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91話 「人形の本性」


 ――大学食堂――。


 「……ん、あれ、私何をしてたっけ?」


 私は急に目が覚めた。そして大学食堂の席に黒田さんがいる事に気がつくと、どうして自分が気を失っていたか思い出した。


 私は、とても気持ちが上がりやすい性格だ。なのでつい先程、胡蝶ちゃんに私がされた恥ずかしい事を食堂にいた全員に暴露されて、それに耐えきれずに気を失っていたのだ。

 

 「繭氏、起きられましたか? よろしければ何か注文を」


 私は適当に冷たい飲み物を頼んだ。黒田さんも同じ物を頼んだ。そうして注文した飲み物が来て、それを一口飲むと、気分が落ち着いてこれから話す準備ができた。

 

 「私、黒田さんに相談事したいことがあって、それで黒田さんを呼んだんです」

 「はい、胡蝶たんから全て聞きました、内容は衝撃的でしたね」

 「……はい」


 私は顔が熱くなるのを感じた。というのも、私の相談事というのは一緒に住んでいる女の子の人形から行為を寄せられて、更にその子から下着を盗まれて変なことに使われるといった、かなり変態チックな相談だからだ。


 この事を胡蝶ちゃんが大声で皆に聞こえるように言ったのだが、今は何処にも居ない。


 「繭氏、大変でしたね、ところでこの事は他のわたくし以外の誰かに相談したんですか?」

 

 私は黒田さんにしか相談していない事を伝えた。

 

 「大我氏には相談しないんですか?」

 「えーと、大我さんにはちょっと相談できません」


 大我さんに相談するなんて無理だ。何故なら大我さんは私の彼氏だけれど、こういうアブノーマルな事を相談するのは私の中で抵抗がある。けれど……彼氏だからこそ、大我さんに最初に相談するべきだったのだろうか?


 「……そうですか、大我氏には相談できませんか」

 「あの、黒田さん?」

 「おっと、すみません、ただの一人言ですから……」


 黒田さんは一瞬嬉しそうな顔をした。何故そんな反応をするのだろう?


 「さて繭氏、せっかくわたくしに相談してくれたので解決に導いて差し上げますよ……まず、繭氏は夢見鳥たんをどうしたいんですか?」

 

 「そうですね、私は夢見鳥を普通の女の子にしたいんです、私、夢見鳥の育て方を間違ったんですかね……あんな女子の下着を盗む変態さんになっちゃうなんて」


 私の気分はもう、夢見鳥のお母さんだ。娘を変態に育ててしまった。その事が悲しくて思わず泣きそうになった。

 

 「まぁ繭氏、そう自分を責めないでください、決して繭氏の子育ては間違っていませんから」


 「黒田さん、そう言って、くれてありがとうございます……あれ? 私達、夫婦みたいな会話してますね」


 「――ぶっ!? そ、そうですね……あはははっ!」

 

 黒田さんは会話の途中で飲んでいた飲み物を少し吹き出して狼狽えた。その後、私も自分が変な事を言った事に気がついて慌てた。


 「ごほんっ、えーと繭氏、夢見鳥たんなんですが恐らくまだ善悪の区別がついていないのだと思います」

 「善悪の区別……あっ!」

 

 言われてみれば確かにそうかもしれない夢見鳥はたまに信じられない行動をする理由が善悪の区別がついていないからだとすれば何だかしっくりくる。

  

 「わたくしの勝手な推測ですけれど、夢見鳥たんは見た目は大きくても、実際は製造されて一年にも満たないです、ですから精神は幼児なんだと思います」

 

 「夢見鳥が幼児……そうだとすれば私はあの時、逃げちゃだめだったんだ、ちゃんとそれはいけない事だって叱ってやらなくちゃいけなかったんだわ」


 私は保護者失格だ。今すぐに家へ帰って夢見鳥を叱らないと。それで夢見鳥が反省したら、またいつものように抱きしめてこれからも一緒だから安心するように言ってあげなくちゃ。


 「ふふふ、繭氏、どうやら自分のする事が分かったみたいですね」

 

