62話 「人形の条件」
ドンドンドンッ。
「おい、出せっ! ここを開けろ!」
「うわああぁん、まゆーっ!」
私は土蔵の扉を叩くがびくともしない。傍らでは妹の夢見鳥が泣いている。
「……畜生、ヒガンバナとスイカズラのやつらめ……ううう、大我ぁ」
私はその場に崩れ落ちた。
なんでこんな場所に私達を閉じ込めたんだ? 分からない……早くここから出て大我に会いたい。
ヒガンバナ達に土蔵に閉じ込められてからしばらく時間が経った。
……。
私は扉を叩くことに疲れてしまいしばらく何も考えたくなかった。
「あ……、あ……バラ、バラ逃げて」
奥からかすれた声が聞こえる。
「ボタン生きてたのか!?」
私は慌てて床に変わり果てた姿で横になっている姉に近づく。
「え、あ……誰なの……?」
「私だ、胡蝶だ!」
弱ったボタンを優しく抱き上げてやる。
「胡蝶? ……そう、あなたなのね……バラはどこにいるの? 私はいったい…………あ、あああ、いやああああっ!!」
急にボタンが私の腕の中で暴れ出した。
「いやあああっ! 私の腕は? 足はどこなの!? 嫌だ、もう鞭で打つのを止めてヒガンバナお姉様ぁスイカズラお姉様ぁ!!」
ボタンは錯乱しているようだ。部屋の床には無造作にボタンの手足と片側の眼球が落ちている。私達ではボタンの体を元に戻してあげられない。
「落ち着け、もう二人はいないんだ!」
「殺してぇ! 私はもう美しくない……ヒガンバナお姉様が私の顔を鞭で打ってそれで目が……いやあああ!」
「ボタン!」
私はボタンをぎゅっと抱き締める。
「……殺してなんて言わないでくれ、そんなのできるわけないだろ、大丈夫、きっと親父が直してくれる……元の姉妹の中で一番美しい姉に」
「うううっ胡蝶……ありがとう」
ボタンは何とか落ち着いてくれた。
「バラはどこにいるの? 無事なの?」
「あー、それなんだがバラは私達と行動していて一緒にここに閉じ込められたんだ、今そこで気絶して倒れている」
私が顔でバラのいる方を合図してやるとボタンはギョッとしながらそちらを見る。そして私の腕からスルリと抜け出すとバラの方へモゾモゾと移動する。
「あぁ、バラごめんね守ってあげられなくて……許して」
ボタンは寝ているバラの胸に顔を乗せて泣いている。
「バラのやつ朝からずっとボタンのことを探してたんだ、私と夢見鳥もそれに付き合ってたんだ」
「そうなの? それにしてもよくここだとわかったわね……ほら、この子少し抜けてるから」
「そうだな、たぶん私達と一緒じゃなかったらずっと見つけられなかったと思う」
「改めてお礼を言うわ……ありがとう」
会話をすることで少しは気分がマシになった。
……。
「胡蝶お姉ちゃん」
「ん……何だ?」
夢見鳥が悲しそうな声を出しながら私を後ろから抱き締めてくる。
「どうしたんだよ夢見鳥、急に抱き締めてきて、寂しいのか?」
「……んーん」
夢見鳥は首を振る。
「はぁ、胡蝶あなた鈍感ね夢見鳥は寂しいんじゃなくて怖がってるのよ……なんせここは暗くて不気味なところだから……私でも怖いわ」
ボタンが呆れたように言う。
「そうなのか? 確かに暗闇は怖いけど何故か私は違うんだよな……気分が高まるんだ、なんて言うんだろうこれから獲物を狙うぞって感じだ」
「なにそれ意味が分からないわ……夢見鳥、私のところへ来なさい」
夢見鳥は私から離れてボタンのところへ行く。
「まったく鈍感な姉をもつと妹は苦労するのよ? ……夢見鳥私を抱っこして頂戴」
「えっ、夢見鳥がボタンお姉ちゃんを抱っこするの?」
「えぇ、私も夢見鳥と同じで怖いの、だから抱っこして勇気づけて」
「うん、わかった」
夢見鳥はボタンを優しく抱き上げてる。
「それでいいわありがとう夢見鳥、これで怖くなくなったわ……どう姉妹でくっつくと勇気が湧いて落ち着いてくるでしょ?」
「うん、夢見鳥も勇気が湧いてきた…………ボタンお姉ちゃん大丈夫? 目と体痛くない?」
「大丈夫よ夢見鳥、ふふふ、バラと似てかわいいわねあなた、やっぱり妹はいいわぁ」
夢見鳥は照れている。
私はその光景を見て少し苛ついた。
「ふふふ、胡蝶ヤキモチを妬いてるの?」
「ちげーよ!」
ボタンはいつものイラつく姉に戻ってきた。
「胡蝶、からかって悪かったわ、あなたも私達のところへ来て、お願い」
素直なボタンにビックリした。私はボタンの側に寄る。
「胡蝶、今までいじわるしてごめんなさい」
「どうしたんだよ急に」
「いいから最後まで聞いて、あなたの大切な大我様にちょっかいを出して悪かったわ、私はあなたに嫉妬していたの」
私は無言で続きを促した。
「私とバラは他のお姉様を改良して造られたお父様の最高傑作の人形だと思っていたわ、でもそれは違った……何故ならあなた達姉妹が最後に造られたから」
