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89話 「黒田と再会」


 『軍師胡蝶は若干不利になっていた。この地一体は繭将軍の領土であり、地の利は将軍の方に有る。果たして胡蝶はこの不利な状況を打開し、策である、黒田の計を実行人形移すことができるのであろうか。 ――次回、美術大学の戦い』

 

 ――〇〇美術大学――。


 「胡蝶ちゃん、こっちよ」


 繭が私の手を引き、大学を案内する。私は特に言うことも無く、黙って繭について行った。


 ――ちっ、相変わらず私の頭の中で流れるナレーションはうぜぇな、何が軍師とか将軍だよ、ったく。


 適当にそんな事を思いつつ大学の中を見渡す。とても静かだ。繭曰く今は夏休みなので生徒である人はあまりいないらしい。


 「――おや? 真見まなみ君じゃなですか……今日はどうされたんですか?」


 急に後の方からまるで絡みつくような声の男した。


 ――真見? 確か繭の上の名前だったな、誰だそんな風に呼ぶのは?


 「あっ、日野先生……こんにちは、今日は友達と夏の特別講習を受けに来たんです」


 繭は振り返ると、まるで相手の男を知っているように話し出す。


 ――何だこの男、繭とどんな関係だ?


 私は男をよく観察した。


 日野と呼ばれた男は半袖のポロシャツにズボン。身体は細見で肌は白く病的だ。そして髪は油っぽく、肩のあたりまで伸ばして、ウェーブをかけている。そして目の下には隈があり、不健康そうだ。


 日野という男が名前に反して雰囲気が暗いので、そのギャップが可笑しかった。二人に気づかれない様に小さく笑っていると日野が私に気付いた。


 「おやぁ? 真見君の隣りにいる生徒は、見たことがないねぇ、どこの学部の生徒かな?」

 「あ、先生、実は彼女ここの生徒じゃなくて、外でその……友達、になった子なんです」

 「なるほど、一般市民として講習に参加させてあげようと連れて来たんだね……なるほど」


 日野は少し考えると繭の方を向いた。その時、目がギョロっとしたので不気味だった。


 「どうだね真見君、講習もいいが、どうせなら僕が特別授業を君だけにしてあげよう、もちろんお友達も一緒で良い」

 「いえそんな、先生に悪いです」

 「何を遠慮しているんだい? 君は僕の担任する『彫刻科』の生徒だろう? だから遠慮する必要は無いよ」

 「いえ、あの、その……」

 「すまない、日野先生! 私と繭は今日は別の講習を受けたいんだ、だからまた今度にしてくれ、それじゃあ!」


 繭が日野に押されていたので私は、助け舟を出した。そして逃げるようにその場を離れた。


 ふぅ、あの日野という男はなんか不気味だな――。


 ――特別講習、教室――。


 大学の施設の中に入り、看板を目印に、特別講習が行われている教室へ向かう。そうして、教室に付いたならば、受付を済まして、黒田が行っている講習がある所へ向かう。


 途中、数々の教室を見たが、生徒達は教室で講師から指導されながら、絵を描いていたり、また、ある教室では講師が話す内容が面白くて、笑いが溢れていたりと、中々、為になりそうな講習ばかりだ――。


 「ここが、黒田さんの居る教室ね」


 繭が教室の前で立ち止まって言った。


 私も教室の前で立ち止まる。その後、教室に入ろうとするとなんだか緊張した。そしてそのせいか、頭の中で謎のナレーションが響いた。


 『軍師殿、分かって居ると思われますが、忠告します、ここは()に地の利があります、どうか御慎重に……』


 ――だからさっきから何なんだよお前は! だいたい、私の事を軍師とか言うんだったら指図すんなよ、それとうっとおしいから早く消えろ!


 『うわあああぁ!』


 謎のナレーションは叫び声を上げながら頭の中から消えて行った。

 

