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96話 「頼れる人」


 ――街灯が光る夜道。二人の少女が手を繋ぎ走って居た。走る少女達の表情は必死で、まるで何かから逃げているようであった――。


「はぁはぁ――待って夢見鳥、はぁはぁ、止まって……」

「繭、大丈夫? 多分ここまでくればお姉ちゃんも追って来ないと思うけど……」


 私と夢見鳥は大我さんの家で胡蝶ちゃんの身体から現れた蛇の化物に襲われた。間一髪の所で夢見鳥に私は助けられ、その後は二人で一緒に大我さんの家から離れる為に遠くへと走って逃げた。


「はぁはぁ……もう、大丈夫よね、夢見鳥!」

「うん、大丈夫だよ……繭!」


 夢見鳥と安全を確認しあうと安心して気持ちが緩んで自然と目から涙が溢れる。その後、夢見鳥と抱きしめ合って生還した喜びを感じた。


 今日は信じられない事が多すぎる。大切な家族(夢見鳥)の死と生の瞬間を見たり、身近な女の子(胡蝶)から恨まれて裏切りをされたり……もう、疲れた、誰か私を助けて。


「お姉ちゃんは化物になっちゃった、このままだと絶対にお姉ちゃんは繭を襲いにくるよ」


 夢見鳥が私の肩を掴み言った。確かにその通り。胡蝶ちゃんは私が大我さんを奪ったから恨んでいる。そして胡蝶ちゃんの身体から出てきた蛇も明らかに敵意を持って私を襲っきてた。これから私はどうしたらいいんだろう……。


 今後の事について考えていたら、突然夢見鳥が泣く動作をして私に謝り始めた。


「繭ごめんね、ごめんね……」

「どうしたの夢見鳥、何で謝るの?」

「だって、夢見鳥じゃ繭を守れないから、それが悔しいの」

「いいえ、あの時ちゃんと夢見鳥は私を守ってくれたわ」

「あれじゃ駄目なの! 運が良かっただけ、だから助けを呼ぼう、繭、今すぐに大我お兄ちゃんに連絡して!」


 大我さんに連絡? そうだわ、彼ならきっと助けてくれる。私はそう思うとスマホを取り出して大我さんに電話をかけた。しかし何度呼び出しても大我さんは電話に出なかった。


「駄目だわ、大我さんが電話に出ない」

「もう、大我お兄ちゃは何してるの!? 繭が大変なのに」


 大我さんと連絡が取れない今、誰に助けを求めれば良いんだろう。スマホの電話帳を確認する。そして電話帳には僅か数十件の電話番号の中から大我さんの次に私が親しい人へと電話をかけた。


『もしもし黒田です、繭氏どうされました?』

「黒田さん、大変なんです、実は信じられないかもしれないですけど今さっき――」


 私は黒田さんに電話をかけた。そして緊張して声を震わせで私が胡蝶ちゃんの恨みを買っていること。それが原因で胡蝶ちゃんに襲われて、現在夢見鳥と逃げてきた事を全て話した。


『――分かりました繭氏、絶対に大我氏の家へ戻ってはいけません、明日大学で合いましょう、ですから今は一旦ご自宅に戻ってドアにカギをかけておいてください、それから……』


 黒田さんは明日会う約束をしてくれた。それだけで私はすごく安心感を得た。頼りになる人が居てくれて良かった。けれど一番頼りにしたかった大我さんに連絡が取れないのは悲しい。


「繭、何で大我お兄ちゃんは繭の電話に出ないの? もしかして助けてくれないの?」


「そんなことないわ、大我さんは忙しいの」


 私は夢見鳥に大我さんは大事な用事がある為に私と連絡が取れと教えた。だけど、私は大我さんがどこで何をしているのかは知らない。


 ――大我さん、どこで何をしているの? 怖いよ、助けてよ……大我さん。


 その日、夢見鳥と二人で手を繋いで家まで帰り、寝る時もぎゅっと抱き合ってベットで眠った。


「うっ、ゴメン胡蝶ちゃん……ううっ」


 ベットで胡蝶ちゃんの事を思い出した。そうすると益々悲しくなった。私が大我さんを好きになってしまったから、そして大我さんも私を好きになってしまった。その為胡蝶ちゃんは大切な人を奪われた。


 私のせいで一人の女の子を狂わせてしまった。その罪悪感に耐えきれない。

 

「繭は悪くないよ、大丈夫、いつかお姉ちゃんとも仲直りできる、そしたらみんなで家族になって一緒に暮らそう」

 

「ううっ、夢見鳥、私を慰めてくれるのね、ありがとう……そうね、仲直りしないとね、いつか皆で家族になれたらいいね……」


 その夜、私は夢見鳥にしがみついて、いつの間にか意識がなくなるまで泣いた。


 ――次の日、私は黒田さんに会うために大学へと向かう事にした。その時、夢見鳥は自分もついて行くと言った。


「繭、夢見鳥も大学に行く、繭一人だけじゃ心配だよ!」

「ごめん夢見鳥、あなたは家に居て」

「何で? 夢見鳥も行くったらいくの!」

「お願い、ここが安全だから、私はあなたに無事でいてほしいのだからここに居て」

「やだやだやだやだ!」

 

