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67話 「けじめ」


 車の助手席から外の風景を眺めて元カノの胡蝶の事を考えていた。

 

 俺はこれから先あいつとどういう付き合い方をすればいいんだろう。

 

 俺は胡蝶と別れて繭さんを彼女にした。それからは胡蝶はどこか俺と一歩距離置くような態度を取るのでその事に俺は寂しさを感じた。

 

 はぁ、家に帰ってからも今までみたいにわがままで俺を振り回してくれればいいのに……ってそんな事をできるわけねぇよな。

 

 たぶん俺も胡蝶の立場だったら相手に気まずくなって距離を置く、とても今まで通りにする事なんてできない。

 

 ……畜生、俺はなんて最低な奴なんだ、胡蝶の事を一生可愛がるだとか、結婚しようなんて気前のいい事を言って、結局あいつの気持ちを弄んだだけじゃないか。

 

 怪我をした両腕がジンジンと痛みを発する。

 

 畜生、畜生、畜生! 俺が何で痛がってるんだ……痛みを感じているのは胡蝶だろ!?

 

 何でもいい、自分を責めなければ罪悪感で押しつぶされそうになる。

  

 冷静になろうと努力するがそれが行けなかった。

 

 ……。

 

 不本意ながら胡蝶に最悪な仕打ちをしてしまった事に気が着いた。

 

 胡蝶は俺と別れる時に古家家に自分を置いて行くように訴えた。しかし俺は罪悪感からそれを拒み連れて帰ると言ってしまった。

 

 後から考えると俺は胡蝶を無理矢理身内から引き剥がそうとしている。

 

 これで良いのか? 胡蝶は俺といて幸せなのか?

 

 「……さま……お兄様!」

 「え?」

 「お兄様大丈夫ですかぁ!? お顔がすぐれないようですぅ、もうすぐ病院に着きますからぁ!」

 「心春さん、大丈夫ですからそんなに車の速度を出さなくてもいいですよ」

 

 心春さん、血の繋がりも何もないのにすっかり俺の事をお兄様と言って、本当に実の兄のように慕ってくれてるんだな。

 

 心春さんはしきりに俺の事を横目でチラチラと心配そうに見てくる。

 

 「こ、心春さん心配してくれるのはありがたいけど本当に危ないからちゃんと前を見て運転してほしいなぁ、あはは」

 「あ、すみませんわたくしったら」

 

 心春さんは恥ずかしそうに前を見て運転してくれた。そして病院に到着した。

 

 ……。

 

 病院で受付を済ませて暫くすると俺の名前を呼ばれた。

 

 「心春さん、呼ばれたから行ってきます、ここで待っててください」

 「いやですぅ、わたくしここに居たらお兄様が心配で堪らないので付き添いたいですぅ!」

 

 心春さんは頬をプクッと膨らませて俺を睨みつける。

 

 「ええ、どうしよう」

 「久我大我様ぁ」

 

 迷っていると俺の名前を看護士さんに呼ばれる。

 

 このままだと直ぐに別の人の名前を呼ばれて順番を抜かされる、仕方なくここは心春さんに付き添うのを許可してさっさと治療してもらおう。

 

 いい年をして女性に治療を付き添ってもらうのが恥ずかしかった。

 

 「あぁ……久我大我さんですねー……はい、傷口を見せてね」

 

 ヨボヨボの歳を取った声の高いお爺ちゃん先生が俺を診察してくれている。

 

 「先生お兄様の怪我を治してください、お願いしますぅ!」

 

 心春さんが泣きそうになりながら必死に先生に頭を下げてお願いする。

 

 「あぁー……あんたこの人と似てないけど妹だったんかね……あぁー美人だね、大丈夫あんたのお兄さんは儂が治してあげるから……心配しなさんな、それにしても仲が良いねぇ」

 「先生ぇ、ありがとうごさいますぅ……ぐすっ」

 「ちょっと心春さんそんなに必死に俺の事を心配してくれるのはありがたいけど恥ずかしいからちょっと押さえて」

 

 後で先生の助手の看護士さんが生暖かい視線で俺を見て来る。それが更に俺の羞恥心を煽った。

 

 「あぁ……傷口見せて……うーん、裂傷だね、何が原因でこうなったの?」 

 「えーと、なんというか……鞭で打たれてこんなったんです」

 「……あぁ、鞭で? もしかして」

 

 先生はジロリと心春さんを見る。

 

