第71話 取材
結局のところ、ユーリは取材を受けることにした。
「意外ね。受けてくれると思わなかった」
「断ったら、またずっと出鱈目を書かれるんでしょう? そんなの御免ですから」
「あら手厳しい」
口元を抑えてザビーネは上品に笑った。地球の人らしいお淑やかさがあるのだな、とユーリは感じた。それが実のところ理由の一つでもあった。
「それで、」ユーリは切り出した。「一つ条件があるんですが」
「条件?」
「僕の顔写真、それと名前は出さないこと――家族にはまだ知られたくないんです。」
実際には、理由はそれだけではなかったが、だが知られたくないという点では同じだった。
まだ、彼女には知られるつもりはない。
そして今後も。
「いいでしょう」その背景を知ってか知らずか、彼女は笑顔で答えた。「戦時下です――よくある話です。こう見えて特殊部隊員とかにも取材してますからね。事情は承知しています」
「……それなら、信用します。始めてください」
「では――まず、ご趣味は?」
「趣味?」ユーリは面食らった。「何でそんなもの聞くんです?」
「アナタの条件に対する条件、みたいなものかしら。皆、人間らしさみたいなものが読みたいと思うのよ。顔と名前がダメなら、それぐらいはね」
「…………」ユーリは苦虫を嚙み潰したような顔をした後、答えた。「読書です」
「どんなものをお読みになる?」
「歴史小説か、とにかく歴史に関するものを平時は読んでいました」
「好きな食べ物は?」
「バナナです。体にいいですから」
「苦手な食べ物は?」
「カツカレー……ああ、ジャパニーズスタイル・カレーライスです。ここじゃ金曜には必ず食べますがね」
「好きな女性のタイプは?」
「……それ、言わなければいけませんか」
「嫌なら、結構ですよ? ここはなかったことにします」
そう言って、彼女はメモの上に線を二本引いた。質問文を消したのだろう。
「では、」ザビーネはそこで一拍置いた。「今までの撃墜スコアは」
「…………」
「どうしたんですか? 数えていないわけではないでしょう?」
「それは、そうですが……そんなこと、聞いてどうするんですか」
「どうもしません。ですが、読者は気にするのです。このパイロットは何機落としたのかってね」
「そんな、スポーツじゃあないんですよ。地球の人にとっちゃ他人事かもしれないが、僕らにとっては死活問題なんだ、文字通り」
「分かっています。その証拠に私はここにいるでしょう? アナタたちが負ければ死ぬところにいる。ならその私にぐらいは言ってくれてもいいのではなくて?」
「……」ユーリは不利だと感じて、譲った。「七機です」
「七機。その中で最も手ごわかった機体は?」
「そんなことまで聞くのか、冗談じゃない……!」
「ですが、これで食べているものですから」
「そんな言葉で誤魔化されていいはずがないでしょう! お断りだ!」
「こればっかりは譲れません。これこそ読者の望んでいることなのです。私にはそれを報じる義務と自由がある」
「なら、その読者はどこにいるのです⁉ 僕たちみたいに戦場になんかいないでしょう⁉ 快適な部屋で僕の撃墜スコアなんて聞いて、それで楽しむんでしょうが! そんな人に答えることなんかありませんよ!」
「ルヴァンドフスキ少尉、落ち着いて……」
「その少尉ってのも気に入らないんだ、僕は! 僕は戦争をしたせいで一人の女の子を傷つけてしまったんです。それなのに軍隊は僕にそんなものをくれた。おかげで、アナタみたいな戦争好きの人にあれやこれやと聞かれる羽目になっているんだッ」
「傷つけた……誰を?」
「それはッ、……」そこで、ユーリは冷静になった。誘導尋問だ。「答えるつもりはありません。もう帰ってくださいッ」
「ええ、充分だと思いますし、帰らさせていただきます――ですが、最後に一つだけ」
「何です?」
「アナタのご年齢は?」