 駄々をこねる夢見鳥に私は何度か家へ電話して無事を知らせると言って交渉した。そうすると夢見鳥は渋々妥協してくれた。


「ううっ、繭、絶対に夢見鳥に連絡してね、待ってるから」

 

 夢見鳥に見送られて家を出た。そして大学に着くと黒田さんに連絡した。すると昨日と同じように学食で会うことになった。


 学食に行くと、先に黒田さんが席について居た。私はさっそく黒田さんの元へ行き話しかけた。


「黒田さん、お待たせしました、実は昨日あったことなんですけど……」

 

「おぉ繭氏、昨日胡蝶たんに襲われたんですよね……まずは胡蝶たんの持ち主の大我氏に何とかしてもらうしかないでしょう、因みに大我氏は何と言ってました?」

 

「実は昨日から大我さんとは連絡が取れなくて」

 

「なんですと!? まったく大我氏は何をやってるんですか、恋人の繭氏が大変だと言うのに……」


「あれ、私黒田さんに大我さんが恋人だって言いましたっけ?」


「あっ、いやその……何となくです、皆で旅行に行った時、繭氏と大我氏が付き合いそうな雰囲気だったんで、それで……」

 

 黒田さんは顔を曇らせた。私は何となく黒田さんに悪いことをした気がした。


 「取り敢えずこの話は置いてまずは大我氏に連絡しましょう」

 

 そう言うと黒田さんは自分のスマホを使い大我さんに連絡を試みた。けれど、やっぱり大我さんは黒田のスマホに出ることは無かった。

 

「何なんだこの人は! 繭氏、大我氏は今どこで何をしてるんですか!?」

 

「それが私、大我さんが仕事でいなくなるとだけしか聞いてなくて、場所までは教えてもらわなかったんですわからないんです」


「なんですと!? うーん、こうなったら繭氏、私が全身全霊を持って繭氏をお守りいたします!」


「えっ、黒田さんがですか?」


「……繭氏、私では繭氏を守ることができませんか?」


「――あっ、えっ……」

 

 なんだか黒田さんの表情をドキドキする。いつもおちゃらけている黒田さんが今まで見せたことの無い真剣な表情をして私を見つめる。なんだか黒田さんが男らしく見える。


 私ったら何を考えてるの、私は大我さんの恋人なのに……私ってもしかして浮気症?


 頭の中で派手な衣装を着て男の人を誑かす魔性の女の姿をした自分を思い浮かべた。


「――って、私のバカバカ、最低!」

「ちょっ、繭氏いったい突然どうされたんですか!?」


 直ぐに魔性の女の自分を何度も平手打ちするイメージをしていると、それがつい表に反応して出てしまった。恥ずかしい。


「おや真見まなみ君、じゃないか、これはこれは特別講師の黒田さんもご一緒で」


「ひ、日野先生、どうしたんですか急に」


 突然、私の大学の先生である日野先生が私達の元へやって来た。因みに日野は先生の教えてくれる授業はとてもレベルが高くて好評だが、日野先生個人は見た目が暗いので苦手とする生徒も多い。実は私もその一人だ。


「たまたま食堂に来たときに君達がいるのが見えてね、もしかしてそんな事あるわけ無いと思うが、僕の大事な生徒を黒田さんが口説いているのかと思って確認しに来たんだよ」


 日野先生はギョロリとした目を黒田さんに向けるとそう言った。

 

「日野先生、ど、どうかご心配なく、わたくし実は以前から繭氏……じゃなくて真見さんと知り合いで、それで話してただけでなんですよ、ははっ」


 黒田さんは若干引き気味で日野先生に弁明する。しかしそれでも日野先生はさっきと同じ目で黒田さんを見つめる。なんだか日野先生が少し怖い。


「そうですか、それなら良いでしょう、あーそうそう、真見君は非常に優秀な僕の生徒だ、彼女の将来の為にも黒田さん……くれぐれも邪魔するような事をしないでください、信じてますよ? それと真見君……」


「は、はいっ、日野先生」


「何か困った事があれば君の先生である僕が解決してあげるからいつでも相談に来てくれたまえ、それでは失礼するよ」


 日野先生は帰って行った。日野先生が帰ったあとはなんだか身体がどっと疲れた。


「……黒田さん、私日野先生じゃなくて黒田さんのお世話になります」

 

