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【16】おっさん、高位冒険者と会う


 ギルドカードを眺めながら唸っていた翌日。

 アイテムショップ「ロイドよろず店」は定休日を迎えていた。


 営業しながら商品補充のために『アイテム作成』しまくるのも無理がある話だし、何より素材の引き取りとか買い物とか、家のこともしなければならない。

 そんなわけで週に一日は定休日を設けていた。


 そして休日には冒険者ギルドへ出向くことになっている。

 先に述べた用事を済ませるためだ。


「あ、ロイドさん! こんにちわ!」

「やあ、エイミー。こんにちわ」


 ギルドのロビーに入って奥のカウンターへ向かうと、小さな女の子――に見える、エイミーが顔を上げてにぱっと笑った。

 混雑時を過ぎているためか、ギルドにいる冒険者の数も多くない。

 今ならエイミーも余裕がありそうなので、彼女に担当してもらうことにした。


「いつものやつですか?」

「ああ、素材の引き取りと、新しい採取依頼を出しにね」


 これは毎週の用事だ。

 先週に出した採取依頼で、納品されている物があれば引き取り、なければそのまま依頼を継続しておく。

 そして店で売れた商品を補充するために、必要となる素材の採取依頼を、さらに出しておく。


 商会なんかだと、まとめて買えば店まで届けてくれるが、冒険者ギルドではそうはいかない。配送(別料金)を依頼しない限りは、必ず依頼者が受け取りに行く必要がある。

 実のところ配送を依頼する依頼者も多いのだが、俺はアイテム袋があるため受け取りに来ている。新しい依頼を出す都合もあるしな。


「今週はどんな感じかな?」

「はい、順調ですよー! お陰様で魔女の森もすっかり元に戻ったので、先週ロイドさんが出した依頼は全て達成されてますね。いつも通り、隣の倉庫で受け取ってください!」

「おお、全部かい? そりゃ凄いじゃないか。分かった。帰りに持っていくよ」


 隣の倉庫とは、冒険者ギルドに併設された解体場兼素材保管用の倉庫のことだ。

 依頼で採取されたりギルドで買い取ったりした素材を、痛めることなく保管する設備がある。かなり大型の魔道具で、都市または大きな町のギルドくらいしか設置できないが。


「新しい依頼の方はどうしますかー?」

「今週は、そうだな……薬草類の採取は、先週と同じ量で頼む。それから、魔石とトレント材は五割ほど増やしてもらえるかな?」

「魔石とトレント材ですか?」

「ああ、生活用の魔道具が冒険者以外にも売れ行きが良くてね。品薄気味なんだ」

「おおー! 繁盛してますねー! わっかりましたー! 魔石とトレント材を五割増し、ですねー!」


 そんな感じで新しい依頼を出し終えると、


「そういえば、ロイドさん」

「ん?」

「何か、ギルマスがロイドさんに話があるみたいですよー?」

「そうなのか? 分かったよ」


 ギルマスであるザックと話す機会は少なくないが、事前にギルド職員に周知してまで呼ぶのは珍しい。

 何の話だろうかと首を傾げる俺に、エイミーは言った。


「今は二階の部屋にいますよー」

「ああ、了解」


 これは勝手に部屋――ギルマスの執務室だ――へ向かって、勝手に話してきてくれ、という意味だ。

 仮にもギルドマスターの部屋に部外者を一人で向かわせるのは防犯上どうなのかと思わないでもないが、当のギルマス本人がその許可を出しているのだからどうしようもない。

 俺はエイミーに苦笑して頷き、ギルドの二階へ向かった。



 ●◯●



 部屋の前に立ち、ドアをコンコンとノックする。


「ザック、俺だ! 入っても良いか?」


 大きめの声でドアの向こうへ話しかければ、応えはすぐに返ってきた。


「おう! 鍵は開いてるぜ! 入って来てくれ!」


 許可も出たのでドアを開けて中に入る。

 ギルドマスターの執務室には、奥に執務机があって、その手前に応接用のテーブルとソファが一組置かれている。

 ザックはソファの片方に座っていたのだが――、


「――おっと? すまん、来客中だったのか? 後で出直そうか?」


 ザックの対面に置かれているソファには、見知らぬ人物が二人、座っていたのだ。


「いや、大丈夫だ。ロイドに話そうと思ってたのは、こいつらも関係ある話だからな」


 そう言われたので、疑問に思いつつもドアを閉める。

 ザックたちの方へ近づくと、二人組の片方が立ち上がって挨拶してきた。


「初めまして。あなたがロイドさんですか? お噂はかねがね」

「ああ、初めまして。……聞いているのが、良い噂だと良いけど」


 手を差し出されたので握り返し、握手をした。

 相手は、若い――といっても、二十代半ばくらいの青年だ。

 金髪碧眼だがレオンのように男っぽい外見ではなく、どことなく中性的な容姿をしている。例えるなら物語の中の王子様然とした青年だった。

 しかし――、


(かなり、強いな……)


 冒険者なんてやっていると、見ただけで相手が強いかどうかが、何となく分かるようになってくる。そして実際に剣を交えたり、手を握ったりすれば、その人の力量はかなりはっきりと分かるものだ。


 とはいえ、俺ごときでは正確に判断なんてできはしない。

 それでも明確に感じ取れるほど、目の前の青年が「強い」と分かった。


「すみません、自己紹介がまだでしたね。僕はアレックスといいます。そしてこっちの……ちょっと愛想が悪いのが、スカーレットです」

「愛想が悪いは余計だ」


 青年――アレックスが、ソファに座っている女性――スカーレットを紹介する。

 彼女は鮮やかな紅色の長髪を頭の後ろで結んで垂らした髪型をしている。顔立ちは整っているが、アレックスの雰囲気とは逆に、睨んでいるのかと勘違いするほど鋭い眼差しをしていた。


 紹介されたスカーレットは、アレックスの言葉に忌々しげに顔を歪めたが、諦めたようにため息を吐くと、立ち上がってこちらに手を差し出してきた。女性にしてはかなり背が高く、目線が俺とほぼ同じところにあった。外見から推測すると、アレックスとほぼ同年代だろう。

 手を握り返して握手すると、彼女は鋭い視線で射貫くようにこちらを睨……いや、見てくる。


 そしてこちらもかなり強い。アレックス同様、俺じゃあ逆立ちしたって敵わないだろうな。


「アンタのことは聞いてる。ウチのもんが世話になったみたいだね。この借りはいずれ、アタシの名誉に懸けて必ず返す」


 少しだけ掠れたハスキーボイスでそんなことを言われると、何だか脅されている気分になってきた。

 借りって何だ? 俺、何か悪いことしたっけ?


 そんな俺の戸惑いを察したわけでもないだろうが、ザックが二人の言葉を補足した。


「ロイド、こいつらはウチで唯一のA級クランのクラマスと副クラマスだ。アレックスの方がクラマスで、スカーレットの方が副クラマスな。んで、解毒ポーションの一件でな、こいつらのクランに所属してる若いのが大勢、おめぇさんに救われたってわけよ」

「そういうわけです、ロイドさん。その節は大変お世話になりました。僕もスカーレット同様、このご恩は必ず返しますから、困ったことがあれば何でも言ってください」


 アレックスの言葉に内心で胸を撫で下ろす。

 借りっていうのは、「怨」じゃなくて「恩」だったというわけか。良かった……。


「まあ、話の続きは座ってしようや」


 とりあえず、ザックに促されて俺たちはソファに座った。

 さて、A級クランのマスターと副マスターを交えて、いったい何の話だろうか?



お読みくださりありがとうございます(o^-^o)

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