じゃ、遺体の隠蔽工作の料金として5万円、合わせて25万円という事で、毎度!」
「アンタ、大蛸府警の出でしょ?」
■あとがき
現実にもあるとかないとか……
抜け道は使わないようにしましょうね。