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第41話 バトル・オブ・ダカダン

 暗い宇宙を背景に、光が瞬いている。


 それは決して星ではない。大気のない宇宙では星は瞬かない。とすればそれらは全て爆発か、荷電粒子の光であった。


 敵は既にこちらに対して背を向けていた。急いでスペースゲートへと逃げ込もうというのだ。恐らく爆破の手はずももう整っているのだろう。でなければ損害覚悟で飛び込むなんて作戦は立てないはずだ。


 エーリッヒ・メイン少尉は甲板の上でそれを見ながら、発艦の順番待ちをしていた。一際大きい反響音がしたかと思うと、目の前の電磁カタパルトから僚機が発進したところだった。三〇トンにもなる八メートルの機体を打ち出したそれは、一度甲板の端まで前進してから、ゆっくりと指定位置まで下がる。


「アラモ4、発艦準備」


 それと同時に、広域無線で甲板の管制がそう命令する。それに従って彼は一歩前進し、まず足元にあるペダル状のパーツ――シューズに脚部を合わせた。すると横と縦に少し大きめに作られているそれが靴紐を結んだように外側から足のパーツを固定する。これがシューズとそのパーツが呼ばれているゆえんである。


 その固定が済むと、甲板作業員がお辞儀をした。それは平時のように挨拶を意味しない。エーリッヒはそのジェスチャーの意味を知っていたから、機体を僅かにしゃがませてかつ前かがみの姿勢を取らせる。そうすることで、背面の角度と高さを調節する必要があった。


 指定の角度に到達すると、機体の動きは勝手にロックされる。そこにせり出してきたのはスコーピオンと呼ばれる部品だ。


 かつての地球時代。


 まだ航空機を運用する母艦だったその時代には、重心が低い分シューズと同様の部品だけで打ち出すことができた。だが、今や対象が人型兵器である。そうなると重心は相当高くなり、足元からのモーメントだけでは後ろにのめってしまうようになった。そこで登場したのがスコーピオンであり、それはシューズと連動して背中――重心から機体を押すようにできていた。


「アラモ4準備完了。射出許可を求む」


 それを指定の部分に取り付けると、機体各部のチェックを実施してから彼はそう報告した。いよいよ発進である。


「了解。アラモ4発進三秒前」


 3,2,1……


 0。


 直後、凄まじい加速力で彼は宇宙に投射される。少し遅れて対Gシステムが作動し、重力制御によって機体内部の状態を正常に戻し始める。それと同時に、機体の制御を発艦モードから戦闘モードに切り替えると、僚機の後ろに彼は機体をやった。


「アラモ3、こちらアラモ4.アナタの後ろにいます(ユア・シックス)


 アラモ3のオリガ・ニキーチナ中尉の後ろだ。彼女は機体の首を巡らせてから答えた。


「来たかい、『坊や(ブービ)』。」坊や、というのはエーリッヒのあだ名だ。「三機編隊での戦闘は初めてだな?」


「ええ。教本でしか見たことありませんから、やれるかどうか……」


 現代の戦闘では、二機単位で行動するようパイロットたちは教育されている。だが彼らは前回の戦闘で隊長機であるアラモ1――エルナンド・ヴァルデッラバノ少佐――を欠いた。一応、三機編隊での行動の仕方は教わらないわけではないが、どちらかといえばそういう時代もあったのだという歴史上のお話であって、実用的なものではなかった。


「簡単です」しかし先頭を行くアラモ2、リチャード・ナガタ中尉が返答した。「はぐれなければいい――連携が難しいのなら、援護の二機は一機と見れるほどに緊密に位置していればいいのです。アナタたちは私の後ろを守ってくれればいい」


「何だナガタ? いっちょ前にエース気取りか? こっちは落穂拾いでもしてろってかよ?」


「そういうことです。落穂が残っているならいいのですが」


「へーへーそうかいそうかい。でも弾は前からだけじゃあないがな?」


「IFFがあるのに撃てるのですか? 陸戦とは違うのですがね」


「落穂を見失うかもって意味なんだがね今のは」


「それは職務放棄です。軍法裁判ものですよ」


「そんときにゃお前はいねーだろうがな」


 ははは、とオリガの笑い声がする。リチャードはそれに眉を顰めた。


「アラモ4,命令です。この減らず口を撃墜しなさい」


「できませんよ。IFFがあるんだから」


「全く、どいつもこいつも命令違反ばかりを……」


 アラモ2がそう言って、コックピットの中で肩を竦めた……その瞬間、双方向型外装神経接続が、レーダー反応があったことを彼らに通知する。友軍機からのデータリンク。ミサイルの射程内。漫才の時間は終わりだった。


「――全機見えていますね?」


「ああ、見えている。一斉射撃で行くぞ」


「アラモ4了解。ロックオン」


 そう言いながら、エーリッヒはミサイルのシーカーを作動させる。外装神経接続で、思った瞬間にはその操作が為されるのだ。


「アラモ2、フォックス3」


「アラモ3、フォックス3」


「アラモ4、フォックス3」


 そして、発射――四機の目標に対して計六発のレーダー誘導ミサイルが発射される(フォックス3)。敵機を追っている最中に予想外の方向から攻撃を受けた敵機は散り散りになり、内二機の反応が消えた。残りは急旋回をしたあと、反応をいくつか増やして――対抗手段を使って――難を逃れたようだった。


「アラモ隊有視界戦闘! ライフル!」


 そこに、三機は一斉に襲い掛かる。まず孤立して彼らの方に向かっている一機にリチャードが遠距離射撃を行った。しかしこれは命中しない。彼のビームライフルは確かに高威力高精度ではあるが、今のはその射程範囲スレスレでの射撃だった。