 「胡蝶ちゃんどうしたの? 早く入りましょう?」

 「あ、ああ……」


 私は繭に促されて教室へ入った。すると、丁度、黒田が数十人いる生徒達に何かを教えている最中だった。


 『――えっ、何あの子、綺麗……あんな生徒この大学に居たっけ?』


 周りの生徒達がざわつき、私に見惚れる。その瞬間、私は優越感に浸れた。


 「えっ? 胡蝶タンと繭氏!?」

 「よぉ、黒田、久しぶりだな」

 「こんにちは黒田さん、今日は私達、黒田さんがやってる講習に参加しに来ました」

 「ええっ!? それはありがたいですけど……ちょっとだけ繭氏いいですか?」


 黒田が私になるべく聞えないように繭に話しかけた。


 『――ちょっ、繭氏、どうして来たんですか?』

 『えっ? だって黒田さん、私が通ってる大学に講師で来るって連絡しませんでした? だから来たんです』

 『そ、それは嬉しいですね……』


 何やら、黒田は顔を赤くしてニヤけている。


 『――って、そうじゃなくて、胡蝶タンは生きてる人形ですよ!? こんな堂々と外に連れ出したら騒ぎになりますよ!』

 『そ、それは……多分大丈夫ですよ、ここまで来るときに、胡蝶ちゃんが人形だってバレませんでしたし』

 『なら、いいですけど……とりあえず、来て頂いたんで、是非、わたくしの講習を受けて行って下さい』


 黒田と繭はどうやら私の事でモメて居たが、何だかんだで解決したらしい。


 「ところで、黒田さん……じゃなくて、黒田先生、ここではどんな事を教えてくれるんですか?」

 「おほっ、繭氏に先生と呼ぼれるなんて、何だか照れますね、えーと、説明しますね――」


 ――黒田の説明によると、この特別講習は大学が、黒田が勤めている、フィギュア・模型の会社に講師派遣を要請しており、黒田の会社も、将来の人材確保の為に喜んで要請に応じて、今回、黒田を講師として派遣したらしい。


 因みに、他の教室で行われている講習も、別の会社や芸術家達が人材確保や、自分が制作している芸術のジャンルの発展の為に、積極的に講師をしているらしい。


 「へぇ、そうだったんですね……ということは今やってる講習の内容は――」

 「ええ、わたくし、普段は原型師という仕事をしているので、その技術を講習で教えています、実際にここでは石粉粘土を使って、フィギュアを作るんですよ」


 ――原型師? 何だか聞いたことのない職業だ。疑問に思ったので、黒田にそれが何なのか聞くと、玩具や模型の原型を作る人の事のようだ。だが、私はその説明をも聞いてもいまいちピンと来なかった。


 「まぁ、口で説明するより、やって見た方が早いですね、せっかくなんで、繭氏と胡蝶タンも一緒にやってみましょう!」


 黒田に促されるままに、私と繭のは道具がある机に向かった。すると、黒田が手に資料を持ってやって来た。


 「まず、始めに作りたい物を決めましょう! 物でも動物でも、アニメキャラでもいいですよ、デュフフ、因みにアニメキャラだと、わたくしのお気に入り、マジカルリリカが――」

 「――あーはいはい、私は別のを作るよ」


 黒田の説明を無視して、資料の中から、一冊の本を取った。本は、動物図鑑だった。


 私はページを次々と捲り、ある動物が目に映った。


 『アオダイショウ――くすんだ緑色をした日本本土最大級の蛇』


 この蛇を図鑑で見た瞬間、気持ちがゾクリとした。何故なら、現在、私の中に潜んでいる『嫉妬の蛇』はこのアオダイショウにそっくりだったからだ。


 ――私のお袋はアオダイショウだった!?


 私の母親、アオダイショウ説が浮上した。


 「――繭氏は何を作りますか?」

 「そうですね……特に決まって無いんですけど、とりあえず、女の子のフィギュアを作ってみます」


 繭はそう言うと、テキパキと慣れた手付きで、ワイヤーで人の形に骨組みを作り、そこへ粘土を肉付けし始めた。それを見て、私も作る物を決めて、作業に取り掛かった――。


 ――数時間後。


 「――出来た! おーい黒田、私の作品を見てくれ」

 「お、胡蝶タン出来ましたか、どれどれ……えっ?」


 黒田は私の作品を見て固まった。どうやらあまりにも私の作品の出来が良すぎて、驚かせてしまったようだ――。


 ……。


 「こ、胡蝶タン、これは一体?」


 わたくしは胡蝶タンが作った物を見て目を疑った。何故ならそれはどう見ても――いや、これは言っていいのか!? どうしよう、いやでもこれはアレだよなぁ、渦を巻いたアレ。


 わたくしはできるだけ愛想笑いをして、勇気を出して聞いた。


 「あはは、胡蝶タン、これはアレですかね? ほら、あのお尻から出てくる――」

 「何がお尻から出るんだ?」


 黒田に衝撃が走った。


 胡蝶タン、それをわたくしに聞きますか!? いやどう見てもお尻から出るアレ(渦巻きバージョン)でしょ、そんな事、大勢の生徒達の前で言える訳無い!


