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表記本体その2-出来事表記

 とつぜん起こった出来事について、本体そのものに加えて、その前後の出来事にも特徴的な書きあらわしかたが見られました。それらを順に紹介していきます。




◆出来事A(事前の出来事)

▼行動企図・始動

 とつぜんの出来事が起こる直前では、作中人物がある行動を実施しようと考える(企図)、あるいは実際に開始する(始動)、という場面が多数見られました。

 典型的な例を挙げると――

 青信号になり主人公が交差点を渡ろうとする。するとうしろから、蹴りをいれられた。

 ――というもの。

 この場面、赤信号で待っているあいだに蹴られても、物語の展開に差し支えはないはずなのです。てか、そのほうが蹴りを当てやすい。

 でも元の演出のほうが、動作の出鼻がくじかれることによって、事態のとつぜんさがより際立つように感じます。

 本稿は少ないサンプルをもとに分析しています。しかしとつぜんの出来事の直前で、作中人物が何かを始める事例が目についたのは、決して偶然ではないように思えます。




◆出来事B(とつぜんの出来事)

 出来事B(とつぜんの出来事)の内容自体は、物語によってさまざまです。それでもそれらは、いくつかの分類に仕分けることができました。


▼突発固有事象

 世の中には特に説明がなくても、とつぜん起こった出来事であると一読して理解できる事象があります。具体例を見たほうが早いので、さっそく――


 電話の着信、地震発生、パトカーのサイレン、ドアのノック


 昨今の日本だと、Jアラートなども説明不要の事象でしょう。

 サイレンについては、パトカーはよいですが、救急車や消防車だと成立しないような。これらはほとんどの場合、消防署でサイレンを鳴らし始めるのが普通だからでしょう。


 あと電話の着信にからめて、余談を。

 雑誌記事かなにかで、脚本家の大御所が「最近のドラマは、場面転換に携帯の着信を乱用しすぎだ」とオコしているのを目にしたことがあります。それ以来わたしは、ドラマやアニメで着信シーンに出くわすと興ざめする体質になってしまいました。




▼突発象徴事象

 次もまた、特に説明が無くてもとつぜん起きた出来事だと理解できる事象です。まずは例を――


「がたりと物音がした」、「かさこそと音がした」、「ぐらりと視界が揺れた」、「スッと手が差し伸べられた」


 先の突発固有事象と違って、より身近に起こりうる事象です。その分とつぜんでなくても起こりうるので、とつぜんの出来事と受け取れるかどうかは事前の状況に依存しています。


 あと例示を見て分かるのは、どれも擬声語やそれに類する語を伴っていること。広く定着している擬声語は、シリアスな作品でも使われています。

 ただ実際に悩むであろうケースは、非日常的場面の書きあらわしかたなんですよね。とつぜんの猛獣のうなり声とか、銃の発砲音とか、(けん)(げき)の音とか。

「グルルルルと低くくぐもる音が聞こえた」、「バキューンと耳をつんざいた」、「キンキンキンキンと激しい音がした」

 稚拙な例示でアレですが、どれも真面目な緊迫した場面では使用を(はばか)れます。

 この課題については、今回の調査では答えっぽいものを見いだせませんでした。探せば参考になる事例があるはずなのですが、いざ探すとなかなか見つけ出せません。




▼察知

 異変の察知、これを出来事Bと分類するかCと分類するかは迷いました。

 まずは例を列挙すると――


「何かが聞こえた気がした」、「あることに気付いた」、「視線を感じた」、「気配を感じた」


 これらは先に取りあげた「突発象徴事象」よりも、出来事の正体を隠している、あるいは部分的にだけ明かしていると言えるでしょう。


 それで「察知」が、出来事BかCか迷った理由ですが。

 例えば「雷の音がした」は、迷わず「とつぜんの出来事(出来事B)」だと判定できます。しかし「雷の音が聞こえた」だと「とつぜんの出来事」そのものよりも、カメラを向けられている作中人物の変化(出来事C)に焦点を当てているように感じられるんですよね。

 でも一方で、慣用的に後者の形式でしか表記されない出来事が存在します。「視線を感じた」は、「視線があった」などとは書けません。


 で、この件については、次のように整理しました。

 ある出来事がとつぜん発生。それが、カメラを向けられている作中人物の五感に作用するところまでの描写は、出来事Bに分類する。


 ――えっと、こんなところにこだわりはないです。

 しかし仮にもこうした分類ごとをすると、境界間際には微妙な話が発生しちゃうんで仕方がなく。




▼突発(あと)説明事象

 これ、取りあげるかどうか迷ったのですが、一読者として一瞬混乱する技法なので、押し込みました。ネーミングがひどいのは、ほっといてください。

 とつぜんの出来事を、思わせぶりに書きあらわす技法です。例示すると――


「そして、その男は現れた」、「それは少女の姿をしていた」


 前振りがあれば、わたしの国語力でも事態を理解できます。

 ですが、それこそとつぜんにこの手の文章を挟み込まれると混乱します。「その」「それ」が差している箇所を読み落としたのかと、読み返すハメに(おとしい)れられるのです。で結局、それらの指す先は、そのあとの文章にある。だから、(あと)説明。


 実際のところ今回調査した書籍化作品には、そこまでわかりづらい書きあらわしかたはありませんでした。「前振り」と「とつぜん」はトレードオフの関係にあると思いますが、読者を混乱させないよううまく書きあらわしたいものです。




