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61話 「距離感」


 「はぁ、ボタンのやつどこに行ったんだよ」

 

 俺は繭さんとのデートを切り上げて朝から行方不明のボタンを探すことにした。

  

 そういえば昨日の夜俺はボタンとバラと一緒に風呂に入ったんだっけ……。

 

 昨夜酔っ払って意識がハッキリしていない俺はうまくボタンに誘導されて一緒に風呂に入ったのだ。

 

 ボタンは胡蝶と瓜二つなので俺は見分けをつけることができなかった。

 

 そうしてまんまと騙された俺はボタンとバラに体を洗われていたのだが途中で意識が戻った時には遅く何故か胡蝶が風呂に突撃してきて現場を見られた。

 

 そのあとはいつもの如く怒り心頭の胡蝶にぶん殴られて俺は気絶してしまった。

 

 おいおい、まさかボタンが行方不明になったのはまた俺を騙す為じゃないよな?

 

 どうやら昨夜のことがきっかけで俺は少し疑心暗鬼になってしまったようだ。あれこれ考えているうちに古家さんの家に戻ってきた。

 

 「おーい胡蝶、帰ってきたぞー!」

 

 玄関で叫んでみるが反応がない。

 

 どうしたんだ? 朝はいたのに。

 

 暫く呆然としていると奥から急いでヒガンバナちゃんがやって来た。

 

 「く、久我様こんなに早く帰ってきてどうしたんですか? 確か繭様とデートしてたんじゃ……はっ、まさかうまく行かなかったんですか!?」

 「いや、それがさぁ……ってそうじゃなくて、大変なんだボタンが朝から行方不明らしくて」

 「えっ……そ、そうなですか?」

 「ん? ヒガンバナちゃんもしかしてボタンが行方不明なのをしらなかった?」

 

 何かひっかかる、普通家族に異常があればあわてるはずなのにヒガンバナちゃんの態度にそれがない。

 

 「はい……今知りました、あの子と昨日の件で喧嘩して朝から顔を会わせなかったんで……それで」

 「……」

 

 俺は理由を聞いたがヒガンバナちゃんにどこか違和感を感じたのかハッキリすることができない。

 

 「まぁ、いいやこれからボタンを探すんだけど……そういえば胡蝶はどこに行ったか知らない?」

 「胡蝶ちゃんも久我様が出ていかれた後から見てないですね」

 「そうなの?」

 「ええ、久我様……私もこれからスイカズラとボタンを探しますので失礼しますね」 

 

 ヒガンバナちゃんは俺から逃げるように去っていく。

 

 「……ヒガンバナちゃん、いくら俺が嫌いだからって逃げなくてもいいのに」

 

 ……まぁ、嫌われてるなら仕方ない今はボタンを探さないと。

 

 気分を立て直した俺はまずは胡蝶と合流するために部屋に帰ることにした。

 

 「おーい胡蝶、入るぞ……あれ?」

 

 部屋には誰もいなかった。

 

 「あっ、今朝出掛ける前に胡蝶は夢見鳥ちゃんと話があるって言ってどこかにいったな」

 

 今朝のことを思い出すと胸が痛くなる。俺は胡蝶に酷いことをしてしまったな。

 

 ふと部屋を見渡すと机の上に俺が胡蝶にプレゼントした蝶の髪飾りが置いてあった。

 

 「あいつこの髪飾りを気に入ってたのに外すなんて……俺に気を使ってくれたのか?」

 

 髪飾りを見つめながら思う。

 

 結局俺は胡蝶を好きなままでいられなかった、最初は一緒にいるのが楽しいと思っていたのに……何でだろう? やっぱりあいつが人形だからか?

 

 胡蝶に対して抱いていた感情は今は別の女性に向いている。

 

 ……繭さん。

 

 俺は胡蝶と恋人関係をやめ同じ人間の繭さんを選んだ。

 

 繭さんはいつも自信がないようでビクビクしている。でも本当は心が強くしかも自分で気がついていないようだがとてもかわいい年下の女の子だ。

 

 ハッキリ言って俺みたいな筋肉デブにはもったいない人だ。

 

 「「ぎゅっ」」

 「うわぁっ!」

 

 繭さんのことを考えていると突然誰か二人が俺の背中に抱きついて来たのでびっくりした。

 

 「だ、誰だ? って……ガマズミちゃんとキンセンカちゃん!?」 

 

 振り返ると二人が無表情で両手をワキワキさせていた。

 

 「……部屋が空いてたから来た」

 「……お兄ちゃんは何してたの?」

 「胡蝶に会おうと思って部屋に来たんだけど居なくて考え事をしてた、二人は胡蝶を見なかった?」

 

 俺が尋ねると二人は何やらお互いに目配せをした。

 

 「……胡蝶ちゃんがどこに行ったか知ってる」

 

 ガマズミちゃんはそう言うと何故か俺の胸に抱きついて来た。

 

