【28】おっさん、間接的に領主の依頼を請ける
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【迷いの森】はSランク迷宮【魔女の塔】への行く手を阻むように周囲を囲むAランク迷宮で、その領域は常に数メートル先も見通せないほどの濃霧に覆われている。
しかも、これはただの濃霧ではなく、【認識阻害】にも似た魔術が付与されていて、探索する者たちの方向感覚と方位磁針の両方を狂わせる。
そのため、【迷いの森】を抜けて【魔女の塔】へ向かうこと自体が、かなりの難易度となっていた。
対面のソファに座ったアレックスが、渋い顔をして口を開く。
「実は、僕たちも毎回【迷いの森】を抜けられるわけじゃないんです。あそこでは樹皮に傷をつけたり、目印になる物を設置しても、すぐに消えてしまいますし、抜けられるのは経験豊富なメンバーでも二回に一回というのが現状なんですよ」
彼らの力量でも二分の一の確率というのは、相当に低い。
Sランク迷宮のある場所は、俺の古巣である【ドラゴンスレイヤーズ】のように、高位の冒険者クランが拠点を構えることが多く、その町または都市の冒険者ギルドは発展しているのが普通だ。
しかし、カウンティアは辺境ということを加味しても、Sランク迷宮を擁する都市とは思えないほど、高位の冒険者クランが少ない。
言ってしまえば、それはアレックスたちの【ブラッド・メイカーズ】のみとなる。
その理由が、【迷いの森】なのだ。
この非常に面倒で、その上実入りの少ない迷宮が道中に立ちはだかっているために、他の高位冒険者たちは【魔女の塔】攻略を敬遠しているのが実状だ。おまけにその【迷いの森】へ向かうまでにも、ミスティア大森林が行く手を阻むのだから、これはもう本当に面倒な迷宮なのである。
そのくらいの事情は、俺にも分かっていた。
「確かに、【迷いの森】を確実に抜けられるなら、探索の効率は格段に上がるだろうが……」
俺は難しげに呟いた。
アレックスたちの頼みは、「【迷いの森】を簡単に抜けられるようなアイテムを俺に作って欲しい」というもの。
果たしてそんなアイテムを俺に作れるのか? という不安がある。
それに素材となるスキル結晶がなければ、そもそも話にならないのだ。
しかし、なぜかアレックスは首を振った。
「ああ、いえ、確かに僕たちの探索効率を上げたいというのも理由なんですが……」
「ん? ……何かあるのか?」
「はい。僕たちも流石に、自分たちのためだけなら、こんな無茶なお願いはしませんよ。かなり難しい話だと分かっていますからね」
……何だかキナ臭い話になってきた。
「自分たちのため」だけじゃないとなると、何か他に理由があるのだろう。それが「正義のため」とか「地域振興のため」とかなら、俺的には何の問題もないのだが……。
「実は、ですね。【迷いの森】を簡単に抜けられるように……というのは、領主様からの依頼なんです。正確には、【迷いの森】を抜けられる「正道」を開拓して欲しい……というのが、僕たち【ブラッド・メイカーズ】に入った依頼でして」
「なるほど……」
確かに領主様からしたら、【迷いの森】があるばかりに高位冒険者たちが自分の領地に寄り付かないのだから、できれば解決したい問題だろう。
上からの無茶振りに困りきったアレックスたちが、僅かな希望にすがって俺に相談してきた――というのなら、どうにか頑張ってみるのも吝かではない。
「まあ、これは前々からできないかと打診されていた問題ではあるのですが」
以前から依頼の打診自体はあったようだ。
「しかし、さすがに僕らも無理だと断っていたんですよ」
まあ、無理なものは無理だしな。
「以前までは領主様もご納得されていたのですが、つい最近になって正式に依頼を出されまして」
いきなり無茶振りされても困るよな。気持ちは分かる。俺も急にポーション500本作っとけと言われた時は、いっそ逃げてやろうかと思ったこともある。ああ、これは【ドラゴンスレイヤーズ】にいた時の話だが。
「僕らも困るとは言ったのですが、そこで領主様からロイドさんを紹介されまして」
分かる分かる。困るよな。それで領主様が俺のことをアレックスたちに紹介したと……
「――え?」
俺はうんうんと頷いていた顔を上げて、アレックスを見返した。
「領主様が俺を?」
不思議だ。俺の知り合いに領主様なんていないはずなのだが。
「ええ、領主様がロイドさんを。スキルを入れ換えできるよろず屋の店主なら、何とかできるアイテムを作れるんじゃないかと」
「……」
「そういうわけで、この依頼を請けてくださったら、僕らからの報酬の他に、領主様からもロイドさんに報酬が出ると思いますよ」
領主様からの無茶振りが俺に来ていた件。
この依頼、請けるか請けないかで言えば、請けるしかない。単なる平民である俺に、領主様からの依頼を断ることなどできないからだ。
いや、もしも以前にウチの店に来ていたアッシュブロンドの男性が領主様だとしたら、断ったとしても咎められることはないと思う。それはアレックスを介して間接的に依頼されていることから、ほぼ確実だろう。直接命じないということが、領主様の気遣いなのだ。
しかし、断っても問題ないとは言え、それは領主様本人の話である。その周囲にいる人々が何か言う可能性もあるし、その言葉が平民一人を追い詰める結果になったとしても、俺は驚かない。やはり普通に考えて断ることなどできないだろう。
権力者に目をつけられると、こういう怖さもある。言動一つとっても、迂闊なことは言えないしできないのだ。
「分かった……努力はしてみるよ。しかしなぁ……」
俺はアレックスに頷きつつ、弱りきった声を出す。
領主様にお願いされたからといって、不可能なことを「はい、できます」とは言えないのだ。
今回の件、俺に【迷いの森】を突破できるようなアイテムを作れるかは、正直なところ自信がない。何と言っても、
「そのアイテムを作るにしても、元になるスキルがないと、どうにもできないんだが……」
と、俺が言うと、
「それはそうですよね。じゃあ、ウチの倉庫を確認してみましょう」
当然分かっている、というように、アレックスが続けた。
「ウチのクランで集めたスキル付きのアイテムを纏めてあります。それと、領主様からも役に立ちそうなスキルが付いているアイテムを幾つか預かって来ていますので、それを使ってアイテムを作れないか、試してもらっても良いですか?」
どうやら俺が懸念する程度のことなど、アレックスも領主様も想定済みだったらしい。
お読みくださりありがとうございます(o^-^o)
今回からちょっと改行の仕方など変えていますが、気にしないでください。




