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第17話 再会、再開

 誰かに抱き止められたのだ、と気づいたのは、両肩を外から掴まれていたからだった。振り返って確かめるより先に、後ろの人物は手早く猿ぐつわを解いて、何かの刃物で親指の拘束を解いた。それから人工重力の通りにユーリの姿勢を直した。それから前に回り込んできて、ユーリは大きく目を見開いた。


「君は……シェルターの」


 シャーロットとパイロットを預けた例の丸刈りの少年が、宇宙服を着て立っていた。見ると、天井側にも避難民はもう一方と同じく列を成していて、彼は列からわざわざ離れてユーリを受け止めてくれたらしかった。彼は喜色満面に笑った。


「よかった、お互いに無事だったんだな! ……ええっと」


「ユーリだ。ユーリ・ルヴァンドフスキ。君は?」


「ウジェーヌ・セー。中等部二年」


 ――年下だったのか!


 そう思ったユーリは高等部二年、と返答しかかったが、よくよく考えれば重要ではないと思って、ただ「よろしく」とだけ返した。


 決して身長から同年齢だと思われているのかもしれないと感じてそれを確かめるのが怖くなったからではない。


「それで、」だからユーリは話題を変えた。「君が無事だということは、シャーロットも無事なんだな?」


「シャーロット?」


「僕とシェルター前まで一緒にいた子だ」


「ああ、あの子も無事だよ、少しショックを受けてるみたいだけど……」


 そう言いながら、チラリと列の方にウジェーヌは視線を送った。その先をユーリは追――うと同時に衝撃。再び彼は甲板からふわりと浮き上がった。


「うわッ」


「……ユーちゃん!」


 すると彼の眼前に浮き上がったのはくしゃくしゃになったシャーロットの顔だった。宇宙服のヘルメットに包まれたそれがユーリの額とぶつかって減速すると、慣性の法則で涙がふぁりと浮き上がる。


「本物のユーちゃんだよね⁉ よかった、生きてたんだ! 死んだんじゃないかと思ったァ……!」


 その全てがバイザーに遮られてユーリに届くことはないし、ましてやシャーロットの素肌が彼と接することもないのだが、にもかかわらず彼女はその硬質な表面を彼に押し付ける行為を止めようとはしなかった。バイザーを上げるために一瞬、それも数センチ離れることすら、彼女には永遠の別離に等しいもののようだった。


「何だよ、大袈裟だな」すると彼女に強がるように、ユーリは微笑みという表情を僅かながら思い出した。「確かに、ほとんど機体はボロボロになったけど……でも『ロジーナ』シリーズは、案外しっかり作ってあるんだ。見た目ほどおんぼろじゃないってことだよ」


「? ううん、そういうことじゃないよ、私が言いたいのは」


「え?」


 顔を上げ、震える目を丸くしたシャーロットに釣られてユーリも同じようにした。慣性に従って軽く浮き上がっていた体も従属先を人工重力に変えて、彼らの足を床に触れさせ減速させ、その感触は彼の思考を幾分か冷静にさせた。当然ながら別行動をしていた彼女たちがユーリの身に起きたことを知っているはずはない。


「あ、ああ……説明不足だったな。エンハンサーに乗って、撃墜されたんだ。それでコロニーの外に吸い出されて……」


 だから、彼は説明を付け加えた――が、そこまで言って、シャーロットらのどこか深刻げな深い谷のような表情と自分の重さの乗らない言葉とが嚙み合って行かないことに気がついてしまった。


「……違うのか? 何があったんだ?」


 そう聞き返しながらも、ユーリは心のどこかでは答えを求めてはいなかった。顔を見れば、何かが起こったことぐらい分かるのだから、それで済ませてしまいたかった、というのが本音だった。それは、何故避難民が軍艦にいるのか、という疑問の復活でもあるのだから。


「俺もそういうの趣味だから調べてて知ってるけど、」しかしウジェーヌは答えた。「それでよく済んだ、って意味だと思う。プディーツァ軍は何を使ったのか分からないけど……凄かったんだぜ、無重力になって洗濯機の中にいるみたいだった。コロニーが全部崩れてしまって……」


「コロニーが……崩れた?」


 思わず聞き返したユーリにシャーロットは続けた。


「本当だよ。真ん中の柱が折れてるのをシェルターを出るとき見たから。支柱だってくっついてるのはほとんどなくて……全部なくなっちゃったァ……」


 そして、その光景を思い出したかのようにそのまま丸まってまた泣き始めてしまった。その拠り所がなさそうに預けられた彼女の体重を、しかし、支えられるほどユーリには余裕などなかった。


「ぜ、全部って……」


 できるわけがない、と反射的に拒否しそうになった彼の脳裏には、気絶する直前の記憶が一時的に蘇っていた。確かにあの直前、支柱に直撃弾があったようには見えた。中央を走るメインの柱までは、記憶にないが……あんな盾にしやすそうなもの、放置されないはずがない。


 もし全ての支柱が破壊されて、主柱も吹き飛び、外壁も何らかの形で破壊されたなら――そこに予想された悲惨な結果に、彼は幻惑されてしまった。


「全部なのか?」だから彼はその苦しみから少しでも逃れようとした。「全部のシリンダーでそんなことになってしまったのか?」


「そうに決まってるでしょ⁉ じゃなきゃこんな風に船になんて乗せられたりしないよォッ!」


 しかしシャーロットの返答は感情的だったがその一方で無慈悲でもあった――それ故に返答を許さないという点で。


「そ、んな……」


 そこからは声になっていない「どうして」だけがずっと繰り返されたのだ。ユーリはその押しつけられた現状に後退りをしたかったが、身体的にそうするので精一杯で、代わりにウジェーヌが不安定に空中で揺れているシャーロットの体を横から支えた。


「……言いたいことも聞きたいことも山ほどあるだろうけど、」それから彼女を何とか立たせながら、彼は言った。「取り敢えず、今はやるべきことだけをやろう。そうすれば、少なくとも気は紛れるはずだから……」


「それは……そうだろうが」


「まずは取り調べじゃないか、ほら?」


 そう言ってウジェーヌは、ユーリの後ろの方にある一角を顎で示した。その視線に釣られてみると、そこには二人の兵士に向かって一人のパイロットが何かを説明しているところだった。


「パイロット……」すると、脳裏にはコックピットの残像。「あのときの?」


「そう。名前はノーラ・カニンガム。シェルターにいる間に目を覚まして……おい?」


 その先に続くべきウジェーヌの説明を完全に無視して、ユーリの体は勝手に動いていた。くるりと背を向け、ノーラたちのいる方へと早歩きで近づいて行った。


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