「ははっ、それが良いと思います、けれど繭氏、きっと日野先生も純粋に生徒の事を心配してわたくしにあのような事を言ったのだと思いますよ……多分」



「「――はぁ」」


 最後に私達は同時に溜息を着いた――。


 ――大我の部屋。


 繭が大学に行っている頃、人形の胡蝶は大我の部屋で頭を悩ませていた――。


「うーん、この格好はどうしても目立つ……まったくお袋が私の服を破いたのがいけないんだぞ」


 私は自分の今の格好を鏡で見て言った。鏡に映る自分はミリタリー系のオリーブドラブのレインコートを羽織っている。しかし、レインコートから見える素肌は人形特有の球体関節が丸見えだ。


『済まない、まさかこんな事になるとは思わなかったんだ』


 お袋が珍しく申し訳なそうに謝る。因みに今のお袋の姿は人型のアオコの姿ではなく、元の普通サイズの蛇の姿になっている。


「昨日着てた服しか私の身体全体を隠せれなかったのに、これじゃあ外の人達に私が動く人形だってバレて大騒ぎされるだろ、どうしてくれるんだ」


『……知らん、私はもう寝る』


 お袋は私の身体に巻き付くと霊体化してそのまま私の身体の中へと消えて行った。最近のお袋は力を取り戻したので霊体化と実体化の両方ができるようになったらしい。


「畜生、都合が悪くなったか逃げやがったな、まぁいい放って置こう、今重要なのはどうやって繭のいる大学まで行くかだ」


 必ず学生である繭は大学へ必ず向かう。繭の住んでいる場所を知らない私が確実に繭に会えるのはその大学だけだ。そこで繭を狩り、私が完全な人間になる為の血を手に入れる。そして繭がいなくなった時、私が大我の愛を独占できるのだ。


「何かいい方法はないかな……ん、あの箱は……」


 部屋を見渡すと、私が最初に大我の部屋へ届けられる時に入っていた大きなダンボール箱が置いてあった。それを見て私は閃いた。そして部屋にある固定電話を使い電話をかけた。すると元気でハキハキとした声の男が電話に応答した。


『お電話ありがとうございます、配達を迅速にがモットーの韋駄天配達です』


「あ、もしもし? 配達を頼みたいんだけど荷物が大きくて重くて運べないんだ、だから家まで取りに来てくれないか?」


『なるほど、かしこまりました直ぐに荷物の受け取りに向かいます!』


「よろしく、それとちょっと用事でこれから留守にするけど、荷物は家の玄関の前に置いて置くからそれを運んでくれ、あと住所は……」


 私は配達業者とやり取りし終わると先程のダンボール箱を外に出して、エアガンやナイフ等で完全武装した自分自身を入れて業者が来るのをじっとして待った。すると暫くして業者の男二人が荷物の受け取りに家へやって来た。


「――おっ、この部屋だな、おいバイト急げ、うちは配達を迅速がモットーなんだ」

「はぁはぁ、ちょっと、待ってください、はぁはぁ」


 二人は私が入っているダンボールへと近づいた。


「ちっ、なんだよちゃんと箱にフタしとけよ――ったく、中身はなんだ?」


 二人のうち一人が箱を除きこんで私を見た。すると少しびっくりした。


「うわ、人の死体が入ってる! おいバイト、早く警察に連絡しろ」

 

「えっ、死体ですか――って、これよく見ると違いますよ、人形です……何でエアガンで完全武装してるんだろ」


「何? ちっ、悪趣味な事をする客だな、まぁいい、箱をちゃんと締めて運ぶぞ」


 途中、危なかったが、じっとしていたお陰で私は唯の人形だと認識されて事なきを得た。男達はダンボールのフタを締めて私の入った箱を持ち上げた。


「よいしょっと……あっ!」

「――痛っ」

「――えっ!? 声?」


 バイトの男が持ち上げた瞬間、箱を地面に落とした。その際、箱の中に居た私はエアガンに顔をぶつけてしまい、思わず声が出た。


「バイトのバカ野郎、大事なお客様の荷物に何やってんだ!」

「ひぃ、それよりも今さっき箱の中身から女の子の声がしましたよ!」

「俺には聞こえなかったぞ、お前変な事を言って荷物を落としたことをごまかすつもりだな?」

「ち、違います、本当に声がしたんですって」

「うるせぇ! 言い訳はいいからさっさと持ってトラックへ運べ」


 二人は箱を持ち直すと、息を切らせてながら箱をトラックへと運び、最後に箱を荷台へと放り投げて扉を閉めた。


「――痛ってぇな、大事なお客様の荷物じゃ無かったのかよ」


 暗いダンボール箱の中で悪態を着いた。あとはこのまま運ばれるのを待つだけだ。私の運ばれる先は繭の大学だ。宛先は昨日あった繭の大学の先生である日野にした。


「最初はこうやって大我のところまで私は運ばれたんだな」


 運ばれている間の事は覚えてはいないが、なんだか懐かしい気がした。そして箱の中で暗闇で有る為、なんだか夜になったみたいで眠くなって来た。


「届けられるまで少しの間寝ておこう」


 私は箱の中で眠って無事に届けられるのを待つ事にした。

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