「へへっ」


 しかし、それで充分なのである、目くらましとしては。敵機は射程でアドバンテージを取られているというプレッシャーを感じて、リチャード機をマークして動く。そこに自然と生まれる死角をオリガは突いた。素早く距離を詰めると同時に、ライフルを三点射。それで足を飛ばされた敵機は、牽制射撃をしながら後退する――そして僚機もだ。それも対空砲火の厚い方に。敵はよく訓練されている。


「もらった」


 が、そこに容赦のない射撃が襲い掛かる。リチャードではない。エーリッヒだ。戦闘により足止めをされたことに、そのとき彼らは気づいただろう。旋回に入る――しかしその背中にビームは突き刺さった。制御を失った敵機はスピンに入り、ボロボロになった関節から空中分解していった。


「『坊や』!」


 しかし、それは深追い、悪手だった。レーダー警報。さっきのオリガの使った戦術と同じだ。それに背後を取られて――ミサイル! エーリッヒは冷静にカウンターメジャーを射出して、味方機の方角に避退する。


「しつこい!」


 が、その背中にまだ一機食らいついてきていた。彼の放ったビームをかわし、返す刀でサーベルを抜いた!


「くぅっ」


 それをエーリッヒは何とか左手のサーベルで受ける。瞬間、二機はほとんど密接した状態に置かれる。しかし、その瞬間、彼は激高した。何故なら、その敵機の肩に、「J-11」と書かれていたからだ。


 この機体は。


「貴様はァッ」


 上官(アラモ1)の仇!


 敵機のサーベルを切り払うと同時に、彼は右手にもサーベルを持たせて一撃を入れていた。しかし、それは空振りに終わる。敵機もまた切り払っていたのだ、それで間合いが離れてしまった。エーリッヒはライフルに切り替えて狙うが、その一瞬の隙で狙いからすり抜けてしまい、スラスターを吹かしてどこかへと逃げていく。


「待てッ」


「『坊や』は落ち着け!」


 制止に入ったオリガの声も、暫時は聞こえなかった。その背後につきながら、ライフルを速射。しかし敵は艦隊の隙間を縫ってそれをかわす、かわす、かわす! その滑らかな動きに対してエーリッヒは、その度に対空砲を回避するための余分な動きが加わって、その分だけ差が広がる。


 だから、逃げる駆逐艦の艦橋をかわして艦隊の端に出たとき、既に敵は豆粒ほどの大きさになっていた――が、その先にエーリッヒは信じがたいものを見た。


「⁉」


 敵艦である。それも宙母だ。それに向かって敵は航行しているらしかった。


(敵は被弾したのか? いや、)エーリッヒは瞬時に思考する。(そもそも宙母がまだ残っていた? 母艦が逃げ出すから、戻らねばならない?)


 だが、チャンスだった。敵はいかなる理由にせよ、直進している――が、戦場で直進というのは自殺行為だ。彼は全てのミサイルのシーカーを即座に起動した。ロックオンまで一秒とかからない。そして完了すると同時に発射。肩のミサイルランチャーから全てのHEAT弾頭のそれが吐き出され、一気に目標に向かって――直撃。


 直撃、直撃直撃――直撃。


「や、やった……⁉」


 それはあまりにあっさりとした感触で、現実味に欠けた。それが彼の声が上ずって疑問形になった理由だった。何しろ、敵は回避機動すら取らなかった。ただ真っ直ぐ飛んで、真っ直ぐ地獄に落ち――真っ直ぐ?


 それはおかしい。


 いかな第三世代機でも、RWRはついている。そのアラーム音は聞こえたはずだ。だとするならば。


「後ろ――!」


 エーリッヒがそれに気づいたのは、敵が背後からビームライフルを撃ってくる寸前だった。回避機動は寸でのところで間に合い、命の代わりに左足のエンジンを吹き飛ばす。


「ぐあああッ」


 機体共々悲鳴を上げる頃には、敵の手口はデブリ帯で見せた手品の応用だったのだとエーリッヒは気づいていた。


 着艦フックを使った急旋回にホログラフ・デコイを絡めることで、更に気づかれにくくしたのだ。消失するよりも偽物でも見えていた方が、確かに引っかかりやすい。


 そして片肺になった機体を必死に立て直そうとする彼を尻目に、白い十一番機は母艦へ吸い込まれるように帰還し、その母艦の中に逃げ込む。


「逃げるなッ、この卑怯者ッ!」


 変化したスラスターのバランスを瞬時に掴んだ彼は、同時にそれを可能な限りの出力に上昇させ、機体に突進コースを描かせていた。対空砲火の中、ビームライフルを連射する。


 しかし、敵艦の加速は止まらない。それはそうだ、エンハンサーの出力で撃てる荷電粒子砲の威力などたかが知れている。表面で弾けるのが派手に映るばかりで、その実大したダメージにはなっていない。


 そして反対に、機体にはダメージが蓄積されていく。対空砲がかわしきれなくなっていたのだ――そもそも片肺の機体で敵艦への突入機動など、不可能に近い。最も敵弾回避に効率的な最大出力では機体の描く軌道が偏ってしまうからだ。それを彼は超人的な操縦技術で補っていたが、それもある程度のことである。


 やられる――その可能性が頭を過ったとき、敵艦は遥か向こうのまま、スペースゲートに最大船速で突っ込んだ。それで対空砲火は止んだが、対する彼は、ボロボロでほとんど旋回もできなくなった機体をぶら下げているに過ぎなかった。


 そして、敵艦がそのゲートに全て飲み込まれたとき――爆発。丸いゲートに仕掛けられた爆薬が起動し、それを粉々に破壊してしまった。


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