 「これに色を塗ると緑色になるんだ!」


 ――まさかの野菜入り!? 何が一体どうして? 胡蝶タンは何故、お尻から出るものにそこまでこだわるんですか? アレか? 人形からは出ないから、逆に気になるのですか!?


 「ふふん、黒田、どうやら私の作品に驚いているようだな」

 「ええ、とても驚いてますよ!」

 「くくく、やっぱりな……因みに作品名は――」

 「――言わなくていいです、どうせうん――」

 「――とぐろを巻いたアオダイショウだ!」


 再び黒田に衝撃が走った。


 こ、これがとぐろを巻いたアオダイショウだと!? まさかそんな……いやでも、頑張ればそう見えるかも、わたくしは一体胡蝶タンにどう言えば、うわああああ!


 黒田は悩んだ末に、ようやく一言胡蝶に言った。


 「胡蝶タン、良くできました」


 黒田は精神的に参った――。


 「さてと、繭、そっちは、できたか?」


 私は黒田に褒められて、満足した。そうして、隣にいる繭の方を見ると、繭は真剣に作品作りを続けて居た。見れば、繭の机の上には、粘土で造形した、細かい手足のパーツが出来上がって置いて合った。


 「ま、繭氏、もしかして短時間で、ここまで作ったのですか?」


 黒田の質問も聞こえないくらいの集中力で繭は作業を進める。その作業を行っている手は、まるで無駄が無く、機械のように効率的だ。その様子を見に、他の生徒達が繭の周りに集まりだした。


 『おい、あの娘を見ろよ、スゲー作業が早いよ!』

 『あれ? よく見ると、彫刻科の生徒の真見じゃん、道理で効率よく作業する訳だ』

 『いや、そうだとしてもアレはすごくね?』

 『……天才だ』


 ――天才。だれかがそう言った。


 「天才、まさにそのとおりですよ! 繭氏スゴイです、今この瞬間も集中力を切らさずに作業を続けてパーツを次々に完成させています……欲しい、是非ともわたくしが勤めている会社にスカウトしたいです!」


 黒田は興奮しながら語り、繭を見る目はとてもキラキラしていた。


 私はその様子を見てほくそ笑んだ。


 「……ふぅー、これで完成」


 繭はフィギュアのパーツを全て完成させて繋げた。そうして出来上がってフィギュアは私の妹の夢見鳥の姿をしていた。


 「繭氏すごい才能ですよ! 是非とも我が社へ来てください!」

 「えっ、きゃっ、黒田さん? ――って、ええっ!? 他の皆までどうして私の周りに?」


 黒田は繭の手を握り勧誘する。すると、繭は顔を赤くしてして照れていた。


 あーあ、そんなに顔を赤くして、いいのかなぁ、大我がいるのになぁ……。


 わざとらしくそんな事を思いながら、私は繭が褒められている所を見た。


 「――さて、あとは粘土が乾くのを待つだけです、なので本日の講習はここまでです」


 黒田の講習は終わった。


 「あの、黒田さん、実は相談したい事があるんですけど良いですか?」


 私は、繭を促して、そのまま帰ろうとする黒田を引き止めさせた。


 「え、相談事? ええ良いですよ、わたくしでよろしければ、いくらでも繭氏の相談に乗りますよ!」


 黒田は傍から見ても分かるくらいに嬉しそうに繭に返事をした。


 うまく行きそうだ、後は私が二人をくっつけるように、引き続き誘導するか、くくくっ。


 私はその様子を悪い笑みをしながら眺めた。そして、三人で話をする為に学食へと向かった。


 ……。


 「――真見って、すごい才能があったんだな」

 「そうだね」


 講習で使った教室の整理をする為に、残った男女二人の生徒が繭の作った作品を眺めて言う。そしてその隣にある胡蝶の作品を見て言う。


 「なぁ、これってどう見てもお尻から出る――」

 「それ以上は言っちゃだめ! 芸術は人それぞれなの、確かにアレに見えるけどこれは芸術なのよ」

 「……分かったよ、これは芸術だ」


 男子生徒は女子生徒の言うことを無理やり自分に納得させて、再び胡蝶の作品を眺めた。 

 

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