第四話
「それでその依頼っていうのは何なんだい?」
と僕は尋ねる。
「私たちのクラスメイトに一人、悪魔に取りつかれている人がいるの。その人の悪魔を取り払ってほしい。」
と彼女は言った。
「それは誰なんだい?」
「佐倉咲っていう子なんだけど、知らない?」
僕は考える。けれど、最近クラスメイトになった人のことなどおぼえていない。
「知らないや。」
と答えると、
「あなた、私にしか興味ないもんね。」
といたずらっぽい目でそう言ってきた。その姿を見て惚れ直す。これからどれだけ惚れ直したらよいのだろうか。
「まあ、そういうのは置いといて、その人のことを観察して少しずつ話せるようになるしかないかな。」
と僕は言う。
「そうね、頑張りましょう。」
神木さんはそういうと校門の方へと歩き出した。僕はどこへ行くのだろうかと茫然と立っていたのだが、
「何してるの?一緒に帰るわよ。」
と当然のように振り向きざまに言われた。僕は分かった。この人は男女が一緒に帰ることがどれだけのことかがわかっていないのだということを。
そして僕は次の日から、佐倉さんの情報を集めるためにそれとなく、周りの人に聞いてみることにした。
「信ちゃん、佐倉さんって結構仲がいい?」
「あまりしゃべったことはないけど、この学年では相当有名な人だよ。」
「どうして。」
「この学校で一番成績がいいから。もう普通のレベルじゃなくて、ずば抜けているらしいよ。」
「なるほど、なるほど。そうなんだ。」
「ところで、どうしてそんなことを聞くんだい?もしかして神木さんと二股か?」
「なわけないだろ!」
とこんな具合でいつもいじられる。しかし今回はなぜかむきになってしまった。
「それで、どの人が佐倉さんなんだ?」
と聞いてみる。すると、あそこと言って信ちゃんが指をさす。その指の先を目で追う。なるほど、佐倉さんはこの人だったのか。特徴という特徴はないけれど、一般的にいういい人というレッテルをはられそうな真面目そうな人だ。眼鏡をかけていて長い髪を後ろで束ねている。それから僕は、もちろん接点がなかったのでどうやって仲良くなろうかと考えることにした。
「ありがとう、信ちゃん。」
「どうってことないぜ。」
と彼はそう言うとグットポーズをして去っていった。
六時間目が終わり、帰りの会が始まる。いつもは連絡もなくさようならって挨拶するだけなのだけれど、最後に武田先生はこういった。
「明日のホームルームで、委員会決めるから各自何をやりたいか、考えてくるように。」
僕はそう聞いて、ひらめいてしまった。いい作戦を。
帰り道、僕は昨日と同じように神木さんと一緒に帰る。正直、今でも何となく実感がわかない。
「山田くん、佐倉さんの作戦ちゃんと決まった?」
と聞いてきた。
「そりゃもう、すごいのが見つかったよ!」
「えっ、どんな作戦?」
「佐倉さんと同じ委員会に入って親睦を深めるってのはどうかなと。それで悩みを聞き出すことができたらいいなあって。」
僕たちの学校はクラスで二人ずつ各委員会に入ることになっている。僕は佐倉さんが入る委員会に後出しで入ることになる。
「なるほどね~。それはありかもしれない。」
と神木さんは言い、少し悲しそうな顔をした。
「ところで、神木さんは何の委員会に入ろうと思うの?」
「図書委員だよ。」
「なるほどねえ、本好きそうだもんね。」
「そう見える?」
と神木さんは言って僕の顔を覗き込む。あんまり直視しないでほしい。こっちが恥ずかしくなる。
「それなら頑張ってね。」
と彼女は僕に言い、バイバイをした。