69話 「夢の中で」
「…………ん?」
ぼんやりと意識が醒めて行くのを感じた。どうやらいつの間にか私は眠っていたようだ。
起きて今現在の状況を確認すると私は台の上に寝かせられていた。
おかしいな、さっきまで大我と話をしていたのに。
大我はムカつく事に心春と車の中で抱き合っていた。
だから意地悪をしてやろうと思って嫌な事ばかりを言ってやった。
『人形の女の子は気持ち悪いから付き合えない』
自分でそう吹き込んで起きながら心が痛くなった。
けれども私は言いたかった。そう言う事で大我に罪悪感を感じてほしかった。それで構ってほしかった。もう一度私の恋人になってほしかった。
目論見通り大我が罪悪感で顔を歪め始めた時に私は自分自身に顔をぶん殴られた。
…………ん? ちょっと待て、自分に顔を殴られるってあり得ないだろ。
殴られた箇所を触って見るが何とも起こって居なかった。
おかしい、あの時居たのは確かに私と心春、それと大我だった。けれど何故か私がもう一人いたんだ。
段々訳がわからなくなって来た。
…………
……。
……あっ、そうか夢か。
私はそう結論づける事によってさっきまでの訳のわからなくなっかったことが納得できた。
夢の中だったら自分がもう一人いるっていう不可思議なこともありえるな、それにしても大我の野郎、夢の中でまで心春と浮気しやがって。
「あら、胡蝶目覚めたのね」
「あ、ボタン……えーと、ここはどこで私は何をしてたんだっけ?」
「ここは地下にあるお父様の人形工房よ……私達が造られた神聖な場所じゃない、まさか忘れてしまったの?」
最初からこの部屋にいた姉のボタンが説明してくれた。
ボタンは片方の目に黒い眼帯をしていた。
私はそれを見て自分が何故ここに来て眠って居たのか思い出した。
「そうだ! 確か親父が姉貴達の修理をするから付き添いに来たんだ」
ボタンは取られた手足は新しい物に付け替えられて比較的簡単に修理はおわったが、取れた眼球だけは特注品で造るのに時間がかかるため眼帯で暫く処置する事になった。
特に酷かったのはヒガンバナだ。
ヒガンバナは私が思いっきり顔を殴ったので強い力と衝撃が加わり顔のシリコンが裂けて片側の眼球と歯をむき出しにしてしまった。
それを修理するには手っ取り早く顔のシリコンを全部剥がして付け替えるのだが、ヒガンバナはそれを恐れてどんなに醜くてもいいから今ある顔をくっつけて元に戻して欲しいと頼んだのだ。
その時の修理はとても大変だった。
ヒガンバナは顔を特殊な糸で縫い合わせられた。その時のヒガンバナの絶叫は忘れてられない。
他の姉妹達には刺激が強すぎるということで親父は全員を工房から出させようとしたが、私とボタンだけはどうしても残って、ヒガンバナの修理を手伝った。
親父が顔を糸を縫い付ける度に痛みと恐怖で絶叫するヒガンバナを二人で抑えてつけると同時に手を握ってやり励ました。
修理が終わった時に私は急に今までの事に対する疲れが出てしまい、その場で寝てしまったのだ。
「ヒガンバナ、大丈夫か!?」
ヒガンバナは私の隣でぐっすりとしていた。
顔に縫い跡があるのをみると私は罪悪感に押しつぶされそうになった。
「胡蝶、貴方が気にすることはないわ」
「ボタン……でも私のせいでヒガンバナの顔は」
「貴方やっぱり優しいわね、どんなに雰囲気が変わってもその性格だけは変わらないのね」
最後にボタンは私にあれは正当防衛だったから自分を責めるなと言うとそれ以上は何も言わなかった。
「親父は?」
「お父様はだいぶ前に休憩に行かれたわ」
「……そうか」
暫く無言が続いた。
「ねぇ、胡蝶……貴方のアレは何?」
「は……アレって何だ?」
ボタンが意味の分からない質問をする。
「ほらアレよ! 貴方スイカズラお姉様とヒガンバナお姉様を倒してるときめちゃくちゃ怖かったわよ!?」
「えぇ、そんな事言われても、あの時は確かにめちゃくちゃ怒ってたけど」
「失礼かもしれないけど、あの時の貴方は化物みたいだったわよ、目は蛇みたいに縦長の瞳孔になってたし……ってか実際に蛇の幻覚みたいなのを身体に纏わせてたし」
