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2話 「俺は変態なのか?」


 深夜二時、月明かりが部屋にいる俺と人形の胡蝶を照らす。

 

 人形は女性の形をしていて上半身の肌をさらけ出しうずくまって泣いている。俺はただそれを呆然と見ることしかできなかった。もしこの場面を他人が見たら一発で通報されるだろう。

 

 「うわあああん!」

 

 人形、胡蝶の泣き声を聞いて現実逃避していた俺はハッと我に帰る。

 

 「と、とりあえず灯りをつけよう、うんそれがいいハハハ」

 

 俺は灯りをつけて改めて胡蝶を観察した。

 

 「まじかよ本当に生きてるのか?」

 

 俺は胡蝶に触れようとして手を伸ばした。

 

 「触ろうとするんじゃねーよ変態!」

 

 胡蝶が頭をグルンと真後ろに回転させ俺を睨みながら罵声を浴びせてきた。

 

 「怖っ!」

 

 俺はその光景に怖じけづいて手を引っ込めた、その時あることに気づいた。

 

 「あれ? 泣いてたのに涙が出てない」

 「うるせー! これでも泣いてんだよ!」

 

 気の強そうな女の子の声で胡蝶が答える。

 

 「いや泣いてないだろ」

 「泣いてる!」

 「泣いてないだろ」

 「泣いてる!!」


 俺の否定の言葉に胡蝶が肯定で返してきた。

 

 「とりあえずその頭を元に戻してくれないか怖くてしょうがねえよ」

 

 俺の提案に胡蝶は舌打ちをして不満そうにしたが俺の頼みを聞いてくれた、そして頭を元に戻すといそいそと着物を着直し俺を睨み付けてきた。それを見てビビりながら机を間にして胡蝶の前に座った。

 

 「一応聞くけどお前は女だよな?」

 「はぁ? てめえの目は節穴か? 見ての通り女だよ」


 よかったぁ、これで男とか言われたらますます混乱するところだった。


 「ゴホン……それじゃあもうひとつ質問するけどお前は本当に生きてるのか? 呪いの人形とかじゃないよな?」

 

 俺は恐る恐る胡蝶に聞いた。すると胡蝶は俺をバカにしたような目で見てきた。

 

 「おいおいまだわかんねぇのか? 私はこの通り生きてるよ、あと呪いの人形とかいうカスといっしょすんじゃねーよ」

 

 手をヒラヒラと揺らしながら薄ら笑いを浮かべて胡蝶は答えた。

 

 「……おっおう、そうか悪かったな」

 

 俺は謝罪するとさらに質問することにした。

 

 「お前はどうして命が宿ったんだ?」

 

 胡蝶はしばらく考えて口を開いた。

 

 「……さぁ、わからねえ」

 

 どうやら分からないみたいだ。

 

 「ただ覚えているのは気が付いたときに私の目の前に気持ち悪い変態がいたことだ」

 

「のわぁー! やめてくれー!」 

 

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら胡蝶が発した言葉に俺は精神に甚大なダメージを負い思わず体を仰け反らした。

 

 やばいこの女の子はドSだ。

 

 「それと私のことをお前と呼ぶな、ちゃんと胡蝶という名前で呼べ」

 

 俺は姿勢を直すと胡蝶に向かって叫んだ。

 

 「おいっ胡蝶って名前は確か設定でついてた名前だろ? もし設定通りだったら今のお前の性格と全く違うんだけど!」

 

 胡蝶を購入したときに付いてきた説明書を見せた。

 

 「お前と呼ぶな、なんだこれ……ふっ……あははははっ! あーおかしー、ふふっ」

 

 胡蝶は一通り説明書を読むと笑いだした。

 

 あっ、なんか笑ってる姿がかわいい、しかも字が読めるんだ。

 

 俺がそんな感想を抱いていると胡蝶が片手に顎をのせながら喋った。

 

 「だいたいなんだこの設定は……ククク、私が寂しがり屋で不安を抱えているって?」

 「え、違うのか?」

 「私はこんな弱い女じゃねーよ、あはははは!」

 

