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94話 「人形の出生、その二」


 これから話す事は、私、人形の胡蝶の人格――魂がどのような経緯で作られたかだ。


 「お袋……少し話すのを待ってくれ、今から気持ちを落ち着かせる」


 そう言って私は目を瞑り、頭の中でこれまでの事を整理する。


 ――まず、私は人形作家の古家亮太郎が何体も制作した愛玩用人形のうちの一つだ。そして古家亮太郎は何十年も童貞であった為に魔法が使えるようになり、その魔法を使用して、自分が制作した人形に魂を込めた。それが本来の私だった。


 次に私は目をゆっくりと開けて、自分の胸に手を当てる。


 ――私の中には、血肉を作る『進化の心臓』ともう一人の人格『胡蝶の魂』がある、なぜこのような複雑な状態になったのか……それは、目の前にいる『嫉妬の蛇』が原因だ。


 「落ち着いた、早速話してくれ」


 『分かった、但しこれから話す事は私にとってはあまり思い出したくもない過去の話でもある、だから一度しか話さない――』


 ――昔、別世界へと連れられた蛇は一緒にいた人間の男と結ばれたいと思った。しかしそれは叶わなかった。何故なら男とは種族が違ったからだ。そして男の方は蛇とは打ち解けあって絆はあったものの、別世界にいた人型種族に心を奪われた。


 その事に激しく嫉妬した蛇は、自らも人間になろとして失敗し、化物に鳴り果てた。その化物は『嫉妬の蛇』と呼ばれ、男に退治されてしまう。この時に男は嫉妬の蛇の遺体から心臓を回収して別世界から今いるこの世界へと持ち帰った――ここまでが人形の血肉を作る『進化の心臓』の話だ。


 『――この話に出てくる嫉妬の蛇はもちろん私だ、そして私の名前はアオコだ、それと男の方は須賀凌駕――後のお前の父親だ」


 アオコと須賀凌駕――この二人の別世界での物語をお袋はこれ以上は語らなかった。何故ならそれはとても辛く悲しい物語だからだ。


 『話が長くなったな、だが、これで次の話しに移ることができる、次にお前の魂についての話だ……まぁ、結果から言うと――古家亮太郎が作った魂――と――私と凌駕が作った魂――が人形の胡蝶の中で二つ同時にいる』


 私は頭を抑えた。何故そんなの複雑な状態にお袋達はしてしまったんだ。


 『これからそうなった経緯を話す』


 そう言ってお袋は申し訳なさそうに語り始めた。


 ――別世界から帰還した須賀凌駕はとてつもない後悔の日々を送ったらしい。なぜなら退治してしまった私……それと、心を奪われた人型種族を失ってしまったからだ。


 二人を思う須賀凌駕はこの世界の女性に誰も興味を持たずに数十年も童貞のまま過ごしてしまった。その結果――魔法使い、須賀凌駕が誕生した。


 「あの、お袋、ちょっと良いか? 男って皆ずっと童貞のままでいたら魔法が使えるようになるのか」


 『……私は雄じゃないからわからない、唯――長い間、魔法が使えるほどの純粋な思いをずっと抱き続けてくれた事を思えば嬉しくは無いか?』


 相手を失ってしまっても思い続ける。それはとても愛がある事だと私は感じた。私も大我からそれくらい思われたい………あれ?


 私はふと何かを思い出そうとした。その何かとは大切な相手に対する思いで、とても純粋なものだった。けれどもそれが何かどうしても思い出せない。


 ――絶対に何かを忘れている、思い出せ、私は大我に何を思った? 愛されたい? 違うそうじゃない、愛は愛でも何か違うやつだ、思い出せ……。


 頭の中で考え事をしていると、お袋が急に続きを語り始めたので一端考えるのをやめた。


 『――話の続きをする、魔法使いになった凌駕は自分がどのような魔法が使えるのか分かったそれは……童貞魔法――黄泉帰よみがえりの術』


 「お袋、その童貞魔法ってのは何なんだ?」


 『私も良くは知らない、だが凌駕が言うには純粋な思い持ち続け、尚かつ清き身体を保ち続けた男に対し世界から与えられる奇跡の力らしい』


 「……なるほど――って、わっかんねえよその理屈!」


 ――童貞魔法とは世界から与えられた奇跡の力でありその力は強大なものらしい。ただし力は一代限りのもので、その他に魔法使いが童貞を失ってしまうと、同時に力は消失してしまうらしい。


