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ストレンジカメレオン  作者: チャンカパーナ橋本
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闇夜に、光る

「私たちのこれからを祝して……慶悟君っ……きてっ……」


 テレビの液晶に映されているヒロインは目をつぶり、キスを要求する。ここにくるまでの過程も相まって、俺の気分はひどく高揚していた。


 そんな気分の高揚はひとつの行動に表れる。


 そう、何を隠そう。俺は己の唇を、液晶画面に向かって刻一刻と近づけていた。


 心の中に住まう実況者がおたけびを挙げる。


「出たあああ!!! 水谷君の2次元と3次元の壁を超えるもの、通称、境界なき接吻ボーダレス・キッシングだあああ!!!」

「これは世間の人たちがえげつない程ドン引きするといわれているかなりの大技ですね。なかなかできる技じゃありませんよ。ええ」


 心の中の解説者も言うとおり、これは世間の人達にはおおよそ理解されないであろう行いだ。しかしここは俺の部屋。そう、いわば聖域。この場で俺を咎められようものなど何人たりとてなし。


 俺は画面に静かに唇をつけた。そのキスの味は、現状の酸苦さを表現するかのように苦かった。多分単純に画面がほこりで汚い。


「ん……っ。……え、えへへ、やっと一緒になれたね」


 俺の唇のあとが生々しく液晶に残っている悲惨な現状など気にもとめず、フェードインしてくる形でエンディング曲が流れ始める。


 俺は静かにコントローラーを床に置き、拍手をした。拍手は俺が素晴らしいと思った作品に対し、敬意を送るために行う個人的な伝統行事だ。絶対に同じようなことをやったことのある人間が世の中に三百人はいると信じている。……信じている。


 スタッフロールが流れた後、画面に「Fin.」の文字が流れ、感動の余韻と共にゲーム機の電源を落とした。


 気分を一新するためにいったん深く伸びをしたそのとき、カーテンの隙間から光が入ってきていることにふと気がつく。

 そこで我に返った。というか返らされた。やってしまった。時計に目をやると、時計は現在の時刻が朝の六時だという情報を提供していた。


 ……今日は学校がある。そして普段起きる時間は八時ごろ。

 ……詰んだ。


 このままだと五、六限ごろには、あの眠さのあまり吐き気を催す、過酷な状況を強いられる可能性大である。


「と、とりあえず寝られるだけ寝よう……」


 憂鬱な気分を抱き合わせながら電気を落とし、ベッドに入る。


「……それにしても、百合子ルートは評判以上によかったなあ。いや、でもやっぱりこのゲームでどのルートが一番至高かって聞かれたらやっぱ愛歌ルートかなあ。……いやでも、個人的ダークホースだった遊紗ルートも――」


 早く寝なければならないのは百も承知だったが、その後もしばらくは、あのルートがよかった、このルートのこのシーンが素晴らしかったなどの、一人感想会が終わらず、なかなか眠りにはつけなかった。

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