 胡蝶は再び笑いだした。

 

 マジかよあの設定では綺麗でか弱そうな子がこんなに口の悪いドSな女の子になるなんて。

 

 俺は愕然とした。

 

 それにしてもこいつ意外と表情が豊かだな少しからかってやろう。

 

 「けどそのわりには自分で泣いてるとか言ってたじゃねーか」

 「なっ!?」

 

 ニヤリと笑いながら俺が言ってやると胡蝶は驚いたように目を見開き口を隠して怯んだ。しかし直ぐに立ち上がって俺に反抗してきた。

 

 「だっ……黙れ、しょうがねえだろ暗い部屋でいきなり私の体を触られようとしたんだ!」

 

 なんだか胡蝶は怒りながらも恥ずかしがっているように見える。

 

 続いて胡蝶は机の上に立ち上がり反抗をする続ける。

 

 「だいたい私は高貴で美しい女だ!」

 「へぇ、そうですか」


 この女は行儀が悪いな。

 

 俺はムカついてきたので注意しようとしたそのときだった。

 

 「そんな私を襲おうとするなんてお前は最低だ! この変態!」

 「なっ!?」

 

 今度は胡蝶の言葉に衝撃を受けた俺が怯んだ。

 

 「お……俺が変態だと?」

 

 胡蝶は立て続けに俺を責め立てる。

 

 「そうだこの外道!!」

 

 更なる追撃に俺の精神はズタボロだ。

 

 「俺が……外道だと?」

 

 俺は今までの行動を思い出したが胡蝶の言葉に反論できないことに気が付いた。

 

 「……俺は変態で外道だったのか」

 

 そう呟くと何かが俺の顔に当たった。

 

 「自分で認めたな? 分かったらこの私にひざまずけ! あーはははは!」

 

 胡蝶が高笑いをしながら着物の裾をたくし上げ片足を俺の顔にグイグイと押し付けてきた。

 

 くそっ、あともうちょっとで見えそうなのに!

 

 俺は胡蝶の下着を見ようと抵抗した。

 

 「てめぇらいいがげんにしろや! うるせぇんだよくそボケぇ!!」

 「ひぃっ!」

 

 また部屋で騒がしくしてしまったので隣の部屋のおっさんが壁越しに怒鳴った。


 胡蝶はおっさんの声に怯えて台から落ちてしまった。

 

 「あっ、見えた」

 

 俺がそう言うと胡蝶は慌てて前を隠し俺を睨み付けた。しかしすぐにプイッと視線を俺から反らした。

 

 胡蝶は実は臆病で恥ずかしがり屋なのか?

 

 俺はそう分析した。

 

 ……。


 しばらくお互いに無言が続いた。


 「とりあえず寝るか?」

 

 俺がそう言うと胡蝶は当然のように俺のベットに横になった。おい、と声をかけるが胡蝶は俺を無視した。

 

 このまま隣で寝たら胡蝶は怒るだろうな。


 そう思った俺は床で寝ることにした。電気を消して部屋暗くなったが月明かりでぼんやりと胡蝶が見えた。

 

 「なぁまだ起きてるか?」

 「……起きている」

 「胡蝶、お前は人間なのか?」

 

 俺は今までのやり取りから胡蝶が本物の人間に思えたのであえて聞いて見た。

 

 「ふふ……何バカなこと聞いてるんだ……私は人形だぜ?」

 

 胡蝶は起きていたようで俺の質問に呆れたような口調で答えた。

 

 「そうか、そうだよな……それよりこれから先何かやりたいことはないのか? やってほしいことは?」

 「……今はやりたあことはない、けどやってほしいことはある、私を可愛がれ……もう寝る」

 

 胡蝶の意外な答えに俺はドキドキした。

 

 こいつかわいい!

 

 人形とはいえ誰かと家で過ごしたのは久しぶりだ。

 

 少し嬉しさを感じつつ俺は眠りに就いた。

 

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