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RainyKiller  作者: 江菓
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大量に降る雨

  第1話・大量に降る雨

 行きつけの本屋を出る。雨の中、ビニール傘をさして隣のファリス市行きのバスが止まるバス停に向かう。クラウスの頭の中で「ファリス市には行きたくなかったな・・・」「好きな作家さんだから仕方ないか・・・」「雨なのいやだな・・・」という気持ちがぐるぐると駆け巡る。

 バス停につくと屋根の下に入り、傘を閉じる。少し待つとバスが来た。久しぶりのバスにびくびくしながら乗る。一人席に座り、財布を確認する。本の代金とは別でバス代くらいはありそうだ。傘についた雫がバスの床を濡らす。窓の外ではさっきより雨が一層激しく降っている。バスは若者が集まるきらびやかなファリス市に向かって走った。


 ファリス市の本屋近くのバス停につくと、乗車代を払いバスを降りる。傘を差し、歩き出す。周りはイチャイチャしているカップルや騒ぐ若者であふれかえっている。ピンクや黄色の目が痛くなる色の店が立ち並んでいる大通りを外れ、さっきよりは静かな通りに行く。うろ覚えだがなんとか本屋にたどりつき、本屋の屋根の下に入り傘を閉じて傘立てにいれた。扉を引くとカランコロンと鈴の音が鳴り、店員さんに「いらっしゃいませ」と言われる。

「あ、あの、えっと、バコットって人の、本って、どこにありますか・・・?」

「バコットさんの本でしたら二階のF―15の棚にありますよ。もし、お時間があるのでありましたら三階のカフェにもよって行ってくっださいね!」

「あ、ありがとうございます。寄ってみます・・・」

店員さんの笑顔が眩しい。ぺこりとお辞儀をし、階段で二階へ行く。

「F・・・F・・・あった。」

Fと大きく書かれた棚を見つける。Fの棚に近付きよく見ると一人一人の作家に数字がついていた。

「ガウェンは3番、キャンデイは8番…なるほど、こんなふうになってるんだ。」

15番にいくとバコットの本が大量にあった。同じ本が二、三冊おいてある。

「えーと、あった『晴れ好きの殺人鬼』。あと一冊だけだったじゃん危ない・・・」

本を手に取り、二階のレジに向かう。レジカウンターに本を置くと、店員さんがピッと本にバーコードリーダーを当てる。

「1500円になります。カバーはつけますか?」

「大丈夫です。」

「わかりました。」

財布から1500円をだし、カウンターに置く。袋に入った本を受け取る。

「ありがとうございましたー。今は三階のカフェでご利用できるドリンク全品半額チケットを1000円以上お買い上げのかたに配っております。ぜひカフェに行ってみてください。」

棒読みでそういわれた。店員さんはチケットを袋に入れてくれた。クラウスは袋を持って三階へ上がった。

 三階のカフェに行くと、客は少なく落ち着いた音楽が店内を美味しいにおいと共に漂っていた。

「いらっしゃいませ!お好きな席にどうぞ~!」

女の店員さんの声で止まっていた足を動かし、とりあえず壁際の二人席に座る。座ると、少しして水とおしぼりをおぼんに乗せて店員さんが注文を聞きに来た。

「ご注文お決まりですかー?」

「あっ、えっと・・・」

メニュー表を手に取り、ドリンクの欄にあるコーラを選んだ。

「こ、コーラで・・・」

「コーラですねー他に何かありますか?サンドイッチなどもオススメですよー」

「コーラだけで大丈夫です・・・」

「かしこまりました。少々お待ちください!」

店員さんがおぼんを持ってカウンター席の方へ走って行った。財布を取り出し中のお金を数える。

「あと、3000円か・・・結構多めに持ってきてたな。コーラが320円で、半額チケット使うから160円か。大丈夫そうだな。」

お金を財布に戻し、何もすることがないことに気がついた。ポケットには財布とさっき貰ったカフェのドリンク半額チケット、ポケベルだけだ。店内を見渡すと、雑誌と新聞くらいしかなった。仕方ない、とさっき買った『晴れ好きの殺人鬼』を読むことにした。

