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ミーンワイル・イン・フロントライン  作者: 戸塚 両一点
第八章 アナザーワン・バイツァダスト
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第218話 母艦、そして仲間

 果たして、サンテの言っていた母艦というのはやはり長距離挺身艦であった。


 「タイダル・ウェーブ」所属長距離挺身艦「オオシオ」。


 この海賊船にふさわしいボロ船は、作戦を終えた部隊を収容するとすぐさま加速に入り、超光速航行に移った。長距離挺身艦らしい、ヒット・アンド・アウェイ戦術である。というのも、超光速に最適化されたエンジンとEFマストでは通常航行は効率が悪くなる。敵地であることも加味すれば、通常空間にいるのは最小限の時間とするべきなのだ。


 しかし、逆に言えば、長大な航続距離は、その高効率からもたらされるわけである――既に艦はド民共の勢力圏を抜け出し、ドニェルツポリ領内のアジトへ帰還していた。


「これがこのアジトの外観」


 格納庫でユーリは・イーノック・ノーイッグ――新しく同僚になったパイロットの一人――が端末に示した画像を見た。そのアフリカ系らしい黒い肌の手からそれを受け取ると、一見すると誰からも見向きもされない小惑星のように見えたが、そこに明らかな人工物がつけ足されている。


「これって、補給デポってやつじゃないですか? 前の戦争で放棄された」


「ご名答―」同じくパイロットのホーマー・ウォーカーズソンが青い目をダルそうに瞬かせた。「これはプディーツァ軍の標準型補給デポだ。標準型、といってもその辺の小惑星にあれこれ取り付けただけであって、岩から製造したわけじゃない。連中はこの手のものをそこら中に作っては、回収も破壊もせず適当に放置した」


「いくつかのものはドニェルツポリ軍に鹵獲されたが、それも終戦後には遺棄されたのがほとんどだ。そしてこれなんかはその内の一つ――今は我々の第三アジトになっている」


 チームリーダー、オブリガ・コンクレのその低音ボイスに、少なくともこの手のアジトが後二つはあることをユーリは察しつつ、不意にそのアジトから運び込まれた物資を見やった。


「それにしたって、思ったよりは物資があるんですね。サンテさんからは貧乏所帯だと聞いていましたが」


「まあ、その辺はいくらでも入手のしようはある。タダで落ちているのもあれば、安く仕入れることも可能ってことだ」


「……?」イーノックのその言葉はユーリにとって抽象的だった。「どういうことです?」


「終戦で、軍縮になっただろ?」オブリガが補足する。「その分の兵器はどうなったと思う?」


「どうなったも何も、廃棄でしょう?」


「そう! だがその廃棄ってのは、軍だけでできることじゃない。そんなことをしていたら工廠がいつまで経っても空かないからだ。というわけでその手の廃棄業者ってのがいるわけだが――この業者ってのが曲者でね」


「そうなんですか?」


「曲者というか横着者でしょ」ホーマーがあくびをしながら言った。「バラしても国からは微々たるカネしかもらえない。それじゃ赤字なんで、書類上ではバラしたことにしてどこかに売り払うってのがよくあるんだよね。デブリ業者も同様。あとは自分で拾ったりもするけどね」


「そういう、変な話、中古品を買い取ってどうにか使えるようにして、俺たちが活動できてるってわけだ」


「なるほど。でもそれだけのお金、どこから出てるんです?」


「そこら辺は、やる気のある金持ちとかクラウドファンディングとかって聞いてる。一枚岩じゃないってことだな、この国も」


 そういうものか、とユーリは五割ぐらいの納得をしつつ、真上にある自分の機体を見つめた。スナイパー仕様への換装中である。肩のミサイルポッドを外し、コンデンサーへ変更。そして、「モシンナガン」ライフルへ――


「ん?」ユーリは、そこに違和感を覚えた。「あれも中古ですか?」


「だと思うぞ? 何か気になるか?」


「いや、何だか形状が変わったような……気のせいかな」


「ユーリは第一艦隊にいたんだろ? レンドリース艦隊。だから見慣れていないんじゃないのか?」


 一度使っているし、そういうわけではないと思うが――。


 と、言おうと思ったが、やめた。気のせいだろう、と思ったのもある。


「ン? 何だ?」が、それだけではないというのをオブリガは表情から察した。「どうしたんだ?」


「いえ、その……怒ら、ないんですね? サンテさんのこと――」


「…………どうしてそう思うんだ?」


「だって、あの人が前のリーダーだったわけでしょう? それぐらいは、ここ数日のことで分かりますよ。その彼を死なせた挙句、その遺体を持ち帰ることさえ、それどころか自分が生きるために使って! ……どうして、そんなに優しくできるんですか?」


 ユーリは、ほとんど泣きそうだった。自分自身の情けなさにほとほと呆れ果て、苛立って、方向性は同じでも烈度の違うそれらにどうしたらいいか分からず張り裂けそうだった。体がバラバラになって、それなのにまだ自分がそこにいた。バラバラにしてほしいのに。


「そりゃ、」ホーマーが、らしくなく熱っぽい声を出した。「当たり前のことだろ? 仲間なんだから」


「……え?」


「ユーリ、忘れたかもしれないが、ここにいる連中の大半は退役軍人だ。前の戦争を生き抜いた人間――であるからには、救えなかった人々を胸の内に抱えている。そうだろう?」


 瞬間、脳裏に人々が思い浮かぶ。アンナ、ノーラ、ルドルフにコロニーの人々。数えきれないほどに。


「その内に一人増えたところで、大して重さに変わりはない――それのために戦うならば、何も変わらない。そうだろう、ユーリ?」


「!」


「お前がサンテのことを気に病むなら――そんなことをするぐらいなら、奴のために生きろ、生きて戦え。いつかアイツや俺たちのような人間が戦わずに済む世界を作るまで、武器を取れ。それが償いというものだ」


「ホーマーの言い方はキツいが、」イーノックが頷いた。「要は、俺たちは世界のために戦う同志だってことだ――だから、責めないよ、ユーリ」


 そう言って、彼はユーリに手を伸ばす。握手とも、転んだ子供に差し伸べた手とも感じられる。だが、それは暖かいのだ。前は、誰も差し伸べなかったのだ。ただ雪だけが降っていて、それが彼の上に降り積もって、払いのけることさえできなかった。


 でも今は違う。


 きっと、この先も、同じことがあっても、彼らは自分を助けてくれる。雪を払って、笑いかけてくれる。そう感じたから。


「ありがとう――」


 ユーリは手を取った。もう、涙はない。命を懸ける覚悟のできた人間は、泣いたりしないからだ。

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