第五話
次の日、僕は佐倉さんをずっと見ていた。正直、ストーカーレベルだと思う。けれど、任務上は仕方がない。今日、ひとつわかったことは、彼女が普通な女の子だったということだ。そのうえ、口癖も
「私、普通だから。」
ということが判明した。だからといって別に何の進歩があるわけでもないけれど。正直、肝心な彼女の悩みというものは、何もわからないままだった。
六時間目、待ちに待った委員会決めがある。僕は今まで委員会に積極的ではなかったので、いつもなら早く終わらないかと思いながら、机に突っ伏しているのだが、今回は別だ。
隣の神木さんのほうを見ると、少しワクワクしているようにも見える。神木さんは転校してきて以来、特に男子から大人気で、話しかける人も大勢いたが、あまりそういうことに慣れていないらしく、ツンとした態度をとっているみたいだ。けれど、周りの女子とはそこそこうまくやっているみたいで安心している。この語り口は、完全親の目線だなと思いつつ我ながら苦笑した。
まず初めに挨拶をした後、武田先生がこう切り出した。
「それでは、委員会を決めようと思う。まずは委員長と副委員長を決めようと思うのだが、だれかやろうというものはいるか?」
教室はシーンと静まり返った。こういうときに手を挙げる人はほとんどいない。よっぽど、委員長やりたいとかそういうのでなかったら、わざわざこんな手間のかかる役職に就くなんてある意味変態だろう。
「そうか、だれも自らやろうという人はいないのだな。これが決まらないと次には進めないからなあ。」
と武田先生が言う。
すると、信ちゃんが手を挙げて発言した。
「それだったら推薦で決めるのはどうでしょう。」
「そうですね、それでは推薦したい人はいますか。」
と先生は言った。
「山田くんを推薦します。」
と信ちゃんは言う。それを聞いて僕は茫然とした。僕の計画が狂ってしまう。佐倉さんと同じ委員会に入ろうと思っていたのに。そのうえ、委員長なんてまっぴらごめんだ。この学校では委員長、副委員長は自動的に生徒会役員になる。学校が好きじゃない人間が学校を運営してたらこの学校が壊れるぞ。そう思った。
しかし、なぜか周りの奴らもいいじゃん!とかわけのわからないことを言っている。みんな見る目がなさすぎるだろう。いくらみんながそういっても僕は嫌だ。そう思って、僕は辞退しようとしたそのとき、
「私は佐倉さんを推薦します。」
と神木さんが言った。なるほど、彼女は僕の計画をうまく機能させようと自ら奮闘してくれたみたいだ。そう言った後、特に女子から大きな拍手が沸いた。佐倉さんは顔色は変えず、愛想笑いをしていた。これは決定してしまいそうだ。
「それなら、佐倉が委員長、山田が副委員長でいいかな?」
僕たちはうなずくしかなかった。
こうやって信ちゃんのせいで僕は生徒会兼副委員長となってしまった。信ちゃんになぜ僕を推薦したのかを問い詰めると、意外とジャスティスはこういうの向いていると思うんだよ、とわけのわからないことを言い出した。正直、迷惑だったけれど、いつもそれ以上に世話になっているし、学校でも評価が上がるならそれはそれでいいのかもしれない。
僕はその日の帰り道、神木さんと帰っていた。
「まさか山田くんが生徒会兼副委員長だなんて信じられないよね。」
そう神木さんは笑いを含ませて言ってくる。
「僕だってやりたくはないよ。今回はミッションだからやってるだけ。信ちゃんも趣味が悪いよ。僕がこういうのに向いてるだなんて。」
「そんなことないと思うよ。山田くんは人に頼まれたこときちんとやれる人だもん。」
神木さんはいつも思うけれど、僕のことを過大評価しているところがある。それは何となく、後でその期待を裏切ってしまいそうで怖かった。
「まあそれはそれとして、神木さんは図書委員になれてよかったじゃないか。」
「まあ、そうなんだけど、、、。一緒に委員会をしたい人がいたんだけど、その人と一緒じゃなくて残念かなって。」
「そうか、そんなに仲のいい女友達がいるのか!よかったな。」
と僕が言うと、神木さんはそういうことじゃないと言って、ほっぺたを膨らました。僕はよくわからないなと思いながら、帰路を歩いていく。