 「はい! 私今から帰ります、黒田さん、相談に乗っていただきありがとうございます」

 

 私は悩みが解決して満足した。そうして席を立ち上がり、食堂の会計を済まそうとすると、黒田さんが私の分まで払ってくれた。


 断ろうとしたが、黒田さんはにこやかに笑い、直ぐに会計を済ませてしまった。


 「黒田さん、何から何まで、ありがとうございます、何かお礼します」

 

 「いえいえ、これくらい構わないです、それともし、どうしてもお礼がしたいのであれば次も私の講習に来てください、もちろん夢見鳥たんもご一緒して」

 

 私は帰って夢見鳥と仲直りしたならば、次も黒田さんの講習に参加することを約束した――。

 

 「――繭、相談は終わったのか?」


 会計を済ませたと同時に何処かへ行っていた胡蝶ちゃんが私達の元へ戻って来た。そして、黒田さんの近くに行き話をした。


 「どうだ黒田、繭の相談にはちゃんと乗ってあげれたのか?」

 「……ええ、もちろんですとも、わたくしが全力で繭氏をサポートしますのでご安心を」


 黒田さんは胡蝶ちゃんに会話で私の事を言っていた。けれどどこかこの二人のやり取りに違和感を覚える。まるで二人して示し合わせている様な……いや、だとしても別に問題ない。きっと二人は私を気遣ってそうしたのだろう。


 「繭、そろそろ帰るか?」

 「ええ、そうしましょう……黒田さん今日はありがとうございます、また今度」


 胡蝶ちゃんに促されて家へ帰ることにした。最後に黒田さんにお礼を言うと、黒田さんはニコニコとした笑みを浮かべて大学の正門の前まで私達を見送ってくれた。その後黒田さんは明日の講習の準備をするために大学へと戻って行った。


 ――帰り道。


 私は胡蝶ちゃんと大学前のバス停でバスが来るのを待っていた。待っている間、橙色の夕焼けの風景を眺めていた。


 「……不思議ね、夏の夕焼けって、とてもきれいだけど、見ていると切なく感じちゃう……胡蝶ちゃんはどう思う?」

 「私も同じだよ、繭……」


 胡蝶ちゃんはそう言って、じっと空を眺めていた。そしてポツリと呟いた。


 『今日みたいに、今みたいな場所で大我と付き合うことになったんだ』


 私は胡蝶ちゃんの呟きを聞こえないフリをした。むしろ聞きたく無かった。鼓動が早くなってくる。


 今の自分の状況を思い出した。私は胡蝶ちゃんから大我さんを奪った存在なのだ。もしかしたら私を憎んでいるのかもしれない。


 そう思うと、私は胡蝶ちゃんと目が合わせれなくなった。そうした中、胡蝶ちゃんが一人言のように語り始めた。


 「夢見鳥のやつ、今頃どうしてるかな、死んでなきゃいいけど」


 胡蝶ちゃんの一人言は私の胸に突き刺さる。


 「あいつ、ちょっとおかしかったもんな、もしかしたらショックで自殺してるかも」

 

 「胡蝶ちゃん、どうしてそんな事を言うの!? もしかして私の事が嫌いなの!?」


 私は胡蝶ちゃんの言葉に耐えられなくなり、思わず叫んだ。すると胡蝶ちゃんはゆっくりと私の方を向いて言った。


 『――あぁ、嫌いだよ』


 胡蝶ちゃんの嫌いだと言う発言に、私はショックを受けて放心した。やっぱり胡蝶ちゃんは私の事を憎んでいたんだ。


 「さぁ繭、バスが来たから乗ろう、家帰るぞ……私と大我の家へな」


 丁度バスが来て、胡蝶ちゃんは無理やり私の手を取りバスに乗せた。そうしてバスに乗っている間私は胡蝶ちゃんと一緒の席に座る事になり、恐怖で震えた。


 ――大我さん、大我さん、大我さん、大我さん、大我さん……!


 バスが目的地へつくまでの間、私は心の中で必死に大好きな彼の名前を何度も呼んで耐えた。


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