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RainyKiller  作者: 江菓
3/3

音のない雨

 目が覚め、時計を見る。もう昼の十二時だった。大きなあくびをして、いつも通り机に向かう。カチカチとマウスをクリックしてネットニュースを見る。トム・アシュリーの殺害から十日もたつというのにいまだにネットニュースはその話題で持ちきりだった。トム・アシュリーはどんな人間だったか、今までの行い、この犯人は天使か悪魔かなどと騒ぎ立てている。

「ばかみたい、まるで水を得た魚。」

そう呟いて、ネットニュースを見るのをやめ、ダイニングに行った。

お昼ご飯であろう三個のパンが乗ったお皿とメモが一つ置かれている。

『出来立てのパンを置いておくから食べてね!冷たかったらチンして!一階にいます!byリサ』

メモに目を通し、パンに視線を向ける。

「絶品ウィンナーパン、リサ特製ハンバーガー、スマイルチョコパン。」

パンを指さしながら商品名いう。預けられたころから毎日のように見聞きしてきた名前。もう、見た目だけで名前が思い浮かぶ。

「もうここに十年お世話になってるのか・・・。」

そう呟き、無表情でスマイルチョコパンのチョコペンでパンの表面に描かれたにこちゃんを見つめる。六歳のころ、初めてここで過ごした夜。なかなか寝れなくてリサがこのパンを夜なのに作ってくれたっけ。にこちゃんがかわいくてずっとお気に入りだったな。そんなことを考えていると、後ろからシャッター音が聞こえた。振り返らずとも誰かわかる。

「その写真消さないと怒るよトレバー。」

「え~怒らないでよ~かわいい顔なんだから笑って!」

「うぜぇ。」

椅子に座り、ウィンナーパンにかぶりつく。トレバーは当たり前のようにクラウスの前に座る。トレバーはうれしそうな顔でクラウスのパンを食べる顔を見ている。

「こっち見んな気持ち悪い。」

「クラウスかわいいからつい見ちゃうの!」

「トレバー朝ごはん食べた?」

「え?食べてないよ。早くクラウスに会いたくて!」

「じゃあ、これあげる。」

そう言ってスマイルチョコパンをトレバーに手渡す。

「え!?いいの!?」

「うん。」

「やったぁぁぁあああぁぁ!」

「うるさい。」

「家宝にする!!」

「食え。」

「じゃあ、食べる!」

トレバーは素直にスマイルチョコパンを食べ始めた。

「そのパン。私の一番のお気に入り。」

「そうなの!?俺もこれ今好きになった!クラウスとお気に入り同じだわーい!」

「子供かよ・・・」

見た目は二十五歳の大人なのに、中身は子供っぽい。トレバーのそういうところを見ると、今までよく情報屋できたなーと思うクラウス。トレバーがパンを食べながら話しかけてきた。

「外雨降ってたから結構濡れちゃったんだよね~タオル持参して正解だった!」

「雨降ってたんだ。気付かなかった。」

「テレビで雨の特集しててさ!今日は多分小糠雨っていう音を立てず静かに降る糠のような雨なんじゃないかな!」

「ふーん。」

トレバーがニコニコと話すのを聞きながらパンを食べる。トレバーはとても楽しそうだ。

 パンを食べ終わると、クラウスは皿を洗い、トレバーの話を聞いた。

「次のターゲットはチルノ・ガルド。プロの詐欺師だ。」

「詐欺師なんて、いくらでもいるんじゃない?」

「いや、こいつは本当にヤバイ。」

「どこが?」

「まあ、よくいるのは高齢者や気の弱いやつばかりだが、こいつは会社をつぶしてる。」

「会社を?たとえば?」

「クラウスが好きだったカーリングスナックあるだろ?」

「うん、3年前に会社が倒産したよね。なんで知ってるの?それ好きだったの十歳くらいの時だよ?」

「調べた。」

いつものマスクをつけているため、分かりずらいが、きっとマスクの下はにんまりと笑っている。話を戻すね、とトレバーはしゃべりだした。

「その会社とライバルだった会社があるんだ。あくまで噂だがその会社がチルノを送って破綻させたらしい。その際、カーリングスナックの新作のレシピもライバル会社に流したみたいだ。結局そのライバル会社もつぶれたがな。」

「そうなんだ・・・大好きなお菓子だったのに・・・」

「詐欺師というかスパイというか・・・まあ、やばいやつだ。詐欺した金で女に豪邸にクルーザーと楽しく暮らしてるらしいぞ。」

「ふーん。どう殺そうか。」

「この前、俺とデートした時に買ったバタフライナイフを使えばいい。」

「あれはしぶといやつの息の根を止めるためのもの。普通には使いたくないの。」

「へーそれって俺が選んだから?」

トレバーがクラウスに期待の目を向ける。

「そうね。そういうことにしとく。」

「うぁぁっぁぁっぁあぁぁ!!」

「うるさ。」

「めっちゃうれしい!!もう!付き合ってください!!!!」

「今はそういう気分じゃないの。ごめんね。」

「また、告白してもいい!!??」

「いつでもどうぞ。」

「わかった!!!」

「じゃあ、行こうか。」

「チルノの家?」

「当たり前でしょ。車出せる?」

「もちろん!!!下で待ってて!!!」

「はーい。」

トレバーが出ていくのを見送ると、自室に戻り、いつものウエストポーチに財布とカメラ、ハンカチを入れ、最後にバタフライナイフを入れた。この前と同じ格好をして、レインコートを持ち、家を出た。