 本の世界に入り、たまにコーラを飲みつつカフェでゆっくりと本を読んでいた。本の一章を読み終わり、ポケベルを見るともう6時だった。

「6時!?えっ急いで帰らなきゃ!」

残り少ないコーラを飲みきり、荷物をまとめ、レジへ行く。店員さんに半額チケットを渡し、お会計を頼んだ。

「合計で160円になります。」

レジカウンターにお金をおく。

「160円、丁度ですね。レシートです。」

「ありがとうございます。」

レシートを受け取ると、1階にダッシュで降り、傘をさして走ってお店を出た。

「まだバスあるよね!?」

全力で運動不足の体に鞭を打ち、走ってバス停に向かう。しかし、運動不足の体には限界があった。石ころにつまずきバランスを崩してこけてしまった。

「いった・・・」

「おいおい大丈夫か嬢ちゃん!」

「あーすみません・・・大丈夫です・・・」

近くにいた作業着のおじさんが駆け寄ってきた。

「手から血が出てるじゃねえか。水で流さないと、ばい菌がはいっちまう!あっちにトイレがあるから連れて行くぜ。」

「ほんとに大丈夫ですから・・・」

おじさんから離れようとするが力が強く、振りほどくこともできない。そのまま、近道だから、と路地裏に連れ込まれた。

「はなして!」

やっとのことでおじさんの腕の中から飛び出し、尻餅をつく。

「活きのいいお嬢ちゃんは好きだぜ?」

そういって、おじさんは尻餅をついているところに飛びついてきた。おじさんは上に乗り、服を脱がそうとする。

「やめて!はなして!」

「抵抗しても無駄だぞ~?ヒヒヒ」

気持ち悪い笑い声をあげながら、懐から鋏を取り出し、上着を鋏で切った。

「あと、何枚服が残ってるのかな~?」

切った上着を片手に持ち、もう片方の手でジャキジャキと鋏を開いたり閉じたりしている。人の上で何やってんだこのくそじじいと思いつつも冷静にあたりを見る。手の届く範囲に丁度いいサイズの石を見つけた。おじさんに見つからないようにそっと手を伸ばす。石に手が届き、石をつかむと迷わず、おじさんの頭に石をぶつけた。ゴッという鈍い音と共におじさんの「うっ」という声が耳に届いた。おじさんは血が出ている頭を押さえながら倒れ、横でのたうちまわっている。

「いでぇ!あぁぁぁああぁ!」

のたうちまわりながら叫ぶおじさんを少し眺めた後、おじさんの落とした鋏を拾っておじさんの上にまたがった。左手には血の付いた石、右手には鋏を持っている。それを見たおじさんは命乞いをしだした。

「頼む!許してくれ!ちょっと魔が差したんだ!最近30年務めた会社をリストラされて!鬱憤がたまってたんだ!」

「ふーん、で?あんたの鬱憤晴らしにあたしがなんできたねぇ40過ぎのじじいの性処理道具になんねーといけねーの?ざけんじゃねーぞ。」

「謝るから!何でもするから!命だけは!」

「ふーん、何でもするんだー」

「はい!何でもします!だから」

「じゃあ、死ね。」

容赦なくおじさんの頭に石を振り下ろした。何度も何度も力いっぱいに振り下ろし、腕が疲れてやめた頃にはおじさんの顔は原型をとどめていなかった。

「どうしようかな~あっそうだ。」

おじさんのズボンを脱がした。おじさんの性器があらわになる。大きいがそこまでいいものではない。

「うわぁ・・・子供のころに父さんと一緒にお風呂に入ったとき見た父さんの方がまだしっかりしてるわ。こんなのが初めてになるとこだったとか・・・気持ち悪!」

そういいながらおじさんのソレをつかみ鋏で根元から切り、おじさんの顔の隣に置いた。

「このじじい、手慣れてたからたぶん初犯でもないな。」

おじさんの服のポケットを探ると財布が出てきた。中には現金、身分証明書、そして精液らしき液体をかけられた全裸の女の子たちの写真が出てきた。背景には、コンクリートの壁やゴミ箱が写っていることからみんな裏路地などに連れ込まれてレイプされたのだろう。

