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あらすじ
―ある国の辺境に、薬師の女がいた。
森の奥深くに住み、まれに近隣の村に出て来たかと思えば、香草や丸薬を売った端金で少量の調味料や衣服を買い、また戻っていく。その変わった女が売る薬は魔法薬のような神効はないものの、一定の品質で卸される上に民間薬よりよく効いた。女は決して村の人々に危害を加えず、むしろ敬意を表して接していた。最初は警戒していた村人たちも、次第に気を許し、古の薬師の異名を以て女を畏敬した。
女が住む森は木漏れ日が差し込む、暖かな森だった。そこは菫の群生地であり、春になると美しく咲き誇っていた。
そこから名を貰い、いつしかその女は『菫の魔女』と呼ばれるようになった。
これは、魔女とよばれた薬剤師の話―