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第38話 サクラフブキ

 これは夢だ、とユーリには分かった。


 何故なら、サクラが咲いていたからだ。彼のいるはずのフロントライン・コロニーにはそれは植えられていない。


 それを背景に、シャーロットが笑う。光の中に彼女の金色(こんじき)の髪と青い瞳があって、サクラフブキがそこに生命の彩りを加える。


 しかし、だとすればその一度しか見た覚えのないピンクの花弁が何故そこにあるのだろうか?


 すると、それが花びらでないことに彼は気づく。


 それは、花は花でも火花だった。


 目の前でエンハンサーが――どこかカクカクとした形状からすれば、「ロジーナⅢ」――燃えていた。しかし、それは可燃物ではないのだ。金属製のボディからはありとあらゆる可燃性が取り去られているはずなのだ、それが人型の機動兵器であるからには。


 よく観察してみると、それは実際には何か生物的な何かしらに覆われていることに気がついた。不意に近づいてみると、彼の足にもそれは絡みつく。足元を見れば、辺り一面にその赤い液体は広がっていた。しかし匂いはしない、どういうわけか。


 つまりこれは夢なのだった。


 しかし、それでもユーリはそのエンハンサーに近づいていった。水音が足下から聞こえるが、無視をした。この悪夢から抜け出す方法は、目の前のそれを操縦する以外にないという確信が彼を動かしていた。コックピットハッチにまとわりつくその血管めいた蠢く線を取り払い、彼は胴体下部にある開閉ハンドルを回した。油圧のピストンが低く鳴動して、それはあっさりと空っぽのコックピットシートを彼に明け渡す。


 彼が徐にそれに乗り込んだ途端、彼は宇宙に放逐されていた。バイザーの向こう(そう、彼はいつの間にかパイロット用の宇宙服を着ていた)では先ほどまでコロニーだったものは全て崩壊し、悲鳴を上げて細分化される。その全てがスペースデブリと呼ばれる何かしらに化けたところの隙間から、ミサイルは飛んできた。それをバルカンとビームライフルで叩き落したところに、敵機は足をこちらに向けて、左手のビームサーベルで突いてくる。それを咄嗟に持ち替えたビームサーベルで受けると、その勢いが余って敵の左腕は切り離されてしまった。


「……!」


 そのときには、彼の中ではその光景が何であるのか理解できた。切り払われたのは、本当は彼の方だったはずだからだ。間に合え、という気持ちを込めて右手の武装を再度ビームライフルに持ち替えた瞬間、彼 は  溶け   ていき  、


「グッウッ……」


 目が覚める。また、あの夢だった。寝袋から彼は這い出すと、額にびっしりと着いている汗の雫を手の平で払い――その生温かさが気持ち悪くなり、すぐさま宙に払った。


 仮設宙母「ルクセンブルク」艦内時間午前四時。


 戦争はまだ続いている――。


高評価、レビュー、お待ちしております。

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