「化物って……本当に失礼な奴だな、私はそんな風になってねえよ! 大体幻覚とかアホじゃないのか?」
「な!? 失礼ね、本当に私は見たわよ、それに一緒にいた夢見鳥も見てたんだから、あの時私は本当に恐怖で……まぁ実際に出ないけど下半身から水が出そうな感覚がしたくらいだもの!」
「……おいおい、そこまで言うのかよ」
最初は半信半疑だったがプライドの高いボタンが自ら失禁をしそうなくらい怖かったと正直に話すのを聞いて、本当の事かもしれないと思った。
「ねぇ胡蝶大丈夫なの? 貴方大我様、若しくは誰か別の人に身体を変な風に改造されてないわよね?」
ボタンが心配そうに質問する。
「……多分大丈夫だ」
曖昧にしか答えれない、というのもここへ来て私が昔の記憶が無く、更に性格まで違うことを知ったからだ。
それにさっき見た夢でも引っかかる事がある。
夢の中では私は二人居ることになっていた。
夢の中のもう一人の自分は思考回路が一緒で私が思った事を向こうが喋り、逆も然り、向こうが思っている事も私が喋る事ができたし行動もできた。
要するに夢の中で私は一人芝居ができた。
しかし夢の最後の方でもう一人の自分を制御できなかった。
もう一人の自分は勝手に大我と会話をしていたし、何故か別人のように見えた。
そこが引っかかる。
「何よその曖昧な返事、貴方お父様に一度ちゃんと見てもらった方がいいわ」
「……僕は何をちゃんと見れば良いのかな?」
「あ、お父様お疲れ様です、急にではありますがお願いがあります、妹の胡蝶の身体を今すぐに調べてください、もしかしたら改造されてるかもしれません!」
親父が休憩から戻ってきた。
ボタンが必死に私を心配して親父にお願いするのを見て今までボタンの事が嫌いだったのが嘘のように親近感が湧いた。
「まぁまぁ、ボタン落ち着きなさい、確かに胡蝶は前に比べて性格等が大きく変わってしまってるけどちゃんと僕の娘だ、例え改造されていたとしてもそれは変わらない」
親父は私の側に来て頭を撫でながらそう言った。
私は本当に良い家族を持った。
親父は暫く私の頭を撫でていると何かに気づいた。
「そういえば胡蝶もボロボロになっていたね、着物は後で新しいのを用意するよ、それよりあんな埃っぽい土蔵にいたんだから汚れてしまっただろう? ちょうどいいから僕が整備してあげるよ」
「ちょっ、親父、着物はありがたいけど整備は別にいいよ」
私は整備と聞いて身体をバラされてしまう所を想像して身震いした。
そういえば、元はと言えば私の整備方法を知るために親父の所に来たんだった、けれど結果はやっぱり身体をバラさないといけないのか……はぁ。
「胡蝶、お父様が直接身体を綺麗にしてくれる事なんて中々ないのよ、それを断るなんて……ムキー!!」
ボタンが嫉妬して怒った。
このまま断ると後が面倒くさそうだ。
「……やっぱり身体を整備してもらうよ、親父頼む」
「お安い御用さ」
親父は嬉しそうにしていた。
因みにボタンは今度は私が直接整備される事に嫉妬した。
どちらにせよ後が面倒くさそうだ。
先ずは腕の関節の隙間の埃や汚れを取るために私は親父に背中を見せるように台に座り、着物の上を脱いで胸を片腕で隠しながらもう片方の腕を親父に差し出す。
うう、ドキドキする。
親父は慣れた手つきで私の腕を掴み動かし始めた。
「えーと、ここがこうなってこうだから……ここだ!」
腕を強い力で引っ張られる。
「痛たたたたっ! 親父痛いって!」
「あれ? おかしいな、これで簡単に外れる筈なのに……もう一度、ここだ!」
「ちょっ!? 親父マジで痛いって、痛たたたた!」
私は痛さにたまらなくなって引っ張られてる腕を引っ込めてしまった。その際親父が私に突っ込んで倒れてきた。
「痛たた、すまないね胡蝶……ってうお! なんて事だ僕は自分の娘の胸に飛び込んでしまっている! ……ん? ちょっと待てよ?」
「痛たた、えっ!? 親父、な……何で私の胸に耳を当ててるんだ?」
どうしようこれ、まだ大我にだってこんな事してないのに!