 「え、なんですか先生ぇ?」

 「あぁ……妹さん、あんたいくら仲が良いからってお兄さんの言うことを聞いてSMプレイしたらいけない、それにやるにしても怪我しないように専用の鞭があるからねぇ」

 「ええっ、ちょっと違いますぅ、わたくしはそんな事をしてませぇん!」

 

 心春さんが慌てて否定している間に先生は助手に頭を叩かれていた。

 

 「あぁ……痛いなぁ、ちょっとした冗談なのに、それじゃあ治療するからここに横になって」

 

 先生は頭を擦りながら俺に指示をする。

 

 ……この先生は大丈夫だろうか。

 

 助手の看護士さんが道具を持って来ると先生は早速俺の傷口を縫い始めた。麻酔をしていないのでチクチクと痛みを感じる。

 

 「あぁ、お兄様ぁ……ふぅ」

 

 付き添いの心春さんは俺の傷口が縫われて行くのを見てふらつき、看護士さんに支えられていた。

 

 「あぁぁ……君は強いねぇ、麻酔無しで治療しているのに全く動じてない」

 「はぁ、昔から怪我を良くしてましたし、慣れてますから」

 「慣れてるねぇ……カタギじゃないのかい?」

 「いやいや、一般人ですよ、唯少し前まで自衛官だっただけですよ」

 「あぁ……なるほどねぇ、君は何でやめてしまったんだい?」

 「えっ?」

 「先生ぇ? お喋りが過ぎますよぉ、そろそろ治療に集中してくださいねぇ?」

 「おぉ、儂とした事がつい……昔からお前は手より口の方が良く動くって怒られてたからねぇ、すまん、すまん」

 

 看護士さんが笑顔で先生をたしなめるが目は笑っていなかった。

 

 「すみません、先生は気になる事があったら何でも聞き出そうとする癖があるんで」

 

 看護士さんは俺に申し訳なさそうに誤る。

 

 はぁ、どこにでも苦労している人はいるんだな……それにしても何で辞めたか……。

 

 先生の言葉が胸に突き刺さる。

 

 ……。

 

 先生は腕が良くあっと言う間に俺の傷口を縫い終わり治療を終えた。

 

 「お大事にー」

 

 治療を終えて車に乗り込み帰る。

 

 「さぁ、お兄様帰りましょう」 

 「あの、心春さん、確かに俺は兄として慕って良いって言いましたけどできればその……あんまり人前では言ってほしくないんですけど」

 「えっ、嫌ですかぁ?」

 「嫌じゃなくて、なんていうか……色々まずいといいますか、あと出来れば繭さんの前では言わないでくれるとありがたいんですけど」 

 

 心春さんの顔がみるみる曇って行く。

 

 「そう、ですか……すみません大我様」

 「あの、心春さん人がいる時だけで別に二人きりのときは呼んでもいいですよ!」

 

 あんまりフォローになっていない気がするが俺は慌てて心春さんに取り繕うが心春さんは俺を無視して無言で車を発進させた。

 

 本当に最低だな俺は……けどここで心春さんとの関係をはっきりさせとかないと繭さんに申し訳ない。

 

 暫くすると人気のない道路へやって来た、ここは病院へ行く途中でも通った所なので違和感は無かったが異変が起きた。

 

 車が急に進路偏向の為の道路の脇の広場に停車した。

 

 どうしたんだ? 心春さん進路でも変えて何か忘れ物でも取りに行くのかな?

 

 心春さんは急に車から降り始めた。

 

 おい、何だ何だ!?

 

 心春さんは車の外側から俺が乗っている助手席までやって来ると扉を開けた。そして無言で俺の座席のシートの背もたれを下ろした。

 

 咄嗟の事に俺は何も出来ずに唖然とするだけだった。

 

 まさか心春さん、俺がお兄様と呼ばないでくれって言ったからそれに腹を立てて俺を今から殺すつもりなんじゃ……。

 

 ついさっき殺されかけた経験からそのような事を想像した。

 

 「うわああ!」

 「お兄様ぁ!」

 

 ……。

 

 何時まで立っても身体の何処にも痛みは来なかった。

 

 「お兄様、お兄様! 何で繭様の前で言っちゃいけないんですかぁ! 何で……何で繭様なんですかぁ! うわああぁん!」

 「……心春さん」

 

 心春さんは俺の身体に覆いかぶさり泣き喚いていた。

 

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