19話 「親の愛」
朝になった。
楽しかった旅行が終わりこれから『幻想的人形工業』という胡蝶を造った会社に行く。
宿泊した部屋を片付けてもう必要のない荷物は郵送し出来るだけ身軽にして出発する準備をする。
「さてと、荷物も片付いたな……胡蝶準備はできたか?」
「ああいつでも行けるぞ」
胡蝶は準備万端のようだ。今日も白のワンピースを着ているが少し前と違うところがある。それは胡蝶が頭に俺が買ってやった赤い蝶の髪飾りをつけていることだ。
正直今着ているワンピースにあっていない気がする。しかし胡蝶がどうしてもつけるというので好きにさせている。
自分のプレゼントをこうして着けていくれているのを見ると嬉しさが湧いた。
この旅行の計画を練って手配までしてくれた黒田さんに礼を言う。
「黒田さんのお陰で楽しい旅行になりました、ありがとうございます」
「いえいえワタクシもこんなに楽しい旅行ができて満足ですよ、ただもう少し一緒にいたかったですねえ」
黒田さんは仕事の都合で最後までいれない。
「おい黒田、梨々香はどうしたんだ?」
「梨々香たんですか? 彼女でしたら萎ませて鞄に納めましたが?」
「そうか……なあ黒田、梨々香によろしく言ってくれ私はあいつに世話になったからな、それと梨々香を大切にしろよ」
「胡蝶たん……分かりました、胡蝶たんも梨々香と友達になっていただきありがとうごさいます」
俺は驚いた。胡蝶があれほど風船といって梨々香ちゃんをバカにしてたのにいつのまにか友達になっているとは思わなかった。
黒田さんは一足先に戻ると言う。よっぽど黒田さんは忙しいようだ。そうして黒田さんは繭さんに挨拶しに行きそのまま帰った。
黒田さんと次会えるのはいつだろう。
今部屋には俺と胡蝶と夢見鳥ちゃんしかいない。
「うー、繭がまだこない」
夢見鳥ちゃんはそわそわしながら繭さんを待っている。繭さんは俺と同じく必要のない荷物を郵送する手配をしに行っている。
今日の夢見鳥ちゃんは黒の着物ではなく繭さんの服で紺色のワンピースを来ている。
「大丈夫だよ夢見鳥ちゃん、繭さんはすぐ戻るよ」
俺は夢見鳥ちゃんの頭を撫でる。
「大我お兄ちゃん……」
夢見鳥ちゃんは俺を見て悲しそうな声を出す。話題を変えようと思い夢見鳥ちゃんに尋ねてみる。
「そういえば夢見鳥ちゃんはお父さんに会いたいと思う?」
「お父さん? 夢見鳥お父さんに会ったよ」
「えっ! 夢見鳥ちゃんいつどこであったの?」
「うーんとね繭のお家に行く前に会ったよ……でも場所はわかんない、お父さんとはそんなに長く暮らしてないから」
思わぬところから情報が出てきた。
「おい夢見鳥! 親父は私達についてなんか言ってたのか? 私は親父を覚えていないんだ教えてくれ!」
胡蝶が興味を持って夢見鳥ちゃんに問いかける。
「えーと……夢見鳥と姿形の同じ人形がいてね、あっ、お姉ちゃんと姿形が一緒の人形もいるよ、全員で十人くらいだったかな……でねお父さん夢見鳥達一体一体とちゃんとお話してくれたの」
「私と姿が同じ人気が他にもいる?……それで何を話したんだ?」
「確か『お前達はこれからお嫁に行くんだ、向こうで末永く可愛がってもらって愛されることを願うよ』って言ってた」
「……親父」
「あとねこうも言ってた『お前達……もし愛されなくなったらお父さんに助けを求めるんだよ、そのときはすぐに迎えにいくからね』って」
「親父は私達を本当に愛してくれてたんだな」
俺は夢見鳥ちゃんの話を聞いて少しウルッと来た。胡蝶達のお父さんは話を聞く限り人格者だと思う。
ますます会いたくなった。
「お待たせしました大我さん……黒田さんと挨拶が終わりました、なんか寂しいですね」
繭さんが荷物の準備と黒田さんとの別れの挨拶を終えて帰ってきた。
「そうですか、黒田さんは何て?」
「はい、また三人で集まりましょうって、それと今回旅行で撮った写真を後でみんなに送るって言ってました」
そういえば黒田さんいっぱい写真を撮ってたな、繭さんの水着写真楽しみにしてますよ黒田さん……むふふ。
俺達は旅館を出てバスに乗り駅まで向かう、俺達の目的地はここから二駅行った先にある。
駅のホームで俺は胡蝶を背負い電車を待っている。
「まゆー、繭のおんぶー!」
俺の隣で夢見鳥ちゃんが繭さんに背負われてはしゃいでいる、幸い俺達の他に人はいない。
「ちょ、ちょっと夢見鳥、私の背中で揺れないで!」
繭さんは珍しく夢見鳥ちゃんを背負っている。
「繭さん無理しないほうがいいですよ」
「いえ、これでいいんです、私大我さんと胡蝶ちゃんを見て羨ましいと思ったんです、私も夢見鳥を背負ってもっと仲良くなりたいんです」
繭さんは笑顔で俺に答える。
そうなんだ、でも繭さん足が震えてるよ?
