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第44話 明日死ぬとしても、死ぬまでは生きなければならない

「つまり、」オイゲンは苛立っていた。「我々の要求は何一つ通らない、と。そういうわけですか」


『その通りだ――今の我々には君たちのワガママを叶える余裕はない』


 ホログラフ・モニターの向こうのジンスク守備艦隊司令官はそれがまるで伝わっていないかのようにそう答えた。


『戦況は非常にひっ迫している。避難民を下ろして希望する地点まで届けられるほどの余裕は我が艦隊にはない。大体貴艦は輸送艦じゃあないか。むしろいくらか便乗させてもらいたいぐらいだが?』


「しかし現実に、避難民はギリギリの状態に置かれています。我が艦は一個分艦隊を敵に回して逃げてきたところで、既にそのストレスは限界に達している! これ以上の輸送に耐えられるとは思えませんな」


 事実、民間人と兵士の個人レベルでの衝突は最近多発していた。というのも、「フロントライン」での戦闘で起きた捕虜の反乱では、終盤、劣勢となった捕虜側が何人かの民間人を拉致し、人質に取るという事件があったからだ。それ自体は誰も怪我することなく終わったのだが、それ以来深い不信感のようなものが蔓延っていた。こんなことでは戦闘中に暴動が起きてもおかしくはない。


『だから補給はしてやると言っただろう。』だが彼は冷淡だった。『酸素フィルターも交換する。それで充分ではないか』


「そういうことを言っているのではないのですがね。せめて移動の順番を繰り上げていただきたい……!」


『それはできない……第一、君は飛び入りで来ておいて図々しくはないかね?』


「部下と市民の命を預かっているのです。一歩たりとも妥協はできませんな」


『こちらも同じだ。可能な限り多くの戦力を後方に下げねばならない! 我々は既に包囲されかかっているのだ!』


「市民こそ、戦力ではないのですか。市民の協力あっての軍でしょう?」


『だとして兵器なくして戦えるものか! 艦船は銃器とは違う! そう簡単に補充できるものではないのだぞ!』


「そんなことは百も承知です! せめて他の艦に便乗させるなり、何かできることを考えてくださいよ」


 一丁前にジレンマぶりやがって馬鹿にしてくれる、とオイゲンは尚更苛立った。彼の目の前にいるこの男には譲歩するという姿勢が見られなかった。何しろ向こうは少将で、こちらは大尉である。雲の上の神に話しかけているようなもので、通じるはずもないのだった。


『とにかく、貴艦は最後の便だ……いいな、これは命令である』


 その証拠に、それを最後に通信を打ち切ってしまった。有り余る怒りから、クソッタレ、と叫びながら、オイゲンは机の上にあるものを全て床に叩き落した。


「失礼します」そこに、ルドルフは入ってきた。「……いかがだったのですか」


「見ての通りです」床のものを拾いながら、オイゲンは答える。「いつの時代も上と下は喧嘩するようできているようで」


「つまりは、避難民もそのまま……ということですか」


「そういうことになりますな。エンハンサー隊についてもそのままで」


「それは、」ルドルフは眉を顰めた。「冗談でしょう。民間人ですよ、半分は」


「分かってはいます。ですが……この戦争において我が軍には何もかもが足らない。兵力も、時間も、弾薬も、食料も――故に勝利すらも、足りていない状態です。」


 それを言われると、ルドルフも弱かった。それでようやく自分が感情的になっていたことに気づく。


「……すみません」


「いえ、考えていることは同じでしょう。結局のところ、これでは負け戦ということです」


「ですが戦わなければならない、ですな」


「明日死ぬとしても、死ぬまでは生きなければならない。それが残念なことに、人生というものなのでしょうな」

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