「これ全部私くらいの年齢だな・・・この子とか血みたいなのが出てる・・・かわいそうに・・・」

写真の裏には日付などが書かれている。写真を一通り見ると、石をおじさんの顔に擦り付け、血をまんべんなくつけた。その石の下に写真を置いた。返り血は雨で流れ、体はびしょびしょだった。

「8時か・・・まだバスあるかな・・・」

「バスはあるけど、そんなに濡れてたらバスに乗せてくれないんじゃない?」

「誰!?」

声の方を向くと傘をさした背の高い、フードをかぶったジップアップパーカーのファスナーを上まで閉め、カーゴパンツに黒のブーツの男が立っていた。大きな牙が無数に描いているマスクをつけていて顔半分が見えない。

「驚かす気はなかったんだー!ただ、君に一目ぼれしちゃってね!」

「は?あんたいつからいたの。」

「ずっといた。この男について調べてたんだ。殺すための情報収集だけど。」

「そう、先に殺しちゃってごめんね。で、私も殺すの?」

「いいや、殺してくれたから仕事が減って嬉しいし、さっき言ったでしょ?君に一目惚れしたんだ。僕は好きなのに殺すほど異常者じゃない。」

「ずっといたってことは私が襲われてたのを見殺しにしたってことでしょ?助けてくれなかったのに私のこと好きってよくいうわね。」

「僕は君の血と雨でびちょびちょになった姿に惚れたんだ!あの君は大好きだ!」

「じゃあ、私を殺す気はないのね?」

「うん!」

「ほんとに?」

「ほんと!」

見た目は麻薬の密売人なのに、そぶりや話し方は初恋をしたばかりの少年の様だ。

「とりあえず、傘に入りなよ!風邪ひいちゃうよ?」

「・・・ありがと。」

男のさす傘の下に入る。

「このまま家まで送るよ。家はどこ?」

「・・・バレントワ。」

「あーけっこう遠いねー車に乗せてあげるよ。」

「怪しいけど仕方ない。よろしく。」

「任せて!」

路地裏を出て少し歩くと車が止めてあった。黒色のスポーツカーでとてもきれいに掃除がされていた。しかも、最近発表された新作のスポーツカーによく似ている。

「どうぞ!」

「え・・・これにびしょぬれで乗っていいの?」

「あぁいいよ!家にスポーツカーは3台あるし!」

「そ、そう・・・」

男の言う通り車に乗る。

「それじゃあいこうか。」

男は運転を始めた。ちゃんとバレントワの方向に向かってくれている。

「バレントワのどの辺なの?」

「マンションの1階にパン屋があるとこ。」

「あーあそこのパン屋さんのマンションに住んでるんだ!」

「はい。」

「そういえば名前は?僕は、トレバ―・ユークリッド。情報屋をやってる。情報屋って言っても依頼人と依頼される側の仲介とかもやってる。後処理も良くするよ!趣味は主さがし!まあ、もう見つかったから新しい趣味を探さないとね!」

「私は、クラウス・ボルグ。不登校のネット中毒者。趣味は読書と小説を書くこと。この観察眼はそれで培った。主さがしって何?」

「そのままだよ!俺は情報屋でフリーなんだけど、フリーだといろいろ大変なんだ。だから特定の人物もしくは組織の専門情報屋になるといろいろ楽なんだよ。」

「なるほど。で、だれを主にするの?」

「君」

「ふーん・・・は?」

「あ、あそこ右に曲がったら家だよね?ここで下そうか?前まで行く?」

「ここでいい。じゃ、」

「あ、待って。」

「なに」

「これあげる。」

そういってトレバ―はレインコートを渡した。クラウスはそれを着て外に出る。白いレインコートは水をよくはじく素材らしい大雨でも全く濡れない。足は濡れるが体が濡れないだけましだ。そのまま、マンションの入り口まで走った。

 マンションに入りレインコートを脱ぎ、軽く振るだけで大粒の水はとれ、ぽたぽたと水が落ちない。そのままレインコートをたたみ、家に入る。リビングに行くとリサがキッチンから顔を出した。