 要するに純粋な人の願い対するこの世界の応答が童貞魔法だ。この力で自らの願いを叶えよと、但しそれはその人の一代限りの願い――よって世界にはそこまで影響を与えない。そういった理屈らしい。


 古家亮太郎は娘――自らの子孫が欲しいと願いそれに世界が応えた。ならば須賀凌駕は何を願ったのだろうか。


 『凌駕の願いは失ってしまった人に再び会うこと、そして凌駕の魔法、黄泉帰の術は死者をこの世へと戻す魔法だ、だから死んでしまった好きな人を呼び出して、あわよくばこの世に復活をさせようとした。しかし駄目だった』


 「えーと、凌駕の好きな人ってお袋の事だろ? なのに何で駄目だったのにお袋は復活できたんだ?」


 『話をよく聞け、凌駕は人型種族に心を奪われたと言っただろう……要するに凌駕の好きな人は私じゃない』


 「あっ、ごめん……お袋、私はてっきり……」


 『いや良い……それより、何故私が凌駕と結ばれなかったか理由を見せよう、最近だいぶ力が戻って来たんだ』


 お袋はそう言うと。急に身体を震わせ始めた。何か起きる。そう感じた私は直ぐに側を離れて成行きを見守った。


 ――お袋はうめき声を上げる。そして見る見るうちに身体が大きくなった。


 「おい、嘘だろ……まるで化物じゃないか」


 私は変化し終えた自分の親を見てそう呟いた。


 『ふぅ、親に向かって酷い言いようだな、だがそれも仕方ない、これが私の本当の姿だからな……改めて自己紹介しよう、私がお前の母親、アオコだ』


 私の母親だと名乗るアオコの顔はきれいな緑色の髪をした人間の美しい女性だった。しかし上半身から下は巨大な薄黄緑の鱗を持つ蛇だった。その姿を見た私は思わず壁に向けて仰け反った。


 『やはりお前でも私の姿を見て引くか、だから凌駕は人型種族に心を奪われ、私は完璧な人間になろうとした』


 お袋は寂しそうに言うと、ゆっくりと私に近づいて身体を抱きしめた。そして耳元で続きを語った。


 ――人型種族の魂を呼び戻すことができない理由は簡単だった。黄泉の世界には何十億の魂があるし、それに元々別世界の人である為にこの世界の死者の世界、『黄泉』に魂が居なかった。だが、私は違った。この世界出身の私は黄泉にいた為に凌駕の呼び出しに応えた。


 さらに詳しく言うと、黄泉帰の術は実際には呼び戻すというより迎えに行くと言うのか正しい。魔法の力で自分の魂を黄泉へと飛ばし、そこへ辿り着いたならばひたすらに呼び戻す人物の名を叫び探す。


 何十億もの魂があるその世界では一人の魂を見つける事は不可能に近い。しかしアオコの場合、魂が特徴的であった為に直ぐに見つかった。


 『黄泉で凌駕と再開した時はお互いに驚いたよ、なんせ向こうは私が目的の人物じゃなかったからだろうし、私の方は凌駕がキモいデブのハゲ散らかしたおっさんに変わっていたから驚いた、アレでも昔は筋肉質でかっこよかったんだぞ、昔のあいつはな……』


 急にアオコが惚気け始めたので私は急いで続きを促した。


 『むっ……この話は後で娘のお前に聞かせてやろう、さて続きだな、黄泉で再開した時は、変わり果てた凌駕を見て驚いたが、直ぐに居ても立ってもいられなくて凌駕を襲ったよ』


 「えっ、それは過去に自分が凌駕に退治されたからやり返そうとしてとか……?」


 『いや、そうじゃなくて交わろうとして襲った』


 「おーいてめぇ! いきなり何言ってんだ!?」


 アオコが下ネタを繰り出したので突き飛ばした。待ったくこんなのが母親だとか頭が痛くなる……あれ? そういえば私も同じ行動を大我にしようとしてたような――。


 『まぁ、その時は凌駕に投げ飛ばされたよ、まったく、せっかく私からリードしてやったのに……さて、これから私が黄泉の世界で凌駕とやり取りしたことをおしえてやろう』


 アオコは回想を始めた――。


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