【26】おっさん、アイテムを増殖させる
アイテムに元々付いているスキルを入れ換える。
それは確かに便利だし強力なスキルだが、今のところはそこまで危険視されることはない。あのアッシュブロンドの男性が、俺のスキルを知っても放っておいてくれるのが、その証拠だ。
というのも、アイテムによって付与できるスキルの上限数は決まっているのだ。
一つの武器にスキルをたくさん付けて、強力な兵器にする――ということはできない。
スキルを入れ替えて、さらにスキル同士がシナジーを発揮するようにしても、為政者が危険視するほど強力な武器にはできない――というのが、『スキル抽出』と『スキル付与』の限界だ。
しかし、この一見なんでもなさそうな新スキルは、事情が異なるかもしれない。
ギルドカードを見ていて、ふと思い浮かんだ俺のアイデアが本当に実現してしまったら、絶対に余人に知られてはならないスキルへと変貌する可能性がある。
「まずは、試してみるか……」
俺はアイテム袋の中から、アイテムを取り出す。
それは生活用の魔道具の一つで、主に野外で照明用に使われる「魔道式ランタン」だ。
俺が自分で作った物であり、鑑定すると【耐久値】の値が「0」になっている。
ここで説明しておくと、アイテムクリエイターや鍛冶師、錬金術師、魔道具師など、多くの生産職が習得する『リペア』というスキルでは、【耐久値】が「0」になった物を修復することはできない。
『リペア』というスキルの効果を説明すると、以下の通り。
『リペア』――「アイテムの【耐久値】を回復することができる。【耐久値】が「0」以下のアイテムは修復できない」
このように、『リペア』とはアイテムが完全に壊れる前に修復するためのスキルなのだ。
このスキルを使うに当たって修復用の素材は必要とせず、また、素材が必要になるほど大きな損傷があると、大抵【耐久値】は「0」になる。
なぜ俺が【耐久値】が「0」のアイテムを持っていたのかといえば、それは『アイテム分解』のスキルでアイテムを素材に戻し、再利用するためだ。
『アイテム分解』は、元より素材の量は少なくなるが、アイテムを素材に戻すことができるスキルなのである。
ともかく。
俺は壊れた魔道式ランタンに手を翳し、『パーフェクトリペア』を発動してみる。
原型を留めているからか、特に修復用の素材などは必要ないようだ。あるいは、魔力で代用しているのかもしれないが。
一瞬、光に包まれると、魔道式ランタンは新品同様の輝きを取り戻していた。
鑑定してみると、【耐久値】は「100」に戻っている。
消費した魔力は「5」
壊れているとは言っても、内部の魔道回路が劣化したのが原因だから、質量が大きく失われているわけではない。
魔道式ランタンを作成するのに必要な魔力は「10」。修復するのにその半分を使うのは、効率が良いか微妙なところではある。
「……修復できたな」
まあ、これは別に良いのだ。
【耐久値】が「0」になったアイテムを修復する方法は、他にもあるのだから。
例えば鍛冶師ならば武器防具を、魔道具師ならばマジックアイテムを完全に修復することができる。もちろん、『パーフェクトリペア』のように「一瞬」でとはいかないし、修復作業は全て手作業になるのだが。
だから、このスキルが問題になるのは、何も【耐久値】を「0」から回復できることじゃない。
「……次だ」
俺はアイテム袋から、新たなアイテムを取り出した。
取り出したのは木剣だ。
訓練用の木剣で、これも俺が作ったアイテムの一つ。店で売っている商品の在庫である。
俺はこれを、自宅の物置にあったノコギリで真っ二つに切っていく。
できるだけ重さが等分になるよう、重心を取って、その部分から切っていく。
そうして上下に二分割した木剣を鑑定してみれば、当然のように【耐久値】は「0」になっていた。
【名称】木剣
【種別】武器
【耐久値】0
【修復素材】木材
必要となる修復素材も、しっかりと表示されている。『パーフェクトリペア』を覚えたことで、『アイテム鑑定』の性能が変化したのだ。
ともかく、まずは片方に『パーフェクトリペア』を使用する。
柄の部分が残っている方で、修復素材は使用しないことにした。
「ぅおッ!?」
瞬間、柄を握ってスキルを発動した木剣の残骸に、とんでもない勢いで魔力が吸われていく。
木剣の残骸が光に包まれ、切断した部分から先が伸びるように修復されていき――完全に元通りの状態になると、木剣を包んでいた光が消えた。
そして傷一つない新品の木剣が姿を現す。
鑑定してみれば、当然のように【耐久値】は「100」に回復していた。
「今の魔力消費は……200くらいか」
それから俺は、ギルドカードで魔力の残量を確認する。
修復素材の種類によって異なるのか、それとも単に質量によって異なるのかは、もう少し検証してみないと分からないが、素材無しで半分になった木剣を修復するには、だいたい「200」の魔力を消費するらしい。
当然のことながら、普通に新品を作った方が魔力の効率は遥かに良いだろう。
「じゃあ、次は素材ありでやってみるか」
修復素材となる木材――料理用の薪を何本か用意して、それで『パーフェクトリペア』を発動してみる。
普通に考えれば木剣と薪では使用する木材は異なるはずだが、鑑定では「木材」としか表記されていなかったので、これでも良いはずだ、たぶん。
ともかく、スキルを発動すると木剣の剣身部分と薪が光に包まれ、次の瞬間には新品の木剣に変わっていた。
消費した魔力は「10」
「素材があるとだいぶ違うな」
素材ありで修復すれば、魔力の消費はだいぶ軽くなるらしい。
とはいっても、木剣を『アイテム作成』で作るのに必要な魔力が「10」なので、こちらも魔力効率が良いとは言い難い。ならば新しく作れば良いだけだからだ。
だが、問題はそこではないのだ。
「出来ちまったな……」
俺は目の前に並んだ二本の木剣を見つめて、途方に暮れたように呟いた。
これが完全に半分の質量を必要とするスキルであったなら、この木剣は修復できなかっただろう。ノコギリで二分割した過程で、木屑が飛び散っており、その分の質量が失われているはずだから、質量は半分を下回っているはずだ。
しかし、『パーフェクトリペア』のスキル説明には「アイテム質量の四割以上が残存していれば完全に修復することができる」とある。
四割以上ならば、他のアイテムを適当に二分割しても、スキルの対象になるだろう。
つまり、『パーフェクトリペア』を使えば、故意に二分割したアイテムを二つに増やすことができるのだ。
木剣のようなアイテムをそうする必要はないが、もしも貴重なスキル付きの武器や、古代遺物などのアーティファクトでも同じことができるなら?
もう二度と同じ物は手に入らないだろう、国宝級のアイテムでも増やすことができるなら?
そんなことができる人物がいたとしたら――俺が権力者なら、確実に飼い殺しにするな。
「……見なかったことにしよう」
『パーフェクトリペア』は【耐久値】が「0」になったアイテムでも修復可能なスキル。
それ以上でも以下でもないのだ。
お読みくださりありがとうございます(o^-^o)