「クラウス!!遅かったわね!どうしたの?何かあったの?」

「リサ、ただいま。ちょっとファリスに行ってただけ。」

「それは聞いてたけど、7時に帰るって言って8時に帰ってきた理由を聞いていい?」

リサは夕飯の準備をしながらクラウスを問い詰める。問い詰めるのも無理はない、昼ちょっとすぎに7時には帰ると言って出ていった姉の一人娘が8時に帰ってきたのだ。一時間遅かった理由を聞くのも致し方ない。

「バスになかなか乗れなかったんだ、帰宅ラッシュで。」

「ならいいけど・・・次からちゃんとポケベルで連絡してね?事件に巻き込まれたのか考えちゃうから。お願い。」

「わかった。遅く帰ってごめん。」

「いいのよ。」

リサは、ニコリと笑顔を見せ、お皿に料理を盛り付ける。

「今日はポトフだよ。」

「やった!荷物おいてくる!」

リサにそういってクラウスは自分の部屋に行く。

部屋に入ると、勉強机の上に本の袋や財布などをポケットから出し置く。

「はぁ・・・疲れた。」

持っていた荷物を眺める。財布、ポケベル、買った本そしてトレバ―がくれたレインコート。何となくレインコートを開き、ポケットをまさぐってみる。腰にある右ポケットから何か紙が出てきた。

「なにこれ?」

紙には『トレバ―だ。用があるなら電話してくれ!』と一言書いてありその下には電話番号が書いていた。

「あいつの電話番号か。使わないと思うけど一応どっかに入れとこ。」

電話番号と財布、ポケベルを机の一番上の引き出しに入れレインコートをハンガーにつるした。水が滴ってもいいように大きめのレジ袋をレインコートの裾にかぶせるようにし、洗濯ばさみで端っこを止めた。

「よし、じゃポトフ食ってお風呂入ったらいろいろ振り返るか・・・今日は色々あったしな・・・」

クラウスは部屋を後にした。

 キッチンに行くとリサが料理を盛ったお皿をダイニングに持っていく。テーブルの上に料理を置いて椅子に座る。フォークやスプーン、取り皿などはリサが持ってきてくれた。

「いただきます。」

「いただきます。」

パクパクと料理を口に運ぶ。

「美味しい。さすがリサ。」

「ありがとう。」

にこにこと笑うリサに笑い返す。つい数分前におじさんを顔の原型がわからなくなるまで潰して殺したのにいつもと変わらず、いやいつもより料理がおいしく感じている。

「そういえば上着はどうしたの?」

「あーたぶんバスに忘れたのかな?」

「そう・・・電話しとこうか?」

「いやいいよ。丁度新しいのが欲しかったところだし。新しいの買うよ。」

「じゃあ、明日パン屋さん定休日だから一緒に買い物に行きましょう!」

「うん。わかった。」

リサはさっきクラウスが殺人を犯したことを知らずに明日の予定を楽しそうに提案する。

 食べ終わると、お風呂に入った。体と頭を洗い、湯船にゆっくりと浸かった。雨に濡れて冷えた体をじんわりと温めてくれる。体が十分に温まるとお風呂から出た。体をふき、パジャマを着て、髪を乾かし、キッチンに行った。冷蔵庫を開け、コーラをとりだす。ゴクゴクと四分の一飲む。

「あ~おいし。風呂上りはコーラだな!」

そのままコーラを持って自室に行く。途中、

リサが見ていたテレビにはニュースが流れており、内容はファリス市の殺人事件についてだった。クラウスは自室に戻ると、机にコーラを置きいらないノートに今日の出来事を振り返ってみた。

『19××年・6月6日

 ファリス市に本を買いに行った帰りにレイプ犯に襲われかけた。』と書き出し始めた。

「そうだ、ちょうどいいしこれ日記にしようかな。」

クラウスは(でも普段書くことないなー)と思ったあと(じゃあ人をもしまた殺したら書く日記にするか。)と頭の中で考えた。

「ま、かけたしもう寝ようかな。これどこ置こう・・・」

周りを見渡す。服を入れているタンス、勉強机、ベッドしかない。とりあえず、お菓子の空き箱に入れ、机の下に隠すように片付け、ベットにはいった。

「今日は、楽しかったな。」

クラウスはぽつりと呟き眠った。

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