A-2 とある日、とある彼にとってのRush
「……はっ!」
目を開けると、見慣れた天井が視線に飛び込んでくる。
「……またこれか」
たまに中学時代の夢を見る。確かに俺の転機ともなった思い出だが、いかんせん前半部分の後味が悪すぎる。あまり何度も見たい夢ではない。
現に俺の心臓はいま、バクンバクンと大きく響いていた。人間の鼓動の数はおおよそ決まっているという噂も聞くし、あまりこんなことで使わないでほしい。
「……まだニ時か」
まだまだ深夜であるが、完全に目が覚めてしまった。
この覚め具合はすぐには眠れないだろう。傍らに携帯ゲーム機があったので、とりあえず電源をつける。
……それにしてもいつの間に寝てしまったのかもわからない。ゆっくり今日の記憶をたどってみる。
……えーっと。今日も学校をつつがなくこなし、図書館にいったら種田に会い、オタクがばれ、脅迫され、奴隷と化した。
……そのあと帰って飯を食べてからの記憶がない。あまりに図書館の件が衝撃的すぎて、心がもぬけの殻だったのだろう。しかし嫌な現実を思い出してしまった。俺はこのまま下手したら、三年間奴隷としてこき使われるという可能性も大いにあるぞ。しかも、今日は久々にあの夢も見たし。
……厄日だ。今日は。
思わず手で顔を覆った。今日の出来事には後悔しかなく、ため息を吐く。
……こういう時は現実逃避しかない。そのスキルにだけは無駄に自信がある。
枕元に合ったゲーム機を取り、ギャルゲーをプレイし始める。
「あー、ギャルゲ最高!」
何かを掻き消すように俺はそう叫んだ。もちろん心の中で。