私が親父の最高傑作? 何の冗談だ。
「私はお父様が私達に満足されてないと思って嫉妬してお父様を憎んであたわ、そんなある日あなたと夢見鳥が帰ってきた恋人を作って……」
恋人……もう私と大我は恋人じゃない。
「許せなかった、何故あなた達だけ愛されているの? 何故お父様はあなた達二人に執着するの? 考えれば考える程嫉妬と憎しみが湧いてきたわ……恐らくヒガンバナお姉様達もこんな気持ちでいる」
「そうなのか? でもみた感じ親父は姉妹全員をちゃんと大切に思っているみたいだぞ?」
「そうかしら、お父様はいつも売ったあなた達のことを言っていたわ私達をそっちのけで……きっとあなた達以外の姉妹全員に飽きてしまわれたんだわ」
「飽きるだと? 親父が自分の娘に飽きるわけないだろ!」
「そう、なら何故しっかりとしたヒガンバナお姉様達でなく心春お姉様を古家家の後継者に選んだの? 何故ガマズミお姉様達を仕事場へ連れていかないの? ヒマワリお姉様達に関しては放任しているし私とバラ何てお父様にあまり相手にされないどころか嫌がられてるわ!」
「最初のほうは何故か分からないがたぶんボタン達に関しては親父は女に慣れてなくて恐らくお前達がエロ過ぎて逃げてるだけだと思うぞ?」
「えっ、そんな理由?」
少し気まずくなる。
「そ、そうねお父様の前では少しは露出を抑えようかしら」
「ああ、その方がいいと思う」
これで少しボタンと親父の関係が直りそうだ。
「まぁ、いいわけど胡蝶これだけは覚えておきなさい私達ラブドールは飽きられたら終わりよ」
「…………飽きられたらどうなるんだ?」
「死ぬのよ」
……死ぬ、動けなくなる、考えただけで恐ろしい。
「どうしてそう思うんだ?」
「どうしてってお父様から聞いたの」
「えっ、そうなのか?」
「興味本位で私達人形の動力源を聞いたことがあるの」
⎯⎯⎯
「ねぇお父様、私達はどうやって動いてるの?」
「そうだね…………愛情かな」
「愛情?」
「そうだ、僕は童貞魔法を使って人形に愛情を注いだんだ」
「えっ、それってどういう……もしかしてお父様の股間から……」
「ちょっ何を言ってるんだ! 娘にそんなことするわけないだろ!」
「えっ、それじゃあ他の人間の女性に……」
「だあああ! それ以上は止めなさい! いいかい単純に僕は君たち人形に念じただけだよ、僕に娘をください、きっといい親になって大切に育てますからとね」
「そうなんですね、でも育てるって言っても私達は成長するのかしら」
「…………まぁそんな細かいことは気にせずに君達は僕と共に暮らしてくれ」
「はい、でも愛情ってことはお父様の愛情が無くなると私達は……」
「大丈夫だ僕が君達に愛情を無くすことはないから」
お父様は私の頭を優しく撫でながらそう言った。
 ̄ ̄ ̄
……。
「……分かったかしら、だからお父様の飽きられることは愛情が無くなったのと一緒、だから死にたくなかったらあなたも大我様に気に入られることね」
ボタンは最後にそう締めくくった。
私は話を聞いて分かったことが人形の死の条件は二つあると言うことだ。
一つは所有権を手放される。
これは一度体験している、何故なら私と夢見鳥は大我と繭に売られた。
ということは親父の所有権を手放した。だから死んでしまい輸送される箱の中で只の動かない人形に戻ってしまった。しかし大我達の元へ行き所有権が大我達に発生したので生き返ることができた。
あぶねぇ、きっと今朝大我が私をここに置いていくと言ってもいたら所有権を手放したと見なされて死んでたはずだ。
もう一つの条件は愛情だ。
話を聞く限りだと親父の愛情が動力だと理解しがちだが正確には違う。恐らく所有者の愛情だ。
大我と繭が出掛けた後私と夢見鳥は体から何か抜け落ちる感覚がした、きっとそれが愛情だ。恐らく大我は向こうで繭と恋人になった、だから愛情が私じゃなく繭に向かったんだ。
それは夢見鳥も一緒だ。
「ん、どうかしたかしら夢見鳥?」
「う、ううん何でもないよボタンお姉ちゃん」
夢見鳥のやつ気がついたな。
夢見鳥は顔を青ざめさせている。
一つ目はともかく二つ目の条件をクリアしてしまうとアウトだ、何故なら愛情が無くなったものを再び愛するのは無理だ。
ドンドンドンッ。
「おい、胡蝶いるのか? 居たら返事をしてくれ!」
外から扉を叩く音と共に大我の声が聞こえた。
「胡蝶、あなた本当に愛されてあるわね、大我様が助けに来てくれたわ、これなら安泰ね飽きられずにあなたは長生きするわ」
ボタンがからかうように言う。
いや、ボタン私はきっと長生きできないよ。
中々明るい話になりませんが応援よろしくお願いします。
評価感想があればよろしくお願いします。




