第32話 恨み辛み
「あの光は何だ!」
主機の臨界まであと十分に迫ろうかというとき、オイゲンはブリッジの窓に張り付いてそれを見上げた。
「デブリにミサイルが直撃したようですが……」
「違う! その近くの細い線!」
「ビームの光です、ビームライフル!」
「見りゃ分かる! まだ準備砲撃の真っ最中なのにどうしてあれが光っているのかと聞いている! やめさせろ!」
若干コメディのようなやりとりではあったが内心オイゲンは非常に焦りを感じていた。ルドルフの立てた作戦はあくまでどこにこちら側のエンハンサーがいるのか分からない状況でこそ意味がある。だのにあの光はそれを台無しにしかねなかった。
「撃てばバレてしまうんだぞ、何とか通信繋がらんのか!」
「呼び出してはいるのですが……どうやら戦闘中のようで」
「戦闘中?」通信兵の返答は要領を得なかった。「敵か? 準備砲撃中に?」
確かに旧革命評議会政府系の軍隊には広く火力に対する信仰のようなものがあるが、そんな誤射を誘発するような攻撃をするほどではない。だがデブリのおかげで当たらないと見越してということは考えられた。
「いいえ、違います」だが、返答はもっとその予想を上回るものだった。「これは……味方同士で撃ち合っています!」
「ウジェーヌ⁉」
だがビームは直撃しなかった。何故ならその直前、ユーリの隠れていたデブリをミサイルが吹き飛ばしてしまったからだ。それで機体が流れて、第一撃をかわすことができた――が、その直後にウジェーヌ機はサーベルを抜いて切りかかってきたのだ。
「この瞬間を――」
ユーリは即座に右手のライフルをサーベルに持ち替えさせて、防御した。
「――待っていたんだ! 俺は!」
「何を言っている! やめろ⁉ 僕が分からないのか!」
鍔迫り合いで硬直した胴を蹴り飛ばし、ユーリは機体のバルカンを乱射した。しかし蹴られた勢いそのままにウジェーヌはあっさりそれを全てかわしてビームライフルでユーリを狙った。
「分かっているよドニェルツポリ人。ずっとずっと前から分かっていたさ。もっと早くにこうするべきだったことはな!」
「僕を殺そうというのか、ウジェーヌ! 殺すつもりなのか!」
「馬鹿が! お前だけじゃない、ドニェルツポリ人は皆殺してやる! 親の仇だからな!」
「親の……仇⁉」
ユーリ機がその射撃をデブリの中に入ってやり過ごしたのを見て、ウジェーヌはその隙に距離を詰め、今度は左手でサーベルを抜き、予想針路に回り込む。
「そうだよ! 十年前、貴様らドニェルツポリ人は俺の両親を寄ってたかっていじめたんだ! 会社に石を投げこんで、道を歩けばゴミをぶつけ、物には売国奴の落書きをしてくれた! おかげで両親は会社を首になり、終いには家も焼かれて、自殺した! 二人ともな! 全て全て貴様らのやった罪だ! だから俺は復讐するんだ!」
「なら殺したのか、君が、下の二人を、データリンクを切ったその内に!」
「そうともさ! 砲撃の間は動かないもの――なッ!」
しかし、ユーリも素早く反応し右手を持ち替えて防御した。荷電粒子同士がぶつかり合ってエネルギーの反発を起こしまた機体は離れ離れになる。ウジェーヌの方が右手が自由な分早く動いてビームライフルを撃つが、姿勢が定まらず当たらない。
「でも、」だがまだ信じられなかった。信じたくなかった。「できることをやるだけって、そう言ったんじゃないか、君は! そういうことを考えないのが君だったんじゃないのかッ?」
「ああ、やったともさ、貴様らを困らせるためにできることは全てな! 今頃捕虜が逃げ出して大変なことになっているだろうよ!」
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