 クラウスとトレバーを乗せた車はマーレット市を走っていた。窓の外は普段子連れが多く、観光スポットも多いため人があふれかえっているマーレットとは程遠い人気のない道路だった。

「人、いないな・・・」

「そうだねぇ~。結婚したらこの市に住もう!子供は何人がいい?俺は三人かな!」

「告白が成功してから言ってください。妄想は聞きたくない。」

「妄想じゃなくて、クラウスと俺の未来設計図!」

「・・・。」

「そうだ、今日はどうやって殺すの?」

「ん~チルノはこの時間何してるかわかる?」

「確かこの時間は風呂に入る準備してるんじゃないかな。」

「えっ早くね?まだ四時半だよ?」

「仕事をうまくするやつのルーティーンだよ。五時にお風呂に入って、一時間だけ仮眠取って、仕事を再開する。」

「えっじゃあ、あいつは一時間しか寝ないの?」

「そうだよ。あいつはショートスリーパーってやつなんだ。だから、寝込みを襲うのはやめたほうがいいな。」

「ふーん・・・あっそうだ。」

「なになに!」

「後で教えてあげるよ。ほら速くいかなきゃ。チルノはお風呂長いほう?」

「んー普通くらいじゃないかな三十分くらいだし。」

「なるほど。じゃあ、早く行こ。」

「チルノの家まで飛ばすぜ!」

そう言ってトレバーは車をさらに早く走らせた。


 マーレット市の少し高いところにある高級住宅街。立ち並ぶ大きくきれいな家々の中でもひときわは目立つ豪邸があった。

「ここがチルノの家?」

「そう。様々な人を騙して巻き上げたお金で立った豪邸。」

「早く行こう。」

「あっちょっと待って。」

「何かあるの?」

「監視カメラハッキングするから。あとついでにドアの電子ロックも解除する。」

「ほんとに何でもできるんだ・・・」

「何でもじゃないよ。ピッキング、現場掃除、死体処理、証拠隠滅、情報収取、ハッキング、戸籍消去くらいじゃないかな。」

「めっちゃできんじゃん。すごい。」

「えへへ全然だよ。趣味だし、家事とかできないからクラウスが妊娠したら手伝えないよ・・・でもその分子供の世話は俺がするよ。」

「証拠隠滅と現場掃除は何がちがうの?」

「俺がそういってるだけだけど、証拠隠滅は指紋とか犯人に足がつくようなことを消したり見つからない場所に捨てたりするんだ。現場掃除は死体とか使った道具を跡形もなく掃除すること。だから、現場掃除すると行方不明で終わってることがあるね。」

「なるほど・・・」

「まぁみんな安いから証拠隠滅の方ばっか注文するんだよね。」

「へぇーちなみにいくらするの?」

「証拠隠滅が500万、現場掃除は800万だよ。」

「高っ」

「手際がいいからみんながどんどん金額あげちゃって、今じゃ昔から仕事くれる人しかいないよ。」

ニコニコと笑いながら、手を止めずにハッキングをしている。敵に回したくはないなと思った。

「はいできたよ。もう入っても大丈夫。」

「すごいな・・・さ、行こうか。」

「はーい」

車から降りるとまるで今から遠足に行く子供の様に浮かれているトレバーが門と扉を開けてくれた。扉の先は白を基調とした広い玄関だった。

「まるで城だな・・・」

「俺はこういうとこより狭くて隠れ家って感じのとこだ好き。」

「私も、広いとこより狭いとこがいいや。掃除楽だし。」

トレバーと話しながら広い屋敷を回る。扉には何室か書いていないので中の音を確認しつつ部屋の中を見てチルノがいるはずのお風呂場を探す。

「やっぱり俺ら気が合うね!」

「私そのノリ合わないから気は合わないと思うよ。ここお風呂場?」

「そうだよ!」

白い扉を開けると脱衣所らしく、洗面台と洗濯機などがあった。すりガラスの扉の奥からはシャワーの音とともに下手くそな鼻歌が聞こえる。小声でトレバーに話しかける。

「シャワー長くない?」

「言うの忘れてたんだけど、チルノは風呂の湯につかるのは短いけどシャワーが糞ほど長いんだった・・・伝え不足だすまん・・・」

「別にいいよ。なんか殴れるやつない?」

「うーん・・・あっこれは?」

トレバーはビニール袋と小さな箱を洗面台の下の棚から取り出した。

「何それ」

「ビニール袋と小銭。」

「なんでここに小銭があるんだよ。」

「チルノは変な癖があってな、小銭を財布にしまわずにポケットに入れるから洗濯の時にポケットから出た小銭をこの箱に入れてるんだよ。」

「なるほど。」

シャワーの音と鼻歌はまだ止まっておらず、鼻歌と一緒に音楽をかけ始めた。多少の物音ならばれないだろう。ジャラジャラと音を立て、ビニール袋に箱の小銭を移すと、結構な重さになった。ビニール袋の口を結んでふさぎ、静かにお風呂の扉を開ける。ちょうど髪を洗っており、こちらに気付いてないようだ。小銭の入ったビニール袋をチルノの頭に振り下ろす。チルノは「ウッ」という声と共に気を失った。

