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【19】おっさん、掘り出し物を探す


 ある程度、魔力が回復して体調も戻ったところで、俺は冒険者ギルドを後にした。

 そのまま隣に併設されている倉庫へ向かい、採取の依頼をしていた素材各種をアイテム袋に収納して、ようやくギルドでの用事も終わりだ。


 いや、元々はすぐに終わる用事しかなかったのだが、予想外の出来事に時間を喰ってしまった。

 それでも時刻はまだまだ午前中だ。

 時間はあるし、予定通りに行動するとしよう。


「まずは……武器屋から回ってみるか」


 俺が新しく習得した二つのスキル――『スキル抽出』と『スキル付与』の効果を試してみるべく、俺は今日、スキル付きの武器を買ってみるつもりだったのだ。


 スキル付きともなれば、最低ランクの武器でもかなりの金額になってしまうはずだが……問題はない。

 ギルドにポーションを納品して得た金に、アイテムを売って稼いだ金。

 アイテムを作る素材はすべて仕入れているから、その分の元手は掛かっているが、それを差し引いても余裕で黒字だ。

 それに店舗は元々の持ち家だったのも大きい。

 初期費用はほぼ商品の素材分しか掛かっていないし、すでにそれも回収を終えていた。


「よし……行くか」


 とはいえ、無駄金を使うわけにもいくまい。

 お大尽様のように、あれもこれもと買えるほどの金は、さすがにない。

 何件かの武器屋を梯子して、その中から厳選した一品を購入するつもりだった。



 ●◯●



「…………」


 すでに時刻は正午を過ぎていた。

 俺は店舗が建ち並ぶ通りではなく、幾つもの露店が通りの左右を埋め尽くす、雑多な印象の市場を歩いていた。

 ガヤガヤとした雑踏の中を、露店の商品を見るともなしに眺めながら歩いていく。


「また、今度にするか……?」


 思うのは、それだ。

 確かに武器屋に、スキル付きの武器は幾つか置かれていた。

 しかし、高かったのだ。


 買えないというほどではない。

 今の俺ならば手が届く値段の武器は、幾つもあった。

 だが、だ。

 それらを目の前にして、俺は「ちょっと待てよ?」と考えた。


 俺が実際に使うわけでもない代物に、こんな大金を使っても良いものか、と。

 目の前のこれが本当に必要なのか、何か役に立つのか、本当に欲しいと思っている物なのか? 果たしてこれが無駄な買い物ではないと断言できるのか?


【ドラゴンスレイヤーズ】に所属していたといっても、冒険者としての依頼をほとんどこなせない俺では、収入は少なかった。

 その少ない収入を長年にわたって貯蓄していたが、そのお金で高価なアイテム袋を購入したから、貯蓄自体はそんなに多いとは言えない。

 確かに今は店の売り上げも順調だが、これから先もそうであるという保証はない。


 そう考えたらもうダメだった。

 生来貧乏性の俺は、もはや大枚をはたいて武器を購入する気力をなくしていたのだ。


 ならば代わりに露店で掘り出し物――スキル付きのアイテムだ――が無いものかと、こうして未練がましく歩き回っているのだが、簡単には見つからないから掘り出し物というのである。

 そんな物が大っぴらに売られているわけがなかった。


「帰るか……」


 諦めてそう決断しかけた時、ふと、耳に威勢の良い呼び込みの声が届いてきた。


「安いよ安いよ~! 安すぎるよ~!! ここじゃなきゃ買えないスキル付きの武器に装飾品ですよ~! 武器との出会いは一期一会、これを逃したらもう買えないですよ~! 安いよ安いよ~! 安すぎるよ~!!」


 何とも奇妙な――はっきり言えば胡散臭い口上だ。

 普段ならば見向きもしないところではあるが、今日はスキル付きの装備をずっと探していただけに、ダメで元々と確認してみることにした。


 胡散臭い口上の方へ近づいていくと、客は一人もいなかった。あれだけ大きな口上だというのに、通りすぎていく通行人たちが、視線一つ向けることはない。

 奇妙な違和感を覚えつつも、誘われるように近づいていく。


 すると、口上の主が見えた。

 深緑のローブを羽織り、あちらこちらにジャラジャラと派手な装飾品を身につけた人物で、髪は短めの茶色、瞳も同色だ。

 外見は完全に幼い少女のもので、十歳かそこらにしか見えない。

 しかし、店主が見た目通りの年齢ではないことに気づくのは容易だ。

 大きな丸い形をした耳はハーフリング族の特徴であり、彼らは大人でも普人族(俺も含めた、人類種族で最も数の多い人種)の子供にしか見えないのだ。


 察するに、あの露店の店主も成人しているのだろう。

 にやにやと笑っている表情が欲に目が眩んだ大人そのものだし、子供のような純真さが、残念ながら見られないので。


「おや? そこの格好いいお兄さん、どうぞどうぞ見てってくださいですよ~! 各地から集めたお宝逸品がたくさんあるですよ~!」

「……じゃあ、ちょっと見させてもらっても良いかい?」

「もちろんですよ~! ヒッヒッヒッ!!」


 店主と目が合った瞬間、そんなふうに誘われたので、露店に広げられている商品を確認してみる。

 並べられているのは確かに、武器や防具、あるいは装飾品に良く分からない置物みたいな物もある。あえて言えば装飾品の類いが多めだろうか。


 そして商品のラインナップに纏まりがない。

 煌びやかな腕輪や首飾り、指輪などがあれば、武骨で装飾一つない実用剣や盾があったり、かと思えば儀礼剣のようにゴテゴテと飾られた剣があったりと、どこか節操がない。


 俺はその内の一つに、『アイテム鑑定』をかけてみた。



【名称】衰弱の指輪

【種別】装飾品/呪物

【効果】指にはめた者の体力、魔力、気力を奪い、最悪の場合は死に至らしめる呪いの指輪。

【スキル】『衰弱』

【耐久値】57/100



「――って、呪いのアイテムじゃないかッ!?」


 鑑定結果を見た俺は、思わず大声で叫んでしまった。



お読みくださりありがとうございます(o^-^o)

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