「おーとーうーさーまー!」
「うわぁ! あ、頭が割れるぅ!」
ヒガンバナが凶悪な笑みを浮かべて親父の頭を鷲掴みしていた。
どうやら騒がしかったので目覚めたようだ。
「ち、違うんだこれは、胡蝶から無いはずの心臓の鼓動の音が聞こえたと思ったから確かめようとして……痛たたた!」
「……へぇ、そうですか」
ヒガンバナは冷めた視線で親父を見下す。
「お父様、そんなに胸がお好きでしたら胡蝶では無くこのボタンの胸に飛び込んでください!」
ボタンが嫉妬に駆られて親父の前に行き胸をさらけ出す。
「ぶっー! ボタンお、お前親に向って何て事を……痛い痛い痛い! ヒガンバナやめなさい! ああ、僕の老い先短い髪の毛が無くなってしまうぅ!」
私は着物を着直すと止めに入った。
……。
「……はぁ、それにしても不思議だ、胡蝶の腕が取れないなんて、これじゃあ整備できない」
親父はため息をつき、頭を悩ませている。
因みにボタンとヒガンバナに聞いたところ整備の際身体のパーツを外されても痛みはなく、簡単に着けたり外したりできるそうだ。
親父はよっぽど私を頑丈に造ってしまったようだ。
「親父、私はこの先どうやって身体を綺麗にしたら良いんだ? このままだと私は大好きなお風呂に入ったら整備できなくてカビだらけになってしまう」
とは言っても私は何日かお風呂に入って身体を水で濡らしたりしているがまだカビは生えて来ない。
「うーん、しょうがない、僕の魔法を使うかって整備するか」
「えっ?」
どんな魔法か聞く前に親父は呪文を唱え始めた。
『我が内に眠る欲望よ、今魔力と変わりて我が望みを叶え給え』
突然部屋の電球が消えて親父の股間の辺りから青白い光が発行して周りに風が起きた。
「……お父さん修理終わった?」
「……何これ?」
騒ぎを聞きつけたのかガマズミとキンセンカがやってきた。
「ボタンお姉様、大丈夫ですか!?」
「ヒガンバナお姉様!」
バラとスイカズラも後から急いでやってくる。
「お父さん! 大変だよ!」
「さっき駄菓子屋のばあちゃんから電話があって兄ちゃんが心春姉ちゃんに乱暴したって!」
ヒマワリとツキミソウまでやってきた。
大我が心春に乱暴だと!? いや待てよ、大我は腕を怪我してるから動けない、ということは本当は心春が大我を襲ったんだ、そうに違いない……あの淫乱豚女ぁ!
「おい親父!」
親父を呼ぶが魔法に集中していて私や姉貴達の声が聞こえてないようだ。
『時は来た! 今こそ欲望を発散させ我に風の力を与えて聖なる純白の布を見せ給え! 大童貞魔法、僥倖暴風!』
部屋の中にものすごく風が吹き荒れこの場にいる私達姉妹の着物が捲れて下着が顕になる。
着物を押さてても抑えきれない上に身体の関節の隙間に風が入って来てくすぐったかった。
……。
「ふぅ……乱暴だったけどこれで綺麗になっただろ?」
親父はまるで一仕事終えたように言う。
お、父、さ、まぁー!!
私を含め姉妹全員が羞恥で親父に対し怒りを顕にした。
「うわ、お前達なんでここに!? ちょっと待て……あ、そうだ僕はこの通りもう老いてるだ、だからあまり無茶なことは……」
問答無用!!
私達は全員で親父を揉みくちゃにした。
……。
あはははは!
親父を揉みくちゃにし終わった後姉妹の中の誰かが笑った。
それに釣られて全員で笑った。
久しぶりに楽しかった。
私は笑いながら思った。
親父、姉貴達……多分もうすぐ私は死んでしまう、けれど皆はできるだけ長くこうやって家族で楽しく笑って過ごして欲しい。
そう思うと名残惜しくて悲しくなり泣きたくなったがそれを隠すように私は誰よりも楽しく笑った。




