壱 桜の香りとあのひとの影
慣れず、疎い文章ですがお許しください。
グロテスクな表現等を含みます。
本文中に、学生戦争ったー、学生戦争の内容を含みます。
腹を裂き、骨を断ち切り、幾人もの人間を殺してきた悪魔。そんなものに幸福など訪れるのだろうか。
とある場所に存在するその学園は、軍隊養成に長けていたという。
若い子供同士で殺し合いをするなどあり得ない話かもしれないが、これは紛れもない事実、現実である。
赤、白、黒の三勢力に分かれた学生らは今日もどこかで地に這い蹲り、自らの温度を忘れていく。
黒軍の勢力が急激に拡大されていく中、白軍の私達は寝る暇も惜しんで戦った。
私は戦った。戦いながら、いつか私に微笑みを向けてくれた、優しいあのひとを探しているのだ。いくら空腹がこたえようと、血に塗れた私は抜いた剣を離さなかった。敵の心臓を貫き、刺さったその剣を抜き、もう一度突き刺した。飛び散る赤黒い肉片のようなものは、何故かあのひとを思い出させた。
あぁ、今日もほの明るい月は、慈しむように、憐れむように、まだ蕾の桜を淡く照らしている。
度重なる戦いで疲れ切った私に、追い打ちをかけるような出来事があった。
木枯らしの後のような頭をした、いかにも上等な物ばかり食べていそうな中年男、私の上官の待つ部屋は、妙にしんとしていて気味が悪くて。早く帰りたいと、そう強く思った。
「…白軍一般部隊一年、月夜見栞桜。参上致しました」
普段から意地っ張りで冷淡だと噂の私が滅多に使わないようなハキハキとした口ぶりで名を名乗ると、上官はにぃ、と口角を上げいやらしい笑みを見せた。
それから何事もなかったかのように上官は真っ直ぐとこちらを向いて、冷淡な口吻で
「君に頼みたいことがあるのだよ」
と言ったのだ。
嫌な予感しかしない。この上官はいつも若い女に意地の悪い事ばかり言うのだと聞いているからだ。
「…して、ご用件は?」
「君には、一般部隊から外れてもらう」
これにはさすがの私も驚いた。誰より本気で戦い、前線で鮮血を雨のように浴びてきたというのに、この上官サマは何が不満なのだろうか。如何なるときも決して退かず、敵軍には狂気の夜桜とまで呼ばれた私の何がいけなかったのだろうか。
もし前線から離れてしまったのならば、私は永遠にあのひとと会えないような気がした。ここにいれば血の匂いを嗅ぎ分けて、あのひとは私を見つけてくれる。どうしても一般部隊に、前線に残りたいと思った。
「そんな、横暴です…!どうして、でしょうか!」
思わず息を荒げる私をあやすかのような目をして、上官は
「白軍一般部隊一年月夜見栞桜、同軍暗殺部隊へと異動することを命ずる」
と、そのいやらしい笑みを崩さないまま言い放ったのだ。