「トレバー、こいつの髪洗い流してお風呂場に入れてくれない?」

「はーい!」

トレバーにチルノを任せ、小銭をビニール袋から出して、箱に入れて元の位置に戻した。ビニール袋は一応持って帰ることにした。触った物を近くに落ちていたタオルで拭いた。

「クラウス、できたよ!」

トレバーの服はびちょびちょになっていたがトレバーは気にもしていないようだった。

「ありがと。」

コンセントをつなぎ、電源を入れたドライヤーやヘアアイロンなどを持って風呂場に行く。

「トレバー下がってて。」

「何するの?」

「うまくいけば人が感電死するのが見れるよ。」

「何それ面白そう!」

電気の通った家電たちを気を失ったチルノの入った湯船に投げ込む。チルノの体が小刻みに震え始め、徐々に煙が出始めた。チルノの煙が換気扇に吸い込まれていく。

「すげぇ!!」

「ほんと、一度やってみたかったんだ。ちなみに感電してる人がいたらドロップキックしてあげれば助けられるよ。」

「さすがクラウス!物知りだな~!」

ある程度して、電源を抜いた。チルノが息をしていないことを確認し、ついでに横に出ていた手首の血管を切り、湯船に押し入れといた。

「さ、帰ろっか。」

「そうだね!」

トレバーはクラウスがチルノにいろいろしている間に証拠隠滅を終わらせていたようだ。

そそくさとトレバーの車に乗りこんだ。

トレバーは車を走らせ始めた。

「ねぇねぇクラウス!」

「何?」

「今からデートしない?」

「なんで?」

「おなかすいたからトリンド行こうよー」

「えー仕方ないなーいいよちょっとだけ付き合ってあげる。」

「わーい!やったー!」

喜ぶトレバー質問した。

「そういやさ、絶対誰かに見つかってるでしょ。車、家の前にとめっぱだったし。」

「大丈夫だよ。」

「なんで?」

「だってあの辺の監視カメラ全部ハッキングしたからどこの監視カメラにも俺らは映ってない。もし近くの住人が見てて証言したとこで監視カメラに写ってないから大丈夫だよ。」

「そうなんだ・・・」

「何?捕まるのが怖い?」

「いや、捕まったらリサの迷惑になるし、こんな楽しいこともうできなくなるのが嫌なんだよね。」

「う~!そういうことさらっと言っちゃうととこが大好き!」

「うるさい前見ろ。」

「はーい!」

トレバーは嬉しそうに運転している。

 カフェ「トリンド」に着くとトレバーがまたそのまま行こうとしたのを止め、マスクに変えるように言った。トレバーはしょんぼりしたがそれを置いてカフェに入った。入るとレジ辺りで店員さんと話している茶色のトレンチコートを羽織った男の人に話しかけられた。

「こんにちは、ファリス警察署のバーバル刑事と言います。トム・アシュリー殺害事件について調べているのですがお話よろしいですか?」

「いいですよなんでしょう?」

「事件のあった日、ここにいましたよね?」

「確かに。」

「ほかにもう一人男の人がいたと思うんですが何をしていたんですか?」

「デートです。」

「なるほど。アシュリーさんのことは知っていましたか?」

「いえ、ニュースで初めて見ました。ここの常連さんだったんですか?」

「はい。ちなみにここでお茶した後は何処へ?」

「えっえっと・・・」

「なにか言えないことでも?」

「あの後は・・・ホテルに・・・」

手で口を隠しながら照れたように言う。実際はトムを殺しに行ったのだが、嘘をつくしかない。少しドキドキしながらバーバラ刑事を見る。

「おっと、それは失礼。話は以上です。ありがとうございました。」

「いえ、犯人が早く見つかるといいですね・・・。」

「はい・・・では。」

バーバラ刑事は会釈して出て行った。前と同じ席に行き座ると、気持ち悪いくらいニコニコとしたトレバーが歩いてきた。

「なんでそんなニヤニヤしてるの?」

「いやぁ~あんなこときちゃったらな~」

「なんのこと?」

「この前はデートで~そのあとホテルなんて~」

トレバーは照れたように言う。

「・・・さっさと注文して食えよ。」

「はーい。そんな照れなくていいのに。」

「照れてない。」

トレバーが料理と飲み物を頼むと、ついでにクラウスの飲み物も頼んでくれた。そこから先ほどのバーバラ刑事の話などを話し、家の近くまで送ってもらった。

「ありがとう。じゃ。」

「うん!バイバイ!」

トレバーと別れ、家に帰る。リサはまだパン屋で明日の仕込みをしていた。家に入り、自室に行く。

「今日は写真撮るの忘れたな~。まぁいいか。」

いつものように隠している日記を出し、書き始めた。


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