小さい繭さんには夢見鳥ちゃんを背負うのはちょっと厳しいと思った。
「全く夢見鳥はガキかっつーの」
胡蝶はそう言うがさっきから足を機嫌がよさそうにブラブラ揺らしている。
俺はあえて何も言わなかった。そうこうしているうちに電車が来たので俺達は乗り込んだ。
十五分ほどで目的の駅に到着すると俺は人が来るのを待った。
「大我さんは誰を待ってるんですか?」
「えーと確か会社の人が迎えに来るんですよ、もちろん繭さん達のこともちゃんと伝えてありますから大丈夫ですよ」
そう話していると俺達の側に黒色の車がやって来た。車種はクラウンだ。車は俺達の前に止まると運転席から大人の女性が出てきた。
「お待たせ致しましたぁ、久我大我様と真見繭様ですね、わたくし『幻想的人形工業』の秘書兼運転手をしておりますぅ古家心春です、よろしくお願いしますぅ」
そう言って女性は古家と名乗り俺と繭さんに名刺を渡してくる。
「こ、こちらこそよ、よろしくお願いします」
俺は古家さんを見てドキドキした。
古家さんは見た感じ俺より年上で人懐っこそうな顔で美人だ。茶髪で髪はふわふわしている。そして話し方はおっとりしている。
俺は次に古家さんの胸を見た。
うおぅ! でけえ、
古家さんの胸は大盛と言った感じで豊かだった、そのせいで服がピッチリしている。また線の入った黒のスーツとタイツを履いていてこれぞ女性秘書といった感じだ。
「ふふ、久我様どうかなされました? そんなに緊張なさらなくてもいいいんですよぉ」
そう言って古家さんが俺の顔をのぞきこんでくる。
うはぁ、良い香り。
古家さんからは甘い香りがしてきて俺はくらくらしてしまった。
「おい、他の女の色気に惑わされんなよ」
胡蝶の声にハッとする。
「うー、大我お兄ちゃんなんかいやらしい」
「……大我さん」
夢見鳥ちゃんと繭さんがジト目で俺を見てくる。
「まあまあ胡蝶ちゃんと夢見鳥ちゃんですね! 待ってましたよぉ!」
古家さんは胡蝶達に気が付くと驚くこともなく普通に接してくる。
「古家さんは胡蝶を見て驚かれないんですか?」
「ええ、社長から伺っていましたからぁそれに……まぁ大変! 約束の時間に遅れてしまいますわ、すみませんがお車に乗っていただけますか?」
俺達は古家さんに促されて車に乗車する。女性三人は後ろに乗車し俺は助手席に座った。
「わぁー! 繭見て動いてる、はやーい!」
「…………そうね夢見鳥でも少し静かにしてね」
「……チッ、大我の野郎」
俺はバックミラーで後ろの三人を見た。夢見鳥ちゃん以外皆不機嫌そうに俺をジーっと観ている
「うふふふ、久我様はずいぶんとおモテですねぇ、わたくしとしたことがヤキモチを妬かしてしまったようですねぇ」
古家さんが運転しながらそう言うと繭さん顔を真っ赤にしてはあたふたした。胡蝶は無言になった。
おい胡蝶やめろ、その無言はちょっと怖い!
俺はバックミラーを見るのをやめた。
「そう言えばさっき胡蝶達のことを社長さんから伺ったって言ってましたけどどういうことですか?」
俺が尋ねると古家さんは思い出したかのように答える。
「あぁ……そうですねぇ胡蝶ちゃんたちは実は社長自ら造ったんですよぉ」
「ええっそうなんですか!? でも社長って普通そういった作業とかはやらないんじゃ?」
「そうですねぇ普段はデザイナーさんや製造担当の方と分担してお人形を造るんですけどぉ、なぜか胡蝶ちゃんたちは社長が全部担当して造ったんですよぉ」
えっ、それってかなりすごい人なんじゃ……。
「……社長さんすごいですね、いったい何者なんですか?」
「うーん、社長は元々人形作家って聞いてますねぇ、ちなみに社長はわたしくしの父なんですよぉ」
俺はもう驚くのをやめた。
しばらくすると車はだんだん町から離れて行った。
「あれ? 古家さんこれって会社から離れてますよね? どこに向かうんですか?」
事前に会社の位置を地図で調べていたので会社からな離れていってることに気が付いた。
「久我様心配されなくても大丈夫ですよぉ今は社長がおられる工房へ向かってますからぁ」
古家さんを信じることにする。
しばらくすると俺達は田舎にある和風のお屋敷の前に来た。
古家さんは俺達をお屋敷の入り口で下ろすと車を駐車場まで停めに行きすぐに歩いて戻って来た。
「ようこそ社長の実家兼工房へ、社長のところまでご案内しますよねぇ」
そうして俺達は胡蝶達の父親である『幻想的人形工業の社長』まで案内された。




