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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー集

街を誘拐した存在

作者: Sasanosuke

 ひらりひらりと薄紅色をした花弁が光と影を放ちながら舞い落ちる。


 夜桜の下での花見を終えた私は片付けをしてくれる部下に申し訳なさを感じながら大通りに呼んである無人タクシーに向かう。


 やや肌寒く感じるが瞼を必死に上げている私には夜風が冷たくて気持ちがいい。


 他の夜桜見物の人達も考える事は同じだったらしく大通りの無人タクシーの停車場には黒塗りの車が連なって停めてあった。


 自分の呼びつけた車のナンバーを携帯端末で確認しながら黒塗りの車の列の横を通っていると私の接近に合わせて一台の無人タクシーが電子音と共に左後方のドアを開く。


 ナンバーも……合っている。


 携帯端末を非接触通信端末にかざして私が乗り込んだ事を無人タクシーに認知させる。


『行き先を確認してください』


 非常に滑らかな合成音声が私に確認を求めてきた。携帯端末に送られてきた情報で間違いはない。


 確認を終え画面上に出ている承認の部分に触れると『情報が承認されました。指定されている待機時間の後に発車いたします』と合成音声が伝えてきた。


 それから目的地に着くまで会話は起こらない。


 筈だった。


『本日はご乗車頂き誠に有難う御座います。現時刻に乗っている全てのお客様に募金をお願いしております』


 乗っていた無人タクシーが減速し合成音声が急に喋り出した。


「なんだ?」


 聞き取れたのだが酔いが残った頭が仕事放棄をしている。


『本日はご乗車頂き誠に有難う御座います。現在、無人車両に乗っている全てのお客様に募金をお願いしております』


 壊れたのか? と思考した私の心に恐怖がじわじわと育っていく。


 私は自動車の運転の仕方がわからないからだ。壊れた無人車両の止め方を調べる為に携帯端末を取り出す。


 まずは運営会社に電話するが『大変混雑している為かかりません』と伝える場所にしか繋がらない。


 他の方法がないか窓の外を眺めると隣の無人車両が飛び降りるには躊躇する速度で並走している。


 横の乗客は私に気がつき身振り手振りで助けを求めているが恐らく私と同じ状況なのだろう。


 ふと後を見るが同じ速度で私が乗る無人タクシーに追従している。


『本日はご乗車頂き誠に有難う御座います。現在、無人車両に乗っている全てのお客様に募金をお願いしております』


 無人タクシーの自動音声は滑らかな口調で募金をお願いし続けている。


 携帯端末で現状を確認すると都市にある全ての無人車両が連なり動き続けている様だ。


 最終手段が取れるか確認する為に取り敢えずはドアや窓が開くか確認しよう。


『危険ですので走行中にドアのノブに触れないでください』


 ドアのノブに手をかけ軽く引くが警告の音声が出るだけ。どうやらドアには安全の為にロックがかかっている様だ。


 ドアのロックを探すのに悪戦苦闘していると私が乗る車両に何か柔らかく重い物がぶつかる衝撃が伝わってくる。


 身を守る為に咄嗟に身体を丸めた私の上を何かが滑っていきそのまま後方に流れていく。


 無理矢理出る事など私には不可能だ。


「どうやって募金すればいい?」


 答える筈が無い自動運転車両に問いかける。恐怖で体が震えている私は機械に抵抗する気力を失ってしまった。


『専用アプリの募金の項目を選び画面の指示に従ってください』


 来るはずのない返答が返ってくる。


 お酒も控えよう。もっと部下に優しくなろう。運動もしなければ。


 恐怖で体が震えて涙が出てくる。機械に負けた無様な私は笑われるのだろうか?


 震える指で確認ボタンに触れ専用アプリでの募金を完了した。


『この度はご協力ありがとうございます。目的地まで後十分で到着します。お忘れ物がない様ご準備をお願いします』


 私の乗る無人タクシーは脇道に逸れて通り過ぎてしまった私の自宅方面に向かっている。


 フロントガラスには赤黒い粘液がこびりついている。恐らくこの車両の上にも……。早くこの車両から逃げ出したいが抵抗はやめておこう。もう一度あの場所に戻らない為に。

最後までお読みいただきありがとうございます。


面白いと思われた方は是非ブックマークや評価での応援をよろしくお願いします。


次回作の励みとなりますのでご協力お願いします。


※この作品は他のサイトでもSasanosuke名義で投稿されています。

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