2-16 出発?
竜を自分の物にするには儀式がいる。
と言っても呪文を唱えるとか、そんな物々しいのではない。
飼い主になる人間が、特殊な薬品に漬けたエサを名前を言いながら与える。
これで少し待つと終了。
地走竜の『ラゴ』は命名の儀式により、正真正銘俺の竜になった。
「色々とお世話になりました。」
「なになに、こちらも商売だからね。それに優秀な冒険者は大歓迎だ。
またこの町に来る事があれば寄ってくれたまえよ?」
「はい、必ず!」
こんな良い人がいるのだから、当然だよね。
前の国みたいに不快な思いをしなかったし。
「美由紀さんもお元気で。」
「はい、またお会いいたしましょう。」
じゃ、と言って出発しようとしたら意外な所から止められた。
「シュン、どこ行くニャ?」
ちっ、気づいたか!
美由紀さんが抱いたままだったので逃げれると思ってたのに!
「・・・次の所に行くんだよ。」
「どうして声をかけないニャ?」
「ずっとそこに居るから、来る気が無いと思ってさ。」
「シャー!行くに決まってるニャ!」
そう言ってラゴに乗ってる俺の膝の上に乗ってきた。
鞍と言っても1m角の平らになってるので、胡坐の状態で乗っているのだ。
「来るのかよ…。」
「当然ニャ!シュンが飼い主なのニャ!」
諦めて出発しようとしたら、また止められた。
「ワルツちゃん、行っちゃうのですか?!」
「行くニャ!」
「私とは遊びだったのですか?!」
「悪く思うなニャ!ワルツはこういう猫なのニャ!」
「そ・そんなぁ…」
膝から崩れ落ちる美由紀さん。あ、泣いてる。
…なんだろう、この男女の別れ話みたいなのは。
隣でオッサンが唖然としてるぞ。
あっ、もしかしてワルツが喋ったからビックリしてるのかな?
ま、まあいいや。さっさと出発してしまおう。
町を出て1時間、慣らし運転(?)も兼ねてゆっくりとマップを見ながら移動してる。
ラゴは頭も良く、命令にも忠実に従う。
なので手綱も必要無く、上でのんびり出来るのだ。
一応、急停車や急発進の時用に床から20cmくらいの高さに手すりが付いてるけど。
しかも床がほんのり暖かい。ホットカーペットみたいだ。変温動物じゃないのかなぁ?
次の因子のある所は、ここから3つ先の町に一つと、その先の町の近くに一つ。
それが終われば、次の因子は隣の国になる。
確認も終了したので、そろそろスピードを上げようかと思ったら、どこからともなく声が聞こえた気がした。
気のせいかな?
ん?いや、ワルツちゃ~ん!と聞こえるぞ?!
恐る恐る来た道の方を振り返ると、地走竜が猛スピードで走ってきた!
上には!美由紀さん?!
「ワルツちゃ~ん!逃がしませんよ~!!」
怖い怖い!!
もしかして、俺と同じで渡した卵を交換して地走竜を手に入れてきたのか?!
美由紀さんはどうやらついて来るつもりのようだ。
(正確にはワルツを追いかけてるだけだが。)
この国出るまでには帰ってもらいたいなぁ…。
これで第2章は終了です。
この国を出るまでを第3章とする予定です。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
良いお年を!
次話は少し飛んで、1月3日の20時に投稿予定です。