▼セリフ(感嘆符、呼びかけ、異質な応答、登場)

 それまでの出来事とは異質なセリフが、とつぜん発せられるパターンです。大抵はかぎ括弧(「」)でくくられる会話文ですが、地の文の場合もありえます。

 出来事B(とつぜんの出来事)になるセリフは、カメラを向けられている作中人物ではない人物により、発話されます。……まあ、意識を乗っ取られた主人公がとつぜん奇声を発する、などというパターンも考えられますが、そういうのは例外ということで。

 セリフについては、さらに4つに分けて見ていきます。


●セリフ(感嘆符)

 末尾に感嘆符(!)を伴うセリフは、とつぜんの出来事として、それまでの出来事と脈絡なく現れることが多々あります。

 例は、「こらっ!」、「起きろ!」とかですね。

 もちろん感嘆符が付いていないセリフでも、該当し得ます。


 あと、地の文で「怒声が響いた」、「悲鳴が聞こえた」といった文章がいきなり現れても、とつぜんの出来事だと理解できます。


●セリフ-呼びかけ

 人物に呼びかけるセリフも、前触れ無く、よく利用されています。読者にとってもとつぜん起こった出来事として、すんなり頭に入ります。

 主人公の名前が『山田花子』だとして、3つの例を挙げてみます――


「山田さん、なにやってんの?」、「あっ、おねえちゃんだ」、「あぶない、花子!」


 この「呼びかけ」の長所として、短いセリフのみでも誰が話者なのか読者に想起させることが容易です。

 先の例で言えば、各登場人物の主人公に対する呼称を事前に書きわけてあれば、「同級生が/妹が/恋人が言った」などという説明を省けます。


●セリフ-異質な応答

 会話が続いている状況で、カメラを向けられている作中人物ではない人物が、話の流れに沿わない話題を口にする技法です。

 このセリフ、作中の各人物に立場を切り替えると、出来事Bに相当したり、出来事Cに相当したりと変化します。「発話した本人」にとっては、とつぜんの出来事を感知しての発話なので、出来事Cになります。「聞き手であるほかの人物たち」にとっては、そのセリフそのものがとつぜんの出来事(出来事B)になります。……と、筆者は整理しました。

 この分類のセリフを例示すると、こんな感じ――


「おや? おまえの実力を試させてもらう機会がやって来たぜ」

「まあ冗談はこれくらいで。――真剣にやんなきゃならなくなったみたいよ」


 小説ではなくソシャゲの事例になりますが、「話の途中だが、ワイバーンだ!」は、その(かい)(わい)ではとっても有名です。


 この手法、筆者的には今回の整理を通して意識できたのですが、かなり使い勝手が良さそうです。セリフ自体で状況を説明できるし、会話にいつでも挟みこめて不自然にならないし。ただ反面、多用したり強引すぎたりすると某ソシャゲのように()()の対象になるでしょうし――現在は愛されていますが――、そこは注意が必要でしょう。


●セリフ-登場

 その場面に姿を見せていない人物のセリフが、ポンッと挟み込まれることがあります。たいていは、キザでかっこいいセリフです。主人公のひとりごとに、唐突に応じるケースも多いです。

 原典のままだと長すぎるので改変させてもらいつつ、3事例ほど用意してみました――


 悪党に取り囲まれた主人公が勝算のない戦いを覚悟すると、「そこまでだ!」と男の声が響く。


 ある失敗をした主人公が「笑って許してくれないかなあ」と思わず泣き言を口にすると、「全然笑えないわよ」と背後から恋人の声がかえる。


 夜の自室。主人公が翌日の心配をしていると、「大丈夫、そんなことないわ」とどこからともなく女の声がなぐさめる。


 ――やぼなことを言えば、「そうはならんだろ」とそのお膳立てに突っ込みたくなる展開もままあります。

 逆に一生に一度は、リアルにこういうセリフを口にして、どこかに(さっ)(そう)と登場してみたいものです。




◆出来事C(事後の出来事)


 次に、とつぜんの出来事のあとに、よく見受けられる内容を取りあげます。

 これらはとつぜんの出来事に対しての、いわば「お決まり」の反応とも言えそうです。時系列の面でも、出来事ACB型で用いられている印象がありました。


▼行動中断

 やめた行動、やらなかった行動を書きあらわす技法です。

 例を挙げます――


「その行動は(さえぎ)られた」、「笑みが消えた」、「言葉が止まった」、「立ち止まった」


 先に取りあげた出来事Aの「行動企図・始動」と(つい)になっている場合も多いです。やり始めを描写したらその結果も描写するのは、自然と言えるでしょう。




▼セリフ(感嘆符・疑問符)

 とつぜんの出来事に反応したセリフには、末尾に感嘆符(!)や疑問符(?)が付いていることが多いです。

 出来事Bでの「セリフ(感嘆符)」とは異なり、出来事Cの場合はたいてい、カメラを向けられている作中人物が声を発しています。

 疑問符付きは、出来事Bでもあり得ますが、出来事Cのほうがありがちな印象です。

 それで例を挙げると――


「いてっ!」、「きゃっ!」、「なに?」、「なんだ、これ!」


 といった感じですね。


「!――」、「……??」


 といった無音の会話文は、出来事Cならではだと思います。




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