 「えっ? どうしたの急に……うわっ」

 

 今度はキンセンカちゃんが俺の後ろに回り込んで背中に抱きついて来た。

 

 「……暇、だから構って」

 「……そうしてくれたら居場所を教えてあげる」

 「ちょっと待ってくれ二人とも今は緊急事態なんだボタンちゃんが行方不明で探すのに胡蝶の協力が必要なんだ」

 「……やだ、構ってくれるまで教えない」

 「……朝からお父さん達みんな私達に構ってくれない……そんなの寂しい」

 「ええっ……参ったなぁ」

 

 二人を離そうとしても力強くしがみついてくる。

 

 そういえば古家さんが言ってたっけ、この二人は言い出したら満足するまで離れないって……。

 

 「はぁ、わかったよ……けど本当に忙しいから手短にしてくれ、二人は俺に何をしてほしいんだ?」

 「……抱っこ」

 「えっ?」

 「……私はおんぶ」

 「はぁ!?」

 

 まずい、この緊急事態にそんなことをしている訳にはいかない。ましてや俺には繭さんがいるからあまり他の女の子と触れあうのは良くない。

 

 「それはできないよ」

 

 そう言うとガマズミちゃんがじっと俺の顔を見る。

 

 「……何でできないの? 抱っこするぐらい簡単……もしかしてお兄ちゃんガマズミ達のことが嫌い?」

 「えーと、そうじゃなくてね?」

 「……おんぶ、おんぶ、おんぶ、おんぶ、おんぶ、おんぶ」

 「うわっ、キンセンカちゃん俺の耳元でおんぶを連呼しないで怖いから」

 

 ここまで二人が構ってほしいと思っているとは思わなかった。

 

 繭さんごめん。

 

 俺は心の中で謝るとガマズミちゃんを抱き締めた。

 

 「……これ、抱っこじゃない」

 「ごめん、ガマズミちゃん今は時間がないから抱っこはできないからこれで勘弁してくれ」 

 

 俺は優しく大切にするように少し腕に力を込めた。

 

 「!? ……良い、これなんか良い!」

 

 ガマズミちゃんが少し興奮気味になって俺を抱き締め返し顔を俺の胸に擦り付けてくる。

 

 「……ガマズミだけずるい、お兄ちゃん早く私をおんぶして! ぎゅー!!」

 「うわっ!」  

 

 キンセンカちゃんが構ってくれないことに怒って俺の背中に強く抱きついた。

 

 「…………」

 「キンセンカちゃん?」

 「……ふん、ふん、ふん」  

 「キンセンカちゃんどうしたんだ!? そんなに鼻息を荒くして」

 

 キンセンカちゃんはさらに俺の背中を強く抱き締めてくる。

 

 「……力いっぱい抱き締めるの良い」

 「そうなのか?」

 「うん……普段はこんなにできない……だから新鮮な感覚」

 「ははは、確かに二人ともいつも古家さんに抱きついてるよね? けど古家さんはもう年齢的にお爺ちゃんだから今のキンセンカちゃんの力で抱き付いたらけがしちゃうもんな」

 「……そう、私達のお父さんはお爺ちゃん」

 「ご、ごめん悪気があって言ったんじゃないんだ」

 

 しまった失礼なことを言ってしまった。

 

 「いい……お父さんがお爺ちゃんなのは事実だから」

 「……お父さんは多分寿命が近い……だからいつか急に死んじゃいそうで怖い」

 

 ガマズミとキンセンカの二人が悲しそうに言う。

 

 「そうなんだ……だから二人はいつも古家さんに抱きついているの?」

 「「……そう」」

 

 古家さんが亡くなってしまったらこの二人はどうなるんだろう? 胡蝶や夢見鳥ちゃん達もどうなってしまうんだ?

 

 「……もう、いい満足した」

 「……お兄ちゃんありがとう」

 

 二人は俺から離れる。

 

 「……胡蝶ちゃんは庭にある土蔵に行った」

 「……他にもバラちゃんと夢見鳥ちゃんもいた」

 

 ガマズミちゃん達は約束通りおらに胡蝶達の居場所を教えてくれた。

 

 「ありがとう、じゃあ行ってくるよ」

 「……うんわかった……お兄ちゃん最後に聞いてほしいことがある」

 「何を聞いてほしいのガマズミちゃん」

 「……胡蝶ちゃんは私達と一緒で寂しがりや……だからいっぱい構ってあげてほしい」

 「…………わかった、そうする」 

 

 ……胡蝶、確かにあいつは寂しがりやだ、けど俺は繭さんと付き合っている……胡蝶とどう距離感を取ればいいんだ?

 

 ガマズミちゃんの言葉で俺は繭さんと付き合っていく上で胡蝶とどう接するのか悩んでしまった。

 

 部屋をあとにする。

 

 俺は心にモヤモヤを残したまま土蔵に向かった。


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