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「壊れる」という意味での「めげる」という言葉は方言か否か

作者: あいかわ祐

 今から10年ほど前のある日、どういった会話をしていたのかは今となっては定かではないのですが3、4歳ほど年下の知人と話しているなかで私が「壊れる」という意味で「めげる」という単語を使ったのです。


 するとその知人は「めげる」という言葉自体を初めて聞いたかのように、私に「めげるって何?」と問いかけてきたのです。私は自分より下の世代ではあまり使われない言葉なのかな? 程度に考え、「壊れる」という意味であることを説明しました。


 その知人と私は年齢こそ3、4歳離れていますが、同じ市に在住し、もっと言えば同じ高校出身でした。それにもかかわらず、さらに彼女はこう言い放ちました。


「それって方言か何かですか?」


 …………。


 いやいやいや!


 仮に!


 方言だとしても!


 同じ方言を話してるじゃない、私たち! と脳内で盛大に突っ込みました。筆者は西日本在住なので正確には西日本(なま)りに脳内突っ込みしました。

 当然のことですが、脳内言語は西日本訛りなのです。


 ともあれ、世間一般では「くじける」的な意味で使われていて、それは間違いなく標準語であると説明した上で、「壊れる」という意味で使うのが方言なのかどうかは判らないとその時は答えました。


 そして家に帰ってから念のため辞書を引きました。高校生の頃に買った旺文社の国語辞典です。

 最初「めぐ」という単語で探しましたが載っていなかったので、次に「めげる」という単語で探しました。すると載っていました。載ってはいたのですが、


 ①よわる。ひるむ。負ける。「難病にも―・げず」

 ②(方)欠ける。壊れる。


 うん。この(方)って方言って意味だよね、きっと。そうか、方言なのか。と思いながら今度は岩波書店の広辞苑を引きました。


 ①こわれる。欠け損ずる。日葡辞書「メグル」。好色五人女5「飛鳥川の茶入、かやうの類ごろつきて―・げるをかまはず」

 ②気が弱る。ひるむ。「暑さに―・げる」「失敗に―・げずにがんばる」


 うん? 今度は①の方に「こわれる」と載ってるぞ? そして例に挙がっている出典が古いな、これ。日葡にっぽ辞書ってキリスト教宣教師が作成したあの日葡辞書のことでしょ? 17世期初頭に発行(というのか?)されたもので、そしてもう一つの好色五人女も17世期後半に書かれたものだ。


 どうなのこれ? どう受け取るべき? 古い時代には全国的に使われていたけど、いまは地方にしか残ってない言葉、言い方ってことなのかな?

 もしそうならまさしく方言ということになるんだけど。

 いや。その前にそもそも日葡辞書は当時日本の政治の中心だった京都の言葉をベースに作成されてるし、好色五人女の作者である井原西鶴も和歌山の人だ。西日本では使われていた程度のことと受け取れてしまうのだが……。


 いろいろ考えたけど答えがまとまらないままこの件は私の中で棚上げされ、そして忘却の彼方へと追いやられました。




 そして最近になって、別のさらに歳の離れた知人との会話で、まさに10年前のやりとりと判で押したように同じやりとりをする羽目になったことから、かつてそんな事があったなということを思い出し--


 ちょこっとGoogleで検索してみました。


 すると、どうやら中国地方や山陰地方などでは「壊れる」という意味で使用するようです。

 筆者の居住地域は近畿ですが、方言としては中国地方の影響が強いと言われている地域なので、現在の近畿地方で使われているかどうかはなんとも言えません。


 阪神地域では使わないという情報が検索では出てきてますが、年配の方も使わないかは定かではありません。


 さらには関東をはじめとした東日本についてですが、検索をした限りでは使う使わない以前にまず通じなそう、という印象です。実際がどうかは知りません。関東に住んでる、幼い頃に住んでいた知り合いはいるにはいるのですが。


 その関東に住んでいた、という知人には通じてるか通じてないかはともかく、意味を問われた事がないので通じているか否かを気にした事がなかった……ということに今さら気づきました。最低ですね。私が。

 解らない単語の意味をいちいちたずねていたらキリがないので流されていただけなのかもしれませんね。そうだとすると申し訳ないことをしてしまっていたなぁ。


 そして東日本全般で通じないのであれば、それはもはや標準語とは言えないような気がします。

 私が決めることではないのですが。しかしながら標準語というからには自らは使用しないまでも、意味は通じて然るべきです。


 そういった観点から「めげる」という言葉は「壊れる」という意味で用いる場合には方言といわざるを得ないでしょう。東日本の方に通じないのであれば。


 どうですか? 東日本の方々、実は通じるよ! なんなら使うよ! とか……、ないか。

 



* * * * *


 最後に、参考までに。


 めぐ→壊す

 めげる→壊れる


 めんだ→壊した

 めげた→壊れた


 めんでもた→壊してしまった

 めげてもた→壊れてしまった


 めんでまえ→壊してしまえ

 めんだった→壊してやった

 めぐな→壊すな


 という感じに使います。後半がとっても不穏ですね! 日常生活の中で果たして後半部分のような言い方をする機会があるのか?

 そしてこれはあくまで筆者が暮らす地域の方言の場合であって、他の使用地域はまた違った言い回しをするのではないかと思われます。

上の例から筆者の話す方言が、どこ方言か判った方がいらっしゃるかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「もげる」についても考察してほしい。
[良い点] 同じ方面の匂いがしますね! たまに『砕く』の意味で『めぐ』って使ったりもしますし、『壊した』の意味で『めいだ』も使いますね。 後は知らない間に壊れていた何かを見て『めげちょる』も! いや…
[良い点] あいかわ祐様 昔、引っ越して、「めぐる」って表現にぶつかった。 シチュエーションから「取り除く」の意味で使われていると理解している。 だけど、この作品を読んで、元は「壊れる」の意味である…
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